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Hollow Altar online  作者: 774のもち
第二章
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14・重なり

 翌日。三人は検証ギルドを訪れていた。防衛に参加してくれたお礼とちょっとした話があるということだった。


 いつも隣にいるマーヤはいない。どうやら他の用事があるとのこと。


 静まり返った部屋の中でゼルオスは口火を切った。


 「先日は協力いただきありがとうございました。おかげで被害を大きく軽減することができました。巷ではゴートマン襲撃事件と叫ばれていますが、そう楽観して言えるのも皆さんのおかげです」


 ゼルオスはそう言ってお礼の品を三人に配布した。


 「ゴートマン襲撃事件ですか。確か海外の未確認生物の名前でしたよね。俺たちは山羊頭って呼んでましたけど」


 ハルトはお礼の品を受け取りながらそう反応そう示した。


 「掲示板ではゴートマンの名前が主流ですね。おそらく最初に書き込んだ人がそう呼んだからなんでしょう。最前線の人たちは山羊頭と呼んでいましたから攻略した人で違いがあるのかもしれません。それでは本題に入りますね」


 ゼルオスは小さく咳き込むとこういった。


 「我々検証ギルドでは今回の事件。ゴートマン襲撃事件の主犯に関して、ゲーム事情に詳しい人物の犯行だと考えています。ゲーム事情といっても我々検証ギルドのようにプレイヤー目線ではなく、いわゆる開発者目線で詳しい人物だと考えられます」


 「もしそうだとしたら随分と物騒な話に聞こえるんですが……」


 キーンは厳しさを含んだ表情を浮かべた。


 「それってつまり、運営側の人間がプレイヤーに害をなしたってことになりますよね」


 ハルトはそう言った。


 「はい。そうなります」


 ゲームが始まった当初、運営サイドの人間がプレイヤーの中に絶対いるはずだということで、魔女狩りならぬ運営狩りが行われたことがあった。結果として、そのようなプレイヤーは出てこなかったのだが、運営側が大きく糾弾されたのは事実として残った。現在でも運営に対して不満を持っているプレイヤーは多く存在し、水面下で燻ぶりを見せている。


 「なら、その犯人を見つけられれば……」


 「あくまで仮説の域を出ませんが、有益な情報を持っている可能性はあると思います」


 「犯人捜しですか。確か検証ギルドは警察としての側面を持つつもりはないと記憶していますが」


 キーンはそう言った。


 「確かに、警察としての側面を私たちは求めていません。ですから、この件に関しては攻略ギルドが指揮権を持つことになります。私たちはあくまで情報を提供するだけです」


 「ふむ、プレイヤーキルの件で検証ギルドは攻略ギルドに疑念を抱いていましたね。こういっては何ですが攻略ギルドに全て任せてしまっても大丈夫なのでしょうか」


 キーンはそう疑問を呈した。


 「ええ、調査により関連性はないと断定できました。攻略ギルドに疑問を持つ必要性はもうなくなったところです」


 「そう、なんですか」


 ハルトはそう言った。


 「しかし、結局プレイヤーキルとは一体何だったのか未だ釈然としません。あまりにも突発的に発生し、皆さんのおかげでなんとか終わりを迎えた。犯人の目的も犯行手段も結局のところ少しの情報を得ただけで寸断されてしまいその他の情報も行方知らず。現在では攻略ギルドと連携して皆さんから教えてもらった対策案を全プレイヤーに広めようとしているところですが……いかんせん腑に落ちませんね」


 ナオが口を開いた。


 「攻略ギルドは今回のゴートマン襲撃事件についてなんて言っているんですか」


 「攻略ギルド全体の意見として、今回の件は許しがたいものだと言っていました。ハロウィンイベントに起こった無差別殺傷事件ですからね。拠点内が安全な場所だと錯覚していた我々にも責任がありますが、犯行が卑劣極まりないことは確かです」


