第18話 カフェ
そして休みの日、私はリデアス様と出かける事となった。
「本当にシエルは連れてこなくてよかったのですか?」
「ああ、構わないよ。今日僕は君と二人でお出かけしたかったんだから」
「はあ」
よく分からない。それってまるでデートじゃないの?
そして私は黙って彼の後ろを歩く。
彼は何も言わない。
何も言ってくれない。だからこそ、少しドキドキする。
「前々から思っていたけど、君は不安なのか?」
急に前からその言葉が飛び出し私はびくっと反応をする。
「何の話ですか?」
おずおずと聞く。
「思っていたんだよ。君はここ最近ずっと何かにおびえている」
「っ私も?」
「ああ、シエルとは違う理由でだ」
この方は分かっているのかな。
私の不安を。
「その理由は分かっている。力だろ」
「力?」
「ああ、シエルを守る力だ」
「よくお分かりで」
流石は王太子殿下だ。私は確かに力がない事に対して、怯えている。
私はシエルを守りたい。守りたいのに、シエルよりも弱い。
リデアス様よりも弱い。そう、私は私が知る人物の中で最弱なのだ。
ゲーム中のリエラはそこそこの実力を誇っている。
だけど、だから私がそのままの力を扱えるわけじゃない。
焦っているのだ。いつ、私の手の及ばない場所でシエルが危険に巻き込まれるのかどうかを。
それに、シエルが今虐げられかけている。
それに対して私はいい対抗策を打てていない。
その事もまた苦しいのだ。
「俺だって震えたさ。光と闇の力。あれは人知を超えている」
「私もそう思います。あれは生まれ持った才覚だと思います」
そう、生まれ持った力だ。
あれほどの力を扱える人はそうそうこの世の中にいない。
「君は自信を失ってるんだろ? 自分よりも強い妹を見て自分の存在意義を」
「……半分正解だわ」
勿論全部が正解ではない。私の不安の半分にはシエルを守れるかどうかにある。
だけど、これから先戦いが起きたとしても、私はシエルに守られる側にならなくてはならない。
自分が強いと驕っているつもりはないが、悔しい事ではあるのだ。
「私は……」
また息を吸う。
「強くなりたい。シエルを守れるくらいに」
「やっぱり君ならそう言うと思った」
そう言って殿下は私の手を掴んだ。
「でも大丈夫だ。それは俺にも背負わせてくれ。あの二人の隣に隣に立つ責任を」
「ええ、ありがとうございます。でも不安はそれだけじゃなくて」
「ああ、分かっている。だから、俺もシエルを守りたいと言ったんだ」
「ええ」
全部わかってるのだ。
この人は私の気持ちを。
「と、言っている間に着いたな」
「え?」
着いた?
ただ街をぶらぶら散歩しているだけかと思っていたのだけど……
私は上を見上げる。
そこにあったのは、カフェだった。
この世界は、乙女ゲームの世界。という事で、カフェの内装も日本に似た形になっている、
私はカフェの事が好きだ。ゆったりと出来るし、ドリンクもおいしい。何より、甘いもの――例えばケーキとか――を食べられる。そんなに幸せな事は他にはない。
私はワクワクしながら中に入る。する、マダムや、少女、またはカップルなどが、ティーカップを片手にお茶、もしくはコーヒーを嗜んでいた。雰囲気は日本と変わらないで素晴らしい物だ。
椅子に座ると、彼は開口一発目に言う。
「それで、互いに訊きたいことを訊きあわないか?」
その言葉に私は「へ?」と声を漏らす。
「互いに知らないことがいっぱいあると思うんだ。だから、訊き合おう」
「それに関しては構わないですけど」
もう、隠してても意味がない事だ。私はシエルの闇の力の事は言ったが、家の家庭環境のは暗視はあまりしていなかった。
「よし決まりだ。まず、シエルに対するその執着はいったいどこから来ているんだ?」
その言葉に私は唾をのむ。
「君はシエルの事をか弱き存在だと思っている。だけどそれは闇の力に飲み関係するのか?」
その言葉に、私はまた唾をのんだ。
「それは、シエルは虐められてたのです」
「それは前に聞いたな」
「はい、私の両親。そして私からいじめられていました」
だから、私はシエルをもう悪意に晒されることのないように、したいのです、というと、殿下は「ほうほう」と頷いて見せた。
「君のその気持ち、大事だと思っている。だけど、一つ。いや、これは後でいいか」
「後で?」
「君の質問を聞いてからだ」
「はあ……」
良くは分からないが、とりあえずわたしの訊きたいことを。
「さあ、今度はそちらの番だ。なんでもどうぞ」
どうぞと言われても、私から聞きたいことはあまりない。
でも、これは知りたいなと思う事がある。
「どうしてリデアス様は王太子なのにそこまで自由なのですか?」
こちらは、周りに聞こえることを防ぐために小声で言う。
リデアス様がこの国の王太子であることがカフェ内に伝わると、騒ぎになってしまう事間違いなしだからだ。
「……それはどうしてだと思う?」
「え?」
逆質問された?
「分かりません」
「王になるつもりがないからだよ」
王になるつもりがない?
どういう事だろう。
「俺は王になるよりも、冒険者になりたいんだ」
冒険者。この世に一定数存在する、迷宮と呼ばれる場所を攻略する人たちだ。
だけど、やりたがる人はリスクを覚悟している人たちしかいない。その理由はシンプルだ。
命を落とすのにもかかわらずリスクが高いからだ。
やりたがる人はほとんどいない。
しかもそれを王族が?
