エルルネ
「まず女性を褒めるところから始めるとは、お前の息子とは思えないな」
父上の書斎に居た見知らぬ三人の人物のうち、剣士然としたイケメンが言う。
「お褒めいただき光栄です」
少女が美しい所作でカーテシーというやつを行う。
「失礼しました。あまりの美しさに目と心を奪われてしまいまして」
この言葉に嘘はない。
開口一番「キレイやなー」と呟いてしまうのも失礼な部分があるだろうし、魔力の美しさに目と心を奪われたのも事実だ。
「遅くなりましたが、初めまして。フオリ家四男、オウギです」
挨拶ってこんな感じでいいのだろうか? こういう場面での礼儀など体験していないし、学んですらいない。
何らかの落ち度があった場合、父上の教育不足ということにしてください。
「リリアリ教の司教、ソクゼ殿。
セイウ家の当主、聖騎士ジンク殿。
ジンク殿の令嬢、エルルネ嬢だ」
父上の紹介に合わせて、一人一人魔力を視て確認する。
司教様の魔力は――あれ? 違和感がある、というか違和感しかない。
聖職者という響きに怪しさを感じてしまうのは、ファンタジー作品の読みすぎ、見すぎだろうけれど、この司教様は怪しい側の人な気がする。
聖騎士様は――見たことのない色の魔力だ。
これは『光属性』、もしくは『聖属性』の魔力か?
しっかりと鍛えられてはいるが、父上の方が研ぎ澄まされているようにも視える。
聖騎士としてそれでいいのか? と思わなくもないが、父上が謎に魔力を鍛えすぎているのかもしれない。
そしてそんな二人を遥かに凌駕する美しすぎる鍛え抜かれた魔力を持つ少女。
エルルネという名前らしい。
聖騎士様と同じ『聖属性』だと思われる、似たような魔力の色をしている。
うーん。『聖属性』の鍛え抜かれた魔力を持つ子だけど、なんだろう、なんか、裏表がありそうな感じがする。
まあ、確証があるわけではなく、なんとなくだけどね。
「僕に話があると伺ったのですが」
「ああ、それは――」
爽やかイケメンっぷりを大いに見せつける手振りの聖騎士。
「お父様、私から話してもよろしいですか?」
そんな聖騎士様を遮った、娘であるエルルネ。
「うん、構わないよ」
「では、オウギ様、よろしいでしょうか?」
「はい」
「私はセイウ家の次女で、家族には、ここにいる聖騎士である父――ジンクと、今回、来ることは叶いませんでしたが、現聖女である母――サッツ、次なる聖女に最も相応しいとされている、姉――リリセがおります」
ふむふむ。聖騎士様と聖女様の家族ですか。
地位とか権力とか持っていそうだし、娘さんの整った顔からして、おそらく聖女であるお母様も美人さんで、市井の人々からの人気もありそうだ。
「父は聖騎士として、剣士として研鑽を積み、剣技に於いてこの国でも有数の実力を持つと評されております」
魔力の使い方より剣の方に鍛練の時間を割いている、という感じなのかな?
いやしかし、体術こそ魔力が重要な気もするんだけど、実際、聖騎士様はどれくらいの強さなんだろう。ハーティックよりも強いのだろうか?
それにしても、娘さんに褒められても顔色一つ変えないイケメンパパ、かっこよすぎて腹立つレベルだなあ。
「母は聖女として、治癒魔法、結界魔法を使い、数々の奇跡を起こしてきました」
聖女様は治癒魔法と結界魔法を使うのか。
治癒魔法って『癒属性』じゃないのか? 『聖属性』の治癒と『癒属性』の治癒魔法があるとか?
『聖属性』に関しては、俺は習得していないから本当に存在するのか確かではないが、おそらく実在しそうで、そうなると『癒属性』と『光属性』と『聖属性』の違いがよくわからないことになりそうだなあ。
そして、妻が褒められることに関しては、嬉しそうにうんうんと頷き素直に嬉しさを表現している聖騎士様。それもなんか腹立つ。
「姉は母に劣らない治癒魔法で、多くの人々を癒しております」
「優秀なご家族なんですね」
「はい。両親も姉も、自慢の存在です」
これは、有能な家族と比較して、自分が劣っている、という話になるのかな?
「しかし、そんな血を継ぎながら、私だけが落ちこぼれで、ちょっとした切り傷を治すくらいの魔法しか使えないんです」
予想通りの話でした。
誰にも――本人にも言うつもりはないが、魔力を視ることで、エルルネが両親や姉に比べて落ちこぼれだというその理由が、なんとなく理解できていた。
俺には現状、エルルネのその問題の解決方法を持っていないし、持っていたとしてそれを行うのがエルルネのためになるかは微妙なところだ。
なんにしても、エルルネ自身の持つ問題と劣等感を覆そうとした結果が、この美しさの極みとさえ思えてしまう研鑽された魔力ということになっていると思われる。
「オウギ様は、寝たきりに近い状態だったのに、最近は精力的に動いているとお伺いしました」
父上? 俺の話をしたんですか? どちらかというと隠して居ないものとしようとしてませんでした?
そんな目線を父上に送ったのが通じたらしい。
「ジンクとは古い馴染みでな。お前の母親とも幼少期からの知り合いで、その縁でお前の存在を知っていたから、最近どうしているのかと訊かれたという訳だ」
ちょっと前に父上が王都に行っていたが、そこで俺の話をしたということですか。
「そんなオウギ様から、何か参考にできるものがあればと、藁にもすがる思いで来た次第です」
「なるほど。
しかし、僕は運が良かったと言いますか、天から授かったと言いますか……参考にできるようなことは申し訳ないですが無いかと思います」
この世界で生まれ育ったオウギ君は亡くなり、そこに余所からやってきた俺が入り込むことで、今現在のオウギ君となっている。
さすがに参考にもならなければ、得られる教訓すらなさそうだ。
「その、オウギ様」
「はい」
「オウギ様には話せないこともあると思われますが、私としてはオウギ様に興味が湧いております。少し二人でお話しさせていただけませんか?」
「え?」
どういうこと?
「オウギ様はお嫌でしょうか?」
「いや、話すのは全然構わないですけど、美女と二人で話すというのは緊張して、上手く話せるかどうか」
「お父様、よろしいでしょうか?」
「エルルネがそうしたいというなら構わないよ。シヨムもいいか?」
「オウギ、エルルネ嬢に失礼の無いようにな」
これが古式ゆかしいお見合いに於ける、後は若い二人でってやつですか?




