俺って隠し事が下手なタイプ?
『――オウギが殺した人って、ガヴィだったりする?』
え? 何で? 何でわかったの? 俺って嘘や隠し事が苦手なタイプなの? バレバレ界隈? それともエルルネの何らかの特殊技能? もしくはテキストコミュニケーションの天才なのか?
「――なんでそう思うの?」
世界観に合わなさ過ぎるチャットコミュニケーションで、何故かズバリとエルルネに俺の行動を当てられてしまった。
正直めちゃくちゃ焦る。
エルルネに知られたところでそんなに困りこそしないが、理由によっては俺の今後の行動を変えざるを得ない。
嘘や隠し事が下手だというのならば、訓練するなり余計な人付き合いを避けるなり考えなければならない。
「――エルルネも匂いでわかるとか言わないよね?」
『――いや、さすがに文字から匂いは伝わらない』
リアサもガヴィもあの司教様も、匂いがどうとか言って判断するもんだから、まさかと思って訊いてみたがさすがに匂いでは無いらしい。
「――では何故に?」
『――変な間が空いてたとか、その割に文字を書くのがいつもより早かったとかあるけど、一番気になったのは、ガヴィについて何も聞かないことかな?』
たしかに、ガヴィという人間が男であるとか、どんな容姿をしているかとかを俺は知っているので、そこを聞くという普段ならやるであろう行為をすっ飛ばしていた。
更に言えば、もうこれ以上知る必要性が無いというのもあっただろう。
「――たしかにそうか」
つまり、俺のあまりの関心が無さや淡泊な反応に、エルルネが違和感を覚えたということだろう。
『――本当にガヴィを?』
「――まあ、うん」
『――私から聞いたけど、信じ難い話すぎ。
――そのことについては誰かに話した?』
「――いや。誰にも話してないから、現時点で知ってるのは俺とエルルネだけだね」
『――今、聞くんじゃなかったと、とてもとても後悔してる』
「――俺も誰にも言うつもりは無かったんだけどね。まさか気付かれるとは」
『――こんなこと言っていいのかわからないけど、もっとしっかり隠し通して欲しかった』
「――はい。油断してました。ごめんなさい」
『――謝られるとそれはそれで反応に困る』
「――知ってしまった以上は、エルルネにも気を付けてもらう必要が出てくるし、やっぱり申し訳ない」
『――そうね』
「――うっかりガヴィについて過去形にしちゃって、まるで既にこの世に存在しないかのような口ぶりですね、なんて名探偵に詰められるかもしれないし」
ところでこの世界に探偵なんて職業や役割は存在するのだろうか?
『――名探偵がよくわからないけど、うっかり変なことを口走らないように気を付ける』
「――そうしてください」
『――それにしても、全然信じられないけど、オウギが殺したというのはガヴィで間違いないんだよね?』
「――うん」
『――なら、正直なところ落ち込むだけ無駄。相手次第の話では無いという気持ちもわからなくはないけど、ガヴィはどう殺されても文句を言えないくらいには人を殺めている』
「――まあ俺も三人ほど犠牲者が出るところは安全な場所から見てた」
『――それを見てたのによく戦おうと思ったね。むしろ、見てたから戦わなくちゃいけないって思ったの?』
「――うん。そんなところかな」
『――あんまり無茶しないでよ。受け入れるかは決めてないけど、まだ私の能力を発揮する方法、教えてもらってないんだから』
「――そうだね。少なくともそれまでは死ねないな」
『――ともかく、ガヴィに勝ったことは褒められることだし、むしろ誇るべきことだから、あんまり引きずりすぎないように』
「――はい」
『――ガヴィが死んだことは、誰にも言わないでおく。言ったところで誰も信じてくれないでしょうけど』
「――俺ら二人の秘密ということでお願いします」
『――二人の秘密、ね』
「――はい」
『――アサが心配してたし、二人で模擬戦とか身体を動かして、早めに気分転換することね』
「――うん。ありがとう」
『――じゃあ今日はこんなところ。また連絡するから。おやすみなさい』
「――おやすみなさい」
さて、俺としてはたしかに罪悪感はあるが、リアサの心配ほど深刻なものでもないと思っている。
とはいえ、俺の自覚とリアサの見立てを比較するなら、リアサに軍配が上がるか。
というわけで、一旦アレコレ考えるのをやめ、作業に打ち込んで気分転換といこう。
まずは獣人の村での農業。
引き続きジャガイモは当然として、俺が品種改良して生み出した糖菜――ほぼ甜菜――やアブラナ、村人が摘んできた食用の野草などを植えていく。
食べられる野草は、試験農場で大きく美味しくなるように品種改良をしてみるのもありか。
村の畑ではないが、果物の栽培にも取り掛かってみた。
ベリー系の植物を高速栽培で交配させてみたり、リンゴや桃の原種に近いようなものを試験栽培中だ。
さすがに果樹系は、高速栽培でも時間がかかる――とはいえ桃は三日ほどで実をつけるくらいには成長したが――ので、村に果樹園を作るのは早くても秋になるだろうか。
リンゴはどうやら一度寒さに曝さないと、上手く花が咲かないようで、『氷属性』を利用して冷やす必要があるなど手間暇かけて育てているので、なんとしてでも美味しいリンゴの実を生み出したいなあ。
そして、農業と並行して行っている作業が、穴掘りだ。
これこそ無心で進められる作業である。
俺と言えば穴掘り、穴掘りと言えば俺。切っても切れない関係だ。
穴を掘り、天井面、壁面を固め、床面を平らになるように整備する。
時には横穴を掘って周囲の地形や環境を確認したり、換気孔を作る。
そんな風にして南に向かって掘り進んでいた。
そんな黙々と進めるトンネル掘り作業だが、俺のことを心配していたリアサが、俺を一人にさせたく無かったようで付いてきていた。
トンネル掘りの間は、さすがに状況を確認して集中していないと、崩壊する、下に穴が空いていて落下する、水が流れ込んでくる、有毒ガスが吹き出てくるなどの危険性があるので、リアサにはかまうことができない。
なので、筋トレや魔力操作をする道具を渡してトレーニングしてもらったり、水場と段々になっている器、掘った時に出てきた岩などを粉々に砕いたモノを渡して、砂金取りで暇つぶしをしてもらったりという感じだ。
俺がガヴィを殺してから十日程が経過した今日も、リアサと共にトンネルを掘り進んでいた。
しばらくはいつものように、リアサには一人で時間を潰してもらっていたのだが、今日は珍しく掘っている俺に話しかけてきた。
「オウギ」
「うん? どうしたの?」
「あっち、なんか、ある。気がする」
「それは、匂いとか勘とかそういうやつ?」
「ん」
リアサの勘は馬鹿にできないからなあ。
実はちゃんと目的があって掘っているこのトンネルだが、他に何を差し置いてでも急いでやる、という訳では無い。
ということで、リアサの指定した方向――進行方向の九十度左――に向かって掘り進めてみますか。




