第14話 授業
私は医務室で、シエルが目覚めるのをただひたすらに待った。
「シエル」
私はすやすやと寝ているシエルの事をただ、見ながら時をつぶす。
彼女が気持ちよさそうに寝ている事のみが救いだ。しかし、もう二日間目が覚めていない。流石にそろそろ心配になってくる頃だ。
今回の件で、邪神協会の人を一人倒した。だけど、それ自体は大したことではない。その裏にまだ何人もいるのだ。
其れこそ、ラクダ―ド・イェルガを筆頭に。
彼は老骨な爺だ。だけど、その分知恵も回る。
そう言う訳でゲームではなかなかの人気な悪役だ。
彼さえ破ることが出来ればだいぶ楽になる。楽になるが、それまでが大変だというのは言うまでもないのだ。
そして私はその場を後にした。
私は字部屋に入るなんともまあありがたい事に、入学制には自部屋が与えられる。
私はシエルと相部屋にしてもらったけれど、個室にもしてもらえるそうだ。
私の部屋はそこそこでかい。
其れこそ、日本で言えば、ホテルの一室というのが分かりやすいだろう。
少なくとも住んでいて不便さを感じるものではない。
私は部屋の中から一枚服を選んで手に取る。
制服だ。
喜ばしい事に、制服も中々可愛らしい物。
正直、今の落ち込んだ気分を晴らすのにこれほどちょうどいい物は他にはないだろう。
今は私自身が楽しまないといけない。
今、シエルを傷つけたという自責の念を無くすためにも。
シエルを思いやる心配心も一緒に持ちながら。
そして私は授業に向かう。
この学院ではそれぞれが受講する科目を決める事が出来る。
例えばそれが教養系――算数や歴史、社会など――もしくはマナー礼儀――ダンスの踊り方や礼儀作法など――もしくは、戦闘系――魔術の教練や実践訓練など。
に分かれる。勿論最低限取らなければならない科目はあるが、ある程度は自由に決める事が出来る。
まあ、言うなれば大学みたいなものだ。
最初の授業は歴史学。この国の歴史を学ぶという物だ。
必修科目だから、というのもそうだけど、この国の歴史がただ単に知りたいという気持ちも同様に持ち合わせている。
「結局、二日間目が覚めてないのか」
いつの間にか、授業時間に私の隣に座っていたリデアス殿下が心配そうに言った。
変に私の隣に座ったものだから、周りからの視線が痛い。
この方がイケメンなのだ。
リデアス様は笑顔で私に微笑みかけている。
私に対する周りの目が怖い。大方そこを代わってとでも思われているのだろうか。
困ったことに、リデアス様にそう言った感情の渦に気づくような男性ではない。
鈍感系男なのだ。
――元々のシナリオではリデアス様に対してしつこくアタックしに行く。
しかしその度にリデアス様にあしらわれる。
さらにリデアス様の事が好きな人やリデアス様と会話した人に対し、陰湿な嫌がらせをする。
まさにそんな悪役令嬢がリエラだったのだが、まるで逆だ。
リデアス様は確実にわたしと一緒に居たがっている。
まるで向こうの席に座っている、セリナの事に気づいていないかのように。
私のどこにそんなに惹かれたのだろうか。それともただの友達として気に入っているのだろうか。
今の所リデアス様がわたしと一緒に居る理由なんてものは一向に見えない。
勿論、私の事が好きだとは限らないのだけど。結局ストーリーが分かりやすくなるならば、本編みたいに、セリナの方に向かっていってもらうのが楽なのだろうか。
でも、それはそれで悲しいな、なんて思ってしまう。
「シエルの様子はどうだい?」
「まだ目覚めてないわ」
もう三日目に入ってる。医師が言うには、寝ているだけだというけれど。
「そうか、心配だな」
「ええ。心配だわ。目覚めなかったら私のせいなのだから」
無理をさせた私の責任。
「そう、ピリピリとするな。大丈夫だ」
「そうだといいけれど」
てかピリピリって何?
