06・賑やかな夕食
六人の会話とか、まとめるの辛たん
ハルトやミョルは全員を知っているが、キーンはカミラとミミドを、ナオはミミドを知らない。今日の夕食は自己紹介から始まる晩餐会だった。
ひとしきり自己紹介が終わった頃合いを見計らったかのように料理も運ばれ、次第に会話も飛び始めるのだった。
キーンとミョルが話し、ナオとカミラが話をしている中、ミミドはハルトに話を吹っ掛けた。
「やぁ、ハルト久しぶりー。ミョル曰く、大分良いご身分だとか聞いたよ」
「良い身分って何ですかそれ。まぁ、最前線にいた頃より大分気持ちに余裕ができたとは思いますけどね」
「確かに、最前線に比べれば後方は結構ヌルゲーだし、否が応でもそうなるだろうね」
最前線は常に初見だ。初見には初見なりの危険が付きまとう。それがない後方は彼らにとってヌルゲーなのだろう。
「いやいや、遠距離の乏しい脳筋だと前線だろうが後方だろうがきついですよ。ヌルゲーなんて優しいものじゃありませんってば」
「最前線だと脳筋はもういなくなっちゃったからねぇ。脳筋のごり押しでも突破できなくはないけど、安定と効率を求める最前線からしたら、最初から脳筋は風前の灯火だったよ。ホント、ハルトは脳筋の星だったのに。そこんとこちょっと残念」
ミミドは大きな肉を美味しそうにほおばりながらそう言った。
「脳筋の星ですか……。確かにそんな風に言われてた時期もありましたっけ」
「意外と本気だった奴もいたとかいないとか。少なくとも影響はあったと思うよ」
「うーん、あまり覚えてないですね。でも、脳筋が絶滅寸前なのは俺が前線落ちしたからとかじゃないと思いますよ。単純にリスクリターンが釣り合わないからだと思います」
脳筋のメリットは高い一撃性。大抵の雑魚なら一、二発で決着がつくほどの高火力をスタミナの続く限り振り回せるのが特徴だ。接近戦であれば間違いなくトップクラスの火力を誇るのだが、このゲームでは魔術や弓といった飛び道具がある。そのため、それを活かす場面が限られてしまうとなると、たちまち脳筋は使いにくくなる。それに加えて現状はデスゲーム。安定を求めるならば触らぬ神に祟りなしとばかりに敬遠されてしまった。
「リスクリターンなんて言ったら最前線なんて誰も行きゃしないよ。行くとしても何かしら理由が必要じゃないとね。それでだけど、どうしてそこまでして脳筋を続けるの? 魔力にポイント振ってないとしても二、三週間辛抱すれば最前線とはいかなくても前線に戻れるだけの実力は備えてるんでしょ? もったいないなぁ」
ハルトが前線落ちしたのは約二か月前。その時からガンガンホロウを稼いでいないとしてもそれなりのレベルは保持しているはず。ミミドはそう考えての発言だった。
「うーん、なんというかポリシーみたいなものがあるというか……。ほら、ゲームで初めて装備した武器をなんとか強化して最後まで使うみたいな。そういったのがあるんですよ」
「言わんとしてることは分かるよ。けど、柔軟な考えを持たないといざって時に困るぞー。まぁ、人の趣味に手ぇ出しても仕方ないんだけどさ」
ミミドはそう言い終わるとグラスの水を口に含んだ。
ハルトも小さく笑っていた。すると、何かを思い出した様子を呈したかと思うと、ミミドにこう尋ねた。
「そういえば、最近最前線で何か変わったこととかありませんでしたか? 例えば、攻略の速度が下がったとか、誰か有名な人がいなくなったとか」
「攻略の速度は変わったとは思わないけど、何か変わったことか……。特に変わったようなことはない、と思うけど、どうかしたの? もしかして、なんかヤバいことにでも頭突っ込んじゃったとか? それも最前線に関わるようなヤバいやつ」
ミミドはニヤニヤしながらハルトに尋ねた。彼女はこういったゴシップが好きなので根掘り葉掘り聞く気なのだろう。
「いやいや、そういったものじゃないですよ。単純に長いこと最前線の様子見てないからどんな風に変わったのかなと」
ハルトが当り障りのない普通の返事をしたためかミミドは急速に興味を無くし、こう答えた。
「最前線なんかいつも同じ。いかに効率よく敵を倒せるか。それの繰り返しだよ。まぁ、私は日々溜まっていく鬱憤を晴らさせてもらっているけどね。ただ淡々とできることをする。そうしなきゃあっという間に体力が白ゲージにまで落ち込んでしまうって。曲がりなりにも最前線にいたんだからそれくらいわかってるだろう」
体力ゲージには四段階あり、体力がある方から青、緑、赤、そして白がある。白ゲージは体力が十パーセント以下になった印だ。人によっては絶望が最も輝く時だから白ゲージという意見と、運よく死ななかったことから転じて希望の白ゲージの二つにぱっくり割れている。
