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Hollow Altar online  作者: 774のもち
第一章
11/28

11・反抗作戦

また投稿が遅れてしまい申し訳ありません。

ともかく、もうそろそろこの章も終わりに近づいています。大体あと二万字前後、残り二話分といったところでしょうかね。

 「ね、ねぇ。突然どうしたの? なんか怖いから一言くらい何かしゃべってよ。ねぇってば!」


 ニーラは三人の後に付いていきながら説明を求めるように言った。しかし、三人は終始黙ったまま歩みを止めない。それどころか人差し指を口元にやって静かにしろという始末だ。


 ニーラは何が何だかさっぱりといった表情を浮かべながらも三人についていった。彼女はこのエリアのことをほとんど何も知らないため三人からはぐれるわけにはいかないが、それでも内心不安が募っていることは何となく窺える。


 三人が何かに怯えるように行動しているのはニーラでも理解はできるだろう。だが、その怯えるものが何なのか、なぜ怯えているのか全く教えてくれない上に、何も言わず付いてこいと一言言ってそれ以降何も話さないとなると確かに不気味ではある。


 しばらくすると三人は大きな木製の扉に辿り着き、それをゆっくりと開けた。ギギィという音が周囲に響き渡ったが、どうやら三人はその音すらも嫌悪しており、人ひとりが入れるくらいの小さな隙間しか開けていない。ニーラはそんなことをしている三人に不思議な目線を投げかけつつも同じようにして小さな隙間に体を入れ込む形で中に入った。


 会堂内は三人が初めて入った時と同じようにきちんと整理されていた。エルとの戦闘で壊れたはずの長椅子はいつの間にか復元されており、石畳のひび割れや瓦礫なども奇麗になっている。エル一人で全て片付けたのか分からないが、三人はそれを気にかけることなく奥の長椅子に座っているエルの元へと近づいて行った。目線からしておそらく気が付いてはいるのだろうが構っている暇がないということだろう。


 エルは座りながら腕組をしており、何やらうなっている様子だ。そして、三人が近づいてきたのに気が付くと振り返り、やや困った様子で三人に話し出した。


 「おお、貴公らか、ちょうどよかった。実は先ほど罠にかかった者がいたのだが、どうにも姿を消してしまってな……。それで誰だろうなと考えていたら貴公らの知り合いかも、というのがふと頭によぎったのだ。もし、貴公らの知り合いであるならその者に詫びを入れたいのだが……」


 あまりにも抜けた問いかけではあるが、エルは何かしら気が付いているそれらしい言葉を口にした。ハルトとしてはもっと核心に迫るようなことを言うと思っていたらしく、複雑な表情を浮かべながらも単刀直入に言った。


 「いや、違う。奴は『血の使徒』の誓約者で俺たちを殺しに来ていて、俺たちは奴を何とかしないといけない状況に立たされてる。なんとかエルに手助けしてもらえないか」


 エルは三人を軽く見渡すような素振りをした後に言った。


 「『血の使徒』か。悪趣味な誓約だが、この雰囲気は確かにその従者のような気がするな。転移水晶も使えないことからしてそこそこ腕に覚えのある手練れか。それにしても、また随分と古い誓約に付け狙われたものだな。貴公らは何か心当たりでもあるのか」


 三人の表情は曇った。検証ギルドと協力して秘密裏に嗅ぎまわっていることがばれたとなれば、こういう状況になっても何もおかしくはない。むしろそうなったと考えるのが最も妥当と頭をよぎったのだろう。


 ハルトは少し間を開けてから答えた。


 「確かに『血の使徒』の誓約について調査をしていた。そして、その誓約に対抗するためにはエルの力が必要だということも分かった。だから、今日はエルに協力をお願いするためにここへ来たんだ」


 「なるほど、私の力が必要か……」


 エルは再び腕組をし、何かを考えを始めた。時折ボソボソとつぶやいていることからエルのなにかしらの意図があるのだろうか。


微妙な時間が両者の間に生まれた。三人は息をのんだ。


 しばらくしてエルは言った。


 「……そうだな、貴公らは『血の使徒』の誓約についてどれくらい知っているだろうか。変わり種の誓約ゆえ、誓約内容を知らねば対抗策を練ることも難しいだろう。それに、貴公らにはちょっとした借りもあるからな」