「私は、怖いのよ」
「それは同然だ。身内が今死の危機に立たされてるんだからな」
私はそれに対し頷いた。
「でも、俺は君の判断を尊重するよ。君が動いていなかったら、たぶんもっと大変なことになっていた。間違ってはないよ」
「ありがとうございます」
その言葉を聞いて、少し安心した。
「でも、君はどうやって知ってたんだ」
「えっと」
知ってる理由は、ゲームのシナリオを知ってるからだけど、そんなことを言ったら大変なことになりそうだ。
「企業秘密ってことで」
そう、私は唇に指をあてて行った。
「なら仕方ない」
納得してくれてありたがった。
そして、授業が開始される。
最初の授業は、運動だった。本当なら体育館でやるはずだったのだが、すでに大破損していたので、今回はグラウンドでやることになっている。
日本だったら基本男女別々でやるのだが、ここでは男女共同らしい。
「ハロー!!」
そう言ってやってきたのはセリナだった。なんで英語なんだろう。
でも、それを言う訳にはいかない。
「おはようございます、昨日以来ですわね」
そう、私は挨拶を交わす。
「ええ。あの後は大丈夫だったのかしら? 結構倒れ込んでたみたいだけど」
「大丈夫だわ」
「それならよかった」
そしてセリナは私の元へと近づいていく。
「シエルさんの事、私にじっくり教えてね」その言葉に思わずぞくっとしてしまった。
教えてねというのは闇魔法という事だ。彼女はどちらかと言えば、シエルの擁護派だったと思うが、私が転生してきたことによって少し変わっているのだろうか。
あまりセリナを信用しない方がいい気がする。もしかしたら、私の転生にもかかわってきてる可能性もある。
「そろそろ授業を始める」
その時、先生の号令が始まった。
「健全な魔力は健全な肉体に宿る。しばらくは運動をしてもらおう。運動成績の良い物は次へと行けるが、いつまでも既定のスコアに立てないと、延々と運動させるからな」
あれ、これ、私まずいかもしれない。
この体に転生してからは体は強くなっている。だけど、それでも生前は運動は無理だった。
要するに、運動神経がないのだ。
「まずは、ボールをここに入れてもらう」
バスケのシュートみたいなものだ。
私は投げる。だけど入らない。
その後は、やり投げや、砲丸投げ、そして幅跳びなど、日本の体育の授業かと思うくらいの授業だった。
だけどその全てで私はあまり結果を出せなかった。
その結果、私に言い渡された結果が不合格だ。
「嘘でしょ」
私は何度も髪を見直す。だけど、そこに書いてある不合格という文字は何度見ても変わらなかった。
私だけ不合格。その理由は分かっている、私に運動神経がないから。
何しろ、リエラは運動もそこそこできるはずだ。
この体を操り切れていない私が悪いのだ。
わたしだっってシエルと一月訓練してたのに。
「ねえ、リエラって運動出来ないのね」
そう言ってじーと私を見るセリナ正直ムカつく。が、言い訳のしようがない。
「そんなことはないだろ、リエラ嬢も頑張っているさ」
「すみません、今のわたしにとっては慰めどころかあおりにしか聞こえないんです。すみません辞めてください」
思わず素の口調が出てしまった。今までも、リエラを演じ切れていたかと訊かれると、NOと答えざるを得ないと思うけど。
そもそも演じるって何?なんて心の中で思ってしまった。
「それなら何も言わないが」
リデアス様は困ったようにそう言う。
「大丈夫です」
そんなリデアス様に対して、私はそう言い放つ。
「私はすぐに追いついて見せます。なので、待っていてくださいね」
「ああ、分かった」
ちなみにだが、私はその時勘違いをしていたことを知った。それは、魔術の訓練は受けられるらしい。受けられないのは中級の体育だけだった。