 「今後もこのようなことが起きるんでしょうか」


 ナオは不安そうな顔をしながらそう言った。


 「現状では何とも……。しかし、何かしらの対策を立てなくてはならないでしょうね」


 結局、禍根を残したままその日の話し合いは終わった。




 三人が帰ろうとしていた時だった。エルから着信があった。


 『重要な話がある。今すぐ来てほしい』


 エルはそのことだけ言うとすぐに通話を切ってしまった。


 「なんだか、焦っているような感じでしたね。何かあったんでしょうか」


 ナオはエルの口調からそう判断したようだった。


 普段のエルは確かにさっさと用事を済ませようとするため言葉短めだが、今回はそうではなく明らかに何かしらの意図があってそうした感じがあった。


 「分からないけど、何か思いついたのかもしれないね。妙な事件の次はエルからの急な呼び出しか……。なんだか最近やけに忙しく感じるなぁ」


 ハルトは凝り固まった体をほぐすかのように背伸びしながらそう言った。若干だが、面倒くさそうな様子だ。


 「エルが今回みたく切羽詰まることはあまりなかったから俺は気がかりだ。こういうことって大抵はあまりよろしくないことが告げられるのがオチだが、どうなることやら。とりあえず行ってみるか」


 キーンがそう言うとハルトとナオは軽く頷いた。そして、やや足早に転移水晶へと足を運んだのだった。




 「あ、ニーラがいる。ニーラもエルに呼ばれたのかな?」


 「ニーラさん、こんにちは。ニーラさんもエルさんに呼ばれたんですか?」


 ハルトがニーラを見つけるとナオはニーラに駆け寄り声をかけた。


 会堂の巨大な柱の前でぽつんと立っていたニーラはナオに声を掛けられたのに気が付くと軽く右手を上げた。


 「うん。皆さんもエルさんに呼ばれたんだね。急ぎの用だとか何とか言ってたのでほとんど手ぶらだけど」


 ニーラは両手をぶらぶらと揺らした。


 「それにしても、呼び出した本人はどこにいるんだ?」


 キーンはそう言いながら周囲を見渡した。確かにエルの姿はどこにもない。


 そのとき、会堂に声が響いた。エルの声だった。声のする方へ四人が顔を向けると、空間が歪んだ場所があり、そこからぬっと体を差し込む形でエルが現れた。


 「思案に耽っていたら貴公らの来訪を見逃していた。すまない。さて、いろいろと話したいことがあって貴公らを呼んだ。要点は二つだ。一つは『血の使徒』の誓約とグロリアとの関連性。もう一つはニュード……今はカリムか。まぁどっちでもよいのだが、奴が行方をくらましたことについてだ」


 「『血の使徒』の誓約と……グロリア? すまない、話が全く分からんのだが」


 血の使徒までは分かるのだが、その後に来たグロリアという単語との関連性が分からない様子だ。


 クエスチョンマークを頭上に浮かべる三人と相反してニーラは驚きを隠せない様子だった。


 「えっ! 師匠が! そんな、行方をくらますって何があったの!」


 「そうだな、まずはカリムの件から話すとしよう。カリムには、ここから離れる際にあるものを託した。奴がそれを持ち続ける限り、奴がどこにいるかおおよそ把握できたり連絡を取れたりそういう代物だ。決して奴が心配だから持たせたとかそういうのではないが……それがつい先日壊れたのだ。肌身離さず持ち歩くように言ったそれが壊れるとはすなわち何者かに襲撃されたと言っていい」


 「そんな……最強である師匠が襲撃されるなんて……」


 ニーラはエルの話した内容をにわかに信じられない様子だ。


 ニーラは続けて言った。


 「師匠はどこで消息を絶ったんだろう。私、師匠を助けに行く。師匠は……私の父親のような存在だから、何としても見つけたいの」


 ニーラはそう強く言い放った。


 「まぁ、待て。貴公がカリムと親しくしているのはこの前の話で嫌というほど伝わった。正直私としても、親愛なるカリムが誰かに襲撃されたなどと聞いて心底煮えくり返るものがある。だが、襲撃した相手が悪い。今から話す、グロリアとの関連性だ」


 「つまり、ニーラの件と俺たちの件が繋がっているということか?」


 キーンはそう解釈した。確かにそうでなければニーラを一緒に呼ぶ必要がない。ここで別に対応すればいい話なのだ。それなのに一緒に話をしているということは何かしら繋がりがあると考えるのが妥当だ。


