第11話 ウィレム
体育館の中に入っていく。
そこには、一人の男がいた。
眼鏡をかけていて、その体は180センチはあろう大男だ。
そのわりには体は痩せている。
しかもだ。骨も軽く見えている。ゲームでこのキャラデザであるという事は知っていたが、画面越しに見るのと、こうして実際に対面してみるのとでは、全然違う。
「ああ、来たんですね」
そう、やつれた声で、彼は発した。彼の名前は確か、ウィレム。苗字は明かされていない。
その理由は孤児だから、苗字がないからだ。そして彼は貧困な生活の中で、救いを求め始める――
だけど、そんな事はどうでもいい。
わたしを今興奮させているのはまさに彼の声だ。
彼の声には異様な威圧感があった。
私は気を苦を探る。そして気づく。
これ、ゲームの中で声優さんが話していた声とほとんど一緒だ。
私は声優さんの事が好きだ。リデアス様の声を生で聞けたのも感激だが、今悪役のイケボを聞けているのもいい! 素晴らしい。
そして生で聞いているからこそゲームで聞いた時よりも、その威圧感が増している。
殺される。そう感じ取れるような圧だ。
最高!!
だけど、それは外部から聞いていたら、の話だ。
この威圧感が向けられている対象はゲームの中のキャラじゃない。今まさに向けられているのは、私たちなのだ。
私は軽く自分の頬を叩く。緊張感を持たなければ。
「誰か来たらおさらばしようと思っていたのに、そう簡単にはいかないようで残念です。しかし、ここに来たという事は死ぬ覚悟がおありという事ですね」
死ぬ覚悟?
そんなものあるわけがない。
今のわたしが出来る事は今ここで、こいつを確実に倒すこと。
「ないわよ。でも。あなたは絶対に倒す」
「その意気だ。俺もだ。俺もこいつは許さない」
そう言ってリデアス様は魔法を敵に向ける。
ウィレムに向けて。
私もそれに合わせ、
リデアス様と二人で魔法を放つ。
その魔法はウィレムに向かって真っすぐに飛んで行った。
その魔法は真っ直ぐに飛んでいく。だけど、その攻撃を受けても涼しい顔をしている。
「いい威力ですね。これでまだここで魔力の鍛錬をしていないとは。うむ、あの方も喜んでくださるだろう」」
あの方、こいつらの裏にある人間の事だ。
ウィレムも構成員の一端に過ぎない。ゲームではそこまで深くは設定が彫られていないようで、あまり内情は知らない。
「もうすぐ援軍がやってくる。いい加減諦めろ」
リデアス様はそう言って男を睨む。
「諦めろ? そんな言葉は私の辞書にはありませーん」
そして地面を強く叩く。地面が軽く揺らいだ。
その衝撃で、私は軽くその場でこけそうになった。
そのままウィレムはわたしたちの咆哮へと向かって走っていく。まず狙われたのはシエルだ。
「シエル危ない!!」
私が叫ぶのを聞き、シエルは「え?」と声をこぼす。
だけど、時遅し。
シエルの首根っこを掴まれる。
しまった。もっと警戒しなければいけなかった。
いや、ウィレムが素早すぎるのだ。
油断していたつもりはないのに、これが実力差。
実戦経験の不足。
だけど、今のわたしはあの時とは違う。
あの日、シエルを守る事すら出来なかった無力な私じゃない。
今のわたしならシエルだって守れるはずだ。
私は咄嗟に腕に力を込める。そして、手を強く握りしめ、一気に男の顔にお見舞いしてあげた。
「ふむ」
そう言い、なめたようにこちらを見る男。ムカつく。
「俺の事を忘れるなよ」
瞬間、魔法が飛んできた。リデアス様のものだ。
その魔法は一気に男の顔をぶっ飛ばした。
そして男はシエルを腕から出した。
わたしはシエルをとっさに抱きかかえる。
シエルの目は死んでいない。
しっかりと男を睨んでいる。
「わたしだって守られるだけじゃない!!」
そう強く叫ぶシエル。その手から魔法が放たれる。
