掘り進めたりメンケアされたり
『闇属性』の精霊であり、巨大な狼の姿を持つフェンリル――フェン様を治療したり、住む環境を整えたり、ボールで遊んだりして一旦満足したところで、トンネル工事に戻ってきた。
我が家の周りで地下を掘り始めた時とは違い、段違いの速さで掘り進められるようになっているので、一日で進む距離もとんでもなく長くなっている。
掘り始めた頃は自分の足で行って帰れる距離だったが、今では掘っている場所まで遠すぎるため、乗り物を利用して行き来している。
実は、脚から魔力を流して加速や減速、手から魔力を流して進む方向を変えることができる、車のような乗り物を【クラフト】して乗り回していたりする。
それに乗ってトンネルの作業場まで移動しているわけだ。
この魔動車――今思い付いた適当な名称だが、悪くない気がする――かなりの速度が出るが、それでも作業場まで一時間くらいかかる。
それだけ長い距離を掘り進んでいるということであり、それだけ短期間に長距離掘り進められるようになっているということでもある。
ちなみに、リアサが同行するのに後部座席付きの魔動車を【クラフト】して二人で乗ったところ、後ろは嫌だったようなので、助手席のように横に席を設けたものも生み出したりしている。
まあ基本はリアサも自ら運転して、二台で並んで走っているけどね。
今日もかなりの距離を掘り進め、魔動車でフェン様の暮らす空間まで戻ってきた。
そのまま家まで帰らなかったのは、ここでリアサがフェン様と訓練という名のじゃれ合いをしているからだ。
「リアサー。今日の分終わったから帰るよー」
呼びかけると、ぜーはーと息を切らしたリアサと、くたくたな様子のフェン様が奥の方から現れた。
とりあえずインベントリから飲み物を取り出して渡す。
「はい。お疲れ様」
無言でコップを受け取り飲み干すリアサとフェン様。もちろんフェン様はコップではなく、大きなボウルに炭酸ジュースを入れて地面に置いたものだ。
「おかわりいる?」
「ん」
二杯、三杯と飲み干していくリアサ。
脱水症状を避けるためにも、こうして一気に水分を取らずに、ちょくちょく水分補給をして欲しいと伝えてはいるものの、なかなかやってもらえない。
「ありがと。オウギ」
「オウギ、感謝する」
「どういたしまして」
「オウギの方はどう? 順調?」
「うん。かなり進めたね」
リアサがじーっと俺の顔を見つめる。
「リアサ?」
「んー。まあ、大丈夫そう、かな」
「何が?」
「落ち込んでたのが、だいぶ、良くなってる」
「ああ、その話か」
何か特別なことをしたわけでは無いが、黙々と目の前の作業に打ち込むことで気分転換になったのだろう。
「ふむ。オウギに何かあったのか?」
フェン様が訊いてきた。
「まあ、ちょっとね」
「ではオウギ、お主も我の闇に引きずり込んでやるから、何があったか教えるがよい」
「いや、闇に引きずり込まれるのはちょっと困るかな」
「遠慮するでない。『闇属性』のポーションを作り出せるくせに、お主が『光属性』というのがちょっと気にくわなかったところだ」
あ、自分『光属性』だったんすね。
自分自身の『属性』について、実はこれまで把握できていなかった。
『光属性』の習得が思いの外早くて、『闇属性』の習得に時間がかかったこともあり、薄々そうだろうと感じていたものの、情報は何も持っていなかったので、確信にまでは至っていなかったのだ。
「それで、何をして落ち込んでいた?」
えー? これ話す流れなのか? リアサも何も言わずに傍観モードだし、話して全てスッキリさせろって感じなんですかね?
うーん。まあいいか。話してしまえー。
「人を殺しました」
「なるほど。人間はよく人間同士で争い合い、殺し合っているが、殺しておいて精神的におかしくなる人間もよくおったな」
この世界でも、人を殺すことを忌避したり、罪悪感を抱いたりする人間がいるのか。
まあ、魔物との戦闘はよくありそうだが、人間同士の戦争の話はまだ聞いていないので、国同士の戦争のような大規模な争いはそんなに多くは無いのかもしれない。
「オウギ、お主は人を殺した時にどう思った?」
単刀直入というのはこれを指すんだろうなというくらいに、単刀直入にフェン様が訊いてきた。
「策と罠を用いてのことなので、直接この手でトドメを刺したというわけでも無いんですが、そうですね……人を殺してしまった、様々な関係や背景を持っているであろう一人の人生を、強制的に俺の都合で終わらせたという罪悪感はありましたね」
「ふむ」
「ただ、それだけじゃないんですよね。真正面から戦ったら到底勝てない相手に対して、策を練って罠を整えて、全てが上手くいった時に、達成感とか愉悦とかがあったのも間違いないです」
正直なところ、ガヴィという強敵を、おそらく多くの手練が挑んで勝てなかった人間を、倒してやったぞという達成感、満足感があったのだ。
「リアサ」
しかしフェン様は、正直な心の裡を話した俺ではなく、リアサに話しかけていた。
「ん」
「こやつの心配など必要ない」
「そうなの?」
そうなの? 俺には必要ないの?
「そういうやつらは大抵、殺したかったわけじゃないとか、殺さなければ殺されてたとか、仕方なかったとか訴え続けるんだが、嫌々仕方なくと思い込んでいても、心の奥の奥では他者との争いに勝ったという喜びや興奮があるもんでな。そんな自身の心と向き合うことが重要なんだが、オウギは既に認め難い自身の心と向き合っておる。こんなやつは放っておいてもその内勝手に復活するだろうて」
要約すると俺なら勝手になんとかなる。らしい。
「じゃあ、オウギは大丈夫?」
「うむ。闇に引きずり込まずとも、既に闇を底にあるものと受け入れておる。こういう人間は強い」
「そう。オウギは強い」
「はいはい。勝ち誇ってないでそろそろ帰りますよー」
「ん。フェン様ありがと。また明日」
「うむ」
「フェン様、メンタルケアありがとう」
「闇落ちさせられなくて残念だが、こちらこそ毎度美味いもんを食わせてくれて感謝しておる」
そんな感じでフェン様と別れ、夕飯に間に合うよう、魔動車をぶっ飛ばして帰るのだった。




