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Hollow Altar online  作者: 774のもち
第一章
6/28

06・不思議な場所

遅くなってしまい申し訳ありません。また今回から武器の説明を後書きのほうに書いていくのでそちらのほうも楽しんでいただけると幸いです。

 ゼルオスはどうぞといって三人に着席を促した。ここは三人と面談した場所で、今回も利用している。本来彼はギルドマスターであるため攻略、検証、考察、人事などやることが多いはずなのだが、それでもこうして時間をとっていた。それは、検証ギルドにおいてもこのゲームの生存においても重要なことだと理解しているからと言うよりは何か別の意図があるのかもしれない。


 「攻略、ご苦労様です。早速で申し訳ありませんが進捗状況をお聞かせください」


 「えぇ、かなり順調です。順調すぎて反動が怖いくらいですが」


 キーンは困惑の表情を浮かべながらそういった。


 「順調すぎる、ですか。通常の新エリア攻略なら一進一退を繰り返すものですが、攻略しやすいというのはあまり例がありませんね。もしかしたらこの前のようなことになる可能性も否定できないため、慎重な行動を心掛けるようしてください。帰還石など高価なアイテムを使用した際はある程度こちらで負担します。そのときは遠慮なく申し出てください。それでは、詳しい内容をお願いします」


 ゼルオスがそう言うとキーンは話し出した。



◇◇◇



 検証ギルドとの面談の二日後、三人は古代遺跡内部の転移水晶が置かれているあの部屋に姿を現した。無論、攻略を進めるためである。


 最初に現れたハルトが部屋を見回してこういった。


 「やっぱり、誰もいないか。そういやニーラのことに関してあんまり詳しく話せなかったな」


 後から現れたキーンがそれに答える。


 「確かにな。検証ギルドもお前の言ってたアクティブNPCのことについてはあまり詳しい情報を持っていないようだったし」


 「そういえば、ハルト君はニーラさんから何か貰いましたよね? あれってなんだったんですか? ドロップアイテムみたいに共有されなかったので不思議に思っていたんですけど」


 このゲームではドロップアイテムに関してかなり前進的なシステムが取り入れられている。それは、ドロップアイテムをパーティー全員で共有できるということだ。どういうことかと言うと、倒した敵がアイテムを落とした際、誰か一人がそのアイテムを拾っても他のプレイヤーの視点からはそのアイテムが無くなっておらずそのまま拾うことができる。つまり、一つのドロップアイテムに対して、パーティー人数分用意されているということだ。これは、宝箱などに入っているアイテムも同様で、ドロップアイテムや宝箱のアイテムを先取りされてプレイヤー同士でもめるということがないのだ。


 今回はそれが無かったのでナオは疑問に思ったのだろう。


 「えっ、そうだったの? てっきり共有されているものだと思ってたんだけど。えっと、説明文によると『転移水晶の効果を複製しようとして作られた模倣品。意のままに移動できる転移水晶の真似事をする者は多いが成功に至った例はほとんど存在しない。特定の者と離れていても会話ができる』だとさ。使い方は教えてもらったけど雑だったし、面倒ごとの臭いがするからまだ試してないんだよ」


 ハルトはメニューを開きアイテムの説明欄を見てそういった。


 「気にはなるが、確かに面倒ごとに巻き込まれそうだな。とりあえず今は攻略のほうに集中するか」


 キーンはそういって左手に大盾を取り出した。それに釣られるようにハルトとナオも各々の主力武器を取り出し、三人は攻略を開始した。


 鉄格子前の曲がり角でハルトは二人に確認を取った。


 「二人とも高級解毒薬は装備してる? もうすぐ鉄格子の場所に着くよ」


 「大丈夫です。ちゃんと上限まで持ってきてます」


 「俺もだ、攻略ギルドのサイトからしっかりハイ・ゾンビの情報は仕入れてきてる。問題なしだ」


 猛毒は体力満タンでも解毒しなければ最長二十秒で死亡する。効果は三十秒続くため回復アイテムでごり押ししても足りなくなってしまう。その上、猛毒は解毒薬の上位互換である高級解毒薬を使わなければ解除できないのできっちりと対策をしておく必要があるのだ。


