解放されしエルルネ
本来の魔力を取り戻したエルルネ。
彼女を見て、まず目についた変化は髪の色だった。
彼女の少しくすんだ銀髪が、日本人を思わせる黒髪へと変化していたのだ。
本人の持つ魔力の『属性』と髪の色には、これまで相関関係は見られなかったはずだが、どういうことなのだろう?
『火属性』の人間が赤髪だとか、『水属性』の人間の髪色が青や水色だとか、そういうことはなかった。
後から『聖属性』にしたり、そこからさらに無理矢理『闇属性』に戻した影響が出ているのだろうか?
髪色はさておき、魔力の方も大きな変化が視られた。
さっきまでは、魔力の量は少ないが美しいという状態だったが、魔力の量の多い、それでいて多少の乱れはあるものの美しさを損なわない状態になっている。
まだ完全には自分のものとなっていないように思われるが、十分キレイに魔力を全身に巡らせることができているようだ。
俺がエルルネの魔力を視ていた間、エルルネは俺の顔をじっと見ていた。
視線がぶつかり見つめ合う。
俺を見るエルルネは、取り戻した自身の魔力のダークさとは異なり、すっきりとした晴れやかな、そして幸せそうな表情をしている。
「ありがとう。オウギ」
「うん。どういたしまして」
それだけ交わしてまた、見つめ合う。
「むー。そろそろ、ダメ」
リアサが割って入ってきたことで、俺とエルルネの物理的な距離が離れる。
「くっつき過ぎ」
「アサのイジワル」
とは言うものの、険悪な雰囲気でもなんでもなく、二人とも楽しそうにじゃれ合っている感じだ。
「ねえ、ルネ。どんな感じなの?」
「――生まれ変わった、みたいな?」
まるっきり違う魔力になれば、それは生まれ変わったと言っても過言ではないだろう。
「オウギから見てどう? 私の魔力」
「うん。美しさをほとんど保ったまま、力強くなってる」
「正直なところ、前と同じようには制御できてないけど?」
「それでもここまでキレイに魔力を流す人は居ないよ」
「今までやってきたことも無駄じゃないってわけね」
「そうだね」
自らの魔力と向き合い続けた成果が、魔力の質と量が向上してもそのまま出ているのだろう。
「それと、ルネ。黒い髪も似合ってる」
「黒い髪?」
「ん。ルネの髪、黒くなってる」
「え?」
エルルネは自分の髪の毛を手に取りまじまじと見つめる。
「ホントだ。黒い」
「ルネが『闇属性』になった、から?」
「たぶんそうだと思う」
「まあ、髪が黒くなったのはいいとして」
黒髪になったことを、エルルネはあっさりと受け流す。
「今なら、アレを倒せる?」
アレとは当然、聖地を襲ってきたゴーレム軍団の一番デカいやつのことだ。
「魔力を込めてぶん殴ればダメージを与えられそうではあるが、近付くのは危険ではあるな」
フェン様が答えた。
「アレに向かって、離れた位置から攻撃するにはどうしたらいい?」
「それならばオウギに頼めばよかろう」
またしても俺ですか?
「俺? にそんなこと――でき、ますねたしかに」
『闇属性』スキルを【クラフト】してエルルネに付与すればいいのか。
「オウギ。お願い」
「うん。ちょっと待ってね。準備する」
えっと……とりあえずは、『闇属性』と『特性』「燃焼」を組み合わせて、闇の炎を生み出すスキルを【クラフト】。
邪王炎殺なんちゃらって名付けたくなるくらいの、すごく中二心をくすぐられるスキルですねこれ。
もう一つ、『闇属性』と『特性』「固定」を組み合わせて、相手の動きを止めるスキル〈影縫い〉を【クラフト】。
相手の影に魔力を込めたナイフを刺すことで、動けなくするという、これまた男の子垂涎のスキルだ。
「準備完了。エルルネ、ちょっと手を握らせてね」
「はい。どうぞ」
エルルネが差し出してくれた手を取る。
「いくよ」
エルルネにスキルを付与。
「一度実演するね」
〈ダークフレイム(仮)〉と〈影縫い〉を使って見せる。
「こんな感じだけどどうかな? 使えそう?」
「やってみる」
「最初は魔力をめちゃくちゃ抑えてやって。たぶんエルルネが思っているよりも威力でかいから」
「わかった――ってうわっ」
エルルネの手から、めちゃくちゃでかい『闇属性』の炎が生み出されていた。
フェン様は『闇属性』耐性が高いので問題無く、俺はこうなりそうな予感があり、防御に魔力を回していたが、リアサも同じだったようで、魔力による防御、さらに俺を庇うようにエルルネの『闇の炎』との間に移動してくれており、皆ノーダメージで済んだ。
炎を生み出した本人は、驚いて尻もちをついた形で地面に腰をつけている。
「オウギ、平気?」
「うん。俺は大丈夫だよ」
「ルネは? ケガしてない?」
「え、ええ。大丈夫、だけど……」
「だけど?」
「すごく抑えたつもりなのに、私からこんなのが、出てくるなんて」
「魔力の質も量も、めちゃくちゃ向上してるからね。慣れるまでは大変かも」
「あ……そっか、ごめん。気をつける」
おそらくだが、エルルネはこれまで他者に大ダメージを与えるような魔力を用いた攻撃などしてこなかった――いや、できなかったのだろう。そんなことができるなんて微塵も思ってなかった故に、「ごめん」という言葉が出るまでに間があったのだろう。
「誰もケガしてないし、これから新しい自分の魔力に慣れていけばいいでしょ。
手始めに、アレに攻撃してみて、今のエルルネがどれくらいの攻撃力を持ってるか確かめてみよう」
「ええ。さっきやりすぎたばかりだけど、どれくらい強くなったのか、正直ワクワクしてる」
今までどれだけ努力しても手に入らなかった魔力を得たわけだし、自分の新たな力にワクワク感を抱くのは当然のことだろう。
下に落としたアレ――巨大ゴーレムを、いつまでも放置しておくのも悪いし、エルルネの新たな力を見るための材料になってもらおう。
「じゃあゴーレム討伐といきますか」
強引に落としたことで、まだ土煙が舞っており、上から覗いても誰がいるかとか何をしているかとかわからない状況のはずだ。
当然誰かに見られたくないので、今のうちにやってしまいたい。
と思っていたのだが、エルルネはその前にやっておきたい事があったようだ。
「オウギ。その前に一つお願いしていい?」