 「つまり、協力してくれるってことか!?」


 エルは首を縦に振った。すると、ここまでずっと緊張の糸を張り続けてきた三人の表情にも喜色が浮かんだ。それと同時にエルは続けた。


 「だが、直接的に協力はできない。あくまでも間接的な協力となる。それでも良いか」


 三人の表情が小さく歪んだ。何か嫌な予感がしたのだろう。恐る恐るといった様子でナオがエルに尋ねた。


 「間接的とはどういうことですか……。私たちと一緒に行動するという意味ではないんですか?」


 「うーん……、私はこの大聖堂の管理人のような立場にあるのだが、訳あってこの会堂と会堂の地下にある書斎から出ることができないのだ。この会堂は綺麗にできていても、その扉から先の通路が手つかずになっているのはそのためだ。仮に通路に出られたとしても、今の私ではこの巨体が邪魔をして満足に動くことすら叶わない」


 エルの体は非常に大きい。身長は三メートルに届く勢いで、肩幅も甲冑のおかげで一メートル弱ほどとかなり広い。会堂が広いせいで三人はあまり気にかけていなかったが、狭い場所で人ひとり分ほどの幅しかない通路でその巨体は邪魔であり、さらに武器を振り回すとなると動きにくくなる。書斎に行くための螺旋階段ですら満足に動けていないのに、激しい動きを求められる戦闘ならなおさらであろう。


 三人としてはまさかの回答に少し面食らっていたが、この前の螺旋階段での出来事を思い出し、深いため息をついたのだった。


 「まぁ、そう落ち込むことはない。あくまで直接的であって間接的には協力すると言っているだろう。これを持っていくといい」


 エルはそう言うとダーツで使う矢のようなものとサファイアのような青い欠片を三人に手渡した。


 「この青い欠片を持っていれば離れていても私と話ができる。念のため、ここから出たときは一度使って確認してみるといい。そして、もう一つは爆雷針といったところだ。相手に投げつけたり、直接突き刺すなどして対象に張り付かせれば私が遠隔で魔術を放とう。通常威力の半分にも満たないが、罠にかかった状況からして多少の突破力はあるだろう。急なことで用意ができていない。三つしかないからうまく使うのだ」


 「相手を倒すとしたらこれ頼りになるってわけか……。三つしかないとなると心細いな」


 ハルトがそういうとキーンも反応していった。


 「エルの協力が思っていたのと違うのはもう仕方がない。それよりも俺たちは一刻も早くその『血の使徒』についての情報が欲しい。こっちもある程度のことは把握しているが具体的なことまではよく分かっていないのが実情だ。検証ギルドの情報だと、奴は特殊エリアであるこのエリアのことについて詳しくはないはず。時間としては余裕ができるだろう」


 「そうですね……。エルさんが直接行動できないとしても、エルさんがいるこの場所はほとんど安全地帯と言ってもいいですし」


 突然の侵入のせいで止まっていた思考もエルのおかげで余裕が出てきたのだろう。キーンの言葉でナオも現状を把握しようとしていた。


 「とりあえず、『血の使徒』について詳しく教えてくれないか」


 ハルトがそう言うとエルは頷いて言った。


 「うむ。しかし、先ほどから気になっていたのだが、そちらの女性はどちらかな? 貴公らの知り合いであるのはなんとなく分かるのだが、今回の事態に巻き込んでもよいのだろうか」


 突然話を向けられたニーラは「えっ? 私?」と言いながら自分を指さしている。ニーラとしてはあまりにも蚊帳の外だったのでそうなるのも仕方がない。実際、彼女はエルに話しかけられるまで辺りを見渡したりしていたのだ。


 「そうだ。貴女以外に誰がいる。私にしか見えない誰かがいるとでも言うつもりか」


 ニーラは戸惑いを隠しきれない様子で若干しどろもどろになりながらも三人との関係性を話した。


 三人もNPC同士が話し合うというなかなかお目にかかれない光景を目にしているためかじっと黙ったまま状況を見守っていた。


 「なるほど、要するに貴女は貴公らに巻き込まれてしまったというわけか。いや失礼、ここを訪れるものというのは貴公らを除いてさっぱりでな。少々興味が出てしまったのだ。それはそうとして、貴女は貴公らに協力するのか? 協力をするというのであれば先ほどの青い欠片を貴女にも渡そうと思うのだが」


