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Hollow Altar online  作者: 774のもち
第二章
18/28

05・不安

 外は土砂降りの雨であり、三人がいる室内にも冷たい風が流れ込んできていた。


 「不死になった理由は分からない。それ以前に、私はエル様の下で仕えるまでの記憶がない。気が付いたらエル様の大聖堂で介抱されていたのだ。大聖堂での医者は私の記憶喪失について全生活史健忘症だと言った。私の人生に関わる重大なことを避けるため体が記憶を抹消してしまったらしい。しかし、当時の私は失われた記憶について強い疑問を持っていた。なぜ私は忘れてしまったのか。それをどうしても知りたくて、私は二十年仕えたエル様にお暇を告げた。それから各地を放浪している間に帝国の人々に私が長命であるらしいことがばれた。正確には不死なのだが普通の人が長命と不死を見分ける術は持たない。私は何度も殺され、そして生き返り、更には異変を嗅ぎ付けた輩が仕向けた刺客に追われる日々を過ごしたのだ」


 カリムは辛かった時代を吐き出すように語った。本当に思い出したくない辛い日々だったらしく顔色も決して良いとは言えなかった。


 彼はさらに続けた。


 「だが、長い放浪の中で得られたものもあった。それが異邦人に消失に関する事柄だ。いわゆる今回の話の肝となる部分にあたる。異邦人は確かに忽然と姿を消した。しかし、なぜ忽然と姿を消したのか知る者は誰一人としていなかった。それと同時になぜ人形が人々を襲うのかもよく分かっていなかった。これらが解明されれば私やニーラといった迫害を受けてきた人々も安寧を得られるかもしれない。そう思ったのが始まりだった。しかし、異邦人に関する資料はほとんど残っていなかった。長い歴史の中で闇に葬られたのだ。けれども、こうして再び異邦人が現れた。きっと何かしらの共通点を持っているに違いない。私はあなた方がこの世界に膿を残さず元の世界へと戻ることを手助けすると同時に、この世界における異邦人の子らを何とかしてあげたいのだ。どうか、力を貸してはくれないだろうか」


 そう言い終えると、カリムは深々と頭を下げた。


 間髪を入れずキーンは言った。


 「協力します。私も元の世界へと戻らなくてはならない理由がありますから」


 「まぁ、協力しない理由はないよね」


 ハルトは乗り気なのかそうでないのかよく分からない発言をしているが協力はするようだ。


 「ハルト君とキーンさんがそういうなら……」


 「ありがとう。心から感謝する。早速で悪いがこれをもらってくれ。私といつでも連絡が取れるようになる貝殻だ。エル様から似たようなものを貰っていると報告を受けているから使い方は省くが、良いかな?」


 三人は軽く頷いた。


 そのとき、ナオが尋ねた。


「カリムさんも一度私たちの拠点に来てみたらどうですか。私たちなら案内できますけど、どうでしょうか?」


 カリムは口を開いた。


 「あなた方が拠点としている場所。あそこ周辺には謎が多い。そこに近づこうとすれば記憶があやふやになり私という人格が分離してしまうような錯覚にとらわれる。まるで別の人格が植えつけられるような感覚になるのだ。何と言ったらいいか……。まるでそういう、結界が張られているかのようにな。それゆえに私はあの地に近づくことができない。それともう一つ、異邦人はこの世界で滅びをもたらすものとして言い伝えられている。それゆえに異邦人が再びこの世界に現れたとなれば、あなた方を含む今回の異邦人は命を狙われる。ひどい場合になれば異邦人を使って異邦人を殺すなどという手段さえもあり得る。怨嗟の念はそれほどまでに深い。心構えはしておくに越したことはないだろう」


 「異邦人を使って、異邦人を殺す……」


 ハルトは誰にも聞こえないような小さな声でぼそりとそうつぶやいた。その言葉が気がかりでしょうがないといった様子だった。




 多少の雑談を交え、カリムとの話し合いは終わった。結局のところ現実に戻る手段は分からなかったが、その足掛かりとなる手段は掴んだ。大いに収穫があったと言っていいだろう。


