父上を王都へ送り届ける
「ここは、一体なんだ?」
「父上、申し訳ありませんが質問にはお答えできませんので、諦めて一度飲み込んで受け入れてください」
「それに乗るのか?」
「はい。後ろにお願いします」
何者かによって情報を止められ、明日までに王都にたどり着かないといけなくなった父上を王都に連れていくため、仕方なく地下トンネルに父上を案内した。
準備時間を使って、トンネルから俺の部屋に繋がる横道や、獣人の村方向に延びる横道を隠し、魔動車を予めインベントリから出しておく。
フェン様の住んでいる空間までは一時間では往復できないので、リアサに横道を隠すように頼んでおいた。
これは魔力の操作で開閉できるようにしておいて正解だったな。
父上を地下トンネル連れて入った入口は、俺が初めてスライムと戦闘した場所を選んだ。
ここにも魔力で開閉するようになっているが、ノーレンに監視されているかもしれないので、壁に手を置いて開けたと見せかけて、足から魔力を流して開ける。
この後、ここの入り口の位置は念の為変えておくか。
父上を魔動車の後部座席に座らせ発進する。
「うおおっ? 何なんだこれは」
「それも秘密です」
「ちょっ、待て、速くないか?」
「そんなに飛ばしてないです」
「いや、しかし、うおあ」
「王都まで三時間ほどかかるので、いっそ仮眠でもとったらいかがですか? 向こうに着いてからやることもたくさんあるでしょうし」
「ね、寝れるかこんなところで」
父上は大袈裟なリアクションを取るなあ。
魔動車の乗り心地は悪くないはずなんだけどなぁ。
車体的にも、道路的にもスムーズに走り続けられるように作ってきた。
そして何事もなく三時間ほどかけて、王都近くのトンネル出入り口に到達した。
「父上、下りてください」
「ああ」
トンネルの外、周辺に誰も居ないことをのぞき窓から確認し、トンネルの出入り口を開く。
「父上出ますよ」
「あ、ああ」
さっきから父上「あ」しか言ってないですよ? まあ、父上が置かれている現況を考えれば、そうなるのも致し方無いところか。
トンネルから出た先は、王都に繋がる街道脇の森の中だ。
「父上、すぐそこが街道で、向こうに向かえば王都です」
「そうか」
「では、父上、お気をつけて」
「は?」
「え?」
「オウギは王都に行きたいんじゃないのか?」
「え? いいえまったく行くつもりはありませんが?」
「王都に入るために俺をこうして連れてきたんじゃないのか?」
「父上が困っているというので連れてきただけですが?」
「そうなのか?」
「はい」
「王都に入るつもりもないのに、こんな地下道を作り上げたのか?」
「作ったんですか?」
「作ったんじゃないのか?」
「さあ?」
作ったとも見つけたとも言いません。
「ふむ。まあいいか」
「あ、ちなみに帰りは使えませんので、一般的な道で時間をかけて帰ってきてください」
「なぜだ?」
「この件の相手が、父上に対してどこまで嫌がらせをするつもりだったのかは知りませんが、少なくとも王都まで間に合わない日まで自領に居たことくらいは把握されていると思います。となると間に合った時、どうやって来たのかを知ろうと監視が増えると思いますので」
「見つからなければいいんだろう?」
「万が一があります」
「それはそうだが」
「場合によっては移動手段を探るために、帰してすぐ王都に呼び戻されるかもしれませんが、その時も一般的な方法でお願いしますね」
「……わかった」
「不満そうですね」
「それはそうだろ。何日もかかる道のりを三時間で済ませられるのに、それを使えないとなればな」
「じゃあわかりました。特別にこれも差し上げますので」
「これは? ただの紙では無さそうだが」
カバンから取り出すフリをして、「同調」を付与した片面が真っ黒な二枚の紙を取り出す。
「こうやって魔力を流します」
紙を指でなぞってみせる。
「すると、文字が書けます」
「それだけか?」
「もう一枚を見てください」
「何だ、これは」
「こっちに書けばもう一枚に、当然そっちに書けばこっちに反映されます。裏側に魔力を流せば元通りに戻ります」
「これを、どこで手に入れた?」
「それを聞く必要があります?」
「秘密か」
「当然です」
「そうか」
「これを王都の家に置いておけば、いつでも情報交換が可能になり、今回のような事態も防げます」
「そんなことよりも、これは世界の在り方が変わりかねないぞ?」
「今持ってるのはこの一組だけですので、今すぐ世界を変えることはできないですね」
持ってるのはね。いくらでも【クラフト】できるけど。
「それをもらって良いんだな?」
「はい。差し上げますので、しばらく家に物品を納めなくてもいいですか?」
「ああ。これほどの価値のある物をもらっておいて、これ以上の要求はできんな」
「助かります」
自分から提案した自由に過ごさせてもらう条件ではあるが、正直毎月のように用意するのは面倒になりつつあったし、その煩わしさから解放されるのは本当に助かる。
「では、父上のご武運をお祈りいたします」
「ああ。では、行ってくる」
「一応、こんな変なとこらからひょっこり現れる姿を見られないようにお願いします」
「それくらいはわかっている」
父の背中を見送り、トンネルの中に戻る。
一旦、王都が見渡せる場所に移動してみると、たしかに入城審査の列はほとんどなく、これならば問題無く中に入れそうだ。
遠目から父上と思しき人物が王都に入っていくのを見守り、来た道を戻る。
途中でフェン様のところに寄って、そこに居たリアサに手伝ってもらったお礼をしてから家に帰った。
――それから十日ほど経ち、明らかに疲れた様子の父上が帰宅した。




