雑草改良
「おかえり、リアサ」
リアサのお母が声をかける。
「ただいま」
「じゃ、アタシは先に帰るとするよ。
ありがとうね、オウギ」
「どういたしまして」
テーブルの上から必要な衣服や靴をガバっと抱えて帰っていく。
「オウギ、あれは何?」
「村の皆に服とか下着とか靴とかを配ってた」
「あたしのは?」
「もちろんあるよ」
インベントリから、袋に入れてあるリアサの衣類一式を取り出して渡す。
「オウギ、ありがと」
リアサは受け取った袋をぎゅっと抱きしめる。
あらかじめリアサには、村の皆の分と一緒に用意して渡すと伝えてあったが、実物を手にして嬉しそうにはにかんでいるように見える。
「リアサのは特別製になってるからね」
リアサの分にだけ、『特性』がアレコレ付与してある。
「ん。ありがとう。
着替えてくる」
てててててとリアサが家に駆けていき、数分して戻ってきた。
「オウギ、どう?」
ワンピース姿のリアサがクルリと一回転。
「うん。似合ってるよ。かわいい」
「ん!」
「俺にセンスがあれば、もっと色んな服を作れたんだろうけどなあ」
「未来に期待」
「頑張りまーす」
「オウギ」
「うん?」
「これで、土いじりは終わり?」
「いや、今が楽しいところ」
「むう」
拗ねるリアサ。
たしかに最近若干放ったらかしにしているのは否めない。
有用な性質を持っている雑草が、良い感じになってきていまして。
「それが一段落ついたら、向こう側の探索を一緒にしよう」
「絶対。約束」
リアサとの約束ができたので、雑草の品種改良をなるべく早く終わらせなければ。
さて、品種改良中の雑草だが、俺が重要視した性質というのが、根に糖分を蓄えるというものだ。
この雑草、インベントリに入れることで食用可能ということはわかっているが、この植物にどんな名前が付けられているはわからなかった。
その辺に生えている雑草という括りでしか認識されていない植物なのだろう。
こいつは花が咲くのが遅い。
亜麻が午前中に花をつけるのに対し、こいつは午後にならないと花をつけてくれないのだ。
亜麻は一日二回の種まきと回収も可能だが、こいつは頑張っても一日一回しかできない。
こいつら――名前が無いと不便なので甜菜としたいが、別の種かもしれないので「糖菜」とでもしておこう――の中から、根の糖分が高いやつと、根が肥大化するやつを選んで交配していく。
目標は甘くて大きい根を持つ糖菜だ。
植物の品種改良は詳しくはないが、おそらく一年かけて次の世代へと進めていくものだろう。
それを俺の【クラフト】は、一日毎に改良することを可能にした。
やり方が正しいかもわからないし、どこかで育たないものができてしまう可能性もあるが、やり直しにかかる時間も少なくてすむ。
糖度計のようなものがないので、俺の舌でしか甘さを計れないのが難点ではあるが、とにかく甘みが強いと思った株どうしを掛け合わせたり、太く立派に育つ株と掛け合わせたり、時には山の中に生えている同種と掛け合わせてみたりと、あれこれ試しつつ交配させていく。
競走馬生産シミュレーションゲームみたいな感じでかなり楽しい。
楽しすぎるせいで、リアサから「土いじりを早よ終わらせい」的なことを言われてしまうのだ。
とはいえ、花の咲く瞬間にその場にいないといけないし、栽培中はあまり目を離せない。
結局、トータル三十日くらいかけて、甘くてずっしりな根を作る糖菜を生み出すことに成功した。
しかしやってみると品種改良って、人間の都合で優秀なやつのみを選んでいくという、エゴの塊な感じがあるなあ。
まあ人間なんてのは自己都合を押し付けて生きていく、エゴイスティックな生物なのだろう。
いや、人間全てに当てはめては申し訳ないか。
少なくとも俺は、自己都合を優先してしまうことだろう。
その覚悟を忘れずに持って生きてくしかないか。――植物の品種改良にしては考えすぎだな。
俺の覚悟はさて置き。
この糖菜だが、インベントリの中に入れ、【クラフト】大先生の能力によって砂糖を精製することができた。
ということは、サトウキビや甜菜といったものから、砂糖が【クラフト】できるという設定ではなく、砂糖の元になる成分――知識無くて具体的な名称がわからない。聞いたら、あーそれね、ってなるものだといいなあ――をある程度含んでいればいいというように、【クラフト】は創造した何者かによって設計されているようだ。
品種改良と【クラフト】によって――品種改良も【クラフト】による成果だが――砂糖を大量に精製できるようになったことだし、リアサとの約束を果たしにいきたいところだが、その前に実家でやっておかなければならないことがある。
なんだかんだで品種改良に一月ほどかけてしまったので、そろそろ家賃に相当するものを納めておかなければならないのだ。
今回はこの、育った糖菜とそこから精製した砂糖、そして糖菜の種にしようと思っている。
俺のやり方が特殊すぎるので、この種から一般的な栽培方法で育つのかはわからないが、そこは父上と父上が選ぶ農家さんに頑張ってもらうしかないな。
糖菜の品種改良が一段落した翌日、ゴウジに父上との面会のセッティングを頼み、ついでに我が家のシェフ――ガイゼと会う時間も作ってもらうようにお願いする。
ガイゼと会うのはすぐにでも可能ということで、まずはゴウジに連れられてガイゼのもとへと向かう。
「オウギ様、おはようございます」
「おはようございます」
ガイゼに会いにきたのは、岩塩と糖菜、砂糖を見てもらおうと思っているからで、今回はあらかじめインベントリから取り出して袋に入れておいてある。
まずはガイゼに渡してからと動こうとしたところ、ガイゼに先制されてしまった。
「オウギ様、丁度頼まれていた例のものが、入手できたところです」