闇の魔力だ。漆黒の闇が男に襲い掛かる。
「なるほど、負のエネルギーですか」
負の。そう、負のだ。
「精神が混濁する感じがします。なるほどこれがあなたの力ですか」
そううんうんと、頷いた後、
「しかし、この私を止めるには些か力が足りない」
軽く、大地がうなる。
「私の本気を見せてあげましょう」
そして、男は、注射針のようなものを自分の首元に刺した。
すると見る見るうちに男から角が生えて来る。
ストーリーで言えば四章のボスだが、まだ一章である今相対する事になるとは。
勿論の事、私の意思でここに来たのだ。
相対する事はここに来る時点で決まっていたのだ。
恐らくは元々の状態でも私たちに勝ててただろう。しかし、それに甘んずることなく、わたしたちを本気で殺しにかかってきているのだ。
先程まで、はまだかろうじて勝機もあっただろう。しかし、その勝機も完全に失われた感じがする。
それほどまでに、私をこの世から亡き者にしたいのだろうか。
「ファイヤーフレイム!!」
しかしその攻撃はその肉体で防がれる。先程までとは段違いのその厚い肉体で。
まだ先程の方が手ごたえがあったように思える。
正攻法では勝てないという事実が、私を襲う。
「その程度ですかあ」
やっぱり私じゃだめだ。
魔力量が圧倒的に足りない。鍛えたけれど、それでも届かない。
学院でまだ学んでいないから、そこまでの力を私は持っていない。
リエラになってまだ日も浅く、出来る事も限られていたのだ。
悔しいかな、私はリデアス様とシエルに力を行使してもらうしかない。
こいつらに勝ってもらうしかない。
シエルはこいつらの 防御を破る力を持っている。
シエルの魔法の本質は先ほどの物では微塵も見せていない。先程の物は所詮
シエルと私はずっとシエルの力について調べていた。
立ったの一月であったが、それでも手に入れた力はある。
先程の力は相手の感覚をゆがめていく魔法。それも十分に協力ではあるけれど、あくまでデバフ。恐らくは完全に効き目が出てくる前に、こちら側は崩壊する。
ならばどうしたらいいか。
もう一つ手がある。
「シエル、放てる?」
「うん!」
シエルはそう頷き、一気に闇の魔力を飛ばす。
「闇だと!?」
驚きの表情だ。
やっぱり、闇魔法というのは珍しいらしい。
確かに先ほどの負のエネルギーは、完全なる闇魔法ではない。応用魔法だ。
だけど、これは純真たる闇のエネルギー。
「ダークウェイブ」
その攻撃は波打って体を穿つ。
その瞬間、ウィレムの体が吹き飛ばされる。
「なんだ、これは?」
体が見る見るうちに縮んでいく。
まるで、注射針の液体が抜け出たかのように。
「どうなってるんだ、いやそういう事か」
リデアス様は私と一緒に闇魔法について調べていた。
だからこそ、知っているのだ。
「この力は相手の弱体化を促す。このお前はもう終わりだ」
私はそう、指を突き出し言った。
先程の魔法は闇を部分的にしか使っていなかった。しかしこれは純度百パーセントの闇だ。
闇魔法は元来デバフ効果が主なものだ。薬によって強引に強化された力。それは、
「終わり、ぎひひ、まだ終わってませんよ」
「いえ、もう終わりよ」
私は再び炎の弾丸を飛ばす。
「あなたは引っ込んでなさい」
その言葉で、はじき返される。
デバフをくらったとは言え、注射針の力が抜けただけだ。
それだけでは私にはかなわないのか。
「俺がいる」
その言葉と共に、リデアス様は魔法を飛ばす。
「君の力様先ほどまでよりも低下している。その注射針にデメリットがないとは思えない。恐らく君は、注射針の効果を失い、デメリットをくらっている」
「くっそれは正解だ。何しろオレは、注射針のせいで時間制限がある。だがなあ」
そして、ウィレムは、一歩ずつ歩いていく。体育館の奥に向かっていく。




