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ラスボスの姉に転生しました――闇落ちする運命の妹を救いたい  作者: 有原優


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第4話 解放

 そして、家に帰った後、もう一度お父様に直談判をした。

 勿論の事、今日得た情報を踏まえてだ。


 闇の力は暴走することが少ない。

 過去に闇の魔力を得た者も存在する。

 しかし、それが皆暴走したり闇落ちしたわけではない。

 しかも、暴走した人は大体が陰湿な嫌がらせを受け、闇落ちしたというケースが多い。

 つまり、今やっていることは悪手となるという事。

 心を安定させれば、暴走することなく希少な力の持ち主として益を得ることが出来る。


 そういう事だ。

 だから、あくまでも、虐める事は、虐げることは間違いだと説明をする。


「熱意は伝わった」


 熱意は、という言葉。

 前世でもそう言う言葉がある。告白を受けた人hがまずはありがとうという事。それに酷似している。


「だけど、あの子は努力させてはいけない。強くなられては暴走したときに止めるのに手がいる」

「私が調べたデータによると、心が弱った人は邪神に乗っ取られると書いてありましたわ」

「それはそれ、これはこれだ。ともかく認めるわけには行かない」

「なんでわかってくれないの?」


 私は部屋を飛び出す。

 もう我慢の限界だ。


「ご当主様」

「いいんだ、これで」


 そう言ってアルゼイヤは小さく息を吐く。



 ★★★★★


 いくら前世の知識があったとしても、この世界の凝り固まった頭に通じる道理などなかった。

 私は全て間違えていたなと思う。

 お父様はシエルのことを本気で恐れているらしい


 それは、烈火のごとくだ。




 ……そう言えばふと気になったのだけど、お母さまはどこにいるのだろう。

 お父様に訴えるだけが全てじゃない。

 けれど、お母さまはきっとお父様よりも嫌っているはずだ。

 だってメイドとの子どもなんて。


 私は迷った結果、もう一度シエルに会いに向かった。

 シエル、虐げられている私の妹。

 もう一度会うという行為には怖さもある。

 彼女はわたしもまた恐れているのだ。


 しかも、最初の時に完全に拒否されてしまった。

 それに関してはこの体が、元々妹を虐げていたから仕方のない事なのだけど。


 階段を降りる時はやっぱり怖く感じる。

 暗く、戻ってこれないような気分になってしまう。

 まさに闇に吸い込まれるという言葉がぴったりと当てはまっていると思う。


 改めてだけど、あの子はずっとここで暮らしてるんだろうなと思うと、私の不甲斐なさを恨む。

 こんな場所でよくメンタルが持っている、とも思う。わたしなら半年もこんな場所にいたら発狂でもしてしまいそうだ。


「シエル?」


 私は声をかける。


「また来たの?」

「うん。当然でしょ、私は貴方の姉だから」

「そう」


 冷たい言葉だ。


「かえって」

「なんでそんなに」

「私は誰にも愛されなくてもいいの」


 完全にへそを曲げている。

 そう感じた。


「わしはずっとあなたの味方だから」

「そうやって私を裏切る気でしょ!!」


 そう叫んだ。はあはあ、と肩で息をしている。


 そんな時だ――


「お嬢様」


 背後から肩を叩かれびくっとする。

 あれ。これデジャブだ。

 後ろをソローリと振り返ると、そこにはスザンヌがいた。

 私は「げっ」と声を漏らす。また叱られる・


「大丈夫です、お嬢様。私は味方です」

「というと?」

「私がご主人様を説得してきました」

「は?」


 スザンヌが説得してくれた?


