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Hollow Altar online  作者: 774のもち
第一章
10/28

10・意志の分岐点

途中で視点が変わります。

「……やっぱりそうか。そうだったんだなぁ。はぁ、心当たりありまくりで、もう納得しちまったよ」


 キーンは左手を頭に当て若干うつむくような姿勢をとった。その言葉通り、彼はハルトとパーティーを組むようになってから時折違和感を抱いていた。なぜここまでプレイヤースキル、総じて戦闘技術が高いのかと。だが、今ここでその違和感が解消された。ハルトの強さには訳があったのだ。


 「ごめん、おじさん。話そうとは思ってたんだけど、タイミング掴めなくて、さ……」


 ハルトも何をどう言えばよいのか迷っているようで、視線を下に向けたままだ。


 「いや、お前が謝る必要は何もない。何一つないんだ。それより俺は、俺自身がふがいない。……なぜ俺は、あの時に迷ってしまったんだと」


 最後の言葉は蚊が鳴くような小さな声だった。そのためハルトは聞き取ることができなかったようで、小さな疑問が顔に現れていた。


 ハルトは尋ねた。


 「おじさんは俺を責めないのか。何の相談もせずに最前線で戦っていたのに」


 最前線は死と隣り合わせの非常に危険な場所だ。特にゲームの最初期はそうだった。今でもゲーム内で少なくないの死亡者が出ているのが最前線であり、人によっては最も辛い場所といわれている。そういった中でプレイヤーは誰も知らない場所を道中で得たわずかな情報と武器を携えてひたすら突き進んでいくのだ。もしそこで一瞬でも気を抜けば、背後にまとわりつく死神がじわじわと鎌を突き立ててくる。そんな緊張感の中での攻略。何も知らない赤の他人ならまだしも、ハルトはキーンの甥だ。キーンは何の相談もせずに危険な場所に赴き続けたハルトに対して怒りの一つや二つ覚えてもいいはずなのだ。


 それだのに、キーンは気にしている様子を一切見せない。いや、見せないというより気が向かないといった感じで必死に考えを巡らせているようだ。すると突然、まるで何かを思い出すかのような、それでいてとても嬉しそうな瞳をハルトに向けたのだった。一瞬の変化だった。


 キーンは言った。


 「戦ってた、か……。確かに、お前のやったことは咎められるべきことなのかもしれない。だがそれ以上に、俺はお前を誇らしく思ったんだ。あぁ、やっぱすげぇよ、お前。ふー……おっし、俺もこうしちゃいられねぇな。お前が俺を助けたように、今度は俺がお前を助ける番だ。釣りは要らん。ありがたく受け取れよ!」


 ゆっくり息を吐きだしたキーンは右手でハンドガンを模して人差し指をハルトに向けるや否やバーンと撃つ仕草をした。そして、くるっとハルトに背を向けると何の脈絡もなくその場を立ち去ったのだった。


 「えっ、本当に何も聞かないの!? ってかどこ行くんだよ! おーい!」


 何が起きたのか分からないとばかりにハルトは慌てふためくが、そんなこと知らんとでも言うようにキーンは振り返ることなく右手を挙げながら言った。


 「そのうち聞いてやるよ。言っとくが、面白くないと酒の肴にならないからな!」


 雑踏に紛れていくキーンの背中をハルトは不思議な表情でみつめていた。


 「俺、おじさんを助けたことあったっけか……?」




 二日後、二人にナオから連絡が届いた。彼女の答えは攻略を続けるだった。


 連絡があったその翌日、ハルトはちょーさんの店で昼食をとっていた。午後に控えたエルへの直談判のために縁起を担ぐためなのかは知らないが、かつ丼を頼んでいた。


 「かつ丼久しぶりだ。NPCの店でも十分美味いけど、現実でも料理店経営してる分、やっぱりちょーさんの方に軍配が上がりますね。まぁ、単純に今日の占いのラッキーアイテムがかつ丼なだけなんですけど」