 「大丈夫だね、それなら安心……えっ?」


 曲がり角を覗くような形で確認したハルトが急に困惑した声を上げた。何事かと言うように二人が曲がり角を覗くとそこには鉄格子の向こう側に大量のハイ・ゾンビの死体が転がっていた。


 「おいおい、なんだよあれは」


 キーンはつぶやく。ナオも右手で口を押さえながら気持ち悪いといった。


 三人が鉄格子に近づくとそれが更に異様であることが分かった。


 「どれも雷で打たれたような焼け焦げた後がある。ハイ・ゾンビは魔術耐性が高かったはずだけど、まさかここまでボロボロだとは」


 ハルトは鉄格子越しに近くのハイ・ゾンビに目を向けてそういった。


 「ナオ、大丈夫か? 気分が悪くなったりしてないか」


 キーンはナオに声をかける。目の前にあるのは大量の焼け焦げた死体だ。ハンマーを振るっているため多少慣れているとは思うがやはり辛いものがあるはずだ。


 「大丈夫です、もう慣れました。でも、酷いですね、これは」


 しかし、ナオは気丈そうに答えた。どうやらそれは本当のようで、しっかりとハイ・ゾンビに目線を向けている。


 「しっかし、見れば見るほどおかしいな。これだけ大量の敵を相手に高威力の魔術をぶち込むとか。なぁハルト、こんなこと今まで聞いたことあるか?」


 キーンもハルトと同じように鉄格子越しから死体を眺めていった。


 「いや、ないよ。それと死体が残ってるのもおかしい。倒した敵は一定時間したら消えるはずなのに残ってる。誰かがここに来てこいつらを焼き払ったのかもしれない」


 「ニーラがここに戻った……いや、それはないか。あいつゾンビ嫌いって言ってたからそれは考えにくいな」


 すると、ナオが険しい顔で言った。


 「もしかして、プレイヤーキル、ですか」


 ナオが言葉を発した瞬間、三人の表情が一気に緊張した。三人は無言で武器を構えるとアイコンタクトをとり装備アイテムから帰還石を取り出した。


 「大丈夫、帰還石は使用できる。二人はどう」


 小さな声でハルトは二人に尋ねた。


 「俺も大丈夫だ。使える」


 「私も大丈夫です。……すいません、驚かせてしまって」


 帰還石が使えることに安堵したと同時にナオは謝った。


 「いや、それくらい注意しろって言われてるから気づかせてくれてありがとう。それにしても、プレイヤーキルの暫定的な対処法を知ることができていてよかった。少なくともプレイヤーキルに対して戦闘準備は行える」


 「あぁ、知ってるのと知らないのとじゃあ大違いだ」


 三人が帰還石を確認したのには理由がある。それは、検証ギルドからプレイヤーキルの特性を教えてもらい、帰還石が使えない可能性が高いということを知ったからだ。検証ギルドによると、プレイヤーキルは単独、もしくは非常に小規模のものであるらしい。それが三人パーティーを襲うとなると多少なりとも目標の認識、接近、攻撃の過程を経るため必要があるが、プレイヤー側もただやられるわけではない。攻撃を受ければ応戦をするはずだし、最悪でも一人は帰還石を使って拠点に帰るように立ち回るのが普通である。しかし、プレイヤー間でそういった報告は今まで起きていない。このことから、検証ギルドはプレイヤーキル側が帰還石を使えない状況にさせていると判断し、帰還石がイベントを除き何らかの影響で使えない場合はプレイヤーキルの侵入を受けている可能性が高いという結論を出したのだ。


 「ですが、それほど使う機会がないアイテムに気を配っておくのは集中を削がれるような気がしますね」


 ナオは右手に持った帰還石に視線を向けながら言った。緊急時を除き使う機会が出にくいうえ、かなり値が張る帰還石は装備アイテム欄を一つ潰してしまうため使いにくいというプレイヤーは多い。ハルトとキーンも確かにと言って同意している。