 「えっと、その、どうしよう……」


 ニーラはかなり言いよどんでいた。嫌なことにこれ以上巻き込まれたくないのと、三人に恩返したいというのが彼女の中でせめぎあっているのだろうか。しかし、しばらくうなったかと思うと急に目をきりっとさせて言った。


 「ええい、こうなったら付き合ってやりますよ。ここで逃げたら師匠に鼻で笑われちゃうもん」


 そういうと腰に下げていた短刀付きの仕込み杖を体の前に出してやる気をアピールした。


 「鼻で笑われるのか。師匠すげぇ……」


 「ニーラの話を聞く限りだと、面白そうな師匠であるのは間違いなさそうだ。会えるもんなら会ってみたいな」


 ハルトとキーンがニーラの師匠についてぶつぶつ言っているが内心嬉しそうな様子だ。ニーラがどれほど強いのかは分からないが一緒に戦闘に参加してくれるというのは心強い。相手の戦闘能力が想像できない以上こちらの戦力が増えるのに越したことはないからだ。


 そうこうしている間にもエルとニーラの間では話が進んでいた。


 エルはニーラに青い欠片を渡すときにじっとニーラを見つめるような仕草をしていたが誰も気には留めていなかった。




 「なるほど。要するに『血の使徒』には派閥があって現時点でどこの者かの特定はほぼ不可能。それでも共通する固有の恩恵として、対象への長期間の足止めと身体能力の向上、MPの回復速度強化か。でも、戦闘能力の向上と引き換えに単独行動が原則で傷の治療そのものを受け付けないというペナルティ……。まるで暗殺を生業としていますと言ってるみたいだ」


 ハルトはエルから聞いた内容をまとめ、最後に感想を述べるかのようにつぶやいた。


 「対個人から対集団戦までこなす戦闘のエキスパートか。この内容ならパーティーを分断したり、一か所に誘導されて魔術で一網打尽とかしてもおかしくないな。全滅したら情報自体上がらないからな。道理でプレイヤーキルの情報がないわけだ。おそらく、ゲーム内ネットワークも受信はできるけど送信ができないよう制限されるんだろう」


 キーンもエルからの内容を聞いてそういった。プレイヤーキルに関する疑問が一気に氷解したとでも言うような納得のいった顔をしている。


 このゲームでは死んだプレイヤーは現状復活できない。そのため、死んだら死んだ分だけの情報が完全に失われることになる。そのため死んだプレイヤーが「なぜ」「どうやって」そこで死んだのか分からないため、同じ場所で死者が続出するということが稀にだが起きるのだ。それを防ぐために最低でも一人は拠点に帰還する、誰かに向けてメッセージを発信するといった手法で死ぬにしても無駄死にしないよう提唱されている。


 しかし、プレイヤーキルに会ってしまった場合はそれらが阻害されるというのだ。猫に鳴き声を上げることすら許されないほど追い詰められたネズミとでも言ったところか。


 「対象の長期間の足止めって大体どれくらいの時間になるんですか」


 ナオはエルに質問をした。


 「うむ、そうだな……。長いもので日が昇って沈むのを七度繰り返したというほどであるから死にはしなくとも時間が経つにつれてきつくはなるだろう。私としても移動がままならなくなるのは困る。ただでさえ狭い螺旋階段を四苦八苦しながら上り下りするのは流石に骨が折れるからな。早く解決するのに越したことはないだろう」


 最後の方は明らかに違う理由ではあるものの、エルは早期の解決が望ましいといった。


 「一週間ですか……。確かに長期戦を仕掛けるには後手に回りそうです。このエリアの地形を把握される前に倒したほうが良い可能性はありますね」


 ナオも後手に回る前に倒したほうが良いといった。


 「えっ、一週間も私ここから移動できなくなるの? どうしよう……。師匠に任された仕事できなくなるのは困るなぁ」


 ニーラも違う方向性ではあるが危機感を抱いているようだ。転移水晶が使えないということはニーラも元居た場所に戻れないということを意味する。今更ながらニーラもそれを理解したのだろう。