 割り箸を口にくわえて両手を合わせたハルトにちょーさんがいった。


 「嬉しいけど、そう言われると若干嬉しくないな……。ハルトは占いなんか見てるのか?それにラッキーアイテムがかつ丼ってどんな占いだよ」


 「いやぁ、占いは信じてないですけど、見る分には楽しいので結構よく見てますよ。最近見つけた占いで『靴底の付着物占い』っていう誰得なものにそう書いてあったので、物は試しにやってみたんですよ」


 「なんだそのアホ丸出しな占いは……」


 娯楽が少ないゲーム内でそういったのは流行りやすい傾向にある。特に手軽で作りやすく信憑性も問われないような占いなどはその筆頭だ。だが、人間が考えることは実に多種多様で、噂によると中にはそれ以上に変わり種があると言われており、そういったのを発掘するのを趣味としている人もいるとか。


 「名前は確かにアホですけど、靴底なんてなかなか見ないものだから、これが意外と面白いんですよ。ちょーさんも試しに靴底見てみませんか」


 ハルトのノリは若干女子高生のそれを彷彿とさせるが、本人は自覚がない様子。しょうがねぇなとばかりにちょーさんは右足を上げ、靴を脱ぎ、靴をひっくり返して靴底に視線を向けた。


 「んー、BB弾みたいな小さな玉が二三個溝に嵌ってるな……。いつの間にこんなのついたんだ? こんなんでいいのか?」


 若干複雑な表情を浮かべたちょーさんはハルトに占いの結果を尋ねた。


 「えーっと、なになに。『小さな玉が溝に嵌っているあなたの今日の運勢は最悪。今日は外に出ないほうがいいかも。ラッキーアイテムは小さな輝石』だそうです。あ~ちょーさん運が悪いですね~」


 悪い運勢が出たためか、にやにやしながらハルトはちょーさんに視線を飛ばした。


 「なんだよ、さっきは信じないって言ったくせにこれかよ。へっ、まぁこうやっていじられてる時点である意味運勢は悪いけどな」


 意趣返しとばかりにちょーさんはそう言い放った。


 「いやぁ、まさかそう返されるとは思いませんでした。座布団一枚あげます」


 やられたという様子でハルトはおどけて返した。ちょーさんが上手いことを言ってくるとは思わなかったのだろう。


 「そういや、ハルトはこの後攻略なのか」


 話を切り替えるようにしてちょーさんがハルトに尋ねた。若干視線が手元に向いている。


 「攻略ではないですね。用事を済ませるといった感じです。ちょーさんはこの後も店番するんですか?」


 「いや、少し出かける。こっちも店だけに手塩をかけるわけにはいかねぇからな」


 「そうですか。それじゃ、お互い今日を頑張りましょう」


 そういって、ハルトはかつ丼を食べ始めたのだった。




 午後二時。エルに協力してもらうためにハルトとキーンが転移水晶の前で待ち合わせているところにナオがやってきた。しかし、その姿はいつもの彼女ではなかった。


 「ん、ナオか? ……どうしたんだその格好は」


 キーンは二度見していた。まるで久しぶりに会った親戚の娘を見るかのようだった。それもそのはず、ナオの装備が機能性重視の地味なものから、要所にフリルやリボンなどをふんだんに使った可愛らしいバトルドレスに仕上がっており、いつも以上に女性らしさが押し出されている服装になっていたからだ。


 色は群青を基調としており、胸当てから腰の防具が加工されて体のラインが強調。加えてスカートタイプの腰巻の前面に切れ込みが入っており、その隙間からホットパンツと黒タイツが顔をのぞかせている。脛当てや肩当て、ガントレットはそのままだが、それらもやはり加工され丸みを帯びており無骨さはほとんどない。


 ゲーム内における防具の加工は誰にでもできる。しかも、それに使う素材も簡単に手に入れられるためオシャレ感覚で利用する人も少なくない。ナオは今までアクセントを加える程度の加工しかしていなかったが、これほどまでに大きな変化をしているのを着たことはない。一体どういった心境の変化だろうか。


