どんな人?
俺の部屋、テーブルを挟んで向き合って座るリアサとエルルネ。
別に俺は何も悪いことなんてしていないのに、何故こんなにもプレッシャーを感じなければならないのだろうか。
「はじめまして。あたしはリアサ。オウギの嫁。(未来の……)」
リアサさん、最後ごにょごにょと濁すのやめれる?
「はじめまして。私はエルルネ・セイウ。聖女を母にもつセイウ家の次女で、その、えっと、あの、オウギ様を婚約者にしたらどうかという話が出ている仲でございます」
エルルネ様、まさかの対抗ですか。
「むむう」
リアサとエルルネの視線が激しく――かは実際にはわからないが――ぶつかる。
「オウギ」
「うん?」
「この子はどんな子?」
リアサに問われる。
どんな子、かあ。
俺の思っているままを伝えればいいか。
「彼女は、並外れた努力、自己研鑽ができる人――かな」
「努力?」
「彼女は、自分の思った力が出せず、気持ちが落ち込んでいるところを気分転換のために連れて来られたらしいんだけど、何もできないと投げやりになっていたわけでは決してなくて、おそらく睡眠時間すらも費して、できる限りの鍛練を積み重ねてきた人。
積み重ねてきても結果が出ないとなれば、落ち込むのも仕方ないことなんだけど、落ち込みながらもそれでもなお、魔力を磨き続けたスゴい人だと思う」
もしかすると、努力することしか縋るものが無かったのかもしれないけど、その努力を他人に認められることも無かったと考えると、続けられたことは尊敬に値する。
「オウギは何でそれを知ってるの? この子がそう言ってるから?」
「それは、彼女の魔力を視た結果だね。他の人には視えないのがもったいないくらいの研鑽された美しい魔力をしてる」
「なる、ほど」
「あ、あの、ありがとうございます」
エルルネがまた泣きそうな表情になっている。
「じゃあ、あたしは?」
「リアサのことを俺がどう思って見ているかってこと?」
「そう」
「リアサは、責任感と行動力があって、優しい人だね」
「そ、そう?」
「初めて会った時のリアサが取った行動は、無茶というか無謀なものだったとは思うけど……」
後先考えず、飛べるかわからない谷を越えて来るなんて、あの場にたまたま俺がいなかったら、そのまま命を落としていてもおかしくない状況だし、無謀という他ない。
「でも、それも家族のため、村の皆のため。その優しさと行動力はリアサの魅力に繋がってると思う」
「あ、ありがと」
「あと、リアサも努力を怠らない人だよね」
「オウギ、待って」
「うん?」
「もう、大丈夫」
「いやでもまだ全部言ってない」
「これ以上は、あたしが耐えられない」
「そう?」
「だからそこまでで」
「まあ、そう言うなら……」
リアサの顔が赤くなっていた。
「オウギ」
「うん?」
「あたし、この子と二人で話したい」
タイマンに持ち込もうという魂胆ですか?
「えっと、俺が席を外せばいい?」
「んー。いや、地下のあの広いところ」
裏山の、スライムとの戦闘をした場所にある、トンネルへの入口から入ってすぐに掘り広げた空間のことだろう。
「えっと、リアサがこう言ってるのですが、いかがしますか?」
リアサの一方的な意見で決めるのは良くないからね。
「あ、あの、エルルネで」
「はい?」
なんの話だ急に?
「私のことはエルルネと呼んでください」
「エルルネ様?」
「エルルネ、です」
「あー、エルルネ」
「はい」
「リアサが二人きりで話がしたいとのことなんだけど」
「はい。受けて立ちます」
受けて立つ、なんですね。エルルネさん。
二人を伴って自室から地下へ。
まず一旦、トイレの場所だけ伝えておく。
リアサは前に来て知っていたが、エルルネにとっては未知の地下世界だ。
さらに、こんなアウェイな場所でトイレに行きたくなったとして、言い出せないかもしれないし。
その後、地下にある広々とした空間に案内し、リアサが要求した魔力操作鍛練用遊具の数々と、水分補給兼体力魔力回復用ポーション、二人分の動きやすい服とズボンを置いてその場から離れた。
もう一つ、もしかすると必要になるかもしれない準備を済ませて部屋に戻る。
エルルネからもらった『魔物解体書』をぺらぺらめくりながら時間を潰すとしますか。
それにしても、聖女の娘であるエルルネを一人で行動させて本当に大丈夫なのかと疑問が浮かぶ。
メイドのような付き人――使用人が少なくとも一人は宛てがわれていると思うのだが。
その一人すら振り切って来たのか、振り切るだけの理由や条件があるのか、それとも遠隔で監視はしているのか。
ハーティックも、部下の能力を使って俺のことを監視――見守りだと言い張っていた――していたようだし、要人の周りにはそういう能力を持った人物が一人や二人いてもおかしくはないか。
となると、俺も詳しくは知らない、今現在地下で行われているであろう女同士の話し合いなり対決なりを、見ている人物がどこかにいるのかもしれない。
ともあれ、戻ってくるまで待つと決めた以上は、覗き見とか考えずにここで大人しく待っていることにしよう。
いやしかし、大人たちが帰ってきて、エルルネはどこに行った? となった時だけ困るか。
その時は、トイレじゃないすかね? とか誤魔化して、全力で呼び戻す必要があるかもしれない。
そうならないことを祈りつつ、手元の本をめくっていく。
ふむふむふむふむ。
――ハードスコーピオン。切りつける、叩く、刺すなどの物理攻撃がほとんど通らないサソリ型の魔物。
へえええ。そんな魔物がいるとは、初めて知った。
――ホーリーフィッシュ。聖属性を持つ魚型の魔物。人を襲うというような事例は今現在まで無い。
無害そうなこんなのまで載っているのか。
我が家にある『魔物解体書』は何度も読んでいるので、俺の知らない新たな魔物や解説が載っているということは、これは改訂版ということか。
たしかこれは二百年前に書かれたものだったはずで、冒険者か冒険者が所属するギルドのようなものが、書き足しているのだろう。
他にどんな追加された記載があるのだろうかと、見慣れたページもじっくりと見直してみる。
そんなふうにしばらく時間をつぶしていると、リアサからの「通話」を求める合図である、ランプが光りだした。
たしかに褒めてもらった。それはとても嬉しいし、今でも泣きそうになる。
最高の食感と、塩味と甘さの絶妙なバランスを持つポテトチップスなるものも食べさせてもらったし、炭酸ジュースもいただいたし、かき氷も最高で、幸福感を味わわせてもらった。
でも。それだけで初対面の男の子を好きになるとか、結婚を夢見るとか、そこまで私は乙女でもロマンチストでもない。
結婚でいうなら家の意向は重要だし。
褒めてもらった魔力の研鑽だって、少しでも家のためになれるようにと続けているものだし。
だから、別に私も婚約者候補だっていうことに、深い意味は無い。
あるのは、目の前にいる女の子への対抗心だけだ。
何故かわからないけど、この子には無性に負けたくないという気持ちが湧いて出てくる。
この子に対抗したいがために、オウギ様との結婚の話を出してみた。ただそれだけ。
他意は無い――無いはず。




