嵌められた父上
「オウギ様、ご助力願いたいのですが、よろしいでしょうか?」
我が家の執事のゴウ爺ことゴウジが、俺の部屋に入ってくるなり言った。
王都周辺の街までのトンネルを完成させ、獣人の村で収獲に向けた準備をする日々を過ごしていた俺に、突然舞い込んできた話で、面倒事に巻き込まれるのは嫌だなあというのが最初に出てきた。
そしてそれは、表情にわかりやすくありありと出ていたようで、
「お気持ちお察しいたしますが、何卒、旦那様へのお力添えを賜りたく存じます」
そう言いながらゴウジか深く頭を下げる。
「父上がそう言ってるんですか?」
「いえ、私めの勝手な判断でございます」
「俺ならなんとかできるだろうと?」
「はい」
「勝手にそんなことして、父上に怒られません?」
「私が怒られるだけで解決するのであれば、いくらでも怒られましょう」
ゴウジなりの覚悟の上での行動ということか。
ゴウジの表情、目付きから、なんとしてでも俺を引っ張り出すという決意が見て取れる。
俺に選べる選択肢は、我が家を捨てて逃げるか、ゴウジの頼みを聞くかしかなさそうな雰囲気だ。
めちゃくちゃ気は乗らないが、かといって何もわからない状況で全て放り出して逃げるのは早すぎるだろう。
ゴウジが勝手にしたことではあるが、覚悟や決意に一旦敬意を払おう。
「はあ。わかりました。とりあえず話は聞きます」
「感謝いたします」
父上の書斎に向かいながら、ゴウジの話を聞く。
なんでもこの国の貴族や領主が集う会議――のようなもの。緊急性は低く、呼びかけに応じて集まるという忠誠心を試すのが主な目的らしい――が、例年より遅れて催されるという情報は入ってきていたが、それが明日という情報が、今日になって入ってきたらしい。
こういう重要な情報は、国からの通達と同時に、王都で暮らしている我が家の人間からもなんらかの手段でこちらに伝えてくれているはずで、両方がこんなギリギリになって届くということは起こり得ないらしい。
つまり、何者かの工作によってこの事態が引き起こされたということであり、父上――ひいては我が家は、その何者かに嵌められたということになる。
誰の仕業でこんなことになっているのかは一旦置いておくとしよう。
それにしても、ゴウジの見立て通り、たしかに俺ならばなんとかできる案件ではある。
「旦那様、失礼いたします」
「失礼します。父上」
「今は忙しい。今度にしてくれ」
父上は慌ただしく何かの準備をしていた。
おそらく、今から王都へ向かうつもりなのだろう。
遅刻確定の王都への旅だとしても、それがこの国の貴族、領主、権力のある者へ課せられた使命なのだから、遵守しなければならない。という感じかな。
「父上、今から王都へ向かうおつもりですか?」
「ゴウジ、オウギに何を言いふらした?」
「国からの指令が遅れて今頃伝わってきたという話であれば、大筋で話させていただきました」
「余計な真似を……」
「とりあえず父上、一旦落ち着いてください」
「落ち着いている場合ではない!」
「王都に行くだけなら間に合わせることが可能ですので、落ち着いてください」
「は? 何を言っている?」
この件に関わらない選択肢もあったが、我が家が理不尽な不利益を被るより、それを避けて親のすねをかじっていたほうが得になると判断した。
せっかく繋げたトンネルだから、有効利用したいなという気持ちもあるし。
「父上を確実に王都まで送り届けると申し上げております」
「ここから王都までの距離を知っているのか? どうやって移動する? まさか瞬間移動するとか言うんじゃないだろうな?」
普段より父上の言葉遣いが若干荒い気がする。いろいろと余裕がないのだろう。
「移動方法について説明するつもりはありませんが、どうあがいても間に合わない状況で、それでも自力で行くか、謎の自信を持つ息子に賭けてみるか、父上がお選びください」
「今から家を出て、いつ王都に着く?」
「今からならば昼過ぎには着くかと」
現在は朝食を終えてすぐ。およそ王都まで三時間といったところなので、昼前に着いてもおかしくはない。
「同行できる人数は?」
「父上お一人です」
連れて行こうと思えば複数人連れて行くことも可能だが、一応地下トンネルの存在を、あまり多くの人に知られたくない。
「ううむぅ」
父上がうめき声を上げながら悩んでいる。
そこからたっぷりと数分使って悩んだ父上が口を開く。
「わかった。オウギ、お前に託そう」
「お任せください。父上をきちんと王都まで送り届けます」
力強く頷いておく。
「王都までと言っても、王都の中には東側の門から徒歩で入ってもらうことになると思いますので、必要な身分証などはお忘れなくお願いします」
「東門なのか?」
「はい」
「そうか」
「あ、入城手続きに時間がかかりそうであれば、明日の早朝でも構いませんが」
「いや、収穫が迫ったこの時期はそこまで時間はかからずに入れるはずだ。向こうにいる親父たちとも情報の共有、交換をしておきたいし、必要な準備もあるやもしれぬ。本当に王都にいけるというのであれば、今日中に入っておきたい」
「わかりました」
「ゴウジ、オウギに話したことについては一旦保留とする。王都行きの支度を頼む」
「かしこまりました」
「ノーレン」
「はい」
ハーティックとノーレン、あと見たことのない顔――おそらくフリストというハーティックのもう一人の部下だろう――が書斎に詰めていた。
「お前はこの件の調査を頼む」
「かしこまりましたっす」
「こちらの準備もありますし、一時間後くらいに出発しましょう」
「わかった」
「では、準備が整い次第、ゴウジに声をかけますので。一旦失礼します」