えっと、ゲームの中ではどうだっただろうか。
脳を巡らせ思考を働かせる。
確かそんな設定はなかったはずだ。
それどころか、王になるために勉強をする、そうまさに鏡のような王子様だったはず。
「どうしてそんなものに」
「縛られる生活が嫌だからだよ」
そう、思う気持ちは分かる。私だって、縛られたままの生活なんて嫌だし。
だけど、分からないこともある。
「どうして、冒険者なんですか?」
「質問が多いな」
その言葉を聞き、私は思わず口に蓋をする。
「かまわないんだよ。別に一回に一個なんて言う決まりを作ったつもりはない。ただ、ひとつだけ」
「一つだけ?」
「こちらもあとで好きなだけ聞かせてもらう」
「ひどいわね」
「ひどくはないさ。元々そう言う約束だっただろ」
そう言って彼は笑って見せた。
まあ、確かにさっき後でもう一つ質問をする、みたいなことは言ってたわね。
「俺はリスクが好きなんだ。逆に平穏な暮らしは嫌いなんだ。だから、必死で力を付けて迷宮をクリアして名声が欲しいんだ」
「名声なら王になったら得られるのでは?」
「それでは意味がないんだよ。王じゃなくて冒険者としての名声が欲しい」
変わっている。冒険者のイメージはこの前であったあの男のせいで少し悪いし、そもそも命を懸けて迷宮にもぐる。
それで金や名誉が手に入っても死んでしまえば意味がない。
私はまさにそう思っている。
勿論授業でたぶん一度ダンジョンには潜ることにはなるが、恐らくそれっきりになるとおもう。
それを超えたら、私は冒険者などという職業とは一生かかわりがないだろう。
そう思っていたのに。
勿論シエルが求めたら別なんだけど。
そこまで思考が進んだ所で、ある可能性に気づく。
「それで、シエルに気をかけてくれてるのですか?」
闇の力。それに固執する理由は、自分の将来作る冒険者パーティに加えたいから、なんじゃないだろうか。
「それは違う。将来俺と一緒に冒険者になってくれるかもという理由じゃない」
「ならどうして?」
「俺も力が欲しいんだ。だから自信を鍛えなおすためにこうしてやっているんだ。シエルの闇の力から何か手かがりを得られるかもしれないと思ってな」
「なるほど……」
それならばしっかりと芯が通っている。
「それで、今度は俺から聞きたいことがある」
「なんでもどうぞ」
そう言って私は伸びをする。
難しい話で潟が凝りそうだ。
「君は先回りして体育館に向かった。……なぜあそこで惨事が起こることを知っていたんだ?」
やはり来るとは思っていた。
心の中で、追及しないでくれないかなあ、なんて思っていた。
忘れてくれないかな、なんて思っていた。勿論そんな可能性はほとんどないとは思っていたけれど。
さて、どう言い訳しよう。
私は実は転生者で、ゲームのストーリーを知ってたから、と言っても説得力はないだろう。
私は軽く数回頷く。
そして静かに言った。
「私はこの世界の並行世界で起きた出来事を知っています」
説得力のない話だ。それは知っている。でも、こういわないと何も始まらない。
「私の知ってる世界では最期、シエルは邪神に取り込まれて悪と化します。それは妹が闇の魔法を使うからではありません。闇という力は皆から迫害され、その結果として彼女は希望を失い、俗にいう『闇堕ち』をしました」
「ちょっと待て、話のスケールが大きすぎる」
当然急に私がこんなことを言ってしまえば、驚かない方がおかしい。
私がリデアス様の立場なら混乱して何も言えなくなるだろう。
「それもそうです。信じてくれなくても結構です。しかし、その世界では邪神と化した妹は撃破されましたが、結果として大ダメージとなり媒体となった妹はおろか、多くの人が命を失いました」
あの時、試合中にシエルの事を悪魔じゃないかと蔑んだ人たち。
シエルを苦しめ、その後もいじめをしてきた人たち。
あの人たちも確か命を落としていたはずだ。
一般通過悪役(悪口を言う人)として。
「私はその悲劇を止めたいのです」
私は悲痛そうな顔を作り、言った。
信じてくれなくてもいい。ただ、頭の片隅に入れておいて欲しい。
「ああ、話は分かった。それが妄想だとか創作話とかでもなさそうな事もな。それで、この世界でもそう言ったたぐいの事は起こりそうなのか?」
「それは分かりません。ただ、一つ違う事があります」
「なんだ?」
「その世界の私はどうやらシエルを虐めていたそうなのです」
実際は、この世界でもいじめは起きていたのだけど。
「いじめていた、か。想像できないな」
「性格がガラッと違うらしいですから」
「なら、お前が時々に合わない喋り方をしているのもそれと関係しているのか?」
「関係していますわ」
私がそう言うと、「あ、戻った」と言って微笑した。
「あまり合ってないぞ」
「私的には最高のキャラ付けだと思いましたが」
元々転生前の私を知っている人たちにばれない様にこの喋り方を作っ得血たけど、よくよく考えればそこまで徹底する必要もないのかもしれない。
そもそも、今までもかなり素が出ていたように燃える。
あまり得意ではない、リエラを演じようとしていたからだろう。




