襲撃
ナニカに反応した『闇属性』の巨大狼精霊――フェン様、リアサと共に、山に設置した聖地を見渡せるトンネル出口から出る。
俺自身、何かあった時に対応できるよう、いくつかの準備を予めしておきつつ一旦様子見。
ぱっと見では特にまだ何も起きていなさそう。
「向こうだ」
「あっち」
フェン様とリアサが視線を向ける方向を見る。
「人型の魔物?」
ここから距離があるが、数体の人型の魔物と思しき存在と、存在感を放つひときわ大きい奴が一体。
それぞれ巨大なハンマーのようなものを肩に担いでいる。
「ゴブリンとかオークとかオーガとか、そういう奴か? いや、ゴーレムなのか?」
遠いが魔物たちの魔力を視る。
「なんだアレ? 魔力は魔力で、なんかめちゃくちゃ歪で気持ち悪いし」
「おそらく、ナニモノかによって、無理矢理造られた存在であろうな」
俺の疑問にフェン様が答える。
「なるほど。そう言われるとそういう存在に見えてくるなあ」
謎の集団を観察していると、さすがに聖地の防衛組織も気付いたようで、慌ただしく人々が動く様子が見て取れる。
「オウギ、どうする?」
リアサから問われる。
さて、どうしたものか。
聖地を守る、彼ら防衛組織で対応できるような事態であれば、リアサの勘が働くことは無い気がする。
そして、あれがリアサの勘が警告していた事態ではないという可能性も低そうだ。
すぐに駆け寄るべきか、それとも一旦見守りつつ、謎の集団の情報をここから得るべきか。
迷っていると、防衛組織側が打って出ていた。
「あの戦闘を見て情報を得てから近付こう」
「ん。わかった」
最初に出撃した部隊はおそらく下っ端だろうが、それでも聖地を護るために配置された人間のはずだ。そうやすやすと負けはしないだろう――というか、負けないでくれ。
そんな彼ら聖地の防衛部隊が選んだ戦法は、真正面からの突撃だった。
各々手にした武器で波状攻撃を繰り広げていく。
しかし、謎の集団の足は止まらない。
守護部隊の攻撃など意に介す様子もなく、おそらくダメージもなく、そして反撃すらせず進んでいく。
「決められた動きだけをする造られた存在、といったところか?」
フェン様の分析が入る。
「狙いは人ではなく、女神像を壊すとかなのかな? リリアリ教に恨みでもあるか、別の宗教組織の仕業か」
「襲撃の目的はともかく、アレでは止められまい」
防衛部隊は、ただ進むだけの集団を止められずに手をこまねいているようだ。
そして、王都ほどの立派なものではないが、聖地を護る防壁に取り付いた謎の魔物集団が、防壁をハンマーを打ち付け始める。
「人は攻撃しないが、建物は壊すんだな」
「あれだけ攻撃を加えて一体も止まっておらぬとなると、止めるのは相当苦労しそうであるな」
そうこうしている内に、一番でかいやつの一撃により壁の一部が壊れた。
「俺なら足止めできると思うし、近付いておきたい」
下から穴を開けて落とせば、かなりの時間が稼げるはずだ。
聖地の地面に大穴が開くことになるが、最悪はソレくらい許して欲しい。終わったらこっそり埋めて戻しておくから。
しかし、対処はできるがあの集団がどこで何を壊しているのか、確認できないんだよな。
人がたくさんいるところに姿を見せるのはできれば避けたいし。
「でも、近くで状況確認しようと思うと、人前に姿を表す必要があるんだよな。どうしたもんかな」
「ふむ。ならば手を貸そう」
「フェン様? 何か、できる?」
リアサがフェン様を見る。
「伊達に『闇』を纏っておらんからな。我の背に乗れ」
フェン様が地面に腹を着け伏せる。
「乗るとどうなる……かはまあいいか、フェン様に任せる」
よくわからんけどフェン様に託そう。
フェン様の背中に乗ると、リアサも軽々と跳んで俺の前で座った。
「前がいいの?」
「ん」
「わかった。フェン様頼んだ」
「しっかり掴まってろ」
言うやいなやフェン様が凄い勢いで山を駆け下りていく。
もっと近くまで地下道で行くことも考えたが、地上にいる方がいつでも聖地の確認ができる分得か。
「良い」
リアサはリアサで木をかき分けて進むこの状況を堪能しているようだ。
そして、あっと言う間に聖地の中へと入り込んでしまった。
多くの人が避難しているようで、防衛部隊の人間くらいしか周囲には居ないが、それでも不思議とこちらの存在を認識できていないようだ。
「もしかして、俺らのこと見えていない?」
「うむ」
「おお。フェン様、やるぅ」
「影や闇に紛れて気配を消すことができるのである」
これは特性『隠密』とか『隠蔽』みたいなやつをゲットするチャンスか?
いや、こんなところで自分の利益になりそうなことに喜んでいる場合じゃないな。
「ここにいて気付かれないのは助かる。フェン様ありがとう」
「うむ」
まずはあれをどうするかだ。
聖地を襲う謎の集団を見る――視る。
力尽くで無理矢理混ぜ合わせたような魔力だ。
小さい方が石材で構成されたゴーレムで、ひときわでかいやつが金属素材でできたゴーレムか。
「あやつらおそらく、直接物理攻撃と『聖属性』攻撃に強い耐性を持っておるな」
守護部隊の攻撃や、いつの間にか参戦していた魔法攻撃部隊による攻撃でも、何のダメージを受けることもなく突き進むゴーレム軍団。
フェン様の分析が正しいとすると、この聖地を攻撃するために集められた――もしくは造られた――者たちなのだろう。
「フェン様なら、一撃?」
「うむ。そして、リアサも『竜属性』攻撃であれば難なく倒せそうであるな」
聖地と言っても、『聖属性』の人間しかいないわけでは無さそうだが、現状防衛に当たっているのが物理攻撃担当か、『聖属性』持ちの魔法使いだけっぽいな。
「どうする? やる?」
やる気満々のリアサ。
正直なところ、俺らで聖地を守る意味は無いんだよなあ。
跡形も無く壊されたところで困りはしない。
何なら、その状態でエルルネを連れ去ってもいいかもしれない――いやさすがにエルルネ連れ去るのは問題があるか……。
『――ギ、聴こえ――――返事し――』
ん?
エルルネから連絡が来ても良いように準備しておいたイヤホンから声がしたので、慌てて耳に装着する。
『オウギ? 聴こえる?』
「ごめん返すの遅くなった。聴こえてる」
『オウギは近くにいるんでしょ?』
「うん」
『じゃあ、オウギに私のこと任せるから、よろしく』




