リアサと探索
「オウギ、行くよ」
リアサに手を引かれ、山道を進む。
大きな谷によって、二つに分けられたように見えるこのゲム山。
獣人の村や、双子の精霊の社が無い側の探索を、リアサと共にしている。
その辺に生えていた「糖菜」と名付けた雑草の改良を終え、砂糖を精製することに成功し、植物の栽培に一区切りついた。
そこでさすがに待たせすぎていた、リアサとの約束を果たすことにしたわけだ。
獣人の村の周辺違って、こっち側には魔物がうろうろとしている。
スライムを見つける度に、リアサが嬉々として倒している。
ちなみに、獣人の村の周辺で魔物を見ないなあと思ってはいたのだが、村人が狩っているとか、たまたま見なかったとかではなく、双子の精霊が理由らしい。
双子の精霊の加護の力が、周辺に及んでいるとのこと。
つまり、村から精霊の社までの道を整備した時に立てた柵は、何の意味もなかったということになる。
いやまあ、あれですよ。雨水を流す溝に足を取られないための柵なんで、無意味ではないですよ。ええはい。
自問自答言い訳はどうでもいいとして。
今のところスライムしか見ていないが、クマやイノシシがいるのは間違いないし、他にも魔物が潜んでいるかもしれない。
最大限警戒しつつ探索するべきだとは思っているのだが、リアサはサクサクと進もうとする。
「いくらリアサが強くなっているからって、不意打ちで襲われたらどうにもならないかもしれないんだから、もうちょっと慎重に警戒していくよ」
「えー」
不満げなリアサだが、危険にさらすわけにはいかない。
まあ、俺がビビりすぎているだけかもしれないけど。
帰り道がわかるよう、目印を付けつつ慎重に山の中を歩く。
途中で見つけた果実や、ベリー系の実をつける植物を採集したり、木を伐ったり、土や石などを回収したりしつつ、基本的にはリアサの勘に任せて進む。
そんな風に歩き続けていたが、太陽が一番高くなりそうや頃合いを見て休憩を提案する。
「ん。わかった」
木の少ない、多少開けた場所を選んで休憩場所にする。
一応周囲に二枚組の木の板をいくつもぶら下げたロープを張って、魔物が近付いてきたらわかるようにしておく。
不意打ちさえもらわなければなんとかなるだろうし。
万全とは言い難いが、それなりに安心できる空間を得たところで、テーブルとイスをインベントリから取り出して置く。
テーブルの上にまず置くのは、炭酸ジュースだ。
水分補給大事。
そしてランチとして用意してきたのが、クマとイノシシの肉をミンチ状にして混ぜ合わせ、つなぎに細かくしたパンを入れて焼いた、ハンバーグっぽいものをさらにパンで挟んだ、ハンバーガーっぽい食べ物だ。
当然、料理といっても全ての工程は【クラフト】で行っている。
これに合うソースも作りたかったのだが、そもそもソースというのをどうやって作ればいいのか良くわからないので諦めて、塩だけで味を調整した野性味溢れるハンバーガーになってしまった。
今度ガイゼにこのハンバーグっぽいものを食べてもらって、色々アドバイスをもらおう。
「おお? 何? これ」
「口に合うかわからないけど、食べてみて欲しい」
そうリアサに勧めてから、自分の分にかぶりつく。
固めのパンに肉汁あふれるふっくら食感のハンバーグ。
けっこういい感じかこれ。
俺のかぶりつく姿を真似て、リアサも大きく開いた口にハンバーガーを運ぶ。
「ん」
もぐもぐと咀嚼し、飲み込むリアサ。
「どう?」
俺への返事は後回しで、リアサは二口目、三口目ともくもくと食べすすめていく。
あっという間に平らげる。
「うま!」
どうやらリアサの口に合ったようだ。
「オウギ」
「うん?」
「これだけしかない?」
おかわり希望かな?
インベントリの中でもう一つハンバーガーを【クラフト】して、リアサに前に置かれた皿にのせる。
「オウギ。ありがと。愛してる」
よっぽど口に合って美味しかったのか、リアサは目をキラキラと輝かせながらハンバーガーを手に取り口に運ぶ。
リアサと二人、自然の中のランチタイム。
けして安全とはいえないこの場だが、のんびりと弛緩した空気が流れる。
昼寝の一つでもしてやりたくなるなあ。
なんて思った瞬間――カチャカチャと木の板がぶつかり合う音が聞こえてきた。
風、は吹いてないか。
のんびりしすぎて反応が遅れた。
風が吹いていないのであれば、この音は危険を報せるものだとすぐに気付くことができなかった。
致命的なミス。
総毛立つというのはこういう感覚のことを指すのだろう。
ヤバい、何が現れた? どこだ? どうするべきだ?――と焦っていたのは俺。
リアサは既に動き出していた。
リアサが動いた先を見ると、臨戦態勢の巨大なクマ。
「はあっ!」
猛スピードでクマに向かって駆けるリアサを、俺はただ眺めることしかできなかった。