 「となると、やはり戦闘は避けられないか……。相手のレベルが五五〇付近、仮に六〇〇まで到達していたとしても、各種能力値は平均で割り振って七〇前後。筋力だけなら何とか対抗できそうだな」


 ハルトは相手のレベルから能力値がどれくらいであるかを予想した。ナオもそれに追従するように言う。


 「誓約でステータスが強化されるにしても一人で何でもこなすとなると、一つの能力値に極振りすることはできないはず……ですよね」


 「いや、それは分からん。対人を想定するとなると極振りのほうが有利になることがある。対人の場合は相手に攻撃させないうちに素早く倒すが最も安全だからな。俺達みたいな極振りはないにせよ決定的な打撃を与えるほど尖った能力があると考えたほうが良い」


 キーンはナオの考えに捕捉を入れる形で否定した。それに同調するようにハルトが言った。


 「でも、相手もプレイヤーキルをするためにゲームを始めたなんてことはあり得ないから、少なくとも攻略を安定させるためにある程度は平均的な振り分けをしているはず。そういえば、確かさっきエルが罠にかかったって言ってたよな……。なぁエル、罠に使用した攻撃をここで再現できるか?」


 「もちろん。設置型であるから威力はそれほどでないが……はぁ、片付け面倒だな。まぁいい。少し待っていろ」


 エルはそういうと少し離れた場所に何か描き始めた。三人からはエルの巨体が邪魔で、何が描かれてあるかよく見えない。


 エルが何かを描き終えてこちらに戻ってくると、片膝立ちになり右手拳を振り上げた。そして、振り上げた拳を地面に思いっきり叩きつけた瞬間、描かれた模様に付近に紫電が走り極太の雷撃が落ちたのだ。


 空気を揺るがすほどの轟音が会堂内に鳴り響いた。反射的に女性陣は悲鳴を上げていたがそれすら消し飛ばすほどだった。落雷があった周辺は黒く焼け焦げ、中心と思しき場所には大きな傘がすっぽりと入るくらいの大穴が穿たれている。周りに並んでいた長椅子は吹き飛ばされ、黒い煙が上がっていた。


 「……おいおい、これを受けて動き回るのかよ。生半可な防御力じゃ一発受けきれるかすら怪しいぞ」


 「魔術耐性の高い盾を装備して盾受けしても、削りダメージでごっそり持っていかれそうだな……」


 ハルトとキーンの顔は笑っていたが目は笑っていなかった。ナオとニーラも口を開け唖然としている。


 「形式は違うがほぼ同威力だ。どうだ、参考になったか」


 「あぁ、ありがとう。……ホント敵に回らなくてよかった。ってかどんな魔術だよこれ。初めて見るんだけど」


 ハルトはいつの間にか被害の最もひどい場所に移動しており周囲の様子をまめに観察している。こんな状況ではあるが興味が出て仕方がないのだろう。


 そもそもとして、プレイヤーが使用する魔術は変化に乏しく地味なものが多い。支援系や回復系は体にちょっとしたエフェクトが出るのがほとんどであり、攻撃系でも派手な爆発や変化を起こすものは少数と言っていい。もちろん、それらが決して弱いわけではなく、派手さに見合うほどの効果を上げる。しかし、派手なものほど敵味方両方の視覚に影響を及ぼしやすく、爆炎で敵の姿が見えない、敵味方問わず被弾する、爆音のせいで周囲から敵が集まってきて要らぬ妨害を受けるなどデメリットも多大なものとなる傾向がある。それゆえプレイヤーから、使ってみたはいいけど遊び以外で使うことはないと言われるほど悲しみを背負った魔術も中にはある。


 ボスのみが使う魔術もあるにはあるのだが、そういったものほど印象に残りやすいもの。一時期は最前線にいたハルトが忘れるというのも考えにくい。


 「どうだ、ハルト。何か分かったか?」


 キーンがハルトに声をかけた。


 「うーん、どんな魔術かは置いといて、威力に関しては現状のエリアボスクラスより上だろうね。おそらく属性は魔術と刺突の複合だから、それに特化した防具なら一撃くらいは耐えられると思う。少なくとも俺たちのレベルで対策無しならほぼワンパン。うまく盾受けしても六割くらいは削られるな」


