救助
『じゃあ、オウギに私のこと任せるから、よろしく』
「任せるって何!?」
エルルネの言葉に思わず声が大きくなる。
「もしかしてルネから?」
「そうなんだけど、俺に任せるからって」
任せるって何をどう任されたんだ?
エルルネの意図が分からずに戸惑いながらも、周囲を見回す。
対抗手段が尽きたのか、防衛部隊はゴーレム軍団が街を破壊する姿を遠巻きに見ているだけになっていた。
とはいえ、打つ手無しでただ見ているだけではないはずで、何らかの防衛策を用意している――と思いたいところだ。
そんな様子を見ているとリアサが声を上げる。
「あっ。ルネ」
「え?」
少しくすんだ銀髪、整った顔立ち、凛とした立ち姿――そこにはたしかにエルルネが居た。
少し離れた場所から、ゴーレム軍団に威力の低い――その上効果のない『聖属性』攻撃を放っている。
「エルルネ様、ここは危険です! 退避を!」
守護部隊の隊長と思しき人物がエルルネに逃げるよう勧告する。
「私は聖女の娘です。ここで退くわけにはまいりません」
しかしエルルネはそう宣言すると、ハンマーを振り上げた巨大なゴーレム向かってに突撃していった。
人を狙わないゴーレムにわざわざ突っ込んでいくなよ!
いや、そういうゴーレムだと知らないのか。
いやいや、知っててやっている可能性もあるか。
その場合――。
「フェン様、もしもの時はフォロー頼む」
フェン様の背中から飛び降り駆ける。
ゴーレムの攻撃は人を狙わない。しかし、あのでかいハンマーで何かを破壊すれば、すごい勢いで破片が飛び、それに当たれば大ダメージは免れないだろう。
エルルネが巨大ゴーレムに接近したタイミングで、巨大ゴーレムのハンマーを振り下ろされた。
まずエルルネの前に土を盛りダメージを防ぐ。
次にインベントリから取り出して土ぼこりを舞わせ、煙幕のように防衛部隊の視界を奪う。
振り下ろされたゴーレムのハンマーが建物に当たった瞬間、ゴーレムの足元の地面を深く掘って落としてやった。
「エルルネ大丈夫?」
エルルネの無意味な突撃をきっちりカバーし、エルルネを抱えて予め掘ってあった聖地地下トンネルへと退避してきた。
いつまでも女性を抱えたままでは失礼かなと、エルルネを下ろして自分の足で立ってもらう。
「オウギなら上手くやってくれると信じてた」
エルルネはその言葉とともに俺に抱きついてきた。
「えっと、お久しぶりです」
「助けに来てくれてありがとう」
「どういたしまして。会いに来ました」
こんな形で再会するとは思ってなかったけどね。
「あ、いちゃついてる」
リアサを乗せたフェン様も地下トンネルに入ってきた。
「アサ!」
先程まで俺に抱き着いていたはずのエルルネは、フェン様の背中からぴょんと飛び降りたリアサの元へと駆け出していた。
「ルネ」
そして抱き合う二人。
しばらく抱擁していた二人だが、満足したのか一歩離れて向き合う。
「ルネ、あれは危ない」
「あのゴーレムたち、人には直接攻撃を仕掛けないみたいだから、わざわざ近付くのは只々自身を危険に晒すだけだね」
「人に攻撃しないのは知ってる」
「じゃあ、ルネはわざと?」
「ええ」
その可能性を考えて行動したが、本当に知っててやったわけか。
「オウギも気付いてたから、敵に攻撃をさせてからこうやって人の目につかないところに連れてきたんでしょ?」
「攻撃させたというか、間に合わなかったというか……」
ハンマーが打ち下ろされる前に救出したかったというのが正直なところだ。
「まあ、オウギのおかげでこうして無事なわけだし」
「それで、ルネはなんで、わざとあんなことをしたの?」
「私を死んだことにしようかなって」
実際、煙幕のように土埃が舞っていたとはいえ、ハンマーを振り下ろす巨大ゴーレムに向かって、突進していったエルルネの姿は、防衛部隊に目撃されているので、このまま姿を見せなければ亡くなったという扱いになるだろう。
「ルネが死んだことになると、どうなる?」
「ここを離れてオウギの世話になる、かな?」
「一緒に来る、ってこと?」
「衣食住は保証してくれるんでしょ?」
「うん。それはもちろん」
頷いて答える。
「来るのは大歓迎だけど、ルネはそれでいいの?」
「いいの? っていうのは?」
「やり残したこととか、後悔とか、無い?」
「うーん……あんまり無いかも?」
「ご両親が心配するよ?」
「それは……そうだけど、理由とか本心はどうあれ、追い出されたようなものだし」
「ルネのやり残しが無いなら、良いけど」
「なんならエルルネのご家族に、こっそり会いに行くこともできるとは思うけどね」
王都の地下から、エルルネの家に乗り込むことも不可能ではないだろう。
家の正確な位置を割り出すのが大変だとは思うが、エルルネを交えて高い位置から王都の地図を作って調整していけば、ピンポイントでエルルネの家に潜入できる。はずだ。
「実は生きていました。でもこの家からは出ていきますって言いに?」
「エルルネがそうしたいと思うなら、だけどね」
「うーん……」
「まあ、それも可能だよって話。今すぐ決めてって言いたいんじゃなくて、エルルネがこの先どうしたいかを決めるのに、色んな選択肢を提供できると思うから、好きに選んで欲しいって意味でね」
「ありがとう。至れり尽くせりってわけね。――あ、今後の事を考える前に、一つやり残しを見つけた」
「なに?」
「アレ倒したい」
エルルネが巨大なゴーレムを落とした先に視線を向ける。
「それはエルルネ自身の力でってこと?」
「ええ」
「アレ、『聖属性』に対する耐性が高過ぎるから、今のエルルネでは勝てないかなあ」
『聖属性』攻撃では倒せない上に、エルルネの『聖属性』攻撃はそれ自体がそもそも威力として低い。
現状では倒せる可能性はゼロと言っていいだろう。
「オウギは私の真の魔力を解放してくれるって言ってくれたよね?」
「うん。言いました」
「その状態ならアレも倒せる?」
「おそらく倒せる、かな?」
「オウギは、私の真の魔力を解放する方法を見つけておくとも言ってたよね?」
「うん。それも言いました」
「それはすでに見つけてある?」
「うん。もちろん見つけてあるし、今すぐでも可能だと思う」




