解放の方法
「え? フェン様? できるって言ってましたよね?」
「うむ。我はできるとは言ったが、やるとは言っておらぬ」
それはまあ確かにそうだけど。
「フェ、ン、さ、ま?」
先程までフェン様をもふっていたリアサが、一転してフェン様を睨みつける。
「まあ落ち着け。我はやりたくないと言っているわけではない」
「じゃあ、なんで、やらないなんて言うの?」
「我よりも適任がおる、ということだ」
「フェン様以外にそんなことができるんですか?」
『闇属性』に変える――戻すなんて、フェン様以上の適任はいないと思うんだが。
「うむ」
「それは、誰?」
「そんなもの一人しかおらぬだろう?」
「誰ですか?」
「おぬしだおぬし。オウギこそが適任だと言っておるんだ」
俺ぇ? 俺にそんなことができるの?
「俺、ですか?」
「うむ」
「いやでも、したことないし、本当にできるんですか? 俺に? どうやって?」
「リアサにスキルを与えたのであろう? 同じことをすれば良い」
「同じことって、スキルと『属性』では全然違うんじゃないですか?」
「いやむしろスキルを与える方が難しいしおかしい。それができるのであれば『属性』だって可能だ」
「よくわからないけど、オウギは『闇属性』なの? 全然違うのに与えるなんてできる?」
エルルネに問われる。
「俺自身が『闇属性』ってわけではないけど、『闇属性』は持ってる、と言えるかな?」
「持ってるってのがわかんないけど、できるって言うなら、オウギにお願いする」
「俺にも本当にできるんですね?」
「うむ」
フェン様に念押ししたところ、自信満々に頷いた。
「本来持つ魔力が解放されることで、魔力が暴発する可能性もあるからな。信頼できる者と共に行うことで、暴走状態に入りかけても踏み止まれる可能性が高くなる」
「エルルネが持つ本来の『闇属性』を解放することで、魔力が暴れる可能性があるということですか?」
「おそらく魔力の量も質も、一気に向上するはずだからな。制御できない可能性はある」
「そうなんですか……。エルルネ。そういう可能性があるらしいけど、それでもやる、でいい?」
「抑えきれなくなったらオウギがなんとかしてくれるんでしょ?」
「できる範囲で頑張ります」
「あたしも手伝う」
「ありがとう。アサ」
「ん。任せて」
頷き合うリアサとエルルネ。
仲良しでいいですね。
「やってみないとわからないけど、スキルを付与する感じでやればいいんだな」
「それは普段どうやっておるのだ?」
「リアサにスキルを付与した時は、額同士をくっつけてやりました」
「ふむ。となれば『属性』を付与するには――」
するには?
「チュウ。だな」
「ちゅう?」
「うむ。チュウ。口づけ。接吻。キス。つまるところ、口と口を重ねる行為だな」
フェン様、キスを表す語彙多いね。なんて思っている場合ではないか。
ちらりとエルルネを見ると、固まっていた。
それはそうだろう。
エルルネが俺に対して一定以上の好意を抱いてくれているのはわかる。
しかし、いくら好意があるといっても、キスとなると別だろう。
直接顔を合わせた機会もわずかで、文字でのやり取りはしていたものの、それだって毎日やっていたわけではない。
そんな相手と久しぶりに顔を合わせたところで、いきなりキスをしろなんて言われたら、どう考えたって困る。
「さすがにそれは――」
べつの方法をフェンに聞こうとしたところで、突然視界が独占された。
いや、視界だけではない。
俺の口も強制的に言葉を発せられなくされていた。
俺を矯正的に黙らせ、視界を独占したのは――リアサ。
リアサに唇を――この世界に於けるファーストキスを奪われたというわけだ。
とはいえ、こちらも精神的にはおっさん。ちょっとドキッとはしたものの、キスくらいであわあわとはならない――なってないはずだ。
リアサとの親交はエルルネより長いし、リアサが俺に対して強度の好意を抱いてくれているのも知っている。
突然エルルネとキスをしろとなって、こういう行動を取るのもむべなるかな、だ。
しばらくそうしていた後、リアサの顔が離れていく。
「ん。これで、良し」
リアサが満足気に頷く。
「次は、ルネの番」
リアサ的には、一番は譲れないけれども、キスするくらいは全然許してやろうというところなのかな?
それが、一夫多妻、一妻多夫な家族が暮らす獣人の村で育まれた価値観なのか、竜族の血が持つ遺伝的なものなのか、この世界の常識なのかはわからないが、少なくとも俺が育った現代日本では許容し難い価値観だろうなあ。
それが、良いか悪いか、正しいか間違いかは知らないけどね。
状況次第で、価値観なんてあっという間に変わってしまうだろうし。
さて、この世界と日本の価値観の違いを考えたところで無意味なので、置いておいて、だ。
「リアサが良いと思うのはともかく、エルルネが受け入れるかどうかは別の話だと思うよ」
エルルネに視線が集まる。
「さすがにキスはイヤならイヤと――」
これは拒否してもいいよと伝えようとしたところで、エルルネが割り込んできた。
「イヤ――じゃない、から」
ep.1の後書きに書いたシーンをようやく出すことができました。
あれを書いてから一年以上経っているんですが、エルルネの呼び方など、当時考えていたものとは違うものになっています。
とにもかくにも、書き始めた当時に想定していたシーンまでたどり着けたという達成感はありますが、まだまだ先がありますので頑張って想定している完結まで書き続けていきたいと思っております。
ここのところ不調で書く文量が減り気味でして、ストックが減っていく一方なので、まずはペースを取り戻すことから頑張らねば。
皆様、お読みいただきましてありがとうございます。
次のepも読んでいただければ幸いです。
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