13・強敵
三人としても本当は戦いたくはなかったはずだ。しかし、動きの素早い巨体の山羊頭から逃げるのは難しく、また、三人の視界の下部にボスの体力バーが現れたことで状況が一変してしまった。
ここで退却してしまったら、レベルの低い一般プレイヤーと巨体の山羊頭がぶつかることとなる。そうなればどれだけの被害が出るか分かったものではない。
幸いなことに、周りの通常の山羊頭はボスである巨体の山羊頭が登場してから動く気配を見せない。若干不気味だが、ある意味一騎打ちで巨体の山羊頭を仕留められるチャンスでもある。
それを理解したうえで三人は戦闘に臨んだのだろう。
巨体の山羊頭の振り回す大鉈を、ハルトはギリギリのところでかわした。しかし、攻撃に移る気配はない。まるで、相手の攻撃パターンを確認している様子だ。
ボス攻略の基本として相手の行動パターンを把握するというものがある。いつ、どのタイミングで何の攻撃を放つのか把握できれば、回避や防御、攻撃のタイミングを掴みやすくなるからだ。
特に初見のボスとなればこの行動が必須になってくる。そのためか三人は迂闊な攻撃をほとんどせず回避と防御に専念していた。
そして、回避に専念すること約一、二分。ハルトは叫んだ。
「よし、攻撃に移ろう! 相手の攻撃はそこらの雑魚と大差ない。しっかり一撃を回避してから叩き込むぞ!」
「了解!」
「分かりました!」
ハルトはわざと巨体の山羊頭の前に盾を構えることなく立ち尽くした。相手の攻撃を誘い、回避した後に攻撃を叩きこむつもりなのだろう。
それに目ざとく反応した巨体の山羊頭は大鉈を両手で持って力任せに振り下ろす。
ガキィィンと大鉈と地面がぶつかり合う音が周囲に響いた。
大鉈を危なげなく避けたハルトはがら空きの胴体に一番槍を突き出す。
ズブリと大槍が胴体に刺さった。
しかし、ハルトは何故か驚きの表情を浮かべていた。
「ダメージが入ってないだと!?」
どういう訳かボスの体力バーは一ドットすら減っていなかったのだ。
「くそっ! それならもういっちょ!」
ハルトは突き刺した大槍をすぐさま引き抜くと、それを薙ぎ払うようにしてもう一度攻撃をする。
大槍は胴体に直撃した。しかし、またしても体力バーは減らなかった。
「ハルト! 躍起になるな!」
キーンがハルトに向かってそう叫ぶと同時に巨体の山羊頭はハルトに向かってボディブローを繰り出した。
攻撃を二回繰り出したことにより反応が遅れてしまったハルトはそのボディブローをもろに受けてしまい二メートルほど吹き飛ばされた。
「がはっ……!」
背中から地面に叩きつけられたハルトを巨体の山羊頭は見逃さなかった。ジャンプしてからの兜割をハルトに向けて繰り出した。
仰向け状態のハルトは回避することが無理だと判断し、持っていた大槍を体の前に構えた。
ガキィィンと大鉈と大槍がぶつかり合う音が響いた。
「ぐ、くそ……! この馬鹿力野郎……っ!」
ギチギチと大鉈と大槍が軋む音がハルトと巨体の山羊頭の間で響く。
マウントを取られているハルトは抜け出すのが困難であった。
そこへナオがハンマーを構え突撃してきた。そして、巨体の山羊頭のどてっ腹を思いきり殴りつけた。
すると、先ほどとは違い巨体の山羊頭はうずくまるように怯んだかと思うと、体力バーが一割弱減った。
「大丈夫ですか!」
ナオはハルトを救助するとそう叫んだ。
「悪い、調子に乗った。でも、今体力バーが減ったよな……」
「おそらく、何かしらの特殊なスキルがあるんだと思います。今はキーンさんがボスと戦闘してますから早く体力を」
「特殊スキルか……。厄介だな」
ハルトは小さな輝石を握り潰しながらそう言った。
その時、キーンが叫んだ。
「分からんうちはヒットアンドアウェイだ。一発殴ったら回避を繰り返せ!」
キーンはそう言いながら大剣を薙ぎ払い攻撃を当てた。しかし、体力バーは依然として減らない。
「ちっ! どうなってんだこいつは!」
キーンも攻撃を盾で受け止めながら悪態をついた。
「キーンさん、加勢します!」
ナオがキーンの後ろから現れ、振りかぶったハンマーを巨体の山羊頭に殴りつけた。
だが、先ほどとは違い巨体の山羊頭は仰け反らず、体力バーも減らない。