 「とりあえず、目先の危険はないようだからハイ・ゾンビの死体からドロップアイテムを回収しますかね。……その前にこのレバー引いて鉄格子上げなきゃ」


 ハルトがそう言うとキーンとナオは若干嫌そうな顔をする。


 「忘れてたけど、そういやこいつくそ固ぇんだったな。はぁ」


 「そうでしたね、これ引かなきゃ先に進めないんでした……」


 四十秒ほど掛けてようやく鉄格子が上がったのだった。


 三人は彫刻があった交差点まで来ており、あの時は逃げていたのでじっくりと見ることのできていなかった甲冑の人物の彫刻を眺めていた。交差点の真ん中にある高さ二メートルほどの彫刻は大理石のような白身がかかった色つきをしており、風化こそしているものの緻密な模様が浮かび上がっている。背中には背丈ほどの外套を羽織っており、大剣を土台に突き刺し持ち手のところに両手を添えている姿は中世の騎士を想像させる。


 「こういったの検証ギルド好きそうだよな。そういや、調査もしてくれって依頼されてるからスクリーンショットも撮っておくか」


 キーンはそう言うと両手の親指と人差し指で四角を作り、それをいろいろな角度で彫刻の前にかざした。このゲームでのスクリーンショットの撮り方だ。


 「逃げるときはめっちゃ邪魔だったけど、よくよく見て見ると結構しっかりと作りこまれてる。たしかにこういうの好きな人はとことん好きなんだろうな」


 ハルトも感心するように彫刻を見上げている。


 「確かに、凄く細やかですね。若干俯いてるような感じがしてなんかかっこいいです」


 ナオも二人と同じように彫刻を眺め感想を言っている。


 「普段はなかなか気にしないけど、こうやって眺めて見るとこのゲームって本当にしっかり作ってあるよな。小ネタとかはそこそこあるけど致命的なバグや不具合とか今まで見つかってないって言うし」


 「そういや、確かにバグとかはあんまり見ないな。こういったシームレスのゲームは壁抜けとかの手段が必ずといって良いほど出回るもんだが」


 「壁抜け、ですか? なんですかそれ、イメージが沸かないんですが」


 ナオはきょとんとした顔で二人に尋ねる。


 「壁抜けか……、うーん、なんて言ったら良いかな。通り抜けられない壁を魔術やアイテムの押し出しを使って無理やり通り抜けることなんだけど、これは説明するより見たほうが早いかもなぁ」


 「確かに壁抜けは説明しづらいな。しかも、外部へのネットワーク接続ができない現状では動画を見せようにも見せられないし。すまん、悪いがここは我慢してくれ」


 「そういわれると余計見たくなっちゃいますけど、分かりました。また今度ですね」


 ナオは残念そうな顔をしている。しかし、どうしようもない現実のため受け入れざるを得ない。


 ハルトが言った。


 「とりあえず、ここには何も無いみたいだから先に行こう。右ルートは来た道だから左ルートと真ん中のルートとハイ・ゾンビが沸いた場所があるけどどっちへ進む?」


 「まぁ、普通に考えれば真ん中が正ルートだろうから、ここは左だな。ハイ・ゾンビが沸いた地点はマッピングできてるし急いで探索する必要も無いだろう」


 キーンがさも当然のように左を選択した。


 「確か、正ルートより別のルートのほうが良いアイテムや武器が手に入るんでしたよね」


 「お、よく覚えてたなナオ。今回は攻略と調査を兼ねてるからあえて遠回りする必要があるってのもあるが、普通に探索するならそれをしたほうが都合が良い」


 キーンがナオを褒めるとナオはにっこりと笑った。


 「それじゃ、左のルートに行きますか」


 そういって三人は左の道へと動き出したのだった。




 三人はため息を付いていた。それ表情は苦労したというものではなかった。


 「散々歩き回った挙句に行き止まりかい。敵はどれもハイ・ゾンビみたく焼け焦げた死体になってたし、なんだか攻略してる気がしねぇな」


 キーンはそういって腰に手を当て、上を向いた。


 「まぁ、戦わずしてドロップアイテムが手に入ったんだからある意味ではラッキーだけどね。ハイ・ゾンビの素材のおかげで俺は武器を数段強化できるようになったし。まぁ、攻略してる気がしないってのは同意見だけど」


 結果から言うと三人の探索はほぼ徒労に終わっていた。左の道はキーンが言うように道すがら死体が複数転がっているだけでたいしたものは何もなかった。転移水晶が置かれていた場所のようにいくつか部屋を発見はしたものの、やはり朽ち果てた調度品しか見つからず宝箱といったアイテムや重要なものが見つからなかったのだ。


