第五話 トラブル
翌日、シエルは昼まで寝ていた。
疲れがたまっていたのだろう。
食事の場では、
「どうしたんですか、その傷は」
アルゼイヤは傷を受けていた。
「怒られたんだ。なんで許可を出したのかって」
「ああ、そう言う」
昨日、お母さまが探しに来ていた。そしてその矛先がお父様に来たという事だろう。
「大丈夫だったんですか?」
「ああ、お前の言ったリスクを説明してな」
「そうですか……」
「リエラ」
お父様が背筋をピンと伸ばす。
それに合わせて私も背筋を伸ばした。
「昨日も言った通りだ。暴走しない様に、あれを手懐けろ」
「せめて娘と行ってください、お父様」
ほんとうに父親としての自覚があるのだろうか。
腹立たしく思う。
ちなみにシエルは体調があまり良くないので、今日は部屋で食事をとっている。
スザンヌが付き添ってくれているのだ。
わたしは大広間で食事をとり終えた後、スザンヌの所に向かった。
「ねえ、スザンヌ」
わたしは声をかける。
「何でしょうか?」
「今日、外に出かけたいわ」
スザンヌに言った。
恐らくスザンヌはまた私に着いてくるとでも言うのだろう。
「いいですよ。妹様も一緒に?」
「ええ」
家の中にいては気が滅入るだろう。
そもそも家族の輪が乱されるのだから。
それに、王太子殿下への恩もある。シエルを彼に合わせたいのだ。
「今日はどこに行きたいの?」
「どうしようかな久々の外だし……」
わくわくが止められない様子だ。
陽の光を浴びること自体久しぶりだし、たぶんこの子は一人で自由に外に出かけられない立場なんだと思う。だからこそ、性格も暗くなっていったんだと思うし。
「スザンヌ」
シエルはスザンヌに話しかける。
「スザンヌのおすすめの場所ってある」
「そうですね」
スザンヌは思索する。
「おすすめの場所がありますが、「お嬢様はそこでもよろしいでしょうか」
「ええ」
私は頷く。シエルが楽しめるならそれで十分だ。
そしてスザンヌが連れてきてくれた場所とは、
そこは町の市場だった。にぎわっている様子であり、また様々な物が売られている。
確かにここなら、色々な選択が撮れそうだと思った。
わたしたちは馬車から降り、そして歩いていく。
スザンヌと手をつなぐシエルは目を輝かせている。
「何でも食べていいですよ」
スザンヌが笑顔で言うと、シエルは早速走って行った。
とて、そして元気に走ったからか、途中でこけてしまった。
私も慌てて駆け出す。そして、シエルの手を取った。
「大丈夫?」
私がそう言うと、シエルは黙って頷く。そして、手を借りて立ち上がった後、また走り出してしまった。
私の事はまだそこまで信用はしていないみたい。リエラがやったことを踏まえれば当然なのかもしれないけれど。
多分好感度としては私<<<<スザンヌみたいな感じなのだろう。
私はそこで後方彼女面をしながら、シエルを見つめる。
シエルに愛されないなら、見ているしかない。
そこでシエルの好感度を上げる方法を探っていくしかない。
その方法は必ずどこかにあるはずだ。
そもそも私としてはシエルを守る事さえできれば何でもいいのだけれど。
シエルはどんどんと先に進む。その姿を私とスザンヌの二人で見守る。
シエルには自由に笑顔で遊んで欲しい。
「いい物ですね」
「でしょ」
「こうしてみたら一般的な14歳の少女に見えますね」
「だってそうだもの。人よりも少し強い力を与えられただけの子どもなのだもの」
そしてその力のせいで、運命に翻弄される愚かな娘。その運命を変えるために、私は今努力しているんだけど。
そんな時だった。
シエルが大きな大男にぶつかった。
わたしはそれを見てすぐにシエルの元に駆け出す。
その前に、
「いってえな、何しんだよ」
男は筋肉があり、腰には剣を帯同している。
そう言えばこの世界には冒険者という職業もある。危険なダンジョンを探索し金銀財宝や魔法具を集める仕事だ。
しかし、まさかここにやってくるとは。
さて、どうしよう。
なんて、考えてる暇なんてない。今もシエルは怖い思いもしている。
リエラも多少ながら魔法が仕えるはずだ。
私は地面を蹴り、そしてシエルの襟元をつかむ男を勢いよくぶん殴る。
私の拳が男の顔に当たるが、男はこちらをちろっと見る。
「今何かしたか?」
まずい、私は急いで距離を取る。
男はシエルを地面にたたきつける。
それをうけ、シエルは地面に勢いよく転がっていく。
「許せない」
私はそう言った。
「恥ずかしいと思わないの?」
「ああ? そんなの思う訳ねえだろ」
男はそう言って、唇をなめる。
「オレにたてついたんだ。死んでもらうぜ」
この国には法治という物がないのだろうか。
いや、たぶん違う。
冒険者の力が強いのだ。
魔法、魔法ってどうやって放つんだろう。
この時点でもう魔法は使えるはずなんだけど。
私は手にじっと力を込める。神経を集中させる。そして一気に――
押し出した。
私の手から微量の水が飛び出した。
「そんなものかあ?」
「そんなものよ」
だって初めてなんだから上手く行くわけがない。
だけど、
「コツはつかんだから」
「お姉ちゃん」
シエルが弱々しい声を出す。
「大丈夫、任せて」
そう言った私は一気にまた魔法をはじき出す。
この戦いが終わったら、また家庭教師でも雇わなくちゃね。
「はあ!」
再びはなつ。
今度は水量が上がった。
だけど足りない。これじゃ足りない。
「お姉ちゃん……」
「シエル、私は大丈夫だから」
今ここでシエルに力を使わせるわけにはいかない。
暴走のリスクもそうだけど。こんな大通りで闇の力を使えばどうなるか。
勿論シエルの闇の力はいい印象になる形で皆に広めていきたい。だけど、それは今じゃない。今やってしまったらややこしいことになってしまう。
だからここは私一人の力で何とかしなければならないんだけど。
悔しい。私の力が足りないことが。
私に向かって男が拳を入れて来る。たぶん私は避けられない。
「スザンヌ、シエルを連れて逃げて!!」
私は叫ぶ。
その瞬間拳が入る。
私は、とっさに受け身を撮る。
柔術をやったことはないけれど、案外行ける物なのね。
だけど、これはターン性バトルではない。
私が受け身を取っている間にも次の攻撃が来る。
某モンスターを使役するゲームみたいに、相手のターンの次にこちらが一方的に一発攻撃を加えられるなんて言う奇跡はない。
だけど……!
「ウォーター」
水がまた出た。その攻撃で拳を少し浮かせ、その隙に回避行動をする。
そのおかげでぎりぎりで攻撃を回避できた。
だがまた次の攻撃が向かってくる。
だめだ、このまま続けてても私の方が先にダウンする。
どうしよう。
私の心拍数が上がっていく。
異世界に来て、こんな早くに死ぬ?
そんなの嫌だ。もしも死ぬなら、せめてシエルの無事を確保してからじゃないと。
シエルが本当の意味で笑える環境を作らないと。
ああ、死にたくない。




