すっかり秋の気配
水を引き込み、風呂、水洗トイレを完備した獣人の村。
俺の異世界転生――もしくは異世界転移――モノ知識によると、生活様式が様変わりした場所に、商人なり冒険者なり旅人なりが訪れ、彼らが話を広めたりトラブルを持ち込んだりしてストーリーが展開していくのがお約束だ。
特にスローライフを送りたいなんて言ってしまったら、スローライフはどんどん遠ざかっていくものなのだ。
しかし、ここ獣人の村は、そう簡単に人が訪ねてこれるような場所ではない。
結果として、特に何が起こることもなく、秋の気配漂うジャガイモの収穫時期を迎えていた。
もちろん何もしなかったわけではなく、獣人の村に俺の拠点とできるような家――バストイレ付き――を建てたり、平屋に余った黒板を張り付け、学習机と椅子を並べた、学校の教室のような一部屋だけの建物を建てたり、ひたすら南に向かってトンネルを掘り続けてみたり、兄上に連れられて、孤児たちに授業――たまたま鉛筆を削る時にケガをした子がいたので、鉛筆を削る道具などで、ケガをしなくて済む方法を考えさせてみた――をしたり、ポテトチップスを大量に作らされたり、ハンバーグに合うソース選手権をガイゼと開催したりと、それなりにあれこれする日々を過ごしてはいた。
とはいえ、ほぼスローライフと言って差し支えない生活を送っていたのは確かだ。
スローライフを過ごしたい異世界人の皆様には、誰も訪れることのできない場所を拠点にするといいかもしれないよと言っておこう。
さて、そんな風に人との繋がり、そこから生じるトラブルなどをなるべく避けて生きてきた俺が、ガイゼにジャガイモを渡して話していると、珍しくゴウジが割って入ってきた。
「オウギ様、旦那様がお呼びでございます」
せっかく、獣人の村での初の収穫を村人総出で済ませ、自分たちの手で育てたジャガイモで盛大なポテトパーティーを開催し、ひとしきりはしゃいで騒いだ後に分けてもらってきたジャガイモをどんな風に調理しようかガイゼと話し合っていたところだというのに。
しかし、会話中にゴウジが割って入ってくるのは初めてかもしれない。
何か緊急を要するトラブルが待ち構えていたりするのか?
「何かあったんですか?」
「ひとまず旦那様にお話を伺ってくださいませ」
うーん。まあ話を聞くだけ聞くか。面倒事なら逃げよう。
一応『風属性』と「浄化」の『特性』を組み合わせて【クラフト】したスキルで、身だしなみを整えながらいきますか。
ゴウジと共に、父上の書斎に入った瞬間、後悔の念が俺の全身を駆け巡った。
話を聞くだけ聞いてからとか甘かった。
そこには見知らぬ三人の人物が居た。
一人はすっぽりとフード付きの外套をまとった、聖職者の男性と思しき人物。
父上もそれなりに地位のある人物だけど、フードをかぶり続けるのは不敬ではないのか? 聖職者なら許されるのか? そもそも不敬でもなんでもないのか? と疑問に思うがまあいいか。
二人目は美しいシルバーの髪を遊雅にかきあげるイケメン男性。
剣士だろうか。物理戦闘職という感じがするが、王などの近衛兵といった雰囲気の、高貴さをかもしだしている。
見た目的には二十歳そこそこと言われても通じそうだし、父上と同年齢と言われてもそういう見た目若い人もいるかと思えるようなタイプだ。
三人目は女の子。俺――オウギ君と変わらない年齢に見える。
少しくすんだ銀色のロングヘアー、幼いながらもハッキリとした目鼻立ちで、将来は美女と呼ばれること間違いなしの整った顔。
白いカジュアルめなドレス姿や居住まいから、いいとこのお嬢様というような雰囲気が、ありありと見てとれる。
おそらく、イケメンシルバーヘアの娘さん、だろう。
顔立ち――特に目元から似た雰囲気を感じる。
それにしても、この三人が何をしにここに来たのか、何故俺がこの場に呼ばれたのか全く分からない。
ここまできてしまったら、面倒なことに繋がらないでくれと願うよりないだろう。
とはいえ全て相手発信の完全受け身というのも性に合わない。
わずかだとしても得られる情報は拾うべきだろう。
肝心な情報の拾い方だが、兄上に町に連れ出されたり、孤児たちとの交流させられたことによって学んだ。
それが魔力を視るということだ。
相手の魔力の質やタイプを視ることによって、得られる情報というのが結構ある。
それに傾倒して完全に信じられるほど、人間は一元的ではないが、ある程度参考にはできるのだ。
例えば火属性ならば、熱血、がむしゃら。水属性ならば、柔和、温厚。土属性ならば、生真面目、頑固。風属性ならば、軽妙、飄々。
こんな感じで、性格と本人の持つ魔力の属性がリンクする傾向にある。
魔力を視ることでわかる、もう一つのことが戦闘経験だ。
戦闘を多く経験している人間は、魔力が精錬される、というか、鍛えられ、磨き上げられているのが、くっきりはっきりと視て取れてしまう。
例えば、このいつも書斎で机に向かってばかりのイメージしかない父上だが、側に控えるゴリゴリ戦闘民族のハーティックと比べても、魔力の鍛え方に遜色がない。いやむしろ、研ぎ澄まされていて、父上の方が鍛え抜かれているようにすら視える。
それで決めつけてはならないと、何度でも自戒しておく必要はあるが、それでも為人を知るには十分すぎる情報だろう。
客人三人の魔力を視る。
「うわ……キレイやなー」
関西の人間ではないので、似非がすぎるが、思わず関西弁が口から漏れ出た。
鍛えに鍛えられた、研ぎ澄まされた美しいとしか形容のしようがない魔力。
父上もかなりの手練と思われるが、そんな父上の比ではない研鑽を積んでいるはずだ。
魔力といえば、精霊たちはその存在がおそらく魔力そのものに近いものだと思われ、人間の持つ魔力とは異なる美しさがあるが、目の前に視えるソレは、鍛えられ磨かれ作り上げられた故の美しさだ。
そんな魔力を纏う、肉体の年齢的にはほとんど俺と変わらないであろう少女から、俺はすっかり目が離せなくなっていた。
研鑽され尽くした魔力の美しさが話題に!
一朝一夕には鍛えられない魔力が、とてつもなく鍛えられていた。
なにものにも例えられない極上の魔力がそこにはあった。
魔力といえば、魔法を使うための燃料と思われがちだが、それだけではない。
そこに魔力の深淵があるのだ。
そんな魔力を、究極にまで仕上げた存在。
その人物の名前は――――コメント欄で!
鬱陶しいショート動画みたいなことをしてみたくなってしまい、ついやってしまいました。
ちなみにコメント欄には何も無いはずですので、その人物の名前がわかるのは次回――もしくは、ep.1。




