同調
インベントリの中に発見したのは、新たな『特性』、「同調」だった。
これはまず間違いなく、双子の精霊から授かったものだろう。
しかし、この「同調」ってのはどんな『特性』なんだろうか?
できそうなことを試してみるために、二枚の紙に「同調」を付与してみた。
そして、二枚の紙の片方を雑に手で裂いてみる。
すると、もう一枚の紙も、触れてもいないのに同じように裂けたのだ。
次に片方の紙に鉛筆で文字を書いてみる。
さすがに文字が浮かび上がってくるということはないか。
しかし、鉛筆でなぞったような跡は残っていた。
これを上手く利用できれば、チャットツールのようなものを生み出すことができるかもしれない。
お子様に大人気のパンのヒーローでお馴染みのおえかきボードのような、磁石のペンで書いたり消したりできるようなものが作れれば、離れた場所に文字を送ることも可能になりそうだ。
「同調」を利用した、文字による遠距離コミュケーションツールの開発は一旦置いといて。
紙に「同調」を付与してやってみたいことがもう一つある。
糸の無い糸電話みたいなものができるんじゃないだろうか?
声を紙に当てて振動させ、その振動を「同調」させることで音として反映させる。
それができないかを試してみよう。
とりあえず、最初に思いついたのが糸電話なので、コップの底が「同調」を付与した紙になっているものを二組【クラフト】してみた。
片方を口に、もう片方を耳に当てて声を出してみる。
「あー。テステス。本日は晴天なり」
うん。これ、一人でやることじゃないな。
ちゃんと機能している気もするけど、自分の声が単に聞こえているだけな気もする。
リアサに協力してもらうのが早いなこれは。うん。
他の使いみちは……思い付かないが、この『特性』は上手く使いこなせれば強力な武器になりそうだ。
さて、新たな『特性』の実験もしたいが、まずはジャガイモを植えるところからだな。
獣人の村へと到着するなり、村人たちに取り囲まれる。
「オウギ様、早くやりましょう!」「はよはよ!」「オウギ様、おはようございます」「オウギ、おはよう」「なんでもするのにゃー!」「何からすればいいんだ?」
獣人たちは、気合いもやる気も十分の様子。
「とりあえず、畑に行きましょうか」
ぞろぞろと、皆を引き連れ歩き出す。
ジャガイモの栽培をしてもらうつもりであれこれ手を回したところ、手に入ったのはゴウ爺が持ってきた一冊の本。
様々な農作物の栽培方法が載っていたのだが、あくまで初級編といった感じのものだ。
まあ、何も知らない門外漢なので、初級編でもあるだけ全然ましか。
本来であれば、農業に詳しい人の話を聞いてから手をつけるべきなんだろう。
我が家のある町には、農家さんがたくさんいるので、その中の誰かから話を聞ければ良かったのだが、いかんせん人との交流を絶って生きてきた身であり、話を聞くような相手も人脈も無かった。
とにかく今は、この本を頼りに一旦なんとなくで始めてみるしかないか。
自分一人でやるだけならば、【クラフト】と魔力で解決させればいいが、皆にやってもらうとなるとそれなりにきちんとやる必要がある。
俺が急にいなくなったとしても続けてほしいし。
「ちなみにこの中に農業経験者っていますか?」
一応獣人たちに訊ねるが、反応は無い。
「偉そうにジャガイモの栽培をさせようとしてますが、実は俺もそんなに詳しくなくて」
これは正直に言っておこう。
「多少は調べてきたので、その情報をもとにやってみますね」
本に書いてあったのは、種芋は小さくなりすぎない程度に切り、切り口を地面に向ける。
三十センチ程の間隔で、十センチほど土を被せ植える。
という程度のものだ。
植えるだけならばこれでもかなり助かるのは事実。
まず最初に俺が行ったのは、畑の短辺両側に杭を打ち、長辺方向に三十センチ毎にしるしを付けた紐を張ることだった。
このしるしに合わせて種芋を植えていく。
できることなら地面から十センチのところに張りたかったが、たわんでしまうのでそれはやめておいた。
種芋のセッティングは、みんなにやってもらおうかな。
「畑はまず地面を耕して、こんな感じにふかふかな状態にするところからなんですが、今回は事前にやっておきました」
「ほほう」「慣れてきたら俺らがそれをやるんだな」「ふかふかだー」
「土が固くなっちゃうと、上手く育たなくなってしまうから、ここの中ではあんまり飛んだり跳ねたり踏み固めたりしないようにねー」
「はーい」「なるほど」「となるとどこを歩けばいいんだ?」
「この紐を張ったところに種芋、これを植えていきます」
種芋は半分にカットして、いくつかの袋に入れて用意しておいた。
「まだ紐を張り終わってはないですが、紐の張ってないところは歩いて大丈夫です」
「ほほう」「そういう感じか」「「「はーい」」」
子どもたちが元気よく返事してくれる。
「残りの紐を張っている間に、紐にある目印の真下に、切ってある面を下にして、こんな感じで種芋を置いていってください」
一つ二つととりあえず手本として置いていく。
「こんな感じでお願いします」
「わかった!」「やってみる」「やってみるにゃ」「他に作業はあるか?」
「では、杭どうしを紐で結んで貰っていいですか?
杭は俺が打ち込んでおきますんで」
紐を引っ張った時に、抜けたり折れたりすると余計な手間になってしまうので、これは俺がスキルを使って打ち込むことにした。
この紐はあくまで目印だし、これ効率重視で俺がやってしまっても問題無いだろう。
杭を打ち込んだら、紐を張るのは任せて、次の工程に移る。
実は畑のすぐ近くに、農機具用の倉庫を予め建ててあり、その中にクワやスコップ、バケツ、ジョウロ、など【クラフト】して収納しておいてあった。
そこからクワを手に取り等間隔に置かれた種芋の元へ。
「種芋に土をかぶせていきます」
種芋を植える目印に張った紐の間に立ち、クワを振り下ろす。
そうしてすくった土を左右の種芋の上にかけていく。
「道具は使いやすいやつでいいんですけど、こんな感じで両側から土をかぶせていきます」
「なるほど」「それはそうやって使うのか」「他にも道具があるのか」
「倉庫の中にありますので、気になるやつを使ってみてください」
獣人たちが、思い思いの道具を手に、種芋に土をかけていく。
「崩れないように、でも固めすぎない感じでお願いします」
まだ太陽がてっぺんまで昇りきらないうちに、水やりまで終えることができた。
「種植えはこんなところですかね。お疲れ様でした」
「おおー」「働いたにゃ!」「いっぱい手伝ったよ」「土で遊ぶのはもう終わりだよ」「ええー。もっと遊びたいー」
「じゃあお昼ごはんにしますか。ジャガイモを揚げたやつ、今日もありますからねー」
「やった!」「食べたい食べたい」「あれはうまうまにゃ!」「手を洗ってからだよ」「「「はーい」」」
さすがに今日は目の前で揚げなくてもいいか。【クラフト】で調理してしまおう。
「オウギ、お疲れさま」
「ありがとうリアサ。
あ、そうだ」
「ん?」
「後で手伝い頼んでいいかな?」




