フェン様
「フェン様、とな?」
「オウギ? フェン様って何?」
「あの狼、おそらくはフェンリルだと思うから――フェンリル様で、フェン様」
「フェン様、ね」
ふんふんと頷くリアサ。
「フェン様――あり」
どうやらリアサは納得してくれたらしい。
本人――本狼がどう思っているかはわからないが。
「で、オウギ、何をするの?」
「ここで飯を食べようかなと」
インベントリから、クマやイノシシの肉、それをミンチ状にしたもの、魔力コンロ、トンネルを掘り進めている中で出てきた鉄鉱石を精錬して作った鉄板、アブラナから採った油、ニンジンやじゃがいも、アスパラガスやホワイトアスパラガスなどの野菜、ガイゼにもらったソースなどを取り出す。
まずは鉄板のサイズに合わせた魔力コンロをセットし、その上にいい感じの距離をあけて鉄板を載せる。
油を敷いて鉄板を加熱し、頃合いを見て肉、野菜を載せる。
――ジュウウゥゥゥ。
良い音。
そして良い香りだ。
肉に火が通ったところで、ソースをかける。
さらに良い音と匂いが広がる。
焼けた肉を切り分け、各種野菜とお皿に載せてリアサとともにいただく。
当然、フェン様に見せつけるように美味そうに口に運ぶ。
「はふっ。うまっ」
良いリアクションだリアサ。
「うおっ」
横目でチラリとフェン様を見ると、こちらを凝視していて、ちょっと驚いてしまった。
――べつに冷笑しているわけではないからね。念の為。
よく見たら、ヨダレまで垂らしている。
実は精霊は物理的な食事を必要とせず、自然にある魔力を吸収することで栄養を摂っているらしいが、『癒』の精霊――レイちゃんにしても、双子山の精霊――ルート、スークにしても、俺らが美味しいと思うものを美味しそうに食べている。
なので、目の前の闇属性の大きな狼も同じだろうと考え、美味しそうなものを目の前で調理してみたわけだが、思っているよりも効果がありそうだ。
「おい、小僧」
「なんですか? フェン様」
「む。まあ、呼び方などどうでも良いか……。ソレをこちらにも寄越せ」
「フェン様にだけ効く毒が入っているかもしれませんよ?」
「ならばその毒を抜いてから寄越すのだ」
まあ毒なんて入ってないんですけどね。
ネギとかチョコレートも入ってないし。入っていたところで、精霊だと思しき存在に影響を与えるのか不明ではあるが。
「渡すのはいいですけど、美味しかったら俺らと仲良くしてください」
「わかったわかったそれで良いから寄越せ」
「その怪我の治療を試したり、こっちの――リアサの鍛錬相手になってもらったり、他にも頼みごとをするかと思いますがいいですか?」
「我にできることであればなんだって良いと言っておる! さあ! 早く! ソレを!」
もう辛抱たまらんといった様子のフェン様の口元に、皿に載せた焼いた肉を置く。
フェン様は、一口でペロリと平らげる。
「まだあるのか?」
おかわり希望らしい。
次々に鉄板の上に肉を載せて焼いていく。
同時に、ミンチ状にして丸めた肉――ハンバーグも焼いてみよう。
「む。ソレは何だ?」
「ハンバーグですか?」
「ソレも寄越せ」
「焼けたら分けて差し上げますから、慌てない慌てない」
ちなみに何度も食べているリアサもうずうずしていたりする。
「リアサもちゃんと火を通してからだからな」
「ん」
焼き上がったハンバーグをリアサとフェン様に差し出すと、競うようにして食べるせいで、ハンバーグがあっという間に消えていく。
そうしてしばらく肉焼き配膳係として全うすることになった。
「ごちそうさま」
「満足である」
リアサは表情の変化に乏しいので、普通の人にはわからないだろうが俺にはわかる。至福の満足顔だ。
フェン様も威圧するような重低音ではなく、心地の良い低音ボイスへと変化している。
警戒するような目付きのトゲトゲしさも消えて無くなっていた。
「では、まずはその傷口を見てもいいですか?」
「うむ。約束は約束だ。好きにしろ」
許可も出たことだし、近付いて傷口を見る――視る。
フェン様の全身を『闇属性』の魔力が巡っているが、傷口の奥から『聖属性』の魔力が視えた。
「この傷はもう何十年、いや、もしかすると百年以上、治ることなくこうして我を苦しめている」
この奥に視える『聖属性』の魔力を発するナニカがその原因なのかな?
「そんなにずっと、ここに?」
リアサがフェン様に話しかける。
「そうだ」
「この空間に溢れる魔力を吸収することで、フェン様はその存在を維持してきたって感じですか?」
「お主、魔力が視えるのか?」
「はい」
「変わった人間もおるものだな」
「はい。魔力が視えることで、この傷が治らない理由がわかりましたよ」
「本当か?」
「はい」
「治療するのに我に何を求める?」
「いや、俺が治療させてくださいとお願いしてるので、これ以上何かを求めるということは特にないですけど」
「不思議なことを言う人間だ。人間という生き物は、己が利益のために行動するのではないのか?」
「まあ、フェン様が元気に動き回れるようになることが、俺の利益に繋がる可能性があるので、自分の利益のためみたいなもんですけどね」
「ふむ」
「一応、治療が失敗しても怒らないで欲しいというのと、治って元気になったからって俺らを消しにかからないで欲しいってくらいですかね。
もう二度とさっきの食事ができなくなるの、嫌ですよね? また食べたいですよね?」
「であれば、そなたらに危害を与えなければ、アレを食えるということだな?」
「毎日とかは無理ですけど」
「わかった」
「では、傷をなんとかしたいところですが、一度傷口に触れるので、痛みが増すかもしれないですけど大丈夫ですか?」
「構わん」
「ちなみにフェン様は撫でられて気持ちがいい場所ってあります?」
「は?」
「お腹とか、首周りとか、おでことか」
「急な話でよくわからぬが、首は自分では上手く毛づくりができぬ場所ではあるな」
「じゃあ、リアサ。フェン様の首をわしゃわしゃと撫でてもらっていい?」
「ん。任せて!」
リアサはフェン様の首元に近付き、両手でわしゃわしゃと撫で回し始める。
「む。悪く、無い」
どうやらかなり気持ち良いようだ。
フェン様がリラックスし始めたところでちゃちゃっと済ませてしまおう。
精霊相手に雑菌が悪さをする、みたいなことが起きるかはわからないが、一旦浄化で自分の身体を消毒する。
「痛いと思うけど我慢してくださいねー」
奥に視える『聖属性』の魔力を放つナニカを目掛けて、俺は傷口に手を差し入れた。
リアサ:でっかい。もふもふわんこ。かわゆす。