「私もお嬢様の熱意は見てましたよ。一時の気の迷いかと思いましたけど、それにしては熱心で私もつい説得に興じてしまいました。お嬢様はこんなに熱心に調べてたのですよと」

「そう」


 まさかスザンヌが味方になってくるなんて。

 段々と私の中でスザンヌの評価が上がっている気がする。

 勿論本編中では、ほとんど出てこない存在だから、この体の記憶上でしか見ていないのだけど。


「だから安心してください。お嬢様の訴えはご当主様に通じました」

「そう、ありがとう」

「それにしても、リエラ様」

「なに?」

「どうして考えが変わったのでしょうか」


 変わった。

 その言葉を訊いて、すぐに理解した。


 元々のリエラはシエルを虐めていた。なのに、なぜこんなにも熱心にしているのかと、疑問に思われているのだろう。


「私は不幸な人間を出したくないの」

「出したくない」


 私は頷く。


「全員が幸せになって欲しいの。だから、私はシエルの笑顔を取り戻す。だって、人を虐める行為に得はないもの」


 性格に言えば、いじめている人は気持ちよくなるというメリット、利点がある。


 だけど、それが得にならないことを知っている。

 私の前世。そこでもいじめがあった。

 私は幸いターゲットにはならなかったが、其れでも居心地の悪さは感じ取れた。

 私は当時、助けるという手腕を撮る事も出来た。だけど、私はその選択肢を取らなかった。取れなかった。それは、私まで被害に会う事を恐れたからだ。

 その時の出来事がやはりトラウマみたいになっている。

 助けられたはずの人を私まで被害にあることを恐れて何もしなかった。


 その結果、彼女の表情はどんどんとゆがんでいき、そして最終的には転校した。


 私は虐めには関与していなかった。だけど、彼女からしたら声を上げなかった私も加害者の一人なんだ。

 それをよく知っている。


 だから虐めには、加害者以外の関与しない人にも不快感を与え、加害者は罪の意識にさいなまれる可能性もある。

 百害あって一利なしだ。


「あなたがそれを言うのですか」


 呆れたようにスザンヌは行った。


「昨日私は変わったの」


 異世界から来た、なんて言ってもだめだよね。


「神のお告げみたいなものが、私を変えたの」


 神のお告げ=私だ。まあ、そんな事はどうでもいい。

 少し無理のある論理だけど、納得していて欲しい。


「分かりました。信じられない話ですが、改心したならそれはいい事です」


 スザンヌがそう言うってことは、リエラはよほど暴れん坊だったという事なのね。




「その代わり、ご当主様からお言葉を預かっております。……もし暴走させたら容赦はしないと」

「分かってるわ」


 元々時期は遅かれど、彼女はいずれ解放される予定だった。というのは牢の中だと暴走を繰り返していたから。

 そしてそれからは暫くは落ち着いていた。

 だから大丈夫なはずだ。


 それに、暴走はストレスからくるもの。それを防げば暴走なんてするはずがない。勿論リエラがストレスの種って言われたらどうしようもないけど。



「ごめんね、シエル。今から出してあげるね」


 そうシエルに言葉をかける。彼女はツンとそっぽを向く。


「どうしたの?」

「信じられない」


 信じられない、か。


「今までの事は謝るわ。私は変わったのよ」

「過去、いじめられたことは消えないし、私がこの世界に不要なのも変わらない」

「私が必要としてるの。今すぐ抱きしめたいと思ってるわ」

「え?」


 シエルが極端に嫌な顔をする。

 よほど嫌なのだろうか。


「あはは。大丈夫。シエルの嫌がることはしないから、ねスザンヌ」

「ええ、何かしたら私が止めます」

「ありがとう。その時には頼むわね」


 そんなことを言ったら、私まで暴走しそうな話だけど。


「ねえ、シエルはここから出たい?」


 そう言ってわたしは牢の中を覗く。

 その中は、暗く寂れている。

 やはり一日もいたくないような場所だ。


「世界に必要不必要とかは考えなくていいから」

「それは、出たい」


 シエルの口から、出たいという言葉が聞けた。その言葉に安心した。


「うん、出ていいわよ」


 そう言って私はにっこりと笑う。それに対し、妹は「うん」と笑顔で返した。

 牢から上がる怪談。シエルは若干筋肉が弱くなっていたという事もあり、おんぶして上まで上げた。

 半年もこんなところで体を動かずにいたらそりゃそうなる。

 しかも光を浴びていない状況なのだから。