 「ここまで何もないと反動が怖いですね」


 「普通じゃないエリアなのは分かっているけど、やっぱりもっと情報が欲しいな」


 「まぁ、そんなこと言っても出ないもんは仕方ない。とりあえずは戻るか。しっかしこうも入り組んでると地形覚えるのが大変だな。迷路みたいに繋がった場所があったり行き止まりがあったり面倒くさいぜ」


 キーンがそうつぶやいた。


 「そうは言ってもそれほど暗くはないし直線的な通路がほとんどだからまだ覚えやすいほうだと思うけどね」


 ハルトはキーンのつぶやきに反応して答えた。


 「俺はもう大分年食ってるからこういった迷路系はお手上げだ」


 キーンはそういって両肩をすくめる。


 「でも、ハルト君の地形把握は凄いですよ。方向が分からなくなるような森でもマッピングデータを見ないで来た道を往復するだなんて普通じゃできないです」


 「そう、かな。あんまり気にしたことないからそういわれても実感が沸かないんだよね」


 「おいハルト、その言い方はくさいぜ。俺じゃなかったら自慢乙とか言われてるぞ」


 「……草生やしてそうな台詞が浮かんだから今度からは気をつけるよ」


 そして、三人は転移水晶があった部屋へと戻って行き今日の攻略を終えたのだった。



◇◇◇



 「大体こんな感じです。それとスクリーンショットとマッピングデータがこれです」


 キーンはそういってメニューを操作しゼルオス宛にデータを送った。


 「なるほど、分かりました。それでは頂いたデータはこちらで詳しく調べます。新しい情報が得られた場合には皆さんにもお知らせいたします。それにしても初見攻略は分からないことがほとんどですが逆に何もないとなると確かに奇妙ですね。このゲームは難易度こそ高いけれども初見殺しや即死トラップといったものはほとんどありません。しかし、前回のこともあります。できる限り用心していたほうが良いでしょう」


 「検証ギルドのほうで何か進展はありましたか。攻略ギルドの上位層のプレイヤーを調べていると言っていましたが」


 ハルトがゼルオスに尋ねた。


 「現在捜索中です。『フラムの園庭』の攻略安全レベルは三二〇のため、そのレベル以上の該当者を洗っています。レベルを外見で判断するのは難しいためかなり時間が掛かっています。前回もお話しましたが今回のプレイヤーキルを実行している者は単独か非常に小規模のものです。そして、三人を相手にしても勝てるほどの実力を持っています。内密に行わないと犯人がプレイヤーキルを行う手段を見つけ出せないばかりか標的がこちらに移ってしまう可能性もあります。そのため、あまり進んでいないというのが現状です。しかし、死亡したプレイヤーから実行犯が斬撃系統の武器を使っていることはおそらく確定です。そして、それを元に作った容疑者リストがこれです。念のため確認しておいてください」


 そういってゼルオスはメニューを操作すると三人にウインドウを向けた。そして、三人の目線が上から下に掛けて動き始めたとき、突然ハルトの目が一気に開いたかと思ったら、食い入るかのようにウインドウの一点を凝視し始めた。そして、嘘だろと消え入るかのように小さな声でつぶやいた。


 ハルトが凝視する目線の先、そこにはキリクと言う文字があった。つまり、つい先日ちょーさんの店で会ったミョルの名前があったのだ。


 「ちらほらと有名プレイヤーの名前がありますね。ざっと三十人前後といったところですか」


 キーンはそう感想を言った。


 「斬撃系統の武器はかなり多くあります。そのうえ、上位プレイヤーと呼ばれるプレイヤーだけでも千人近くいるのに加え、犯人がかなり徹底した秘密主義を貫いているせいもあり情報が少ない現状ではこれ以上絞るのは厳しいと言わざるを得ません」


 「あ、あのっ!」


 ハルトは動揺を隠しきれない様子でゼルオスに尋ねた。


 「……ここにある名前は、あくまで可能性、なんですよね。確定ではないんですよね」


 「はい、あくまでも可能性です」


 「そうですか……分かりました」


 あからさまに態度が変わっているハルトに対し、キーンとナオは疑問と心配の表情を見せている。しかし、ゼルオスの表情に変化は無い。そして、ゼルオスはウインドウを閉じてこういった。


