新たな出会い
リアサの勘によって選ばれた方へと地下を掘り進んでいく。
しかし、その途中で崩落なんてしようものなら全てが終わりになってしまうので、一掘りずつしっかりと周辺を固め、着実に安全第一で掘り進める。
「お?」
進んだ先には空間があった。
壁や天井が青みがかって見える。
なんらかの特殊な石が大量に埋まっているのだろう。
一部採掘してみようと思うが、自然にできた空間は俺が作ったトンネルとは違い、固められているわけではないので、下手に壊すと崩壊、崩落するかもしれない。
慎重に表面の一部をはつり取り――「はつり」は建築用語っぽいなあ――インベントリに収納して確認する。
「これがかの高名なミスリルなのか」
インベントリの中で、「ミスリル鉱」と表示されていた。
ぱっと見大量にありそうな、ファンタジー世界鉱石を入手した喜びはあるが、これを上手く使いこなせる自信が無い。
なんだかんだで『特性』の付与が強力過ぎて、素材にこだわる必要がこれまでなかった。
ミスリルを精錬するとか、加工するとか、武器防具装飾品として仕上げるとか、他の金属類でもそうだが、一切やってこなかったので、これから色々と試しつつやっていく必要があるかもしれない。
そもそも、これまでは金属の素材すら持っていなかったので、試せる状況になったことを素直に喜ぶべきところか。
ところでミスリルといえば、魔力をよく通すとか、魔力を含有しているとか、作品によって詳細は違うが、大抵魔力との相性が良い金属なことが多い。
この世界のミスリルはどうなのかなと魔力を視てみた。
「うわヤバ」
目に入ってきたのはすごい魔力の量だった。
この世界に於けるミスリルは、多量の魔力を含有する金属、といったところか。
「何がヤバい?」
リアサが俺の突然のリアクションに首を傾げる。
「ああ、この青みがかった部分、全てすごい魔力を含んでるらしくて」
「オウギはそれを視た、と」
「うん」
「なるほど」
「リアサが感じ取ったのは、この鉱石ってことかな?」
「んー。違う、と、思う」
「違うの?」
「もっと、向こう」
たしかにこのミスリルの空間、さらに向こうに通路のような空間が伸びているように見える。
「あの先か」
もしもに備えて、二メートル程の通路幅をとり、五メートル間隔で柱、梁を建て、天井を取り付ける。
これで万が一この空間が崩落しても、自分たちの身を守る時間は稼げるはずだ。
安全を確保しながら進み、細い通路を抜けると、ドーム状の広い空間に出た。
「もしかして、あれ?」
「ん。そう」
小声で訊くと、リアサも声を絞って頷きながら返してくれた。
この広い空間の中心に、大きな生物が存在していたのだ。
「犬、いや、狼か?」
子どもの俺ら二人くらいなら余裕で乗せて走れそうな巨大な狼と思しき存在。
「寝てるのか?」
ソレは丸くなって横になっている。
俺は、未知との遭遇時のセオリーとなっている、魔力を視ての確認を行う。
この空間もミスリルだらけで、どこもかしこも魔力に溢れていてわかりにくいが、目の前の存在もかなり美しい魔力を有していた。
ソレに流れる魔力は、おそらく『闇属性』だ。
『闇属性』を持つ狼と思しき存在。
フェンリルってやつだろうか。
『魔物解体書』にフェンリルの記述は無かったし、視た感じの魔力の質からして、「レイちゃん」や「ルート」、「スーク」のような精霊に近い存在ではないかと思う。
そんなフェンリル(仮)に流れる魔力だが、全体的に弱々しい上に淀んでいる箇所がある。
「怪我、してる?」
リアサが呟くように言う。
おそらくリアサの言うように怪我をしているのだろう。
ここから視るだけではわからないが、『聖属性』か『光属性』の攻撃を受け、しかも未だにダメージを受け続けているような感じだろうか。
そんな風にして観察していたが、どうやら向こうもこちらの存在に気付いたようで、鋭い眼光をこちらにギロリと向けてきた。
「敵じゃない」
リアサが両手を挙げ、敵意が無いことを示しながら一歩前に出た。
「リアサ」
「大丈夫。悪意も、危険な匂いも、無い」
ここに向かうよう言い出したのはリアサだ。危険性を感じ取っていたのであれば、そもそもここに誘導などしなかっただろう。
「だとしてもこっちを警戒はしてるはず」
「ん」
悪意が無かろうと、敵意が無かろうと、手負いの状態で身体を休めている最中に近付いてきたら、とりあえず攻撃という短絡的な行動に出てもおかしくない。
「子どもが二人で、こんなところに何用だ」
重低音ボイスのフェンリルに問われる。
どうやら人間の言葉を使えるらしい。
「大きな力を感じ取って、つい惹かれてきました」
「どうやって?」
「地下にトンネルを掘って。穴を掘るのは俺の得意技能なので」
「そうか。では早々に立ち去れ」
「お断りします」
「何故に?」
「そんな怪我をしている状態で放っておけません」
こんな出会いがあるとは想像もしていなかったが、俺のとある目的のためにうってつけの存在なのだ。できれば取り入って良い関係を築きたい。
「余計な世話だ」
「せっかくの縁です。仲良くしてもらえませんか?」
「何度も言わすでない。去れ!」
フェンリルはそう言いながら、おそらく威嚇目的で魔力を放つ。
「弱い」
リアサが俺の前に出て庇ってくれたが、そんな必要もないくらいにはフェンリルの威嚇行動は弱いものだった。
「どうしても引かぬと言うのか」
「はい」
「その怪我、オウギに治してもらうべき」
俺は俺なりの目的があるけど、リアサが引かない――引こうともしない理由は何かあるのだろうか?
リアサなりの感覚で、目の前に居るフェンリルが悪い存在ではない思っているのはあるんだろうけど、それだけなのか?
うーん……リアサのことだから、でっかいわんこかわいい、くらいなものな気がしてきた。
「手負いとは言え、こちらは子ども二人です。もし仮にこちらになにか悪意があったとしても、十分対応できるのではないですか?」
「こんな場所に人間が来ることすら困難であるのに、それが子どもとなればむしろ警戒せざるを得ん」
たしかに。子どもの方が怪しくはあるか。
「となると手当ては難しいか……」
「無駄なことなぞせず諦めよ」
諦めろと言われたくらいでそう簡単に諦めたりはしないです。
「じゃあわかりました。こっちから近付けないならフェンリル様――いや、フェン様の方から来てもらうことにします」




