同調実験
「オウギ様は何をしてるんですか?」
ジャガイモの種芋を植え、お昼ご飯を済ませた後、水路をいじっていると獣人に声をかけられた。
「このスライムを移動させようと思ってます」
「たしかにこっちは誰も使わなくなってますからねえ」
俺が水洗式シャワートイレを設置したことで、使われなくなった旧トイレの、汚物処理係に転勤してもらわなければならない。
幸い新たな勤務先はすぐ近くではあるのだが、正直中に入ってスライムを捕獲、移動というのはできればやりたくない。
いくつかやってダメだった時には、入ることも考えなければならないのだろうけど。
ともかく、これが成功すればそれで良い。
今からやろうとしているのは、この中に水をじゃばじゃば注ぎ込んで、俺の作ったスライム処理槽へと流すというものだ。
もともとトイレが上手く機能するのであればスライムを移動させるつもりだったので、処理槽までの通路は掘ってある。
あとは数十センチ掘って、壁に穴を開ければ繋がる。
穴を開けて繋いで、俺が通るその穴までの通路を埋めて塞ぎ、水を流す。
それでスライムの移動が完了する――予定だ。
水を流す際、俺は処理槽の見える場所にいて、リアサに水を流す作業をしてもらおうと思っている。
離れた場所にいるリアサに合図を送る手段として、昨日習得した「同調」を利用するつもりだ。
つまり、「同調」による通信が上手くいくかの実験を、スライムを移動させるついでにやってしまおうというわけだ。
音声を飛ばして合図を送ってみようということで、ヘッドセット型のデバイスを【クラフト】してみた。
俺のマイク部分と、リアサの耳に当てる部分に「同調」を付与して対になる紙を、リアサのマイク部分と俺の耳に当てる部分にも同じように対になる紙をセットした。
「じゃあ合図を送ったら、ここに魔力を込めて水を流して」
水路から水を引き、旧トイレに水を流し込めるようにしてあり、今は堰き止めてあるが、魔力を込めることで堰が開くようになっている。
「合図がわからないけど、わかった」
リアサにはヘッドセットをつけてもらっているが、まだここから音が聞こえてくることは説明していない。
装着しているので、何かしら聞こえてくるということはわかっていそうだが、何がどう聞こえてくるかはわかっていないだろう。
万全を期すのであれば、ヘッドセットの機能をちゃんと説明をしておくべきだとは思うが、突然声が聞こえてきて、しかも会話できてしまう状態になるほうが楽しそうじゃない?
ドッキリを仕掛ける側の気持ちってのを、初めて味わっている気がする。
「じゃあ準備してくる」
「ん。頑張って」
リアサに待機してもらって、少し離れた横穴から入って旧トイレと処理槽を繋ぐ穴に出る。
処理槽とはすでに繋がっているので、匂いがキツい。
一応背後から処理槽に向かって風を送り続けているが、完全に防げるものでもないし。
いつまでもここに居られないので、ちゃちゃっと作業を済ませてしまおう。
ということで、ここと現在スライムがいるスペースを隔てている壁をスキルで取っ払う。
穴が繋がったところで、脇道に逸れないように、ここまで俺が来た道を塞ぐ。
これで、迷うことなくスライムさんを新職場に送り出せるようになった。
次に、スライムが無事入ってこれるかを高い所から見守れるよう、処理槽に穴を開けて覗き見る。
く、くさい。
とりあえず風をガンガン送り込んで少しでも匂いを抑える。
ガラスが欲しいですなあ……。
愚痴ってもなんにもならないし、準備も完了したことだし、リアサに連絡してみますか。
「こちらオウギ、こちらオウギ。リアサさーん、聞こえますかー?」
『オウギ? ホンモノ?』
おお。どうやらちゃんと届いているようだ。
「本物ですよー」
『近くにはいない?』
「うん。離れた声の届かない場所にいる」
『オウギ、スゴイ』
「ありがとう」
『これで、いつでもどこでも、オウギと話せる』
「まあ、可能ではあるかな」
呼び出し機能がないので、ヘッドセットを着けていないと、呼ばれているのかわからないって問題はあるんだけどね。
「会話ができることが確認できたところでリアサ、水を流してもらっていい?」
『ん。任せて』
俺の鼻が壊れる前に頼む。
しばらく待っていると、水が流れてきた。
スライムさん、はよ流されてこい!
水量が増えてくる。
来い来い来い来い。
ん? あれ?
いつの間にか、スライムが処理槽の中にいた。
いつ流されてきたのかわからないので、感慨も感動も無いが、上手くいったのでヨシッ!
「リアサ、水を止めてくれー」
『ん』
しばらくすると水の流入が止まったので、今回開けた穴を全て塞いで退出。
作業完了っと。
「リアサありがとう」
「ん」
こうして直に話すのと、今回の実験に使った道具を通して話すのとでは、当然ではあるがやはり微妙に声の感じが違う気がする。
「オウギ」
「うん?」
「毎日、これで話できる、ね」
「なら、こう、かな?」
「?」
魔力を流して淡い光が点く、ランプのようなものを二つ【クラフト】し、さらに「同調」を付与する。
「これで、会話できるって時に光を点ければいいかな」
「なるほど」
「忙しかったり、寝てたりしたら、応えられないかもしれないけど」
「ん。わかった。じゃあ、今日の夜、寝る前に話そ」
しかしまさか、転生してきたこんなファンタジー世界で、「ねおちもちもち」のお誘いがくるなんてねえ。