 「しかし、用心はしておいてください。そして、今のリストに載っていた人物に直接会って話を聞くことも、こちらから指示を出さない限り謹んでください」


 釘をさすかのようにゼルオスはいった。そして、彼は話題を変えるかのように切り出した。


 「それと今回の攻略報酬はこちらです。どうぞお受け取りください。それと、これは前回も言いましたがこのような面談は定期的に行う予定です。しかし、緊急を要するものや今後に関わる重要なものが見つかった場合は皆さんから取り合ってくださっても構いません。皆さんと交わした協定に従って、私達検証ギルドも全力を尽くします」


 そういってゼルオスはアイテムボックスを机の上に三人分取り出した。


 検証ギルドと三人は前の面談のときに、協力するに当たっての協定を結んでいた。内容としては、


・通常攻略に支障のない範囲で古代遺跡内部を攻略、調査をすること。

・攻略を行った際にはスクリーンショットなど記録を残せるものを使い、すばやく情報交換を行うこと。

・攻略を行った際には報酬が発生し、一回の攻略に付き基本金と出来高が上乗せで支払われる。

・三人に対し検証ギルド側がプレイヤーキル及び古代遺跡関連の情報を優先的に与える。

・情報漏えいをしない。


といったもの。もちろん強制力などは存在しない。両者ともに一種の賭けのようなものだ。しかし、これが不思議と上手く成立しているのは、ある意味では奇跡といえるだろう。


 そして、その報酬を受け取って今日の面談は終わった。中身は数枚の貨幣と武具強化の素材だった。


 面談が終わり、検証ギルド本館を出た直後にナオはハルトに声を掛けた。


 「ハルト君、もしかしてさっきのリストに……?」


 「あぁ、うん、キリクの名前があってね。少し動揺しちゃった。多分、ゼルオスさんもそれに気が付いたから、ああやって釘をさすようなことを言ったんだと思う」


 ハルトは落ち着いたような素振りをして答えた。


 「キリクさんって、確かこの前の食事のときに会ったあの人ですよね。大丈夫ですよ、あんなに気さくな人が犯人なはずないですよ」


 ナオは確信しているかのように語気を強めて言った。そして、ハルトも頷きながらこういった。


 「いや、まぁ確かにその通りだ。あいつはそこそこ人気があるし、あんな性格してるから普通に考えればありえないんだけど。だけど、短い間とはいえ、一緒に苦楽を共にしてきた人が容疑者かもしれないっていうのはどうしても、ね」


 ナオはそうですかといって少し目線を下に向け、それ以上何も言わなかった。


 気まずい雰囲気になりつつあったのでそれを変えるためにかハルトは切り出すように言った。


 「そういえば、おじさんがずいぶんと遅いけどどうしたのかな? 何か言ってた?」


 「えぇ、確か、少し話したいことがあるからしばらく待っていてくれって言ってました」


 「そう、なら待ってようか」


 変わることの無かった気まずい雰囲気の中、二人が待っていると待っているとキーンがすまないといって建物から出てきた。


 ハルトが何してたのと尋ねたが、キーンはドヤ顔で教えないと親指を立てながら返事をしはぐらかし続けたため、結局彼が何をしていたのかは分からないままだった。




 二日後、三人は再び古代遺跡内部にいた。今日は前回探索できなかった。三叉路の真ん中の道を攻略するためだ。


 「やっぱり、死体は消えてるよな。前回のあれは本当になんだったんだ?」


 ハルトは何も無くなった薄暗い通路を見渡しながらいった。この前までは場所によって所狭しとあったハイ・ゾンビの死体が綺麗になくなっており、かなり歩きやすくなっている。


 「まぁ、見たいようなもんでもないから、消えてくれてありがたくはあるけどな」


 「でも、消えてるってことはリスポーンしてるってことですよね。一応、高級解毒薬は持っておいたほうがよさそうです」


 「あぁ、とりあえず今まで以上に用心して進もう」


 ハルトがそういって三人は攻略を開始した。


 音はエリア攻略において重要となる場合がある。ブーツを履いていたり金属鎧を着て動いたりすると敵味方問わず音が鳴る。敵によってはこの音に敏感に反応し奇襲を仕掛けてきたりするため反面、敵の足音を察知して逆に急襲するといったこともできる。音を鳴らさないためにはゆっくり動いたり、防具を変えたりして対策ができるが、音を聞き取るとなるとプレイヤーに依存してしまう。いわゆるプレイヤースキルとなってプレイヤーの前に立ちはだかるのだ。無くても攻略に支障はないが、それができる、できないで攻略速度と安全性に少しずつ変化が出てくる。それが現在の上位層と中間層の決定的な違いといえるだろう。


