それはイヤ
「これをあげようとしている俺って、最悪なんじゃないか?」
俺のエゴを押し付けすぎたかもしれない。
「ごめん。そんなこと何も考えずに便利だろうって決めつけて、渡そうとしてました。別の、取り扱いに困らないものを今から用意します」
「それはイヤ」
「え?」
「せっかく用意してもらったし、これは返さない」
エルルネがここまで俺が用意した物を両腕で抱え、絶対に返さないという意思を見せる。
この便利通信アイテムが、何らかの形で俺が作り出したものだとバレても、逃げればいいやってくらいにしか思っていなかった。
エルルネに危険が及ぶ可能性なんて、微塵も考えていなかったのだ。
冷静に考えればわかったはずなのに。
しかし、エルルネはそれでも欲しいという意思を見せてきた。
まあ、一度あげるとプレゼンテーションしたわけだし、今更引っ込められても困るか。
「その使用方法や性能を知られたら、それを手に入れようとする誰かによって、エルルネ、君の身に危険が及ぶ可能性もあるよ?」
「はい」
「ん。バレなきゃ良い」
そんな簡単にいけば良いが。
――しかし、俺は俺で覚悟を決めておくべきだろう。
「わかった。渡すために用意したのは俺だし、もしエルルネに危険が迫るようなら、俺の存在や名前を出してくれればいい」
「そんなヘマはしないから」
「エルルネが気をつけていても、俺やリアサが変なタイミングで文字や声を送って、気付かれる可能性もある」
「あたしも気をつける」
うーん。軽い気持ちで用意したのは失敗だったな。
しかし、せっかく仲良くなれたことだし、離れていても何らかの繋がりは残したい。
熟慮しても結局は、やり取りできる何かを渡していた可能性が高いか。
トラブルが起きてしまったら、全力で対応に当たることにしよう。
そのためには、どんなトラブルが起きそうかを想定し、どんな対処が取れるかを思案し、何事にも対応できる柔軟さと力を蓄えるしかないか。
結局やることは魔力を強化したり、『属性』や『特性』を得てその活用方法を考え、新たな物やスキルを【クラフト】していくという、今やっていることを続けていくだけだな。
「とにかく、俺が贈った物は慎重に扱ってもらうとして、そのまま持たせるわけにもいかないから――」
白いトートバッグのようなカバンをインベントリから取り出す。
一応本体と持ち手と接続部の片方だけにリボンをあしらって、オシャレを演出してみたものだ。
ダサぁって言われたら、即取り外そう。
「オウギにしては珍しく、かわいい」
「うん。良いと思う」
とりあえず二人のお墨付きはもらえたので、胸を撫で下ろす。
「オウギ、ありがとう」
「どういたしまして」
「ん」
「アサは関係ないでしょ」
「ある」
「どこに?」
「オウギはあたしが育てたようなもの」
「いや、それはさすがに無いかな?」
「だってよ?」
「ところでオウギ、あたしの分は?」
「アサはすぐそうやって話を逸らす」
「もちろん用意してあるよ」
「オウギもアサを甘やかしすぎ」
「ルネも今のうちに甘えておくべき」
「――どうやって?」
「抱き着いて匂いをつけながら、オウギ成分を吸収する」
「いいの?」
あれ? 俺には確認しないのですか?
「ん」
「じゃあ、オウギ、立って」
「えっと、はい」
立ち上がると同時に、俺の胸にエルルネが飛び込んできたのだった。
王都から来た一行を見送る。
エルルネとの別れの挨拶はすでに済ませていたのもあって、別れはあっさりとしたものだった。
ちなみに、父上が王都まで送っていくとのこと。
勝手に来る分には知ったこっちゃないが、帰りに何者かに襲われようものなら、こちらの責任になりかねないとのことで、護衛を務めるつもりのようだ。
勝手にアレコレ話しやがったな? という俺からの追求を一旦やり過ごそうとしているようにしか思えないけど。
留守を兄上に任せることで、経験を積ませようという意図も一応あるらしい。
慌ただしい王都からの襲撃(?)を何とかいなし、冬と呼べる季節に突入した。
冬場に山の中を駆け回りたくないので、屋内でできる【クラフト】に関連する修行、鍛錬を行う日々だ。
『雷属性』や『闇属性』を習得しようとあれこれ試行錯誤してみたり、新たな『特性』が発現しないか模索してみたり。
結果、『雷属性』と「増幅」の『特性』を習得することができた。
『闇属性』は存在は確認できているものの、未だ習得には至っていない。
影を利用して日時計を作ってみるとか、影絵で遊んでみるとかしてるだけでは、『属性』習得には届かないらしい。
まあ当然か。
暗闇を利用した何かないかなあ?
『属性』や『特性』とは別に、【クラフト】してみた便利器具もいくつかある。
魔力コンロや魔力暖房だ。
魔力コンロはその名の通り、魔力で火を生み出す調理器具で、我が家のシェフ――ガイゼや、獣人の村の住人たちに使ってもらっている。
当初はつまみを回して火力を細かく調整できるようにしようと思っていたが、魔力を流す量の調整が面倒で、弱、中、強の三段階で落ち着いた。
ガイゼ曰く、三段階で調整できるだけでもとんでもない逸品とのことで、クマの肉を弱火でじっくり焼くのに最適らしい。
暖房器具は寒さを苦手とする獣人たちに大好評だ。
暖房の効いた部屋でかき氷を食べるのが至福のひと時らしく、かき氷を用意してくれるオウギ様こそ村長に相応しいと持ち上げられてしまったので、かき氷作りを拒否ったところ、かき氷を用意しないと村長になってもらうぞと脅されてしまった。
一体どうしろというのか。
村長には絶対にならないからな。
そして、残りの時間は南に向かってトンネルを掘り続けた。
そんなこんなで冬の期間をやり過ごし、積もっていた雪もだいぶ溶けてなくなり、様々な生物が蠢き出し、植物が芽吹き始める季節になった。