 「なるほど、要するに高威力の一撃ってことか。となると、相手は対策無しの一撃を無抵抗で受けた可能性が高いって訳か。加えて誓約の仕様上単独であり回復ができない、ね。なんとなくだが、突破口が見えてきたな」


 キーンはハルトの考察からプレイヤーキルを実行しているプレイヤーの状態を予想した。それは、暗闇に一筋の光が差し込むように三人にとって吉報となりえる可能性を秘めていた。


 「あの~、私思ったんだけど、話を聞く限りだと皆さんを殺そうとしている奴って相当強いんだよね。それなら、わざわざこちらから出向かなくても相手がここに来るまで待ってればいいんじゃないの?」


 「……確かに安全を第一に考えるならそれは良さそうですね」


 ニーラの発言に対してナオは顎に手を当て感想を言った。


 「それもありだが、……どうだろうか。相手がすんなりここに入ってくれればその作戦も悪くはないとは思うが」


 キーンは待つという手段に対して考え込んでしまい、それ以上の言葉が浮かばない。


 「でも、ニーラは師匠に任された仕事を早く帰って済ませたいんだよな。持久戦に持ち込んでも大丈夫なのか」


 「あっ、そうだった。ごめん今のなし! やっぱりさっさと倒して早く帰ろう!」


 ハルトの一言でころっと意見を変えるニーラに三人は苦笑を浮かべつつも、じっと考えていた。どうするべきなのか悩んでいるというのは一目瞭然だ。三人には相手を倒すのに必要な手段が備わりつつある。相手がエリアの地形を知らない今ならこちらから先手を打って抑え込み、エルの協力でもってそのまま倒すこともできるだろう。だが、生き残るという最も確実な方法をとるならここで籠城戦を仕掛けるのも悪くない手段である。地の利を活かし先手を打つか、守りに徹し後手になっても生き残りを優先するか。


 「私としても移動が面倒だからさっさと倒してもらいたいのだがな……」


 エルの小さなつぶやきが会堂内に響くが三人は反応を示さない。考えに没頭しているのか単純に無視しているだけなのか分からないが、少なくとも意識を向ける気がないのは分かる。


 しばらくの間、無言が続いた。


 「俺としては……」


 ハルトが一番に声を上げた。


 「俺は、先手を打ってそのまま抑え込むのがいいと思う。エルのおかげで相手の能力がどれほどかは把握できる。四人という数の波でなら傷を負ってる相手を制圧できると思うんだ」


 「私も、先手を打つべきだと思います。確実に強いであろう相手に立ち向かうのはやっぱり怖いです。でも、ここで引いたら相手に屈するような気がするんです。私事ですけどこれに打ち勝たないと私は、私としていられない気がしてしまう、ので……」


 ナオもハルトの意見に同調した。ナオの最後のセリフは消え入るかのように小さなものだった。顔を赤らめているあたり単純に小恥ずかしいのとは別のものもあるのだろうか。


 「おっ、意見が一致したな。俺も先手を打つべきだと思った。ワンサイドゲームかと思ったらこっちにも起死回生の手が残されている。だが、それを使わずに守りに徹するのは単純に嫌だ。もちろん拠点に帰れるならそれでも構わないが、俺としてはもう覚悟決めたからな。お前らを守る盾として俺ができることはお前らに攻撃が当たらないようにすることだ。前方からの攻撃は俺が全て受け止めてやる。壁として能力振り分けた力を存分に発揮するつもりだ」


