襲撃観戦
父上の書斎に入った俺は、真剣に見つめる彼らに倣って水面を覗き見る。
映し出されているのは同じ服装をした三人の、男と思しき人物。
「何者かわかるか?」
父上の問いかけにノーレンは首を振って答える。
「申し訳ないっす」
「大方どこぞの貴族の手の者ではあろうが」
「でしょうな」
ハーティックがじっと映像を見つめたまま肯定する。
盗聴器の存在を明かしていない俺は、両耳にイヤホンのようなものをこっそり着けて、現地の音にある程度集中しようと思うので、映像に夢中で会話が耳に入ってきてないフリをするためにも、彼らの会話を聞きながらも基本的には反応しないでいく。
とはいえ、襲撃部隊の男たちは、必要事項だけいくつか発するだけで、とくに会話などはせず、淡々と準備を整えているようだ。
一時間ほどが経過しただろうか。
目つきの鋭い男が一人、無防備なまでにふらっと現れた。
「ガヴィが来たっす」
「こいつがガヴィか」
「ふむ」
魔力でも視てやろうかと思ったが、できなかった。
映像を通して魔力を視ることができない、というわけではなく、これを映している水はノーレンの魔力が込められているので、その魔力のせいで映像向こうはよくわからないということだった。
正直視ようとする前にわかるだろ気付け俺って話だよな。
『いやあ、迷っちまったぜ。もう少し分かりやすく案内してくんねえ?』
ガヴィが気安く話しかける。
『無視か? まあいいや、準備があるならきちんとしろよ? せっかく来てやったんだぜ? がっかりさせんなよな?』
調子に乗っているなあ。ガヴィ。
おそらくそれだけ実力のある強者という自負と実績があるんだろう。
「何かを話しているようだな」
「そうっすね。何を話してるかさっぱりっすけど」
「こうして離れた場所から見ることができるだけでも十分だ」
まあ、音は俺が聴いてるから。共有するつもりは今のところないけど。
『殺しちまったら訊けねえから、今のうちに訊いておくか。お前らが準備する時間にもなるしちょうどいいだろ?』
ガヴィは問いかけるものの、返事を待たずに話し続ける。
『この辺に獣人っていねえ? ってか、お前らが獣人だったりしねえ?』
『知らぬ』
『お? 答えてくれる気になったか』
襲撃部隊の中で、数歩前に出て剣を構えている男が答えたようだ。
会話を受けることで、後ろの二人の準備の時間を稼ぎ、確実性を上げようということだろうか。
そんなことしなくとも、ガヴィならば待ってくれそうだが。
いやそんなことよりも、ガヴィの目的は獣人なのか。
獣人の村を探し当てて潰そうとかそういう話ってこと?
そうなると、襲撃部隊を応援せざるを得なくなるわけだが。
『んじゃあ、竜は? 本当に微かにだが、ここに竜の匂いが残ってるんだけど知らねえ?』
は? 竜の匂い?
そこに竜の匂いが残っているとするなら、俺に付いているリアサのマーキング跡からくるものくらいしか無さそうなんだが。
『仮に知っていると答えたらどうするつもりだ?』
『そりゃあ訊き出してからお前らを殺して、竜を探し出して殺して喰らうだけだぜ』
ガヴィの声を聴いているのは、この部屋の中で俺だけだし、もしも皆で聴いていたとしても竜に関して動揺するのも俺だけだ。
動揺するな。リアクションするな。怒るな。焦るな。今は映像を集中して見ているフリに努めろ。
心の中で自らに繰り返し言い聞かす。
獣人たちには悪いが、竜というワードが出てきて明らかに俺の心がざわついている。
そんな俺の心とは無関係に、事態は動いていく。
『で、お前ら何か知って――』
ガヴィが話している途中で、襲撃部隊が仕掛けた。
前に出ていた男が一気に距離を詰め、剣を振り下ろし離れる。
ガヴィはその場に立ち尽くしたままだ。
「服を切り裂いただけか?」
「そう見えるっす」
ガヴィは防御も何もせずに斬られ、身体にはノーダメージという状況だ。
どんだけ硬い肉体を持っていればそうなるんだ?
「ガヴィの頭を何かが覆ってるっす」
ノーレンの言葉を聞いてガヴィを見ると、たしかに頭部を水の塊のようなものが包み込んでいた。
ガヴィは斬り掛かられたことなど気にする様子もなく、頭の水をなんとかしようと手で払ってみたり、激しく上半身を動かしたりしている。
「水、っすかね」
「窒息狙いか」
剣で傷一つ付かない肉体に対し、呼吸をさせないという作戦で挑むということか。
ということは、そもそも攻撃がまともに通らないと知っていたか、想定していたのだろう。
ガヴィが水を振り切ろうと森の中に向かって走る。
すると――見えない壁に阻まれたようにガヴィは弾き返された。
『逃さぬよ』
「結界か?」
「何か見えない壁があるようっすね」
剣持ちが前衛として動き、後ろの二人のうちの片方が水を頭部に貼り付け、もう片方が見えない壁で行動を範囲を狭めるという役割分担か。
しかし、こんな戦術を取るのであれば、こそこそ隠れてやるべきだと思うのだが、何らかの制約なり制限があるのか、ここにいるのは単なる囮で、別の所からこそこそと攻撃を仕掛けているのか。
魔力が視えればもう少し情報を仕入れられたというのに。
「反撃か」
起き上がったガヴィは、剣持ちの前衛に向かって走り出した。
が、見えない壁に阻まれる。
左右と後方の三方は、準備段階で塞いでおき、前衛の男が斬り付けた後で前方を塞いだのだろうか。
最初から全部塞いでも良かったとも思うが、まあそうか、剣で斬り落とせた可能性もあったか。
近接攻撃は厳しいと見て塞いだんだな。
『前後左右、逃げ場は塞いだ』
ガヴィが跳ぶ。
『当然上もな』
叩き落されたような形になったガヴィは、逃げ場を求めて前後左右の見えない壁に突進していくが、抜け出すことに失敗する。
そして、諦めたかのようにガヴィは突っ伏して倒れ込んだ。
そこから全員身動ぎもしない時間が流れる。
「さすがに死んだか?」
「どうっすかね?」
「ハーティック、お前ならこのくらいの時間、呼吸を止めていられるか?」
「やってみないことにはわかりませぬ」
「いや、やらなくていい。そのまま気絶して面倒なことになりそうだ」
十分――十五分は経っただろうか。
こちらは現地とは違いふざけた会話が始まっている。
『確かめる』
前衛の男がじりじりとガヴィとの距離をじりじりと縮めていく。
ある程度距離を詰めたところで、振り向き見えない壁を作っていると思しき男と頷き合う。
そして、触れ合える距離まで近付いた――。
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