 三人は脳筋であり接近戦を得意としているため音には敏感なほうだ。遠くから迫る魔術を避けられない限り、下手をすると死んでしまう可能性があるからだ。


 交差点に至るまで三人は何度も立ち止まり周囲の音を確認するような仕草をしていた。面倒なことだが安全を確保するなら安い行動と理解しているからだ。しかし、このときの三人の表情には何とも言えない不安がちらついていた。前回以上に音がなかったからだ。


 「この前は風が抜ける程度の音はしてたのに、今回はそれすら聞こえない。前回以上に不気味だ」


 ハルトがつぶやいた言葉は通路内に反響していく。


 「ハルト、あんまり喋るな。音が聞こえなくなる」


 彫刻がある交差点前の曲がり角で大盾を構え、周囲の音に耳を澄ませているキーンはハルトのつぶやきにすぐさま反応し、ハルトのほうを向いて鼻に人差し指をやった。


 ハルトは顔の前で手刀を切り、悪いと唇を動かした。


 しばらくすると、キーンは右手で合図を二人に送った。その合図で三人は一気に交差点に進入し三方向を確認する。


 「前方クリア」


 「左もクリア」


 「右クリアです」


 三人がそれぞれそう言うと盾を構えたままではあるものの、安心した雰囲気が三人の間で流れた。そして、キーンが言った。


 「もう大丈夫だろう。しっかし、毎回これをやるのは流石に面倒だな」


 「しょうがない、新エリア攻略なんて皆でまともにやったこと無いんだから」


 「でも、常に最前線を攻略しているプレイヤーは毎回これをやっているって言うんですから本当に凄いですよね」


 ナオが遠い目をしている。


 「最前線のプレイヤーは別格。あの人たちは頭の中どうかしてるレベルだから比べたらだめ。まぁ、ほとんどは悪い人たちじゃないんだけどね」


 ハルトはフォローになっているのか怪しい台詞をナオに言った。しかし、ハルトの言うことは本当で、最前線のプレイヤーは――いい意味で――本当におかしい人たちの集まりなのだ。


 キーンが先ほど面倒といった行為を嬉々としてやったり、新しく発見されたエリアを一日掛けずに踏破したり、視界が非常に悪くなり敵も強くなる夜に攻略をしたりと普通ならするはずのないことやできないようなことをやってしまう人たちと言ったら分かりやすいだろう。


 そして、彼らがおかしい人たちの集まりであることが発覚した事例として有名になった事件がある。それはエリアボスタイムのアタック動画だ。


 このゲームは撮影用アイテムを装備することで動画を撮ることができるのだが、動画を撮っているプレイヤーは両手にアイテムを持っている状態になるため戦闘に参加できなくなるという仕様になっている。そのため、動画を撮るためには一人撮影役、残り二人は戦闘やその他ということになり、いつもできていた連携や役割ができなくなり非常に面倒くさい。そのうえ、一人は撮影役という完全にお荷物状態となり更に具合が悪くなるのである。


 そんな状態になるにも拘らず、すでに攻略されたボスとはいえ二人で倒してしまった挙句にタイムアタックである。そんな動画がゲーム内掲示板に投稿されたときの衝撃は今でも伝説として語られている始末だ。しかし、彼らが撮影をしたおかげでボス攻略が楽になっているため誰も彼らを咎めることはしない。