「ぷっ、臭いよそのセリフ。しかも長いし」


 「うっせぇ! こういう時くらい格好つかせろ。お前らがゲーム上手いせいで俺の立場が危ういんだよ!」


 ハルトがキーンの言ったことに対して茶化した。キーンは至極まっとうに返事をするがどことなく抜けており、赤かったナオの顔も笑みが浮かんでいる。


 大事な戦闘前だというのに和やかな雰囲気になるのはNPCの二人にも変に思っているのか複雑な視線を三人に向けていた。


 最終的に、三人は追い詰められたネズミが猫に噛みつくのではなく、噛み殺すことを選択したのだった。




 「侵入されてから……大体二十分くらい経ちましたね。相手は今何をしてるんでしょうか」


 作戦を立てるにおいて相手の場所を知ることは重要となる。曲がり角が多い場所なら直線的な魔術が飛んできにくいため守りやすくなる反面、位置取りに失敗すれば回り込まれて奇襲を受ける可能性がある。一直線の通路なら相手の行動が分かる反面、飛び道具に縁のない脳筋は相手の魔術になすがままだ。ニーラが後ろから援護を買って出てくれたおかげで多少マシだが、それでもジリ貧を強いられる。


 どちらにせよ、能力で圧倒的な差をつけられているため、相手に認識されてしまえば三人にとって不利な展開に持ち込まれるのは必至となる。


 しかし、相手がこのエリアの地形について知っていることはほぼあり得ないことから、三人が切り込んでいく大部分はここに集約されると言っていい。


 つまり、相手が迷っている間にこちらが数を活かして制圧してしまおうということになる。それをなすためにはどうしても相手の現在地と進行方向を掴んでおく必要が出てくるのだ。


 「どうだろうな。エルが罠を仕掛けた場所がどこかによる。でも、進行方向次第では待ち伏せができるかもしれない」


 キーンはエルから受け取った見取り図と実際にマッピングした道の両方とにらめっこしながらエルに尋ねた。


 「ん? あぁ、罠は区分けされた場所に最も近いものが反応するよう設計されているから、おそらくここ第二祈祷部屋付近だろう。円蓋が特徴だ」


 エルは見取り図を広げ、大きく円形になっている場所を指さした。


 「ここは……ドーム状の大部屋だったところか。ゾンビが大量にいて、ニーラが隠れていた場所だな」


 キーンがゾンビと言った瞬間にニーラは振り向いて腫物を触るような表情を浮かべた。あまり思い出したくないといった様子だ。


 「地形を知ったうえでここまでたどり着こうとすれば、最速で五分もかからないが、相手は初めてのエリアに困惑するだろう。必ず、どこにいるか分からない俺たちを探し回るはずだ」


 現在、会堂内で三人と二人のNPCによる合同作戦会議が行われている。キーンとナオは相手の侵入口を把握し、そこから行動に移したまでの道筋を推測している真っ最中だ。ハルトは検証ギルドのサイト「計算機室」を使って相手の能力値を割り出すために、エルとニーラの二人を使って先ほどの魔術の威力を検証、計算をしている。キーンの睨んだ通り受信はできるが送信はできないようで、検証ギルドにこの事態を伝えようとしてもメールの送信そのものをシステムから拒否された。


 「相手がドーム状の大部屋付近からほかの通路に行くためには入り口と、入り口の反対側の二択か……。どちらに動いたかで待ち伏せすべきポイントが変わるのが厄介だな」


 キーンは衝突するであろう場所に目星をつけようと見取り図を眺めているが、相手の行動に左右されることが多く、依然として険しい表情を保っている。


 「おそらくですけど、私は相手側も同じだと思いますよ。侵入慣れしていても知らないエリアであれほどの魔術の直撃を受けたんですから。こちら側からすればラッキーですけど、相手からしたら、いつまた撃たれるかという危機感くらいはあるんじゃないでしょうか」


 そこへナオがアドバイスを入れる形で助言をした。


 「危機感か……。確かにそれは一理ありそうだ。少なくとも、もう一度魔術を受けたくはないと思うはず。とすれば、相手の行動は緩やかなものになる可能性が高いな。そういえば俺たちが初めてドーム状の場所までたどり着いたときにかかった時間とか覚えてるか?」


 「えっと、すいません、流石に覚えてないです……」


 「ま、そりゃそうだよな。そもそもあの時は時間を気にする余裕すらなかったし無理もないか」


 「はい。でも、その代わり、二回目に探索したときの時間は覚えてますよ。……役に立ちますかね?」


 「二回目の探索の時間か……。ちなみにどれくらいだ」


 キーンは顎に手を当て視線を見取り図の方へと移した。


 「あの時は転移水晶から別ルートの一番奥まで五十五分でした。ハイ・ゾンビが出てくるかもしれないので相当警戒しながら進んだのを覚えてます」


 ナオは転移水晶からこの会堂にたどり着くルートとは別の方の道を指さしていった。


 「……俺たちがハイ・ゾンビを警戒しながら進んだのと、相手が魔術を怖がりながら進むというのは随分と似通った状況だな。仮に相手がそのルートを通ったとすれば五十五分程度かかってもおかしくはないか?」


