聖地
リリアリ教の聖地と呼ばれるこの場所は、巨大な女神像の足元にたくさんの家が建ち並ぶ。
基本的に、ここで暮らすことを許されているのは聖職者のみだという。
街の警護を担当する騎士や戦士たちも、商売を営む者たちも、敬虔なリリアリ教の信者らしい。
らしいというのは、エルルネから聞いたというわけではなく、このリリアリ教の聖地に近づいたフェン様の反応からの推理だ。
聖地と呼ばれるくらいなので、『聖属性』の魔力で溢れているとか、『聖属性』の精霊が存在するとか、なんらかの強力な『聖属性』要素があるのだと思っていた。
しかし、フェン様の反応的にも、俺の視た魔力的にも、『聖属性』などほとんど無いのだ。
「聖地と言うくらいだからもっと不快な場所かと思っておったが、全くそんなこと無い――むしろ心地良さすら感じるくらいであるな」
リリアリ教徒の集う聖地とは言っても、全員が全員、心から信奉しているというわけではないのかもしれない。
こういう時って大抵、身分や立場の下の者ほど信じていて、上の者ほど蔑ろにしてたりするよね。
ここもそうだと言ってるわけじゃないけど。
その辺はそのうちエルルネに答え合わせしてもらうとしよう。
とりあえず今日のところは外から眺めての様子見に留めておく。
ともかく、近くに森や山といった身を隠す場所があって助かった。
これが平地、平原のど真ん中だったら、いっそ街の中に入り込むしかなかったかもしれない。
「ルネ、どこだろ?」
リアサがこの高い山の中から聖地を眺めながら呟く。
「現聖女様の娘で、次期聖女様の妹となれば、好待遇で暮らしていそうだよな」
「あの、真ん中のやつ、とか?」
リアサの視線の先、街の真ん中のには、豪華なお屋敷が鎮座ましましていた。
聖職者っていうと質素で清廉な生活を送っていそうだが、あのお屋敷に住んでいる人間は間違いなく贅沢な暮らしをしている――に違いない。
「あのお屋敷はさすがに悪趣味過ぎて、勧められても断ってそうな気もする」
「たしかに、そう、かも」
「本人に聞いてみればいいんじゃない?」
「ん。そうする」
「で、オウギよ。この後どうするつもりだ?」
フェン様に問われる。
「ここから眺めているだけでは何もならなさそうですし、一旦拠点に戻りますか」
「うむ。肉食いたい」
この聖地近くの地下トンネル脇に建てた拠点に戻る。
食事も身体を休めることも大事だしね。
ということで、リアサとフェン様に肉を振る舞う。
この後はゆっくりと風呂に浸かって休む――つもりだったのだが、何か起きた時にすぐ聖地に入り込めるようにしておくべきじゃないか? と気付いた。
リアサの勘がどんな事態が起きることに反応しているのかわからないので、迅速に聖地に入り込む必要は無いかもしれないが、準備をしておくに越したことはない。
現状のままでは、ちょっと離れた森や山のトンネル出入口から向かうことしかできないしね。
とはいえ、今聖地内に直接トンネル出入口を設けるわけにもいかないので、直下にトンネルを繋げておくくらいだが。
今、急になんらかの異変が起きたら、対応できないのも事実だ。
今日のところは様子見だけのつもりだったけど、それくらいはそんなに時間もかからずにできるだろうし。
――ということで、ちゃちゃっと掘ってきた。
我ながら仕事が早い!
これで、聖地に侵入したくなった時には、地上に向かって掘るだけでいける。
その時、その上に誰がいるとかどうなっているとかはわからないから、最終手段だけどね。
聖地の地下を掘りまくるという作業を終え、風呂で汗を流し、後は寝るだけというところで、エルルネにメッセージを送ってみる。
『――近くに来てるってアサに聞いたけど』
「――うん。来てみた」
『――なんで?』
「――リアサの勘に従った結果かな」
『――アサの勘って具体的に何があるとかわかる?』
「――さすがにそんな予言めいたものではないかなあ」
『――でも、私に関わる何かがありそうってことなんだよね?』
「――見知らぬ誰かに何かが起きそうって勘はまあ働かないだろうから、今回はエルルネに関わる何かが起こるんじゃないかな?」
『――アサの勘って当たるの?』
「――信じて聖地に来るくらいには」
『――うーん』
「――どうかした?」
『――ええっと、ここで暮らして十日くらいだけど、正直、階級の高い方に信仰よりお金って感じる人も多いし、ここに居続ける意味は無いかなって思ってはいるけど、家のことを考えて少なくとも数年はここで過ごすつもり。つまり、自暴自棄になってるとか心を病んでるとかも無いし、平穏に生きていきたいから、私から何か起こすことは絶対に無い』
「――なるほど。ということは、リアサの勘が訴えているナニカは、聖地内にしても聖地外にしても、エルルネとは関係無いところで起きて巻き込まれる形になるか、エルルネが狙われて起きるってことか。もちろん、リアサの勘が当たってればって話にはなるけど」
『――私が狙われることってあるかな?』
「――聖女様の肉親だからね。目的次第では狙う価値あるね」
『――でも何が起きるかはわからないんだよね?』
「――起きない可能性すらある」
『――無駄になるかもしれないけど、強い警戒が必要、と』
「――何かあったらすぐ駆けつけるけど、多少の時間はかかっちゃいそうなんだよなあ」
『――大丈夫。ちゃんと自衛する。けど、本当に危ないときは颯爽とかっこよく助けに来て』
「――なるべくかっこよく行けるように頑張ります」
『――期待してるから』
努力はするけど、地下から現れて颯爽とかっこよくにはならなさそうだよなあ……。
「――ところで、聖地のどの辺に住んでるの? あの豪華なお屋敷?」
ねえねえどこ住み? ってか――テキストメッセージのやり取りはできてるか。
『――最初にアレに住むように案内されたけど、さすがに断った。あの近くではあるけど』
「――大体あの辺りではあるのね。了解」
『――じゃあ、私はそろそろ寝るから』
「――わかった。くれぐれも気をつけてね。お休みなさい」
『――ええ。おやすみなさい』
――そんなやりとりをした二日後、午後の夕方と呼ぶにはちょっとまだ早いタイミングで、フェン様がナニカに反応した。
「どうやら、リアサの勘が当たったようだ」




