プレゼン
「おはようございます」
我が家の庭にて、ゴウジを通して呼んでもらった、兄上たち一行――兄上、ゴウジ、メイドさん――に朝のご挨拶。
「おはよう。それで、僕にどんな用だい?」
今日の兄上は単刀直入に本題を促してきた。
ここで、まあ落ち着いてティータイムでもと返してみたいところではあるが、俺は茶葉もティーセットもなにも持ち合わせていないし、そもそも早く切り上げたいとすら思っているので、兄上に合わせてさくさく話を進めていこう。
「本日ご紹介するのはこちら!」
なんか声が上ずってしまっているけど続ける。
「黒板とチョークです!」
「ふむ。黒い板はわかるけど、その白い棒がチョークってやつなのかな?」
「はい。こちらがチョークです」
「それをどう使うんだい?」
兄上は黒板とチョークをしげしげと見つめている。
まずこの黒板を壁に取り付けるか、脚をつけて立てます。
今は庭なので、イーゼルのようなものを二つ置き、その上に黒板を載せる。
「そしてこれにチョークで文字や数字を書きます」
俺は黒板に色々な文字や数字を書いて見せる。
18782+18782=37594――「イヤなヤツ」と「イヤなヤツ」を足すと「ミナゴロシ」になるという小ネタを書いてみたりね。
「オウギはそんなに大きな数字の計算も一瞬でできちゃうんだね」
兄上が感心して言う。
感心していただいているところ申し訳ないですが、計算したわけじゃなくて、ただの語呂合せで覚えているってだけなんですごめんなさい兄上。
「子どもたちの前でこんな感じに書いて伝えて、終わったら消します」
黒板消し代わりの布でチョークの文字を拭き取る。
「強く書きすぎて跡が残るようでしたら、水拭きしてください」
「なるほどね」
兄上がうんうん頷く。
「兄上とゴウ爺も書いてみますか?」
二人にチョークを渡す。
「へえ。なかなか書きやすいね。これ」
「はい。これは良い物でございますね」
二人で書いたり消したりして、感触を確かめている。
しかし、俺がここで気付いたのは、真っ黒だと光の反射が気になる時があるということだ。
学校で光の反射が気になるなんてなかったので、やはりあの緑色にもちゃんと意味があったのかもしれない。まあ、素材とかの違いかもしれないけど。
「これで教える側は少しやりやすくなると思いますが、これだけだと足りないので」
「他にもあるのかい?」
「はい。紙と鉛筆です」
黒板(中)の裏に置いてあった、三百枚の品質のあまり良くない紙と、細長い六角柱の木の中心に黒い芯のある百本の鉛筆を見せる。
紙も鉛筆もこの世界に存在しているものではあるが、簡単に手に入る物でもなく、特に紙は貴重品のようだ。
兄上に渡す紙は、わざと質を悪くしてある。
そうすることで重要な書類には使いにくく、子どもたちの勉強用とすることに納得感を持たせるためだ。
鉛筆の【クラフト】は、チョークと同じく素材を消費してオートで生み出されたものだ。
木材と石炭と粘土が素材のようだが、魔力を多めに消費したので、石炭か粘土になんらかの一手間加わっている気がする。
「黒板に文字や問題を書いて見せ、紙に文字を写したり、書きながら問題を解いてもらう方法です。
紙に書くことで復習もできますし、間違えた箇所を見直すこともできる。場合によっては他の子の手本としても使えます」
「なるほどね」
兄上の表情から察するに、理解してもらえたようだ。
「ところでこの黒板とチョークってやつだけど」
「はい」
「売り物にできないかな?」
「俺はやらないですけど、これを参考にして作る分にはご自由にやってください。
あ、この黒板は特別製なのでこのままは作れません。何でどう作るかは、兄上なり、製作を担当する人たちなりで考えて決めてください」
「そこも秘密なんだね」
「ちなみにこの黒板の部分、加工などできなくなってますので、壁に取り付けるなら囲ってある木枠からなんとかしてください」
「あ、ああ、わかった」
「チョークに関しては、こっちが石灰、こっちは石膏を主原料として作ったものです。
書き心地とか硬さとかを良くするのに、他に何を混ぜて固めたらいいかとかも、そちらで検討、検証をお願いしますね」
チョークは、俺も成分とか配合量とか分かってないから、説明しようもないんだけど。
「たくさん売れたら、発案者は兄上にしてもらって、僕には夕飯を一品増やしてくれれば嬉しいです」
発明王とかまつり上げられても困ります。
「では兄上、今回はこの黒板、チョーク、紙、鉛筆の四品をお渡しします。
黒板は、設置する場所がわからなかったので、大きさを三種類用意しました。三つとも差し上げますので、丁度いい大きさのものを使ってください」
兄上に、家賃代わりの品を渡した後、獣人の村へ向かう。
地下道の移動は【クラフト】した木製自転車。
一般的な自転車の構造がよくわからなかったため、ペダルにギアを付けて、チェーン代わりのベルトで後輪に付けたギアと連動させることはできたが、ペダルを止めても後輪が回り続けるようにはできなかったので、ケイリンで使われているピストレーサーのようなものになった。
地面は真っ平らに整備してあるので、快適なサイクリングだ。――景色が変わらないことを除けば。
今日の目的は、地下を掘るとか村の整備を進めるとかではなく、まずはリアサに会うことだ。
最近は強くなるための修行だと言って、双子の精霊とところにいることが多い。
出会った獣人たちに訊くと、村の中にリアサは居ないようなので、おそらく今日も行っているのだろう。
獣人たちとの挨拶もそこそこに双子の精霊の社に向かう。
すると、そこにはぜーはーと息を切らすリアサとルート、スーク。
「この小娘」「数日で」「「動きが良くなりすぎ!!」」
「ふふん」
息を切らしながらも胸を張るリアサ。
これまで無意識に行っていたようなので、意識的に魔術を使うようアドバイスしてみたところ、格段に動きが良くなったようだ。
「おいオウギ」「しゅわしゅわを」「「くれ!」」
「あたしも」
要望にお応えして炭酸ジュースを出すと、すごい勢いでがぶがぶと飲む三人。
「「「ぷはー」」」
清涼飲料水のCMかってくらいに美味しそうに飲むなあ。
「今日は」「疲れた」「「ここまでだ!」」
「ん。また明日」
社に帰っていく精霊を見送り、リアサに声をかける。
「お疲れ様ー」
「ん。疲れた」
まだ午前中だが、かなりハードに動いたらしい。
「リアサに話があるんだけど」
「わかった。結婚する」
「それはもっと関係を深めてからで」
「……ん」
読み取りにくいが、リアサはどことなく嬉しそうな表情に見える。
「じゃなくて」
「?」
「これをリアサに伝えるか迷ったんだけど――」
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