11・火種
今回は少し短いです。
「まさか、そんなことないですよ」
ナオはパタパタと手を振って否定した。
しかし、ハルトはそんな否定を無視してナオが持つハンマーをじっと見ながら尋ねた。
「なら、そのハンマーのフレーバーテキストに何が書いてあったか教えてくれないか」
「フレーバーテキスト? そういえば性能ばかりに目が行って確まだ読んでませんでした。ちょっと見てみますね」
ナオはそう言うとメニューを開いてハンマーのフレーバーテキストを読み始めた。すると、目線が下に行くにつれてあからさまに動揺が目立ち始め、ハルトに目線を戻したころには泣きそうな目になっていた。
「ハルト君……。確かにこれ、転移系統を阻害するって書いてあります。ど、ど、どうしましょう!?」
「と、とりあえず、一旦落ち着こう。はい、深呼吸!」
二人がそんなことをやっていると、事態を知らないキーンがメニューを開きながら二人の下へと歩いてきた。
キーンは言った。
「なんか掲示板に敵が侵入してきたって話題になってるけど、ハルト、最前線のメンバーからなんか聞いてないか」
「えっ、何それ。初耳なんだけど」
ハルトはそう言うとメニューを開いてゲーム内掲示板にアクセスした。すると、拠点内で山羊頭の敵が暴れている動画がアップされていた。
それも単独ではなく複数。いたずらにしては手が込みすぎている。
何か嫌な予感がしたのか、ハルトは情報の正確さに信頼をおける検証ギルドのゼルオスへと連絡をした。
「もしもし、ハルトです。忙しいところすみません。掲示板で拠点に敵が侵入したとあったんですが、何かあったんですか?」
『おぉ! ハルトさん。ちょうどよかった。こちらも皆さんに連絡しようと思っていたところでしたから。三人集まっているなら残りの二人にも私の声が届くようスピーカーにしてください』
「分かりました。ちょっと待ってください。――ゼルオスさんと連絡取れたからスピーカーにするね」
キーンとナオは何事かと思いゼルオスの発言を待った。
『単刀直入に言えば掲示板で騒がれている通りです。拠点に敵が侵入し、多くのプレイヤーに危害を加えています。現在、前線を攻略しているプレイヤーに呼び掛けて防衛線を張っているところなのですが、いかんせん集まりが悪い。このままだと防衛線を突破されてさらに被害が拡大しそうなんです。どうか、皆さんも協力してはくれませんか』
ゼルオスの口調は切羽詰まっている様子だった。
「まさか、本当だったのか……」
「絶対安全であるはずの拠点が襲撃されるなんて……」
キーンとナオは信じられないとばかりにつぶやいた。
拠点は周辺を高い城壁に囲まれ完全に孤立した環境となっている。それゆえに城壁の扉でも全開にしない限り敵など侵入しようがないのだ。現に今までそういったことは一度たりとも起こっていない。
それだのに敵は拠点内に侵入した。どんな手段を使っているのか奇妙不可解なことこの上ない。
しかし、ハルトは何か心当たりがあるようでゼルオスにこう尋ねた。
「あの、もしかして拠点転移用の鏡から敵が出現したりしてませんか?」
『え? えぇ。そうです。しかし、よく分かりましたね。……もしかして、何か情報を持っているんですか』
ゼルオスはハルトの鋭い質問に驚きながらも何かを察した様子だった。
「実は絶対割れない事件で使われたと思われる凶器を発見……というか手に入れまして、もしかしたら関係があると思ったんです」
『……なるほど。今の発言で納得がいきました。今回の敵の侵入はおそらく絶対割れない事件ですり替えられた鏡が原因でしょう』
絶対割れない事件は拠点転移用の鏡が割れた事件。そして、その復旧のため新しい拠点転移用の鏡が用意された。ハルトとゼルオスが睨んだのはこのすり替えられた鏡になる。すり替えられた鏡が偽物であるなら、この事態の辻褄が合うのだ。
ハルトは言った。
「つまり、何者かが意図してこの状況を作ったことになる……」
『そうです。絶対割れない事件は今回の騒動を引き起こすための前準備だった可能性が非常に高い。何者かが暗躍しているのは間違いないと言えるでしょう』
「何者かねぇ……。何がしたいのか理解ができないうえに、ログアウトと敵を招き入れることとの因果関係も見当たらない。全く謎すぎるぞ」
キーンは頭をガシガシと掻きながらそう言った。
『それについてはいろいろと議論されそうですが、今はとにかく敵の侵攻を防ぐ手立てを考えなくてはなりません。犯人が使ったとされる凶器が手元にある以上、我々ができる行動は一つです。防衛線を一気に押し上げ、敵の侵攻が緩んだ隙に皆さんが敵陣を突破し、すり替えられた鏡を破壊する。皆さん協力してくれますよね』
敵の数が増える前に元凶を叩かなくては防衛線を突破される可能性もある。ナオの持つハンマーが転移系統を阻害するものである以上、最優先はすり替えられた鏡の破壊となるのは明白だった。
「分かりました。今すぐそちらに向かいます。――二人も大丈夫だよね?」
「拠点を壊されるわけにもいかないからな。やるしかねぇだろ」
「頭がこんがらがりそうですけど、私も協力します」
『助かります。敵の発生している鏡は人民区のトルダス広場です。防衛拠点はその手前にあるタナトゥー通り。詳しい話は防衛拠点でしましょう。それでは』
ゼルオスはそう言うと通話を切った。
「とんでもない事態になったな」
キーンが感想を言った。
「襲撃されるだなんて誰も予想してなかったから、対応が遅れがちになってるんでしょうか?」
ハルトはナオが言ったことに頷きながらこういった。
「それもある。だけど、一番の原因は敵の強さだと思う。あの山羊頭は現在の攻略ルートから大きく外れた場所にあるエリアの敵。しかも攻略推奨レベルは二五〇。一般的なプレイヤーの二〇〇前半を軽く超えてる。現状の防衛線の戦闘力だと骨が折れる程度じゃ済まない。死者が出てもおかしくはないぞ」
ゼルオスの口調は焦りが見えていた。ハルトの分析が正しいとするならば戦線が押され始めているのにも納得がいく。
「とりあえず、今は防衛拠点に急ごう。それとナオ、俺たちが全力でサポートする。だから安心して鏡を破壊してくれ」
「あぁ、俺たちに任せとけ」
ハルトとキーンは自分の得意とする武器を構えナオにそう言った。
「はい、わかりました。私、頑張ります!」
ナオはそう言うと手に持ったハンマーの柄をぎゅっと固く握りしめた。ナオも気合十分といったところだ。
三人は階段を急いで登り転移水晶で移動をし、会堂から姿を消した。
その後ろ姿をじっと見つめていた人物がいた。エルだ。
三人の話を一通り聞いていたエルは、ゆっくり椅子に腰かけると祈りを捧げる姿勢になった。
そして、ぼそりとこういった。
「鏡のすり替えか……。いや、まさかな」
武器種:ハンマー
名前:冷血の槌
月のような冷たいお方の臣下が愛用したとされる槌。
転移系統を阻害する物質でできており、瞬間移動を妨げる。
これを携えた臣下は言った。かのお方は何処へ行かれたのかと。




