なんとかできない?
「こっちで何とかしておくって、オウギ任せってこと?」
「ん」
「さすがに下着は恥ずかしいから無理」
よくわからないが、リアサはエルルネの下着を俺に洗わせようとしてるってことかな?
「別に減るもんじゃない」
「減るとか減らないとかじゃない」
「でも、そのパンツ、どこで手に入れて、なんで履き替えたの? ってなるよ?」
「それはまあ」
「洗わずに、元のパンツ履くの、嫌でしょ?」
「まあ、うん」
「オウギなら、キレイにしてくれるだけじゃないよ?」
「いやでも、うーん。やっぱりこれを渡すのはイヤ」
そりゃあ脱いだ下着をよくわからん男に洗濯してもらうのはイヤだろう。
「石鹸とかは風呂場にあるし、自分で洗ってドライヤーで乾燥させるか、洗うのはエルルネがやって、乾燥を俺がやるかのどっちかじゃないかな?」
エルルネ自身が何を嫌がっているのか次第だ。
「ううーん……洗ってくるから、乾かして欲しい」
「了解」
再び風呂場へと戻っていったエルルネ。
「どうだった? エルルネとやりあってみて」
「ん。あたしのが、胸も尻も大きい」
「それは聞いてないかな」
「魔力の操作はスゴかった。努力しているのもわかった」
「そうだろうねえ」
そんな会話をリアサとしていると、エルルネが戻ってきた。
「これ、お願いします。
あの、あんまりジロジロ見ないで」
「うん」
エルルネから白い布を受け取ってインベントリに即収納。
水分その他を取り除いて、「治癒」や「回復」などのお得『特性』をもりもりに付与して返す。
「ありがとうございます。えと……履き替えてくる」
エルルネは三度風呂場へと入っていき、少しして戻ってきた。
「借りていた下着を洗ってきた」
エルルネから下着を受け取り、インベントリ内に収納する。
正直そのままあげても良いんだが、謎の下着をどこからか手に入れていたというのは、それに誰かが気づいた時に色々と大事になりそうか。
俺が作ったものなんて履きたくないとか、肌触りが良くないとか、センスが悪すぎるとか、エルルネがそういう拒否反応を起こしている可能性も否定できないが。
さて、ようやく部屋に戻ったところで、風呂上がりの水分補給を兼ねて、かき氷をリアサとエルルネの二人に差し出す。
「風呂上がりは水分補給しなきゃだからね」
「オウギ、ありがと」
「ありがとう。いただきます」
シャクッとすくっては口に運んでいく二人。
最初は味わっていた様子だったが、途中から何故かモードが切り替わった。
リアサがどばーっとかき込むように食べきったのだ。
「オウギ、おかわり」
「おかわりはいいけど、それ頭痛くなるよ?」
「大丈夫」
まあいいか。
リアサにもう一杯差し出すと同じタイミング。
「私もおかわりお願い」
エルルネも対抗して食べきっていた。
「かき氷の早食いは推奨できないけどねえ」
言いながらも新たなかき氷をエルルネに渡す。
そして両者二杯目を勢いよく口に運んでいたが、同時にピタッと動きが止まる。
「ほら言わんこっちゃない」
リアサとエルルネが頭を押さえる。
「「ん〜〜〜」」
しかし、竜の血を引く者にもあるんだね。この冷たいものを食べると起きる頭痛。
「かき氷はゆっくり食べてね」
「オウギ、女には、引けない戦いがある」
「同意する」
「かき氷の早食いなんてことで戦ってないで、まともな勝負しなさい」
「むう」
「あと、エルルネ」
「はい」
「それが自分の中で落ち着くならいいし、畏まった話し方するより親しみやすくて好きだけど、リアサに影響されたり、焚きつけられて言葉遣い変えてるなら、戻してもいいからね」
「これは私の意思だし、オウギとアサの前だけ」
「それならいいけどね」
いざ元の言葉遣いで話そうとしたら、出てこなくなったとかにはならないことを祈る。
「オウギ」
「何? リアサ」
「あたしの親友、ルネのこと、なんとかてきない?」
強敵って発話した割に親愛の情がこもっていた気がするけど、まあいいか。
「今の俺には手立ても何も無いからできないけど、一つ、エルルネのその研鑽された魔力をより強力に使用できるようになるんじゃないかってアイデアはあるよ」
まず、魔力を適切に流すことで、玉がふわふわと浮き続ける謎の道具で、どちらが長く安定して浮かせ続けられるかの勝負をした。
私の圧勝だった。
次に、魔力を瞬間的に込め、玉を飛ばすことができる道具で、どちらがより遠くまで飛ばせるかの勝負をした。
リアサの圧勝だった。