 「でも、キリクさんはそんな感じに見えませんでしたよ」


 「あいつはかなりマシな方だよ。……それよりナオ、ミョルに会ってしまったのか。はぁ、あいつは女好きだからあんまり会わせたくなかったんだけどな」


 キーンは頭を抱えるようにして言った。


 「ごめん、おじさん。成り行きでうっかり会ってしまったんだ」


 「まぁ会っちまったもんはしょうがない。とりあえず、ナオあいつはかなりアプローチを掛けてくるかもしれんから気をつけておけよ」


 「は、はい、わかりました」


 ナオは微妙に納得がいってない表情を浮かべているがとりあえず返事をするのだった。


 「じゃ、気を取り直して真ん中のルートに行くか」


 キーンはいった。




 三人がその扉を見つけたのは昼食を済ませた直後だった。高さは約三メートル、横幅二メートルほどの長方形の木製の扉には朽ち果てたような形跡がほとんど残っておらず、むしろ非常に綺麗なまま残っている。見た目は非常に丁寧に作りこまれており、扉だけでなく手のひらサイズの取っ手部分にも細やかな彫刻が彫られ見事な装飾として出来上がっていた。それでいて通路の淡い光を鈍く反射する扉はとても分厚そうで、ナオが持つハンマーで殴ったくらいではたいした傷が付かないほど頑丈そうに見える。もっとも、これほど丁寧な装飾が施された扉を壊そうとする者は早々いないだろうが。朽ち果てた遺跡内部の空間の中で異質なものとして現れているこの扉はまるでそこだけ時間が止まっているかのように取り付けられており、明らかにこの先には何かあることを匂わせていた。


 「大本命がようやく来たな。どう考えてもこの先に何かあるだろ」


 扉を見上げながらキーンが言った。


 「むしろこんな立派なものの先に何も無いほうが凄いけどね。肩透かしにも程がある」


 「でも、今まで見てきた部屋は全部そうでしたよ。あんまり期待しないほうが……」


 ハルトの言葉にナオがそういった。実は三人は真ん中のルートを攻略している際、前回同様敵と全く戦闘に入らず、かつアイテムなど有用なものを手に入れられていないのだ。前回はなぜか死体になっていた敵からアイテムを頂戴できたが今回はそれすらない。完全に徒労状態なのだ。


 そんなことが続いてしまったためか、ナオはすっかり疑心暗鬼になっている。


 「まぁ、とりあえず開けて見ようか。よっ……!」


 ハルトはそう言うと、両手を扉にあて思いっきり押した。するとギギィという扉と地面が軋む音が通路に響き渡り、扉の奥の様子があらわになった。


 一言で言うと、そこは教会の会堂のようだった。広さは二十五メートルプール四つ分ほどで、天井は十五メートルくらいあり非常に高く、前に見たドーム上のような作りをしている。また、天井にはヨーロッパのシスティーナ礼拝堂にある天井画のように、背中から白い羽が生えた人物と茶色いターバンを顔に巻いた人物が天を仰ぎ見ながら祈りを捧げている様子が描かれていた。足元は正方形の石畳に変わっており、設置された長いすが扉から奥に向かって何列にも連なっている。しかし、教会にあるようなステンドグラスや十字架といったものは見当たらず、何が信奉されているのかは見当が付かない。壁付近には通路にあった燭台がいくつか設けられており、淡い光によって会堂を照らしていた。そのため、それほど暗いという印象は受けない。そして、最も目に付きやすいのが会堂の真ん中から天井を貫いている一本の大きな柱だ。象牙のような白さを持つその柱は金細工と思われる装飾が施され、燭台の光を反射し美しく幻想的である。


 三人はいきなり変わり果てたその光景に唖然としていた。その光景に見とれてかナオは思わず「綺麗……」とつぶやいていた。


 そして、吸い込まれるように会堂に足を踏み入れた三人は真ん中にある柱の手前の椅子に誰かが座っているのに気が付いた。


 その人物は柱と同じくらいの真っ白なヘルムを被っていた。対照的に肩から背中に伸びているマントは酸化した血のように赤黒く染まっており統一感が見られない。そして、祈っているのか俯いているのか分からない人物はゆっくりと三人に振り返るとくぐもった声でこうつぶやいた。


 「巡礼者か……、もう来ないものかと思っていた……」


ハルトのメイン武器


武器種:大槍

名前:灰戦士の大槍

 灰に塗れた戦士が愛用していた大槍。火炎などから受けるダメージを少し軽減する。

 灰は不吉を象徴する。灰に塗れながらこれを振るった戦士は不吉を体現したものであるのかもしれないが、彼がどういう生き様をしていたのかを知る者はもういなくなってしまった。

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