エルもそうだとばかりに頷いた。


 「貴公らが血の使徒の従者を倒した時、不気味な仮面を私に渡したと思うが、あれの誓約主に思い当たる点がある。グロリアとはその者の名前だ。グロリアはおとぎ話の中では月のような冷たいお方と書いてあったはずだが、貴公らは知っているか?」


 月のような冷たいお方という単語がエルの口から出た時、三人は何かを思い出した顔をした。


 「知ってる。カリムから聞いた昔話の中に出てきた人だ」


 ハルトはそう言った。


 「そうか、奴から話を聞いていたのか。それなら話は早い。グロリアという女性は日の光のような明るいお方サムソンを守るために親衛隊を組んでいた。親衛隊自体はもう残っていないだろうが彼女自身はまだどこかにいて誓約主として力を潜めている可能性がある。その証左に貴公らが話していた内容で鏡のすり替えという話があっただろう。彼女は物をすり替えて相手を欺くという手段を好んで使っていた。彼女と直接誓約を結んだ誰かが貴公らの仲間内にいるとすれば辻褄があう」


 「でも、血の使徒とそれにどう関係があるんだ? それだけだとゴートマン襲撃事件の内容しか話が合わなくなるんだが」


 キーンは内容の噛み合わなさに疑問を呈した。


 「ここに来た血の使徒の従者を思い出すのだ。奴は誓約関係がかなり深い段階まで達していた。おそらくだが、グロリアの筋書きからすればこちらが本命であったのだろう。誓約関係が深いほどそれ相応に力が高まっていく上に、血の使徒の本来の姿は隠密。何かしらことを成すには最も適している。しかし、貴公らの活躍により本命が倒されてしまった。本命が倒されてしまい苦渋の決断を迫られた彼女は、何かしらの目的を遂げるために大胆な行動である拠点の襲撃という行動をとったのだ」


 「つまり、グロリアという親玉が何かの目的のために血の使徒や山羊頭を使って俺たちにちょっかいを出しているということでいいのか?」


 キーンが言った言葉に何か引っかかったハルトは小さくつぶやく。


 「グロリアが血の使徒の親玉……なら、ちょーさんは……」


 ハルトは解きかけのパズルのピースがはまったかのような素振りを見せた。だが、その思考はエルの声によって引き戻された。


 「簡単に言えばそうだ。それとグロリアとカリムの関連性だが、カリムが不死であるということは知っているか?」


 「えぇ、本人から直接聞きました。そのせいか随分苦労なさったことも話してくれました」


 ナオはその時の情景を思い浮かべるかのように言った。だが、一人だけ反応が違う者がいた。


 「えーーっ! そうだったの!? 確かに老けないなぁとは思ってたけど……。まさか、本当にそうだったとは」


 ニーラは師匠の本来の姿の一片を知り、驚きと知らされなかったことに関する落ち込みとが混じりあった表情をした。


 そして、頭を抱えるとぼそぼそと何かを唱えるかのように独り言を始めるのだった。まるで、思い当たる節々を思い出しているようだった。


 「……不死であると同時に奴自身の出生に関しても謎が多い。誰もいなくなったはずの北の地からやってきたり、記憶を失っていたり、誰も教えていないのに武術ができたりと、まぁ数えればきりがない。それほど謎に満ちている。そんな奴を襲撃しできる相手など人間相手にはいない。いるとすれば、私のように人間を捨てた者か、それこそかつての絶対者のお二方以外にない。しかし、人間を捨てたものはその土地に縛り付けられる性質があるためそれは除外される。となれば、残るは絶対者のお二方のみ。しかし、日の光のような明るいお方サムソンはもうこの世界にいない。そうなれば、残されたのは月のような冷たいお方であるグロリアしかいないのだ」


 「なるほど。よく分かったけど……人間を捨てた? 何かあったの?」


 ハルトはエルのその発言に疑問の色を見せた。


 「私はな、北の地から南下してくる人形を防ぐためにこの大断裂と大聖堂を築き上げた……人柱なのだよ」


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