ハルトは笑いながらそうですよねと言った。しかし、テーブルの下にある足は少しだけ震えていた。
ハルトは続けた。
「攻略法が見つかったらそれを徹底的にやる。異論は認めないってスタンスはそのままなんですね。なんだか聞いて安心しました」
「なぜ安心するのかは意味不明だが、そういうこと。そうでなけりゃ今まで以上に死亡者があふれる。だけど、最近はアンゼスの祠みたいにウザいエリアも少なくなったから最前線もだいぶ安定性が増してはいるかな。このままいけば攻略が楽でいいんだけどねー。ん? いや待てよ。変わったことならある。最近メニューが開かなくなったりすることがあるんだけど、ハルトはそうなったことはある?」
ミミドはふっと思い出したようだった。
「メニューが開かなくなる? なんですかそれ?」
「たまにだけど、攻略中にメニューを開こうとすると反応しないことがあるんだよ。いつものように目の前をタップしても開く気配がなくて、あれっと思ってもう一回タップすると今度はノイズ交じりで開くんだけど、なったことない?」
ハルトは顔を上に向け記憶を探るようにうなり声をあげた。しかし、何も思い出せなかったようでそのまま首をかしげた。
「うーん、なったことはないと思いますね。少なくとも最前線にいたころには一度も」
そのとき、話を聞いていたのかミミドの隣にいるカミラが口を開いた。
「あら、ミミドもだったのね。私もメニューが開かなくなったことがあるわ。困りはしないけれど、いきなり来ると驚いちゃうのよね」
「カミラさんもですか。ってことはもしかしてミョルも?」
最前線の二人が同じような現象に陥っているためひょっとしてミョルもと考えたのか、ハルトはミョルに尋ねる。
「ん? 何の話だ?」
キーンと話していたミョルは何事かとハルトを見た。
「攻略中にメニューが開けなくなったことある?」
「ん? あぁ、それか。なったことあるぜ。どうやら、聞いた話だと最前線でのみ起こるらしいぞ、それ。うちのメンバーも初めてそれなった奴がいて、外部からの連絡かとぬか喜びしたとかしてないとか。ま、いきなり来るとビビるよな」
「外部からの連絡? 最前線で何かあったんですか?」
外部からの連絡という言葉を耳にして何事かと思ったキーンが話の輪に入ってきた。
「いえ、そんなたいしたことではないんですけど、最前線では時折メニューが開けなくなることがあるんです。それで、その時起こるノイズが外部からの連絡だったらよかったなって話です」
カミラはキーンにそう説明した。
「はぁ、そういった現象が。確かにいきなりノイズが走ったりすれば何事かと思いますね。しかし、最前線にだけ起きるというのもまた不思議ですな」
「あまり話題になりませんけれど、実は攻略が進むにつれてこういったものが多くなっている気がするんです。残酷表現が序盤に比べて過激になっている点とか。そう思いませんか?」
このゲームは対象年齢が十七歳以上であるためそこそこきつめの残酷表現がある。例を挙げると、敵の頭部をハンマーで殴れば中身が飛び出るくらいには過激だ。序盤の敵は獣やスライムみたいな不定形なものが主流だったが、攻略が進むにつれて人型も多くなりつつある。そのため序盤にもまして残酷表現が目につきやすくなるのだ。
「確かにそうですね。変な言い方ですけど、進めば進むだけリアルに近くなってきている気がします」
キーンはそう言いながら首肯した。
「そういえば、ナオちゃんはハンマー使いよね。グロ耐性とかあるほう?」
カミラは話を黙って聞いているナオに尋ねた。
「えっと、ホラー小説とか読むのが好きなので耐性はある方だと思います。むしろキーンさんがそういうの苦手だったと思います」
ナオの突然のカミングアウトにキーンは頭を抱えた。それと同時に周りのみんなからの熱い視線がキーンに注がれた。
カミラは面白そうなものを見つけた顔をしてキーンに言った。
「あら、そうなんですか」
「い、いえいえ、違いますよ。単純に潔癖気味で、飛び散った中身が装備に掛かってしまうのが嫌なだけなんです。決してグロいのが嫌いとかそういう訳じゃないんですよ」
キーンは顔を赤らめながらそう答えた。そして、まるでよくも言ってくれたなとでも言わんばかりの表情でナオに視線を向けるのだった。
武器種:中盾
名前:ラージブロンズシールド
大きめの青銅の盾。やや重いが物理カット率が非常に高く扱いやすい。
しかし、青銅ゆえに強度はそれほどではなく強い刺突系の攻撃だと盾を貫通する場合がある。