 「ですけど、私たちの場合は普通の攻略でしたよ。人を探すのと物を探すのではだいぶ差が出ませんか」


 「うーん、確かにそうなんだが……。ん? いや待てよ、そもそもここにたどり着くためには彫刻があった場所を経由する必要があるから、そこに相手がたどり着いてるか確認するだけでいいじゃないか」


 彫刻があった場所は転移水晶、会堂、別の道、ドーム状の場所と四つの通路の分岐点となっている。つまり、ここを要所として構えるだけで相手の行動に左右される必要がなくなるとキーンは考えたのだ。確かに、相手が必ず通る通路があるならばそこで待ち伏せしてしまえばいいということになる。相手を探すとなれば大変だが、相手から近づいてくれるのなら難しいことを考える必要はない。


 「確かにここを通る必要がありますね。戦うにしても守りやすいですし、逃げるとしても会堂にいるエルに誘導できますね」


 「あぁ、とりあえずできる限り早く移動しよう。先に取っておけば待ち伏せできるが、先に取られたら同じことされちまう。おーいハルト! そっちはどんな状況だ?」


 キーンはさっさと話を切り上げると、少し離れたところにいるハルトに声をかけた。ハルトは「もうちょっと待って」と言っているため、まだもう少しかかるようだ。


 キーンとナオは手持ち無沙汰になった。今のうちにしておくべきことが装備の入れ替えくらいであるため、二人はメニューを開いて目の前にあるウインドウに手を伸ばした。


 若干の間が生まれた。すると、それを埋めるかのようにキーンはナオに話しかけた。


 「いきなりですまんが、急にオシャレをしたのは、カミラさんって人から勧められたからだけじゃないんだろう。ナオ」


 ナオは体をびくりと震わせた。そして、一瞬だけキーンに目線を向けると言った。


 「ど、どうしてそう思ったんですか……?」


 キーンは手を動かしながら話した。


 「なんとなく……。いや、そうだな、『露骨だったから』とでも言っておこうか」


 「露骨、ですか」


 「あぁ。今回はエルの時みたく相手は俺たちに情けをかけない。容赦なく殺しに来るだろう。だから、またナオが震えてしまってもおかしくないとさっきまでそう思っていたんだよ。だけど、今日初めて会った時からナオはまるで人が違っていた。そして、さっきの発言でそれを確信したんだよ。まるで芯が入ったって感じでな」


 「あぁ、えっと、その……」


 ナオは顔を赤らめ少し俯いてしまった。それに気づいたキーンは困った顔をしていった。


 「あー、まぁしゃべりたくないならそれでいい。ただ、少し気になったんでな」


 「はい、そのちょっと話せないです。でも、芯が入ったというのは本当です」


 ナオは語気を強めていた。


 「そうか、ならよかった。俺は、お前たちを死なせるわけにはいかないからな」


 キーンの目を見たナオはぐっと口をつぐんだ。


 するとハルトが二人に近づいてきた。どうやら、検証が終わったようだ。


 「キーンさん! その、よろしくお願いします」


 「あぁ、よろしくな」




キーンはハルトが合流して作戦の概要をまとめて伝えた。そして、ハルトは相手の能力がどの程度か伝え、短く話し合った後出発した。


武器種:刀(二刀流)

名前:肉断ち刀


「血の使徒」の誓約者に与えられる専用の刀。装備時は強制的に二刀流となる。この刀で止めを刺すたびに威力が少しづつ上昇。二本で一つの武器であり片方だけ使用してもなぜか思ったように切れない風変わりな刀だが、二刀流した場合は名前の通り肉を断つことに優れ、一振りで致命の一撃となるほどの威力を秘めている。鋭い切れ味を誇るがその代償として損耗が激しく、回復ができない誓約者の打たれ弱さを皮肉にも象徴している。

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