 ただ、私の背中は嫌だったらしく、スザンヌの背中に乗った。




 この光景を見ると思い出すことがある。


 私には妹がいた。勿論前世での話だ。

 妹は私が十四の時にこの世を去った。

 いじめを受けていたのだ。



 当時私は妹と大喧嘩をして。あまり喋れていなかった。

 だから、妹は死んでしまったのだろう、と思う。

 死因は自殺ではない、病気だ。

 だけど、いじめによる心労も祟っていたのかと思う。

 この子も同じだ。



 ゲーム世界では若くして死ぬ。

 暴走は止められたが、体がボロボロになり、一週間後に体が灰になって死んだ。

 その一週間、シエルが苦しんでいたことが判明している。最期は主人公に謝って涙ながらにこの世を去る。だけど、成仏は出来ずに、この世をさまよう。


 そんな未来はごめんだ。


「今度こそ守るからね」


 私は小声でつぶやいた。

 上に上がるとすぐに私たちはシエルの部屋へと直行した。


 何しろ、あんな衛生状態の悪い部屋にずっといたのだ。ゆっくりと寝させてあげたい。

 あの場所で安眠できるとは到底思えないのだから。


「っうまぶしい」


 妹は目をつぶる。

 そりゃそうだ。自然光なんて浴びていなかっただろうから。


 今日はそこまで強くは晴れてはいない。


 だけど、それでも眩しいのだろう。



「目をつぶってて、すぐに館の中に連れて来るから」


 でも、太陽光を浴びるのはいい事だ。

 太陽光を浴びないと欝々しい気分になってしまうから。


「もうすぐだわ」

「う、うん」


 私たちはついに館の中に入る。

 その瞬間、怒声が聴こえた。これは、女性の声。


「なんであの子を外に出したの!?」


 会話の内容からしてお母さまだろう。


「ひっ」


 スザンヌの背中に背負われてるシエルが怯えて表情をしている。


「大方リエラにでも頼まれた――」

「奥様」


 スザンヌが止める。


「このことはご当主様が許された話です。文句を言うなら私たちにこれを命じたご家主様に申し上げてください」


 はへー、スザンヌはやはり頼りになる。

 スザンヌがいなかったらもっと面倒なことになっただろう。


 そしてスザンヌが頭を下げる。


 私はそんなスザンヌに「ありがとう」と告げた。


 そしてシエルの部屋へと向かった。


「はあ」シエルはそう呟く。


「暖かい。柔らかい。気持ちい、寝れる」


 そう、ぼそぼそと呟き、シエルはすぐに眠りについた。

 これで安心して眠れるだろう。




「ねえ、スザンヌ」


 私はシエルが寝たのを見て、スザンヌに話しかける。


「何でしょう」

「スザンヌはどうして私たちの手伝いをしてくれたの?」


 底も気になる点の一つだ。


「先ほども言ったでしょう。お嬢様の熱意に押されてですよ」

「熱意、熱意ね」


 熱意があるとは言われても、わたしは正直当たり前の事を当たり前にしたに過ぎない。


「スザンヌはシエルの事をどう思ってるの?」

「末恐ろしいと思っています」


 スザンヌが言う。


「実際リエラ様も存じているでしょう。妹様は暴走され、あたり一帯の草木を枯らしてしまったのです。その余波を受けてリエラ様の髪色がきれいな金から銀色に代わったのです」


 私は髪の毛を触る。


「でも今は金じゃ」

「魔法で金に戻されたじゃないですか」

「そうだったかしら。記憶が怪しいのよね」


 その半年間の内にあった出来事なのだろうか。


「でも、今思えばあれは妹様が魔法を否定され続けていたから起こったことに過ぎない。それに気づいたから私は直談判したわけです」

「スザンヌごめんね」


 そして私は謝った。


「どうしてですか?」

「損な立ち回りをさせてるから」


 私はあくまでもこの家の娘だ。だからこそ、多少暴れても罰を与えられる可能性は少ない。だけど、スザンヌは別だ。彼女はあくまでも使用人。首と言われたら素直に屋敷を出て行かなくてはならない立場でもあるのだ。


「いいんですよ。お嬢様のためのメイドですから」


 そして、鼻を鳴らし、


「でも、鐘の音が鳴ってから起きてくださいね」

「分かってるわ」


 まだ、この世界のルールに慣れていないだけ。


「お嬢様もそろそろ部屋に戻ってください。シエル様の事はわたしが見ておきますので」

「分かりました」


 そう言ってわたしは部屋に戻った。



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