再び獣人の村へ
いつの間にか、新たに習得していた『属性』。
それが、「竜」だった。
「竜、ですか」
思わず独り言で敬語も出る。
『属性』は、「火」「水」「土」「風」「光」などの、自然のものというイメージがあったが、「竜」は何か違うノリを感じてしまう。
龍脈とかいう言葉もあるし、そういう気――この世界だと魔力か?――の流れのようなものを司るのが『竜属性』なのだろうか?
ところで、『属性』は「竜」の漢字表記だが、「龍脈」の時は「龍」の方の漢字を使いたくなるよね。
「龍脈」って東洋の概念っぽいからかな?
「竜」はドラゴンで、「龍」は蛇のような東洋の龍って感じだし、「龍脈」といえば、線のように走っているイメージだからだろうか。
こういう時に細かい違いとかを検索したくなるが、残念ながらインベントリには検索エンジンなど付いていないし、質問に答えてくれるAIの「んべちゃん」も存在しない。
インベントリの上の方に、四角い枠と虫メガネアイコン付いてないよね? 付いてないか。
さて、思考が変な方向に逸れていったが、気になるのはこの『竜属性』をいつどこで習得したのか、だ。
思い当たる節は、まあ、あるか。
左頬をさする。
山の精霊さまという可能性はある。だが、山の精霊が『竜属性』ということはあっても、『属性』をいただけるほどの関係性にはなっていないだろう。
となると、リアサ。かなあ。
クマの獣人の一家の中に、ただの人間っぽい姿をしていたので、血縁関係は無さそうかなと思っていたが、まさか『竜属性』だとは。
確定したわけではないけど。
クマの獣人に『竜属性』が持ちがいるという可能性もあるし、父母のどちらかとは血が繋がっている可能性も当然ある。
ただ、おそらくは両親は別にいて、そのどちらか――もしくはどちらとも、竜族なのではないかという感じがする。
何があってあの家族の一員としてあの村にいるのかはわからないし、リアサ自身すべて知っているのかも不明だ。
リアサの魔力は凄まじかったので、あれが『竜属性』のものだと言われれば、それは十分納得できる。
こうして考えていてもわからないので、明日以降獣人の村へ行って、とりあえずリアサのお父お母に話を聞いてみるかな。
ということで翌日、早速獣人の村へと足を運ぶ。
もうすぐ獣人の村というところで、前方からドドドドドドという音と土ぼこりの盛大なお出迎えがあった。
気がついた時には、俺は人の温もりに包まれていた。
「オウギ」
「おはようございます。リアサ」
リアサは俺に抱きついたまま、俺の胸元に顔をこすりつける。
もしかして、マーキングされてる?
「待ってた。オウギ」
一通り俺の身体に匂いをつけ終わったのか、リアサはハグをほどき、俺の手を取って歩き出した。
「俺が来たってよくわかったね?」
まだ村には入っていないというのに、何をどう感知したのかリアサは飛んできた。
「ん」
当然でしょ、とばかりにリアサは胸を張る。
「なんでわかったの?」
「匂い、かな」
「なるほど」
やはり俺は臭いのか!?
一応ちゃんと身体と服はキレイにして来たんだけどなあ。
「オウギ、精霊さまのところに行く?」
「その前にリアサのお父のところかな?」
「ん。わかった」
リアサに引かれてお父――ユーヒのもとへ。
これ、手を繋いだまま行ったら、冷静な会話にならない気もするな?
わずかな不安を抱きつつ、どうしようもなくなったらお母になんとかしてもらおうとか考えつつ歩く。
「おい! 誰の許可があってリアサと手を繋いでんだ!?」
早速クマの獣人でありこの村のまとめ役でもあるユーヒに絡まれました。
「おはようございます」
ぺこり。
「お、おう。おはよう」
「この村の救世主、オウギです」
「ぐっ……それは、知っている」
実績をかざしていくスタイルでいってみた。
「それと娘と手を繋ぐこととは関係ないだろう」
「はい。なのでそれは一旦置いておいて、お願いがあります」
「む。お願いとはなんだ?」
「この村をあれこれいじる権利をください」
「それはこの村から君への礼という話でいいのか?」
「はい」
「いじる、というのはどんなことをするつもりなんだ?」
「家を建てたり、水路を引いたり、畑を作ったり、ですかね」
「オウギ、この村に住む?」
俺の言葉にいち早く反応したのはリアサだった。
「住むかはわからないけど、拠点の一つにはしたいかな」
「君の過ごしやすいようにしたいということでいいのか?」
「はい」
正直これは悩んだりもした。
俺のやりたいように村をいじるというのは、上手くいけば生活が便利になるのは間違いないと思う。
だが、それは同時に俺の文化や生活様式を強引に持ち込むということでもあり、この村の文化、獣人たちの文化を破壊する可能性のある行為でもある。
生活が良くなってなにが悪いのかと思わないこともないが、俺の価値観や文化はどうしたって現代日本で培われたものだ。
それはどこかで俺の知っている文化、価値観、生活様式は素晴らしいもので、この村のものをアップデートさせるに足るものだと思い込んでいる。
だが、それが正しいのかはわからない。
わからないのに、俺のやり方で上書きするのが本当に良いのか悩んだ。
それでも、俺は俺のやりたいことを優先して、この村への貸しも利用して、好き勝手してやろうと思う。
まあ、それをこの村の獣人たち――少なくともリアサのお父、ユーヒ――の許可をもらってからになるが。
「――という可能性もありますが、本当に村であれこれしていいですか?」
ユーヒに俺の抱いている懸念事項を伝える。
「それは構わんよ。そもそも俺らも、多くの獣人たちのやり方や考え方から離れるためにここに逃げてきたんだ。村の恩人である君がそうしたいのなら好きにしていい」
どうやら好き勝手していいらしい。
「だが!」
だが? 何か条件があるのだろうか。
「リアサと手を繋ぐのは許さん! いい加減離せ!」
へい、んべちゃん。「竜」と「龍」の違いを教えて。
『へい、とか気安く呼びかけないでください』




