オウギの戦い方
時間を遡り、襲撃部隊とガヴィが戦った翌日、前話『ガヴィ』の前日。普段通りのオウギ視点です。
よろしくお願いします。
この時期にしては肌寒い空気の中、町から東にある深い森の中で、ガヴィに対する罠を仕掛ける。
寒さに関しては、『特性』をあれこれ付与した服や手袋でばっちり対策済みだ。
では、この寒の戻りと思われる寒さの影響が何も無かったのかというとそうではなく、リアサが寒さのおかげで外に出たくないと言っていたのだ。
ひょっこりこちら側に遊びに来て、ガヴィに感知される可能性が低くなったのはありがたい。
とはいえ、長々と時間をかけられるわけでもないし、かけるつもりもない。
今日中に罠を仕掛けて、明日の早朝にガヴィを誘き寄せるつもりで行動する。
こちらの森に入ってすぐ、俺の想定にちょうどよい場所があったので、まずは穴を掘る。
掘った穴の壁は、一カ所を除いて念入りに強度を上げて硬くしておく。
万が一に備えて、「硬化」させた壁を三層構造にしておいた。これで簡単には壊されないはずだ。
人が一人出入りできそうな大きさで「硬化」させなかった、見た目にはほぼ分からない一部の壁も、三メートル程は柔らかめ――と言っても普通の地面よりは圧倒的に硬くしてある――な土を詰めたが、その周りは他と同じく三層構造で「硬化」させておいた。
これを発見してはもらいたいが、掘り進まれるのはあまり良くないかもしれない。
いつでも出られると満足して放置してくれれば勝ちだ。
ノーレンから聞いた話や、昨日のガヴィの様子を見る限り、仕掛けに成功したと思わせてから反撃するのを好んでいるようなので、ここから俺が確認しに入ってくると勘違いしてくれるとありがたい。
壁の次は床だ。
床も同じく「硬化」させておくが、その上に『火属性』を付与した床板を敷き詰めておく。
この床板も簡単には壊されないように強化盛り盛りで仕上げる。
『火属性』の床板には、魔力を込めた石――「魔石」とでも呼ぶか――がセットしてあり、仕掛け発動から長い時間、魔力の火が出続けるようになっている。
これは魔力コンロを応用した床板なので、火力抑えめで長く維持させるのにどれくらいの魔石が必要になるかなどのデータが既にあり、それを参考にして作り上げた。
次にガヴィの頭上にインベントリから取り出して落とし、蓋にする部分を【クラフト】する。
こいつは強度、硬さも必要だし重さも必要になる。
壁や床と同じく「硬化」を付与するのはもちろんだが、これまでに地下を掘って採れた、けして多いとは言えない金属類で重くさせる。
鉄の塊を落とせたら良かったのだが、この穴を塞ぐ大きさを賄えるだけの鉄の鉱脈になど当たっていないので諦める。
蓋になる塊と、穴の縁の接触する部分は、少しでも空気が入らないように、ガスケットやパッキンのイメージで「伸縮」を付与しておいた。
ところで、ガスケットとパッキンの違いってなんだろ?
どちらもゴム系の製品で水などの出入りを防ぐものというイメージだが。
そんなことはともかく、蓋を落とした後で、継ぎ目を埋めて「固定」させるつもりではあるが、やれることはなんでもやっておく。
最後にガヴィに穴の上に立ってもらう為の仮の床作りだ。
こいつは切り落とす必要があるので、俺の位置だけくっ付けるようにしておいて、他の部分では固定させない。
落とした後に燃やす必要があるので、仮の蓋の底は隙間を空けつつ木材で組み、その上に燃えやすいようにおがくずや木炭などを載せ、さらに木材を組み、最後に雑草などを生やした薄い土の層を載せてカモフラージュする。
この仮の蓋は、フライパンや柄杓のような形にして、柄の先の部分だけを固定しておく。
ガヴィの足元を落とし、頭上からも蓋となる塊を落とすその瞬間が一番俺にとっての危険な状況となるので、距離を稼ぐためにこういう形にしてある。
当然だが、頭上から落とす蓋となる塊も似たような形だ。
罠の仕上げに墓標に見えるように石碑を設置する。
石碑には「――無限とも思える程の永い時間 小さな炎に焼かれ続け ガヴィここに死す――」と刻んでおいた。
俺の罠の目的は、木を燃やすことで酸素を減らすと共に一酸化炭素を発生させることだ。
この世界の科学がどこまで発展しているかわからないので、一酸化炭素の危険性をどれほど認識しているかも不明だが、火で直接燃やしてやると挑発的に書き記しておいて、そちらから少しでも目を逸らしたい。
おそらくこの程度の火力ではガヴィを焼き殺すことなど不可能だと思うが、それゆえにガヴィも対抗し、余裕ぶってこの場に留まるという選択をしてくれる――と敵ながら信じる。
あとはここまでガヴィを誘き寄せるために、インベントリの中にお誂え向きに入っていたこいつを利用する。
初めてリアサと出会った時に、傷口から流れ出ていた血を拭き取った布だ。
無限に収納できるインベントリだからと、そのまま入れっぱなしにしておいた物が、こんなところで役に立つとは。
寒の戻りで風向きが変わることが心配ではあったが、どうやら東からの弱い風のままのようなので、ここに置いておけば自然と町に匂いが流れていくはずだ。
一応『風属性』を利用して、ここから町に向かって風を送るのと、間に何か所かリアサの血の付いた布を、匂いを薄めて仕掛けておこう。
この時期は夜になると一旦風が止むことが多いし、暗闇の中ではこちらもガヴィの姿を上手く確認できずに失敗する可能性が出てくるので、決行は明日の早朝としよう。
ガヴィに対して仕掛けた罠を遠目から見る。
大丈夫。うまくいく。
俺の――オウギなりの、オウギだけの戦い方で勝ってみせる。