そして決着をつけるために、謎の乗り物でいかに早く走りきれるかの勝負となった。
これに座って右足から魔力を流すと加速、左足から流すと減速、右手から流せば右に、左手から流せば左に曲がる。
この広い空間でのみ走らせることができるらしいが、地面にはこれを走らせ勝負するための、乗り物三台ほど並べられる幅の道が敷かれている。
これに沿ってぐるりと一周する。
直線区間から始まり、ぐねぐねと曲がりくねった区間を抜け、直線が来たかと思えば、最後に大きく曲がり、長い直線の先に引かれた線を先に越えた方の勝ちという勝負だ。
何周か練習してわかった。
私が勝つには曲がりくねった区間を上手く走りきるしかないと。
では、曲がりくねった区間はどうすれば速く走り抜けられるのか。
リアサは何度も走っている経験者ということで、俯瞰したコース図を前に説明してくれた。と言っても、説明された内容も、「コース」などの用語も全てオウギ様の受け売りらしいが。
コース図には赤い線が描かれている。それが最速で進むためのルートらしい。
大きなコーナーでは、コースの外側から曲がり始め、一番内側を通り、外側に向かって抜けていくのが良いとかなんとか。
ただし、それが誰にとっても最速とは限らない。
コーナー手前できっちりと減速し、思い切り乗り物の向きを変え、コーナー出口に向かって加速していく方法もあれば、ギリギリ曲がれる速度に減速し、その速度を維持してコーナーを曲がるという方法もあるとのこと。
前者は加速力、最高速が高く、車体制御が苦手なリアサ向きで、後者は加速力の弱い私向きだろう。
とにかく、この僅かな練習時間で、車体制御を完璧に近付けるしかない。
「そろそろいい?」
「はい」
全然良くは無いが、時間が無限にあるわけではない。覚悟を決めて勝負に挑むしかない。
リアサと横並びで位置につく。
「さすがに、何度も走ってるあたしのが有利だから、そっちの走り出しに合わせる」
「わかりました――では、行きます」
思い切り右足に魔力を込めて流す。
まずは真っ直ぐ進むだけだから、とにかく加速、加速だ。
しかし、リアサの加速力がとんでもなく、すぐに抜かれる。
大丈夫。リアサはこの先の区間で確実に手間取る。
焦らず、コース図に描かれた赤い線をなぞる意識で走る。
曲がりくねった区間――テクニカルセクションとか言っていたっけ――に入ったところで、大きく膨らんで曲がるリアサを捉えて抜き去る。
無駄に速度を落とすな。コーナーで膨らむな。最短距離で走れ。
このコーナーを抜ければあとは直線が二つだ。
リアサの位置を確認する余裕はないが、きっと直線で追いついてくる。
私の理想通りの道筋、速度でコーナーを抜けることができた。ここからは加速するだけだ。
最終コーナー直前、見えないが背後からの圧を感じる。
普通に曲がったのでは、リアサには勝てないと直感が訴える。
最終コーナー、さすがに加速しながら曲がることは不可能だろうが、減速したら私の魔力では加速力で負ける。
私がこれから進む道筋、速度を維持するための右足への魔力、両方を意識しながら、全力で曲げる。
――よしっ! 曲がった!
後はゴールラインに向かって加速し続けるだけ。
このまま押し切る!
あと少し!
後ろからリアサが迫ってくるのを感じる。
負けたくない!
私がゴールラインを越える直前、横をとんでもない速度でリアサがかっ飛んで行った。
「ふぅ……」
負けたなあ。
悔しいけど、負けた。
でも仕方ない。
リアサのが慣れているというのはあるにしても、彼女の爆発的な加速力を考慮すると、車体制御はとんでもなく難しいはずだ。
私が上手く制御し曲がれるのは、日頃の努力の結果でもあるが、そもそも魔力が多くなく、扱いやすいというのもある。
私に比べて、リアサははるかに難しい制御を求められ、その中でコースから外れずに走りきった。
完敗と言ってもいいだろう。
その、とんでもない速度で駆け抜けていったリアサが戻ってきた。
「あたしの負け」
「は?」
「ギリギリ届かなかった」
「いや、抜かれました。私の負けです」
「そんなことない。あたしの負け」
「そんなことなくないです。私の負けです」
「違う。あたしの負け」
睨み合う。
「ぷっ」
「ふふっ」
二人して笑うしかなかった。
「じゃあ、今回は引き分け」
「わかりました」
「次はきっちり勝つ」
「負けません」
次があるのかなんてわからない。けど、きっとあるはず。




