心のよりどころ
死体や罠などの後処理――証拠隠滅?――を終えた俺は、自宅には戻らず、獣人の村へと向かった。
実はリアサには、やらなければならないことがあるから、そっちにはいけないし、こっちにも来ないで欲しいという話をしてあって、それを伝えた初日こそ、寒さを理由に外出を控えてくれたリアサだが、寒さが和らいだ後もその約束を守って、大人しく村の中にいてくれたらしい。
こちらの用事も無事済んだことだし、報告を兼ねて会いに行く。
地下トンネルを抜けてもう少しで獣人の村というところに、リアサが立っていた。
「おはようリアサ」
「ん。おはよ」
「鍛錬中か何か?」
「んーん」
リアサは首を振る。
「オウギを待ってた」
「もしかしてここ数日ずっと?」
「んーん」
さすがにずっと待っていたわけではないようでほっとした。
「そろそろ来そうだなって?」
「ん。匂いがした」
最近匂いに敏感な人が多くて怖いんですけど。
「オウギのやらなければならないことは済んだ?」
「うん。何とか無事に終えたよ」
じーっと俺の顔を見つめるリアサ。
「うん? 俺の顔に何か付いてる?」
すると――不意にリアサに抱きしめられた。
「おつかれ。オウギ」
「うん。かなり疲れた」
「それは、身体が? それとも心が?」
「心の方かなあ」
「何をしたのか聞いて良い?」
「人一人の命を奪ってきた」
「そっか」
「うん」
「ホントは、あたしも行きたかった」
「うん」
「オウギを守るのがあたしの役目だから」
「うん」
「でも、オウギは来るなって言うし、あたしの本能も、絶行くなって言ってて」
「うん」
「だから、オウギを信じて待ってた」
「ありがとう」
正直、リアサが居たら精神的な事も含めて助けられたこともたくさんあっただろうとは思うが、ガヴィの行動が読めなくなって、殺されていた可能性の方が高いだろうと思う。
一人で行動したのが良いことか悪いことかはわからないが、今回に関してはこれで良かったと思っている。
「オウギ」
「うん?」
「辛いなら泣いていい」
「俺、そんなに辛そう?」
「ん」
「そうかぁ」
どうやら自分で思っているよりも、人を殺したという事実に俺の精神は堪えているらしい。
「オウギ、ありがと」
「え? 何でお礼?」
「あたしたちのため、でしょ?」
「どうしてそう思ったの?」
「オウギから、そんな匂い、がした」
「うーん」
「オウギ?」
どうかしたの? と俺に抱きついたままのリアサが首を傾げる。
「いや、リアサには今後一生隠し事できないなって」
リアサに何で泣かない? と謎の文句を言われながらも村を後にした。
罪悪感はあるが、泣くという感じでもないからね。
自室に戻ってある程度やることを済ませ、後は寝るだけだというところで、エルルネから連絡――手書きチャット――が来た。
リアサとは、リアサの文字を書く練習に付き合いながら頻繁にやり取りしているようだが、俺の方に来るのは久々だ。
『――人を殺めたって聞いたけど?』
「――単刀直入だねえ」
『――そのせいでオウギが落ち込んでるって、アサが心配してた』
「――人の命を奪っておいて、落ち込むなんて酷い話だよね」
『――事情があったんでしょ?』
「――セイウ家のご令嬢が、事情次第で人殺しも許容しちゃっていいものなの?」
『――良くはないけど、我が家の周辺にもきな臭い話はある。さすがに直接手を下してはいないだろうけど、似たようなもの』
「――権力の周りでは、どうしても殺伐した出来事が起こる、と」
『――ええ。で、オウギはどうしてそんなことをしたの?』
「――いや、でも、まあ、私利私欲からではあるので」
『――話したくないならこれ以上は聞かないけど』
「――そうしてください」
『――ともかく、オウギが無事ならいいけど』
「――エルルネも心配してくれてありがとう」
『――アサのためでもあるから。それに、近くに居ない方が話しやすいこともあるかもしれないし』
この子、もしかしてチャットコミュニケーションを使いこなし過ぎじゃない?
「――近くに居ないのに意思疎通ができるなんて、俺らくらいなもんだけどね」
『――こっちの事情を知らないアサの方が、話しやすいことがたくさんあったからね』
「――経験則なんだ」
『――甘えたくなったら言えばいい』
「――よしよしってしてくれるわけか」
『――文字だけで良ければね』
意外と乗り気。
「――甘えたくなったらお願いするね」
『――ええ。任せて。ああ、そうだ。伝えておくべきことがあったのを思い出した』
「――うん?」
『――ガヴィっていう凶悪な人間がいるんだけど、そっちの方に向かった可能性があるって父様が』
タイムリーな話キター。
「――そうなんだ」
『――こうやって、瞬時に会話できるわけじゃないから、既にそっちに居るかも?』
「――わかった。気を付けるよ」
気を付ける必要が無いことはわかっているんだけどね。
それをエルルネに伝えるつもりは全く無いが。
あれ? ここで会話が止まった? 向こうに何かあったのかな? 誰かが近付いてきたとか。
『――ねえ、もしかして、なんだけど』
「――うん?」
『――オウギが殺した人って、ガヴィだったりする?』




