可能性の話
「今の俺には手立ても何も無いからできないけど、一つ、エルルネのその研鑽された魔力をより強力に使用できるようになるんじゃないかってアイデアはあるよ」
アイデアだけはある。
「ただ、仮にそれが上手くいったとしても問題もあるんだよなあ」
「問題?」
「なにもかも全てが上手くいくような話ではないってことね?」
「うん。
これが上手くいったとすると、エルルネの能力を余すことなく発揮できるようになるはずだけど、エルルネが大事にしている家への貢献はおそらくできなくなる」
「家に居られなくなる?」
「そうなるかもしれない」
「だとしたら、そんな方法に価値は無いしやらない」
「やるやらないはエルルネに任せるけど、やりたくなったのにやれないってのが一番良くないと思うから、俺は勝手にその方法と手段を探し続けるよ」
「どうせ無駄になると思うけど、オウギの好きにしたらいい」
「うん。そうさせてもらう」
俺がどう行動しようが俺の勝手だ。
「でも、もしもさ。仮の話ね。可能性の話」
「うん」
「ご家族の方からエルルネを遠ざけようとするかもしれない」
「こんな無能はもういらないって?」
「まあ、その可能性もあるかもしれないけど、そうじゃなくて」
「別の理由?」
「うん。自分勝手にエルルネのことを、自分たちの近くにいない方が幸せに違いないって想って、幸せに過ごせるであろう場所を勝手に考えて、勝手に決めて、送り出すとか。
間近で見ていて辛いとか、可哀想ってなって、遠ざけようとしてしまうとか」
「それはたしかに、無いとは言えない」
「優しい家族ゆえにね」
「でも、そういうことがあったとして、何なの?」
「そういう状況なら、自分のために、俺がこの先見つけてくる方法で、エルルネの真の魔力を解放しても良いんじゃないかなって」
「……」
無言になるエルルネ。
「あともう一つは、もしも万が一、家族に突き放されるような事があったとしても、自分を責めたり悪く思う必要はないよって話」
「ふーん」
「なんか含みのある表情してるな? リアサ」
「え?」
全然表情からはわからないよって表情をしてますね。エルルネさん。
変化に乏しいけどちゃんとリアサは表情に出てるんだよな。
「オウギが伝えたかったのは、それなんだね」
「あー。うん。まあそうかな」
この場で言うつもりはないが、俺はエルルネが何らかの形で家から離される可能性は低くないんじゃないかと思っている。
理由としては、最初に見た時よりエルルネの顔付きが良くなっているからだ。
王都を離れ、こんな辺鄙な土地に出向いたことで、気持ちが一新されたとエルルネの家族が判断したのならば、ではちょっと王都から離れて過ごさせてみようとなるんじゃないかと思う。
「ともかく、できるかわからないのに言うことじゃないかもしれないけど、俺がいつか用意する方法を受けるかどうか、考えておいてほしいかなあ」
「考えるだけなら考えてあげるけど、家と決別することになった場合、私の生活は保障してくれるんだよね?」
「そうなったらもちろん、衣食住には困らせないよ」
「ん?」
「うん?」
変な表情を浮かべてどうした? リアサ?
「それはあたしも?」
「え? あー。そういうこと? 当然、どういう関係に落ち着いたとしても、俺のできる範囲で最大限、リアサが生活に困らないようには頑張るよ」
「ん」
満足気に頷くリアサ。
「じゃあ、オウギが動けなくなった時は、あたしが面倒見る」
「うん。ありがとう」
そうならないように頑張ります。
「んん。目の前でイチャつかれるとちょっと腹立つね」
「ルネもオウギとイチャつく?」
「今は遠慮しておくかな」
「今は、ねえ」
「なによ?」
「別にー」
むしろそっちの女子二人のがイチャついてません?
――翌朝。
日本時間で九時くらいだろうか。
王都からはるばるやって来た聖職系の三人は、今日この地を離れて王都に帰るとのこと。
だが、何故かエルルネは俺の部屋に居た。
さらに言えば、何故かリアサも朝早くから来て、この部屋に居る。
ここから王都まで、何日もかかるわけだが、一番近い宿泊地は半日ほどで着くが、その次の宿泊地は一日近くかかるとのことで、朝早く出ても、昼前に出ても、王都までの日数は変わらないということで、ぎりぎりの時間にここを発つ予定らしい。
それまで自由時間というのが、エルルネがこの部屋に居る理由だ。
リアサが居るのは――なんでだろうね?
別に昨夜泊まっていったとかではないので、女同士の約束でもあったのかもしれない。
その場合俺は邪魔か? まあ、邪魔だったら追い出されることだろう。
「時間に余裕があるうちに、本のお礼も兼ねてエルルネにこれを渡しておこうかな」
王都へ帰るエルルネへのお土産を、いくつか【クラフト】しておきやしたぜ。げへへへ。
「ルネ」
「え? 私のことですか?」
「そう。ルネのが呼びやすい」
「なら、私はアサって呼びますね」
「ん」
同世代の女の子とあだ名で呼び合うなんて初めて。
「ルネは、いつもそんな、上品な喋り方?」
「はい。いつもの通りです」
「苦しくない?」
「これが普通なので」
「なんか、ルネの本質に合ってない」
「そうなんですか?」
「そう」
「こんな喋り方してみたいって、願望はない?」
「願望……。ぶっきらぼうに話してみたいと思うことはあります」
「じゃあそれで」
「え? 今ですか?」
「今から、あたしとオウギの前では、お上品なのダメ」
「オウギ様の前でもですか?」
「オウギに様もいらない」
「うーん……やってみま――やってみる」
突然わけのわからないことを言われた上に、それを実行してみようなんて普段は絶対思わないんだけど、喋り方に関してはたしかにそうかもしれないと思ってしまった。
「でも、急に喋り方変わったら、オウギ……は困らない?」
「オウギなら、普通に受け入れてくれる」
「そうなんだ?」
「何も触れない……ことはないか。ちゃんと気にしてくれた上で、好きにすればいいって言ってくれる」
「詳しいね」
「ん。当然」
「ふーん」
「一切触れられずに、興味無い? ってなることは無い」
好きにさせてくれているのか、興味ないからどうでもいいのかは、対応が似たようなものでも全然違う。
興味ない相手に興味持たれなくても構わないけど、そうでない相手だと悲しいか。
では、私の場合、オウギ――に興味持たれていないとなったら、どんな気持ちになるのだろうか?
うん。なんか考えたくないし、やめとこ。
「――――とにかく、迎えに来て欲しい」
え? 独り言? じゃなさそう。
離れた場所で会話してる? そんなことができるの?
ここに居ると、私の常識なんて何の意味も価値も無いものだと思わされる。
王都に戻って生活が困難になったとしたら、責任取って欲しい。