 アンゼスの霊廟には転移水晶はなかった。そのため安全巣の祠まで一度歩かなくてはならなかった。


 その道中。キーンは言った。


 「この案件は俺たちの手に余る。検証ギルド、なるべく頼ることはしないと思っていたが、そうは問屋が卸さないらしい。俺も腹をくくったよ。協力してもらうほかなさそうだ」


 キーンは両手を上に向けお手上げといった装いをした。検証ギルドと連携を取ることを決めたらしい。


 「あれだけのことを個人でするわけにもいかないからね。まぁ妥当な判断かな」


 ハルトはようやく折れたかという表情を浮かべた。彼は今までのキーンの行動が大人げなくて仕方がなかったのだろう。


 「それにしても、ナオ、元気ないみたいだな。大丈夫か? カリムとの話し合いの時からそうだったが、具合でも悪いのか?」


 キーンは先ほどからあまりしゃべらないナオを気に掛けていたようで、ここぞとばかりに話しかけた。


ナオは驚きつつも答えた。


 「い、いえ、何でもないです。ちょっと疲れただけだと思います」


 「そうか、さっきも言ったがあまり無理はしないようにな」


 「はい、ありがとうございます」


 そう答えるナオの声色はほんの少しだけ低かった。


 だが、それに気が付いたのかキーンはくるっと後ろを向くとこういった。


 「よし、三人で飯を食いに行こう。疲れている時こそ飯をたくさん食うのが一番だ。そう思わないか?」


 まるでそれが正義だと言わんばかりの大声だった。


 「飯か……。三人で飯食いに行くのは結構久しぶりだよね。個人的にはガッツリ肉が食いたいかな。ナオは何か食いたいものはある?」


 ハルトは何か食べに行くことに乗り気だった。彼自身もナオの異変に何か気が付いていてのかもしれない。


 「えっと、私はあっさりしたものがいいです。最近連れて行ってもらった店に両方大丈夫なところがあるのでそこに行きませんか?」


 「おっ、良い店知っているのか。店探しが楽でラッキーだな。よし、ならそこに行くか。あぁ、ちなみに今回は俺がおごってやる。好きなだけ頼んでいいぞ」


 「え! マジで! 最近稼ぎに行ってなかったから助かるわ」


 「キーンさんありがとうございます!」


 「良いってことよ。今後について話しておきたいこととかいろいろあるし、ちょうどいいだろうと思ってな」


 三人の重かった足取りは少しだけ軽くなったようだった。転移水晶までの道のりは辛くなかったことだろう。




 三人が店に着くと思いもよらぬ先客がいた。


 「あ~ハルト君だ。なになに、今日はここで夕食?」


 「お、ハルト。久しぶりじゃん」


 「あぁ、ハルトよ。いいところに来た。この地獄から助けてくれ……」


 カミラ、ミミド、そしてミョルの三人だった。


 ミミドは猫のような目つきをした小柄な女性で、カミラと同様に「戦闘狂」と呼ばれる片割れの一人だ。カミラとよくパーティーを組みボスのタイムアタックを狙うなど、まさしく戦闘狂と呼ぶに相応しい活躍を見せる女性である。余談だがミョルはボスのタイムアタック時のカメラ役を担当している。そのため、カミラ、ミミド、ミョルの三人がパーティーを組む際は決まってボスのタイムアタック撮影となる。


 おそらくだが、そのタイムアタック撮影でミョルが何かヘマをしでかしたのだろう。その反省会を行っているようだった。


 「えぇ、これから食事ですけど、まさか、カミラさんたちに会うとは思ってもみませんでした。そういや確か、ミミドさんにはまだ紹介してませんでしたよね。うちのパーティーメンバーのキーンとナオです」


 ハルトは何事もなかったかのようにミミドにパーティーメンバーを紹介した。


 「このパーティーでこいつらの子守りさせてもらってます。キーンです。どうぞ、よろしくお願いします」


 「えっと、ナオです。よろしくお願いします」


 二人が自己紹介を終えると、カミラとミミドも自己紹介をした。ハルトは全員知っているが、キーンとナオは一部しか知らないため自己紹介が必要だったのだ。


 ミミドが言った。


 「しっかし、最前線から離れたハルトとこうして出会うのも久しぶりだな。元気にしてたか~? そうだ、久しぶりに遠距離がいないエリアでカミラと一緒に稼ぎに行かないか?」


 ミミドは女性にしては押しが強い性格で、何かあればバンバン口を開く。そのせいもあってかミミドは偽名を持つことをしない。最前線のプレイヤーの中ではかなり顔が割れている人物だ。猫目で身長もそう高くなく、それでいて強気な態度。特徴がてんこ盛りのため何かと知っているプレイヤーは多い。


 「そうですね、最近は何かと忙しいんで今すぐには無理ですけど、それが終わったらぜひ行きたいですね」


 「最前線? えっ! ハルト君って最前線にいたんですか!?」


 ミミドが言った言葉を聞いたナオは、すぐさまミミドを二度見した。そして、バッとハルトの方を向くと本能のような一言で迫った。


 「あぁ、うん。って言っても随分前だけどね。先に言ってた方が良かったかな?」


 「おーい、ハルト。パーティー組むときは自分がどれくらいの実力か申告するのがマナーだぞ。それを言わずにパーティー組んでたらそりゃ驚かれるに決まってるでしょ」


 ミミドはかかかと笑った。


 ミミドが言ったことは正しい。パーティーはいわば自らを守る命綱のようなもの。そのため、その強靭さを確かなものと知るためにはやはり実力の自己申告が最も安定といえる。


 野良パーティーではこれが最も重要視される。不安定な命綱にすがる者はいないからだ。むしろ近しい間柄だとこういったケースが起きることもある。今回はそれにあたるようだ。


 「道理でハルト君は強いんですね。物もよく知ってますし。ようやく納得がいきました」


 ナオは右手を顎に当てながらそういった。


 「なんだハルト、お前ナオにも言ってなかったのか。なんで言わなかったんだ?」


 「いや、まぁ、なんか、成り行きというか、言うタイミングを逃したというか……ってかそんなことよりご飯食べよ、ご飯。飯食いながらでもできるでしょ、こんな話」


 「あ、それなら席くっつけようよ。せっかくだし、大勢で食ったほうが飯もうまくなるって」


 ミミドはハルトがなぜ話さなかったのかちょっかいを入れるためにだろうか、六人一緒になって食卓を囲もうと提案した。


 NPCの店とは言え勝手に席をくっつけてよいものか疑問に思う三人をよそに、ミミドは着実に他からテーブルを引っ張り出しそのままくっつけてしまった。相変わらずの行動力にあきれるハルトと驚愕の色を浮かべた二人で食事会は奇妙なテイストを醸し出していた。


 そして、わざとか否かわからないがぐったりとしたミョルを放置したまま話は進み、六人はご飯を食べ始めるのだった。


アイテム:消耗品

名前:魔封石


魔力が封じ込まれた石。落下に相当する衝撃を受けると爆発して破片が周辺に飛び散り攻撃できる。

現実で言う手榴弾だが、破片が金属ではないため殺傷力は高くない。しかし、刺突系魔術に分類されるためそれらの耐性が低い相手には有効な遠距離手段にもなり得る。


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