糸と布と服と靴と奥様方と
新たに習得した『特性』、それが「促進」だ。
これにより適切に育てれば、種をまいてから種を採取するまで、一日とかからずに済むようになった。
わずかに採取できていた亜麻で試したところ、朝方に植えて、昼前には花が咲いていた。
花が咲いている時間は本当に短い。
ぼーっとしていたらあっという間に花がなくなっている。
なので、花が咲いたら即インベントリへと収納して、花と花とで人工受粉を行う。
見逃してしまった花でもたまに種ができることがあるので、一つの花の中でも受粉ができるタイプの植物なのだろう。
亜麻の性質でいうと、試しに同じ土に魔力を込め直してから取れた種を植えたところ、うまく育たなかった。
芽は出るしそこそこ伸びるのだが、元気のない貧弱なものしかならなかったのだ。
おそらく連作障害ってやつかな?
言葉だけ知っていて、詳しいメカニズムはわからないが、必要な要素、養分が足りなくなっているのだろう。
普通は畑をいくつか用意して、順番に違う植物を植えていくのだろうが、俺には【クラフト】とインベントリがあるので土を入れ替えてしまおう。
入れ替えた土は、山の中のわかるところに混ぜて埋め戻す。
まだまだ魔力がたっぷりこもっているので、翌日には雑草だらけになってしまうが、雑草ごとインベントリに収納し、燃やして灰にして混ぜ直して埋めなおすを繰り返す。
これだとアルカリ性――だったはず?――に寄りすぎてダメになってしまうかもしれないが、あれこれ実験して確かめるより無い。
実験したいことも増えていくし、試験農場も広げていく。
そんな感じで亜麻を増やして、糸や布を大量に【クラフト】していく傍ら、気になる性質を持った雑草の品種改良にも取り組んでいた。
その気になる性質を持った雑草は一旦さて置くとして。
大量に集めた糸と布を使って、衣服を【クラフト】していく。
村で暮らす獣人たち、老若男女すべてに行き渡らせられるよう、大小さまざまなサイズを用意する。
Tシャツ、長袖、インナー、アウター、パーカー、ズボン、スカート、ワンピース、つなぎ、靴下などなど、思いつくままに【クラフト】していく。
下着も作らなきゃだな。
男女ともにボクサーパンツタイプのやつでいいか。
「伸縮」の『特性』のおかげで、ゴムを作れるのが便利でありがたい。
尻尾を通す穴は、それぞれで開けてもらおう。
女性のための下着、ブラジャーに関して全く詳しくないが、【クラフト】さんが自動で作ってくれるので、様々なサイズで【クラフト】しておく。
あとは靴か。
こちらも【クラフト】大先生任せだ。
この様々な衣類だが、兄上が育成している孤児たちにも渡せるよう、さらに多く【クラフト】しておくか。
亜麻の短期間大量生産最強説。
【クラフト】した衣類をインベントリに詰め込んで、獣人の村へと赴く。
村の中心地にどーんとテーブルを置き、その上に【クラフト】した衣類と、糸、布を並べていく。
「みなさーん。今日は各種衣類を用意してきましたー!」
俺の呼びかけに村人たちが集まってくる。
「必要ならまだご用意できますんで、喧嘩しないでお好きなのを選んでくださーい」
「いくつでもいいのかい?」
「全員に必要な分が行き渡る範囲でお願いしますー」
彼ら獣人たちの衛生観念はわからないが、下着や肌着は毎日替えたいという人もいるだろうし、多めに用意してある。
「この糸と布は何かにゃ?」
「自分で縫いたいとか、今まで使ってたものを修復、補強したいなどの用途があればどうぞー」
「オウギ様、前掛けのようなものはありませんか?」
エプロンかな? 腰から下でいいのか、首から下げるタイプのがいいのかわからないな。
両方【クラフト】しちまうか。
「こういう感じのでいいですか?」
「おお。ありがとうねえ」
「これは何?」
「それは女性用の下着で、胸を支えるためのものです」
「そんなものがあるのかい」「どれどれ?」「気ににゃるにゃ」
「サイズが合わないと逆に辛くなると思うので、着けてみて感触を確かめてみてください」
俺にはブラジャーの着け感なんてさっぱりわからないけど。
「いくつかサイズ違いを選んでもらって、何日間か試してもらうのが良さげですかね」
「今試しに着けてきていいかい?」
「はい。合うやつがあれば、そのまま使っていいですよー」
奥様方はブラジャーを手に連れ立って誰かの家に入っていく。
村人が少ないからとか、獣人だからとかで、何も気にせずこの場で脱ぐとかしなくて良かった。
あ、遅れてやってきたリアサのお母も声をかけられ連れて行かれた。
しばらくして、わあきゃあ騒ぎながら戻ってきた奥様方。
「これはいいわね!」「いい感じにゃ」「もっと若い頃に欲しかったわ」
一旦気に入ってもらえたようだ。
「コレはなんて名前なの?」
「ブラジャー、ですかね」
言葉の由来とかはわからないので細かい話は聞かないでくれ。
「しばらく使ってみて、改善点とかあれば教えてください」
「わかったわ」
奥様方が頷く。
「ついでにもう一つ、試してもらって、感想や改善点を出してもらいたいものがあります」
「あら。人体実験ね?」
概ねその通りなのでスルー。
「血液を吸収するためのものです」
陸上競技のトラックのような楕円を引き伸ばした形の物体。
さらに下着を一枚取り出し、セットして見せる。
「こんな風に股の部分に取り付けて使います」
「あー。そういうことね」「その大きさで大丈夫なの?」「意味あるのかにゃ?」
「俺には試せるものでもないので、よくわからないというのが正直なところです」
「だから人体実験してほしいと」
「そうですね」
「使ってみて、不満を言えばいいのね」
「はい。改善点が見つかると助かります」
「オウギ様はどうしてこれを?」
「ブラジャーもそうですけど、女性向けの物の方が、いつか売りに出すときに利益が出そうかなと」
「なるほど」
「試験で改善して、良い状態にして売れればいいなと思いまして」
「たしかに、これは売れそうね」「いけるにゃ」
「さらに良くしたいので、ご協力をお願いします」
頭を下げる。
「任せろにゃ」「良い物を使わせてもらってるんだし、それくらいは構わないわ」
「出遅れたけど、これってアタシも貰っていいのかい?」
リアサのお母がテーブルの上に並べた衣服を指差す。
「はい。いくつ持っていくかは、ケンカしないよう他の奥様方と話して決めてもらいたいですが、ここに置いてある全てでも俺はかまわないです」
「私達はもう選び終わったわ」「ユーリアが全部持ってっていいわよ」「オウギ様ありがとうね」「ありがとにゃー」
お母と話しているところで、他の人たちは選んだ衣類を持って帰っていく。
「じゃあ、これとこれとこれとこれとこれとあれとそれとこれと」
「あ、リアサの分は別で用意してあります」
「そうかい?
……もしかして、リアサの為に村中の人に配ったのかい?」
「まあ、リアサだけに服や靴を渡したら不満が出るかもとは思いましたが」
「ふーん。うちの子も愛されてるんだねえ」
「愛、なのかはわかりませんが」
「ならあれかい? こっちの二つの試着、検証もリアサの将来のためだったりするのかい?」
「まあそうですね」
必要になったときに、快適に使えた方が良いに決まっている。
「リアサも良い男を捕まえたもんだねえ」
笑うお母。
「ん? なに?」
丁度そこにリアサが帰ってきた。




