父上に押し付け
「オウギ様、丁度頼まれていた例のものが、入手できたところです」
ガイゼに頼んであったのは種芋だ。
この世界、どこが原産で、どうやって広まったのかわからないが、じゃがいもやとうもろこしは一般に広く普及、流通している。
しかし、コショウや砂糖などは、よほどの金持ちや権力者でなければ簡単には手に入れられなくなっている。
この辺は、この世界の創造神――存在すると俺は思っている――のさじ加減一つで決まっているんじゃないかなあ。
まあ、この国のどこかに元となる野生の種があり、人の手によって栽培されてきた歴史がある可能性も否定はできないが。
「ありがとうございます!」
ガイゼから種芋を受け取る。
数はそんなに多くないが、最初の栽培に失敗さえしなければ、数日で増やせるので問題ないだろう。
受け取った種芋を一旦置き、岩塩や砂糖の入った袋をガイゼに渡す。
「ガイゼにはこれを見てもらいたくて」
「はい」
袋の中を見て、ガイゼの目が大きく開く。
「これは……、塩ですか。
こっちは、甜菜? いや、違うのか?」
岩塩と糖菜を手に持ちまじまじと観察するガイゼ。
「こっちの中には、これは?」
「少し手に取って舐めてみてください」
「砂糖、ですか」
「はい。差し上げますので、使ってみてください」
「わかり、ました」
一般に砂糖は出回っていないので、これをどう活かすか脳味噌フル回転で考えているようだ。
「足りないようならもう少し出せますが」
「い、いえ。これ以上は頂けません」
「この砂糖と砂糖になる植物の種を、後で父上にも生活費代わりに渡すので、価値を高めに見積もって報告してもらえると助かります」
「は、はい。いえ、旦那様に嘘をつくわけにはいきません」
ガイゼ真面目だぜー。
ふざけたりからかったりしない方がいいタイプの人だ。
「じゃあ、適正な価値判断をお願いしますね」
「はい」
「失礼します」
少し置いて、父上の書斎へゴウジに連れられて入る。
挨拶とか面倒なので適当に済ませて、ちゃちゃっと本題に入る。
「今回持ってきたのはこちらです」
糖菜とその種、そして砂糖が入った袋を差し出す。
「ふむ。これは?」
「糖菜という、僕が発見した植物とその種です。ほぼ甜菜だと思っていただいて構いません」
「ではこの白い粉は……」
「はい。砂糖です」
「なるほど、たしかに甘いな」
「旦那様、いくらオウギ様からのお品とはいえ、無警戒に口に入れるのはいかがかと存じます」
父上、ゴウジにたしなめられる。
「わざわざ目の前で殺らずとも、オウギにはいくらでも手段があろう。警戒するだけ無駄だ」
「殺害するつもりは無くとも、実は毒だったとオウギ様が気付いておられないだけの可能性もございます」
無いとは言わないけど、インベントリ内で食用可って表示されてるから大丈夫ですー!
「わかったわかった。今後気をつける。
で、オウギ、砂糖の作り方を教えてくれるのか?」
「いえ。それはできません」
俺もわからないからね。
「そこも秘密というわけか」
「砂糖にしても、糖菜にしても、色々と特殊なやり方を用いています。なので、父上には広く普及できそうな方式を見つけてもらえれば、と」
「ううむ。いくつかの農家にやらせてみるか?
オウギ、もっと種は用意できないのか?」
「数日待っていただければ」
「わかった」
「今回は手間もかなり押し付けていますし、砂糖を多めにガイゼに渡しておきましたので、甘味で日頃の疲れを癒してください。
あ、栽培ですが、兄上にも任せてみては? 兄上が育てている子たちに栽培させるというのも、将来なにかの役に立つかもしれませんし」
「ふむ。まあやらせてみるか。
ああそうだ。マウトに渡した紙と鉛筆とやらがあったよな?」
「はい。先月渡しましたね」
「あれをこちらにも融通して欲しい」
「同じくらいの量で構いませんか?」
「オウギがこちらに融通できる最大量で頼む」
「まあ、できる範囲でなんとかします」
「助かる」
「紙ってそんなに手に入りにくいものなんですか?」
「ああ、紙の製作、流通、販売はスレイ公爵家が独占していてな」
こうしゃくけ? 正直貴族階級の順位付けって全然覚えられないんだよなあ。
あと、「こうしゃく」が二つあるのも良くない。文字で見ればわかるが音で聞いたら違いがわからないじゃないか。
概念なり言葉なりを日本に持ち込む時に、発音も考えてくれれば良かったのに。
と、不満に思ったところでなにも意味はないんだが。
「下手に手を出そうものなら、目を付けられて面倒なことになりそうなんですね」
「そうだ。少なくとも今はまだ、紙で商売しようなどと考えるなよ」
「わかりました」
父上が紙を欲しているというのはおそらく本当だろうが、紙を持ってきた俺に、変な色気は出すなよと釘を刺すのが本当の目的だったか。
「やるなら、もっと強大な後ろ盾を得てからか、この国全域に大量の紙をさばく準備が整ってからにします」
「……はぁ」
「冗談です父上」
家のこと想ってか、俺のことを心配してかはわからないが、忠告はちゃんと聞いて、紙で儲けようとかは考えないでおきましょう。
「父上か兄上に渡すだけにしておきますね」
「そうしてくれ」
「からかうのもハーティックだけにしておきます」
「……そっちも手加減を頼む」
「いやいや、ハーティックこそ子どもの僕に手加減してもらわないと」
熱血鍛練のせいで、砂糖の完成がおよそ五日くらい遅れているんだから、それくらいは許してもらわないと。
こっちがカマ掛けてハーティックからアレコレ聞き出すから、ハーティックも本気鍛錬モードを強めているのかもしれないけど。
……これが負のスパイラルってやつか?
「父上はハーティックの指導を受けてへとへとになる僕を見たかったんでしょうし、それは達成できてはいますけど、僕だって反撃させてもらいますからね」
「……はあ」
「では今日は失礼します。
種や紙はゴウ爺に渡しておきます」
父上の、失敗したかもしれないなと嘆きたそうな表情を見ながら、俺は部屋を後にした。




