リアサの勘
町では紙職人を迎え、紙作り用に確保した土地に施設を建て始め、獣人の村では春の種まきが終わった頃。
『――王都を出て、リリアリ教の聖地で暮らすことになった』
エルルネからの報告が俺とリアサに届いた。
『――オウギが前に言った通り、お母様もお姉様も、たぶん優しさから、私はここから離れて暮らすべきだと思ったみたい』
「――たぶんってことは、確認してないってこと?」
『――ええ』
「――確認しなくていいのか?」
『――ええ。嫌いだから、使えないからって、追い出そうとするような人たちではないから。
それに、もしそうだとしても、そんなことを言う人たちでもない』
「――強いて言えば、新天地で頑張ってもらうために、自分たちが悪者になって発奮を促そうとして言う可能性はあるかも?」
『――そんなことまで考えたら、本心かそうでないかなんて聞いてもわからないでしょ』
「――たしかにそうだけど」
『――聞かなきゃ気持ちなんてわからないけど、聞いてもわからないなら、聞かなくていいでしょ。
お母様にしても、お姉様にしても、心優しい人間だというのはわかっていることだし。
それにね、オウギから優しさや憐れみから追い出されることがあるかもしれないって言われた時に決めてたから』
「――決めてた? 何を」
『――その時は素直に従って出て行こうって』
「――もしかして、余計なことを言ってしまった?」
『――そうじゃなくて、オウギのおかげで心乱れることなく、冷静に聞けた、というか、本当にオウギの言う流れになったって、軽く興奮してたくらいかも。
とにかく、感謝してるってこと』
「――可能性の話をしただけで、お礼を言われるようなことではないかな」
『――心構えができて助かったって言ってるんだから、素直に感謝されてなさい』
「――はい」
『――うん。それでよし』
「――それはいいとして、リリアリ教の聖地ってどこにあるの?」
『――王都からずっと東に向かうと、大きな女神像があって、そこに街を作って暮らしてる』
「――東ね」
『――迎えに来てくれるの?』
「――抜け出したくなったらいつでも」
『――しばらくは聖地で暮らしてみるつもりだけど、その時はカッコよく連れ出してね』
「――連れ出すのはもちろんだけど、カッコよくに関しては善処する、に留めさせてもらおうかなあ」
エルルネとそんなやり取りをしたことをリアサに伝える。
「あたしも、ルネと話した」
「何か言ってた?」
「オウギが話したのと、同じ、かな」
「そうか」
さて、どうしたものか。
エルルネがここを出たいと言うのならすぐにでも向かって、連れ出すつもりではあるが、本人にその意思が無いのなら連れ出すのはちょっと気が引ける。
おそらく、聖地で暮らすことを受け入れた以上、すぐに逃げ出すような真似はしたくない、とエルルネならば思いそうな気がするし。
しかし、本音を押し殺している可能性もある。
本人の心の奥にある本当の気持ちを知りたいところだが、簡単にわかるわけもない。
「ねえ、オウギ」
「うん?」
「エルルネのところ、行こう」
「リリアリ教の聖地ってところに?」
「ん」
「それは何かエルルネに言われたとか、助けを求めているように感じたとか?」
「ううん」
「そうじゃないけど聖地に向かった方が良いと、リアサは思ってるのね」
「ん」
「それは、勘?」
リアサが頷く。
リアサの勘は当たるからなあ。
竜族の特性みたいなものなのか、リアサ本人の持つものなのかはわからないが、単なる「野生の勘」では済まないナニカがある気がする。
今すぐ聖地に行って空振りになったとしても、いつでもすぐ迎えに行くと言った以上、すぐに迎えに行けるように道を作っておけるし、行く価値は全然ある。
まあ、たどり着いたところで聖地の中に入るかはわからないが。
王都にすら入ろうともしてないわけだし。
エルルネと接触する必要があると判断したら、強引にでも入りこむ方法を考えて実行するけどね。
できれば目立たず穏便に済ませたいところではある。
とにかく、聖地に行くのは決定としよう。
この聖地行きの話、俺がフェン様に頼んでいた件とも関わりそうで、その件については恐らく可能だろうと言っていたし、フェン様にも同行してもらおうと思っている。
聖地と『闇属性』のフェン様の相性が悪いかもしれないので、その時は少し離れたところで待っていてもらうか。
早速、リアサ、フェン様と共に聖地に向けて出発する。
紙作りとか水洗式トイレとか獣人の村の種まきとか、俺が関わる作業がいくつかあったが、全て放置だ。
実際、俺が居なくてもなんとでもなるし。
せっかくだから、巨大なフェン様の背中に乗せてもらって――と思っていたのだが、俺が運転する魔動車で地下トンネルを進んでいる。
隣にはリアサ、後ろに気持ち良さそうに寝ているフェン様。
フェン様はこういうのに乗るのを嫌がって、自ら走るとか言うんじゃないかと思っていたのだが、全然そんなことなく、「快適だ」とか言ってすぐに寝ていた。
まずは王都へ、そして王都から東に向かって伸ばしたトンネルの中を進む。
「オウギは場所、わかる?」
「いや、王都の東ってことしかわからないんだよね」
王都から東に向かってトンネルを伸ばしている時に、たびたび地上の様子をうかがったり、換気孔を作る目的で外に出たりしていたが、それらしき女神像は見ていない。
おそらく俺が掘り進めてある地点より先なのだろう。
王都から東に向かって、現在掘ってあるトンネルの終点に着いたところで、この先どう進むか考える。
「ここから先、多少時間は掛かるけどトンネルを掘って進むか、地上に出て進むか。どうしようかなあ」
「オウギよ、別に急いでいるわけでは無いんだな?」
フェン様から訊かれる。
「そうですね。決まった目的があるというわけでもないですし」
「ならば、地上を進むのは勧められんな。保護者もなく子どもがこんなところで何をしている? となりかねん」
うーん。それはたしかにそうだが、俺――オウギ君も13歳だよな? 人によっては独り立ちしていてもおかしくない年齢無はずだ。
しかし、元々病弱少年だったからか、身長的にも顔つき的にも、幼さが抜け切らないんだよなあ。
地上を子どもが二人でほっつき歩いて変な人に捕まったとしたら、トンネルを掘って進むよりも時間がかかってしまうか。
「リアサはどう思う?」
「んー。まだ大丈夫、そう。かな?」
「なら、地下を掘って進んで行こうかな」
帰りもあることだし、地下トンネルを伸ばして進む方がいいだろう。
「何か根拠はあるのか? リアサ」
「んーん。ない」
フェン様の質問に、首を振って答えるリアサ。
「それがオウギの信頼するリアサの勘とやらか」
「ちなみにフェン様はこの先から何か感じたりしませんか?」
フェン様の勘ってのはどうなんだろう?
「ふむ……。そう訊かれると、妙な胸騒ぎを感じる、かもしれん」
フェン様の勘も、何かが起こるかもしれないと告げているのか。
「そう訊かれたからそう思っただけかもしれんがな」
そこから三日。
数時間かけてリアサとフェン様が暴れられる空間を作ったり、快適な居住空間を作ったりしながらトンネルを掘り進めた。
そして、十何度目かの地上確認で発見することができた。
「おー。たしかに巨大な女神像だ」




