第22話 お茶
そして、三つ目の授業の時に、王太子様が授業にやってきた。10分遅刻だ。
「リデアス様、どうしたんですか?」
私は訊く。彼は息も絶え絶えでここにやってきた。
何かあるはずだ。
「ちょっと出かけてた」
「出かけてた?」
セリナは、シエルと話している。
「ダンジョンに潜っていた」
それを聞いて、王太子様を見る。彼はぼろぼろだ。
それこそ一国の王太子様とは思えないくらいに。
「ダンジョンに?」
私がそう声を出すと、リデアス様は慌てて私の口をふさぎにかかる。
「あまり大きな声で言わないで欲しい。ばれるから」
そう言われはっとした。確かに、大問題になる。
この人は一国の王太子なのだから。
「分かりました。胸の内にしまっておきます」
「ああ、そう言う事で頼む」
しかし、ダンジョンのお話か。後でいろいろと訊いてみたいなと、思った。
だけど、それはあくまでも今じゃない。
授業が終わってからだ。
そして授業が終わり放課後になる。
早速私はリデアス様を連れて、近くのカフェにやってきた。
そう言えばセリア嬢には何も言わずに来てしまった。
また何か言われたりしないだろうかと、少し、ほんの少しだけ不安になる。
「それで、どうしたんだ?」
「ダンジョンの話を聞きたくて」
勿論興味本位で知りたいという部分もあるけれど、訳はもう一つある、というのも、ストーリー上に何か所かダンジョンがかかわるシーンがある。
そして、そのうちの一つが一月後にやってくるのだ。
そこで、問題発生、からのボス戦なのは言うまでもないけれど。
「ダンジョンの中はどうでした?」
「あまり、深い場所までは潜ってないけれど、そうだなあ」
考え込むリデアス様。
「魔物が沢山いたなあ。とにかく多くて、倒しても倒してもきりがなかったなあ」
「それってどこに行きました?」
「ウラナログダンジョンとか言ったかな」
「ウラナログ」
それは聞いたことがある。否やっている。
それは所謂サブミッション的なもので挑戦できる。そしてそれはかなり難しい。
何が難しいかと言われれば説明は難しいが、最下層にいるボスが手ごわく、さらに三層以降で出てくる魔物の継投がガラッと変わり、さらに手ごわくなる。
それが問題なのだ。
「リデアス様はどこまで行かれました?」
「俺は二層までにしておいた」
二層まで。それなら安心だ。
「三層以降は危険なので、それ以降に言ってなくてよかったです」
「それも、並行世界で起きたことなのか?」
「ええ、まあ」
起きたことかと言われれば起きたこと。
勿論、クリアはしたけれども、そこそこ苦戦した記憶はある。
「なるほど、肝に銘じておくよ」
「そうしてくれると幸いです」
なにしろ、リデアス様が単独でダンジョンに潜るのは本編では見られないストーリー展開だ。だからこそ、警戒に越したことはない。
そして、今日も紅茶が届いた。
「君はお金とかは大丈夫なのか?」
「ええ、私はかなりのお金を持っていますから、多少なりの贅沢は」
「そうか」
そして、窓の外を見る。
「セリナ嬢の事なんだが」
その言葉に、私の眉がぶくっとする。
「彼女。最近俺の所によく来るんだけど、何でか知らないかな」
思い当たりしかない。
「知らないなんてことは無いでしょう」
「いや、本当に分からないんだ。なんで彼女がこんなにも、俺の元に来るのかが」
なるほど、鈍感系なのかな。
でも、そう言われればそうかもしれない。
彼はあまり周りが見えていないタイプだ。
勿論そう言い切ってしまえば語弊が生じるけれど、王太子様自身、恋愛に興味があるタイプには思えない。
私の仮説通り、セリナがリデアス様の事が好きだとすると、それを止めるのは悪手でしかない。
それにセリナにリデアス様と付き合ってもらった方が、楽だったりする。
セリナがあなたの事が好きなのですよ。
そう言いたい。だけど、私の口は中々開かれなかった。
何でだろうか。理由を探ればすぐにらしい答えが出て来る。
リデアス様と二人で居られる時間を奪われたくないから。それに過ぎない。
私個人としてなんて我儘なのだろうか、と思う。
本来のストーリーではリエラは王太子様とは付き合えない運命なのだ。
なのに、私はスカートのすそをギュッとつまみ上げた。
「リエラ、どうしたんだ?」
王太子様が心配してくれている。これ以上続けても意味はない。
意味はないのは分かってるはずなのに、中々体が動き出さない。
「リデアス様は、今のセリナ嬢に対してどう思ってますか」
私は小さな声で言った。
私の目の前のケーキは放置されたまま。幸い、チョコレートケーキなどではないから溶けはしないけれど。
「そんなの」
その先の言葉は何?
「強いと思うよ。光の魔力があるだけではなく、魔力の濃度もかなりの物だ。ダンジョンに仲間として連れていけたらいいなあ、なんて思う」
その言葉に、私はくすっと笑ってしまった。
いつもの枯れすぎて。
「私の考えすぎでしたね」
私は小さな声で言った。
多分この言葉は聞こえていない。聞こえていない方がありがたい。
「気持ちが晴れました。リデアス様はやはりリデアス様ですね」
彼は何を言っているんだ、とでも言いたげな顔をしてこちらを向く。
その顔がおかしくて、私はまた笑う。
「あなたにこれだけは言っておかないとダメでしたね」
「なんだ?」
「たぶん一月後あたりでしょう、そこでダンジョンに潜る授業があります。その時は恐らく激戦になるでしょう」
「それも、異世界情報なのか?」
「ええ」
そう、私が言った後、
「気を付けてください。その魔物達は貴方が求めるような実力をしています」
そしてケーキを食べ始める。
そして、リデアス様は軽く笑う。
「どうしたんですか?」そう、私が聞くと、「去り際のセリフみたいだったから」と、彼は言った。
確かにいっけんすると、これは中二感のある言葉かもしれない。
多分私は、役に乗り過ぎたのだと思う。だからこんなへんな言葉が出てきてしまったのだ。
「なんていうか、すみませんでした」
そう、私が言うと、またリデアス様は笑うのだった。




