ガヴィ
今回はガヴィに焦点を当てた、三人称視点です。
よろしくお願いします。
ガヴィが謎の三人組に襲われた――いや、襲わせてから一日経った、まだ日も顔を出していないような早朝。
早起きとは縁のないガヴィだが、この日は珍しくこんな朝早くに目が覚めた。
「この匂いは――竜」
ガヴィの意識を覚醒させたもの、それは竜だけが持つ独特の匂い。
とは言え、誰にでも感知できるものではなく、むしろガヴィだけが感知することのできるものだ。
それはガヴィの強さにも関わる。
ガヴィには竜の肉を食すことで、魔力、筋力、持久力、耐久力、耐性を引き上げる、その竜の持つ能力を自らのものとする『竜喰らい』という特殊な体質――性質があった。
この性質に気付いたのは偶然だった――いや、ガヴィ本人は必然だと言い張る。
ガヴィは孤児で、その日食べる物の確保すらままならない日々を何とか生き抜いてきた。
ある時、数日食べ物にありつけなかったガヴィは、危険を承知で深い森の中へと入っていった。
そこでガヴィが見つけたのが、死んで間も無い竜だった。
空腹の極致にあったガヴィは、死してなお威圧を放つ竜にかぶりついた。
それがガヴィの持つ性質が発現するきっかけだった。
ガヴィは、人間の中では最強クラスの戦闘力を有していると自認している。
そして、その認識は間違っていなかった。
彼自身の特殊な体質が、彼の肉体を強靱なものへと変化させ、強大な戦闘力を獲得した。
ガヴィは、その強さゆえ、周囲に対する警戒、索敵といった類のことを一切しなかった。
不意打ちを歓迎し、その全てを返り討ちにしてきた。
油断もするし、慢心もする。それでも強さで押し通す。
ガヴィはそういう人間なのだ。
風に乗って運ばれてくる竜の匂い。
ガヴィは、それが罠であることは百も承知の上で、匂いの元に向かって歩き出す。
町を抜け、川を越えた先にある森の中を進む。
「頼むから、がっかりさせんなよ」
独り言をつぶやく。
ガヴィは昨日、周辺を彷徨いてみたものの収穫は得られず、今回は当たりであれよと願いながら歩く。
ガヴィにとって生きることとは、死と共に在ることだった。
常に死と隣合わせで生きてきたガヴィは、平和な世界では生を感じられない。
生き延びるために強くなったガヴィは、皮肉にも生きる実感を失い続けていくこととなった。
それでもガヴィは突き進む。
久方ぶりのまともな食事と、生の実感にありつくために。
「この先だな」
竜の匂いを辿って鬱陶しい木々の間を抜けた時、ガヴィの目に入ってきたのは石碑だった。
「ああん?」
ガヴィは警戒すること無く石碑に近付く。
当然、罠の可能性が高いとわかってはいるが、警戒などしないし、そもそも警戒など要らない。
「この血の付いた布か」
ガヴィが手に取ったのは、血まみれの布だった。
それが強烈に竜の匂いを発している。
ガヴィはそれを口に含む。
「間違いなく竜の血だな。拭ってからそんなに時間は経ってなさそうだが」
久々に竜の血を舐めて、機嫌を良くしたガヴィは、キョロキョロと周囲を見回す。
「近くにはいねえか。まあいい、こいつはなんだ?」
ガヴィは石碑に刻まれた文字を読む。
――無限とも思える程の永い時間 小さな炎に焼かれ続け ガヴィここに死す――
「ははっ。俺の墓標ってわけか」
呟いた瞬間、頭上からの圧がガヴィを襲った。
「あ?」
同時に、押し返そうと込めた脚の力が逃げていくのを感じる。
ガヴィは自身が落ちていくのを感じながら、ほんの一瞬、真剣な面持ちの子どもの姿を見た気がした。
「なんだここは?」
突如地面が崩れ、穴へと落とされたガヴィは、現状の確認作業を進める。
「どこも硬ぇな」
上下左右、軽く叩いてみたが、どこもそう簡単には壊せないとガヴィは認識した。
「しかもこの床、硬ぇのに燃えてやがる」
ガヴィには原理を理解できないが、床からは炎が立ち昇る。
「なるほど、さっきまで立ってたのは、木材の地面の上だったのか。この床の炎で木材を燃やして、俺も焼こうって魂胆か。だがおい、俺のことを舐めすぎてねえか? こんな弱っちい炎じゃあ、何時間かけようが俺を燃やすことはできねえぜ?
ここに落とした手際といい、この罠そのものといい、すげえんだけどなあ――って、お? こいつは」
ガヴィが見つけたのは、見た目には周りと変わりは無いが、強度の低い壁だった。
「ここから入ってきて、俺の死体を確認しようって肚か。
これがさっきのガキの仕業だとしたら、ガキのクセに見事なもんだが、詰めが甘えな」
いつでも出られそうな場所を見つけたことで、ガヴィは方針を固めた。
「入ってきたガキの驚く顔を拝ませてもらって、拷問でもして竜について訊き出せばいいか」
ガヴィは、勝者と思っている人間の崩れていく表情が大好物だった。
その好物にありつけそうな状況に胸を躍らせる。
「じゃあ後は我慢比べ――だな」
誰にも見えない狭い空間の中で、ガヴィはにやりと笑った。
「ふぁーあー。早い時間に起きたせいで眠ぃや。この炎のベッドの上で、ゆっくり寝て待つとしますか」
ガヴィの肉体にとってこの程度の炎は、毛布を掛けた状態とさほど変わらないものだった。
ガヴィは地面に横になる。
幼い頃にはもっと酷い岩場で眠ったこともある。むしろ快適とすら言える地面の上、豪快に眠りにつく。
人間離れしたガヴィだが、しかしどこまでいっても人間だ。
食事も必要だし、睡眠も必要だし、当然呼吸で酸素を取り込む必要だってある。
この空気の入れ替えを全て封じ、魔力によって生み出される火で木を燃やし続ける空間。
その中でガヴィは、二度と覚めることのない眠りについた。
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