第21話 蔓延した噂
その日も私は妹と同じ授業を受けた。
魔術基礎学だ。しかし、その隣にセリナの姿もあり、少し気まずい。
リデアス様もいるしフルメンバーだ。
しかし、少し違う事がある。
「リデアス殿下、今日は頑張ろうね」
セリナがリデアス様に猛アタックをしている。
アプローチだ。いよいよ本性を現したみたい。
昨日の提案が飲まれ飲まれなかったから今度は自分から取りに来たという訳か。
なんだか少し寂しいけれど、私はそこに関与するべきではない。
私はリデアス様の事を好きなわけでもないし、アプローチに関しては各々の自由だ。
周りの人たちが私とリデアス様が一緒にいた時と態度が違うのは気になるけど。
「お姉ちゃん」
妹が話しかけて来た。
「あれ大丈夫?」
その言葉には憂慮の感情が含まれている。
「大丈夫でしょ」
「お姉ちゃんは王太子様の事が好きなんじゃないの?」
「す、好き?」
なんていう事を言うの。私にはそんな感情はないのに。
「私とリデアス様はただの友達、恋愛感情はないわよ」
そう、ないはずだ。
私と彼は、
それにああはいったがセリナに渡したほうがいい。
まあ、リデアス様は誰かの物とかではないのだけど。
「だから大丈夫だよ」
「そうかなあ」
その日の後、段々とシエルに対する悪評がみるみる勢いで広がって行った。
実は入学式の非に魔物を手引きしたのが、シエルだったという噂が蔓延している。
正直勘弁してほしい。
ならシエルはなぜわざわざ、自分が手引きした魔物を自分で倒したとでもいうのか。
こんなシーンはゲームではなかった。だから恐らくオリジナル展開だ。
私がストーリーをぶち曲げた代償が早速出ているのだろう。
あの魔物達はセリナが全滅させたという事になっている。
もしわたしが、「あの戦場ではシエルも活躍したよ」と言っても関係ないだろう。
「お姉ちゃん、私行きたくない」
翌日、シエルはそう言った。
「私、部屋から出たくない」
「どうして?」
「私は邪悪だって、みんな言うんだもん。もう嫌だ……」
その泣き顔。絶望しか感じていないようだった。
可愛そうに。
私は悪口を言った人たち全員をぶち倒したい。
でも、それはシエルが許してくれないだろう。
さて、どうするか。
決まっている。シエルを守るために必要な事は。
「一緒に行こうよ。大丈夫、私がシエルを守るから」
「勝手なことを言わないで!!」
シエルが私の手をはじいた。
「もう、私はどうでもいいの。ほっといて」
「ほっとけないよ。このままでいいの?」
「私は延々と地下牢で閉じ込められていたほうが良かった。そしたら何も考えずにいられたのに」
私は部屋から出た。
いまはとりあえず休ませるのがいいだろう。
これが最善の手、なんて一切思っていない。
だけど、私の心が、あの空間にいることはもう耐えられなかった。
そう、自分の無力さを感じてしまって。
シエルは、度々卑屈なことを言っていた。それが爆発したのだろう。
「どうだった」
「リデアス様……」
そこには彼がいた。
彼は私の目を真っ直ぐに見た。
「そうか、だめだったか」
そう言った。
「このままでは彼女の闇が暴走するんだったか」
「ええ。このままではまずいわ。それにそもそも彼女の暗い顔なんてもう見たくない」
「ああ、僕も同感だ」
そして私たちはまっすぐと見る。
「僕が宣言しよう。彼女は悪くないと」
「いいのですか?」
「なにかだ?」
王太子というのはそれなりに責任が撮られる。
セリナが言う分には関係が無い。しかしリデアス様は王位継承第一位ではあるが、その次に、第三皇子、第一王女がいる。
彼ら彼女らは時期王座を狙い、自分たちの印象アップを狙っていると聞いている。
それはもちろん、リデアス様を蹴落とすことも含まれる。
「継承権争いとかは……」
「大丈夫だ。そもそも言ってたじゃないか。僕は冒険者になりたいって」
「あ、」
そう言えば言っていた。完全に忘れていた。
「だから大丈夫だ。僕がなんとかする」
「だめだよ」
その言葉を発したのはセリナだ。
「王太子殿下が傷つくようなやり方は良くないよ」
「僕は大丈夫だ」
「私が大丈夫じゃないの。私が何とかするよ」
まさか、リデアス様に恩を売るため、このタイミング?
なんていう卑怯さ。
本当に聖女候補なのかしら。
ゲームでもこういうキャラだったっけ。
「それは感謝する。僕が言うよりもセリナ嬢がやる方がいいからさ」
ここで、私は何も言えない。
セリナが私をじっと見ている。余計なことは言うな、とでも言いたげだ、
「ありがとう」
そう、私が言うと、静かにうなずくだけだった。
そして、その日の後、段々と噂は消えていく。
あの戦いで、シエルもきちんと活躍したという事が伝わったのだ。
そのおかげで誹謗中傷は収まった。
だけど、それでもなお、私には少し気になることが残っている。
あのリデアス様に近づかないで欲しいという言葉の裏には何があるのかという事だ。
恐らくリデアス様がメインで動かなければ、きっとセリナは当初の目的通り、私が折れるまでシエルを助ける事はしなかっただろう。
表向きはシエルと仲がいいように演じ、その裏ではシエルの事を助けないようにしていたのだろう。
その目論見とはいったいどこに。
次の授業。私はシエルと一緒に学校に登校する。
その日、私たちは地子kウを仕掛けたからか、もう席はほとんど埋まっていた。
だけど、セリナが手を振っている。
「ここ、空いてるわよ」
そう元気に手を振る彼女。セリナの隣に座るしか無い様だ。
私がセリナの隣に腰掛けると、まず私はお礼を言った。
あの日の密談の事については周りにはあまり知れ渡っていない。
今は仲がいい風に、セリナを怪しんでいる感じは出さない方がいい。
「いえいえ、どういたしまして。元々私のせいでこうなったんだし、当たり前よ」
王太子様が出しゃばらなかったら、放置しようとしていたくせに。
どういう腹の持ちようなのだろうか。
「あれ」
私は、もう一人の存在を目に負った。
リデアス様がいない。
今日は欠席なのだろうか。疑問を顔で表していると、
「リデアス様なら今日は休みよ、体調が悪いみたい」
「そうなんだ」
私は頷く。
「セリナは王太子様の事が好きなの?」
そう、シエルが言った、爆弾発言、な気がする。
どうしよう、これでセリナが切れたら。
今セリナの機嫌を取ることは大事な手段の一つなのだ。
「好きとはちょっと違うかなあ」
セリナは意外にもそう言ってのけた。
「だけど、付き合いたいとは思っている」
「それって玉の輿?」
流石シエル。難しい言葉をよく知っておられる。
「そうなるかもね」
そう言ってはにかむ。どこまで信用していいのやら。
「あ、授業始まるよ」
そう、セリナが元気に言う。それを聞き、先生の話に集中する。
暫くは大きなイベントはないはずだ。イベント、つまりゲームのイベント。
多分だけど、暫くは平穏な日々が過ごせるはずだ。
だけど、それも同も言えない。
あれまであとひと月くらいか。ダンジョン編が、一月後に来るからそれまでの猶予かもしれない。
だけど、それが急に来る可能性もある。