すると、巨体の山羊頭は突然咆哮を放ち、大鉈を両手持ちにした。そして、目の前にいる二人に対して大鉈を思い切り薙いだ。
ごうっという風を切る音が響いたが二人はしゃがんで難なく回避する。
ハルトは叫んだ。
「さっきみたいに体術を使うかもしれない! 一旦離れろ!」
しかし、そう言い終わる間もなく巨体の山羊頭は右膝を抱え込むようにしたかと思うと突破蹴り、いわゆるヤクザキックをキーンに向けて繰り出した。
キーンは咄嗟に盾を構えたが、かなりの威力であったようで一メートルほどノックバックした。
「ぐぅ……。野郎、なかなか良い蹴りしてやがるじゃねぇか」
キーンはそう言いながら後退する。
だが、キーンの後退を許さないかのように、巨体の山羊頭はキーンに向かって猛攻を繰り出した。がむしゃらに振り回される大鉈をキーンは的確に防御するが、攻略の糸口はいまだつかめないままだ。
しかし、キーンに意識を向けすぎた巨体の山羊頭は背中側ががら空きとなった。ハルトとナオはキーンを餌にして背後からの攻撃を試みた。
ハルトの大槍が先に首元に当たり、その後にナオのハンマーが胴体に直撃した。
すると、今度はハルトの大槍が当たった際に仰け反りとダメージが発生し、二割ほど体力バーが減った。そして、ナオの攻撃は効いていなかった。
しかし、今の反応で何かにピンときた顔を浮かべたハルトは一つこう叫んだ。
「三撃目だ! 三撃目だけ攻撃が通ってる! 次の攻撃を牽制でも何でもいいから当てて、三撃目に渾身の一発を当ててみよう!」
「三撃目だな、分かった。とりあえずそれでいくぞ!」
「分かりました!」
キーンとナオはそう返事をすると盾を構えながら巨体の山羊頭の前に立った。そして、相手の攻撃を誘った。
巨体の山羊頭はその誘いに見事に乗り、大鉈をがむしゃらに振り回した。
しかし、その攻撃は何度も見てきた攻撃。キーンとナオは盾をうまく扱ってそれを捌き切った。そして、キーンが一発だけ大剣で攻撃した。
がむしゃらに振り回している間の背中はやはり無防備だ。ハルトは先ほどと同じ要領で首元に大槍を突き刺す。
すると、ハルトが睨んだ通り巨体の山羊頭は甲高い悲鳴を上げながら怯み、体力バーがさらに二割ほど減った。
「よっし、ビンゴ! 怯んでいるうちにもう一回行くぞ!」
「おおっ!」
「はいっ!」
三人は怯んだ巨体の山羊頭をタコ殴りし始めた。すると、面白いことに怯んでいる最中に再び怯みが発生したではないか。
どうやら怯んでいる最中にもう三撃目を当てられれば、追加で怯みが発生するらしい。
そして、巨体の山羊頭は抵抗する暇もなく呆気なく沈んだ。
「意外と呆気なかったですね」
ナオはそうつぶやいた。
「種さえ分かればどうってことなかったな」
キーンも同じように感想を言った。
しかし、ハルトは警戒の色を示したままだった。
「まずい。周りの山羊頭が俺たちを取り囲んでる。流石に十数体も相手になんてできないぞ」
巨体の山羊頭を倒したためか、周りにいた山羊頭たちが三人に近づいてきていた。それと同時に逃がさないかのように取り囲んでいる。加えて、タナトゥー通りに戻る通路を通せんぼする形でだ。
キーンとナオも周りを見渡して表情が一変した。まずい状況になったとようやく気が付いたのだ。
「おいおいどうすんだよ、これ……」
「取り囲まれる前に強引に突破する。……それしか方法がない」
「マジかよ……」
「やるしかなさそうですね」
三人がハルトの言葉通りにしようとした矢先だった。
轟音が鳴った。
防衛拠点が置かれている通路側から突然大きな爆発が起きたのだ。相当ド派手な魔術を使ったようで爆心地周辺にはいくつもの山羊頭の残骸が散らばることとなった。
そして、燃え盛る炎の中を歩く者たちがいた。
ハルトが言葉を口にした。
「最前線のメンバー!?」
拠点が襲撃されたという情報を耳にした最前線のメンバーがようやく駆け付けたのだ。彼らをよく見るとこっちへ来いと手招きしている。どうやらなかなか戻らない三人を救助するために駆け付けたようだ。
「助かった! 今がチャンスだ!」
キーンがそう言うとハルトとナオも頷き一気に駆け出し、なんとか九死に一生を得るのだった。




