エルルネの真の魔力
エルルネの真の魔力の解放、その鍵は――フェン様にある。
今回フェン様に同行をお願いしたのは、こういう事態に備えてのことだ。
当然、フェン様にもそういうことが可能かどうか予め確認してあり、できるという回答をもらっている。
とはいえ、エルルネが本当にそれをやるべきかどうかの判断はついていなかったりもする。
できるからと言って、した方が良い、するべきとはならない。
できるように用意を整えた俺が言うのもなんだが、やらない選択肢だってあるのだ。
「先にエルルネに言っておくと、俺は別に真の魔力を解放したエルルネに来て欲しいって思っているわけじゃなくて、今のままのエルルネでも当然同じように歓迎するからね。
俺がエルルネに一番強く敬意を持ったのは、真の実力が凄いからじゃなくて、どんな状態であれ努力して研鑽できるという人間性にだから。
エルルネがここでどんな選択をしようと構わないけど、一緒に来た後で、年中毎日、寝るか食べるかのぐうたら生活をされるとかの方が嫌かも。もちろん、ぐうたら生活の日はあって良いんだけどね。ずっとだと困るかもなってだけで」
「……うん。ありがとう」
何かを噛み締めているような表情のエルルネ。
「今のままでも良いって言ってくれたのは嬉しいけど、私は私の本当の力を知りたい。だから、真の魔力の解放して欲しい」
「わかった」
「でも、そもそも私の真の魔力って何?」
たしかにそれはきちんと説明しておくべきだな。
「エルルネの本来持っている魔力は、『闇属性』のものだね」
「私が『闇属性』?」
「そう」
初めてエルルネの魔力を視た時から、抑えつけられた『闇属性』が視えていた。
あと、これは根拠としては薄いから説明しないけれども、俺は魔力と性格には相関関係があると見ている。『聖属性』のエルルネから『闇属性』っぽい発言が漏れ出ていたもんなあ。
「え? じゃあ、もしかして、私、お父様の子じゃなかったとか……? そもそも養子だったりする?」
「ん? いや、本人の持つ魔力の属性は遺伝するとは限らないから、属性が違うからって血の繋がりを否定することはできないかな」
「そうなんだ」
「もちろん、養子の可能性も、父親が違う可能性もあるけど、少なくともお父さんと目元とかそっくり過ぎるしなあ」
「そっか。そっくりなのはなんかちょっとイヤだけど……」
父親と娘の関係性ってどこもこうなるのかな? リアサもこんな感じだし。
「オウギ、ルネは本来、『闇属性』なんだよね? どうして、今『聖属性』なの?」
リアサが首を傾げる。
「『聖属性』に変えられたんだろうね」
「ルネが『闇属性』、だから?」
「何らかの方法でエルルネの持つ魔力の『属性』を調べた可能性もあるけど、おそらくはそんなことはせず、聖女の子として産まれると、本人の適性に関わらず『聖属性』に変えるとか、『聖属性』を強化するような加護のようなものを与えるんじゃないかな? その加護のようなものをどうやって与えているのかまではわからないけどね」
そういう儀式があるのか、アイテムがあるのか、それができる何者かが存在しているのか。
「それをする理由、ある?」
リアサはそう俺に問う。
俺が仕組んだわけではないし、そもそもここまでの前提すら仮定でしかないが、おそらく間違っていないはずなので、そのまま説明を続ける。
「さっきエルルネの本来の魔力は『闇属性』だと伝えたとき、なんて言ったか覚えてる?」
「えっと、もしかして、私、お父様の子じゃない? だっけ?」
「そう。エルルネが最初に疑ったのはそこだね」
「なるほど、そういうことね」
「え? どういうこと?」
俺の言いたいことを理解した様子のエルルネと、対照的によくわかっていなさそうなリアサ。
「本当に聖女の子どもなのか、本当にあの二人の子なのかを疑われてしまうってことね」
「そうなるよね。そしてその疑惑は様々な問題を引き起こしかねない」
聖女は本当に不貞を働いたのか? そんな人間が聖女として相応しいのか?
事実はどうあれ、疑惑だけで敵対勢力としては十分な攻撃材料になるだろうし、こんな聖女を崇め続けるのか? と民を煽ることだって可能だ。
「でも、オウギじゃないんだから、『聖属性』じゃないとか、わからないよ?」
「一目見てわかる人はいないとしても、いつまで経っても『聖属性』の魔法を使えないとか、『聖属性』が使えないどころか『闇属性』の魔法を使えてしまったなんてことが起きたら、さすがに誰でも判別できると思う」
「たしかに」
「そして、これも推測なんだけど、過去に実際に起きたことなんじゃないかなって思ってる」
「ルネと同じ、『闇属性』の子がいた、ってこと?」
「うん。そしてそれが何らかの事件や問題に繋がってしまったんじゃないかな?」
「ふむふむ」
「そこから対策として、聖女が産んだ子には、なるべく早い時期に『聖属性』の加護のようなものを与えて、本来の資質が『聖属性』であればより強くなり、別の属性であれば『聖属性』を扱えるようにしたじゃないかなって」
「なるほど、ね」
「オウギは、私が『聖属性』の魔法をうまく使えないのは、それが原因って考えていると」
「そうだね」
「それで、オウギは、ルネをどうやって、『闇属性』に戻すの?」
よくぞ聞いてくれました! 良い質問です。
「そのために、フェン様に来てもらいました」
バーン! というエフェクトが集中線と共に出ているような雰囲気を出しつつ、跪いて両手をフェン様に向ける。
「フェン様ならエルルネを『闇属性』に戻すことができます!」
「うむ」
フェン様が鷹揚に頷く。
「あ、エルルネにはまだ紹介してなかったけど、こちらが『闇属性』の精霊的な存在で、巨大な狼の姿を持つフェン様です」
「はじめまして。エルルネです。アサ――リアサからでっかくてかわいくてもふもふと伺っております」
「すっごく、もふもふ」
リアサがフェン様をわしゃわしゃと撫で回す。
「ルネもどうぞ」
「え? いいの?」
「うむ。特別に許そう」
「じゃあ……」
おっかなびっくりエルルネもフェン様に触れる。
「思ったより柔らかい」
「もふもふ、でしょ?」
「うん」
エルルネは嬉しそうにフェン様を撫でており、撫でられているフェン様はフェン様で、誇らしそうな表情――狼の表情なんてわからないけど、たぶん間違っていない――をしている。
「んじゃあ、もふるのはその辺にしておいてもらって、フェン様、エルルネを『闇属性』に戻してもらえる?」
撫でられて気持ち良さそうなフェン様が答えた。
「ふむ。我はやらんぞ」