 「あ、あの。カミラさんに勧められて着てみたんですけど……。に、似合ってますか?」


 その顔は心なしか赤らみつつ俯いているように見えた。ここまで大胆なオシャレを決めた経験が少ないためかは知らないが、恥じらいと困惑とその他諸々が混ざった複雑な表情だ。


 「お、おう。よく似合ってるよ。大人の女性の雰囲気がほんのり表現されててとてもよく似合ってる……とりあえず眼福」


 ハルトは最後の言葉だけ聞こえないくらい小さな声でボソッとつぶやいた。そんなことを知らないナオは良かったとばかりに胸をなでおろしていた。


 「でも、突然どうしたんだ。何かあったのか」


 キーンはナオに疑問をぶつけた。


 「カミラさん……えっと、ハルト君の紹介してくれた人に『今のあなたにはこれが必要』と言われて、いろいろ手ほどきしてもらったというか。そんな感じです」


 「へぇ。最前線で活躍しているっては聞いていたが、やっぱりそこは女性なんだな。なんとなくだが、カミラって人がどんな人物か分かった気がするぞ」


 キーンはナオの装備をできるだけ見つめないように、顔を横に向けながらにして言った。


 「カミラさん自身もファッションとか結構気を使ってるみたいだからなぁ。最近聞いた話だと、かわいい装備トップ10とかいうタイトルで記事書いたとか言ってたし」


 ハルトはカミラの素性を知っているのでこのことにはあまり驚いていないようだが、それでもチラチラと視線が動いている。男二人の視線を奪っている時点でカミラのファッションがどのようなものか大体の把握はつく。


 ハルトは思い出すかのようにナオに言った。


 「それより、カミラさんとは上手くいったみたいで良かったよ。何気に心配だったんだよね」


 「はい。カミラさんとっても優しい方でいろいろと勉強になりました。強くなることは強く生きることだとか、強い意志が必要だとか。でも、一回では全てアドバイスしきれないから詳しいことはまた今度といってまた会う約束をしてくれました」


 「そっか。やっぱりカミラさんに相談持ち掛けて正解だったみたいだ。それを聞けて安心した」


 ナオははにかんだ笑顔を見せた。そこには確固たる意志があるように思えた。少なくともカミラと会う前と後では変化しているのは姿だけではないのかもしれない。


 「それじゃ、この前検証ギルドで話したことを説明しないとな。今回の内容は結構ハードだかど、直接戦闘に絡むことはない。だから安心して聞いてくれ」


 キーンがそう言ってナオにこの前のことをかいつまんで話したのだった。


 「そんな風には見えませんでしたけど、エルさんってそんなにすごいNPCだったんですね。それにしても、事態はあまり良いとは言えないんですね。私もカミラさんからゲーム内のことについて話を受けましたけど。婉曲気味でしたから、そこまでとは……」


 「そうだな、聞いていてあまり良いものとは言えない。でも、何とかしないことには変わりはない。放っておけば確実に俺たちに火の粉が降りかかる。それは振り払っておかなければな――」


 「うわっ! な、なんだ?」


 その時、ハルトが突然奇声を上げた。そして、メニューを開くと更に奇妙な表情を浮かべたのだった。


 「どうしたハルト。急にサルみたいな声上げやがって」


 「いや、いきなり知らん人から電話が来てさ。ったく誰だよ。はい、もしもしどちら様ですか」


 ハルトはややぶっきらぼうな口調で電話に応じると随分と陽気な声が聞こえてきた。


 『やっほー。皆さんお久しぶり。元気にしてた?」


 「あの、どちら様ですか?」


 『ニーラよ。……まさか忘れたとか言わないよね』


 「え、ニーラ!? いや、覚えてはいるけど、いきなりどうしたの」


 まさかNPCから連絡が来るとは思っていなかったのかハルトもかなり驚いている。加えて、キーンもナオもニーラという単語に反応してハルトの顔に視線を送っていた。


 「ハルト、パーティー限定でスピーカーをオンに」


 ついこの間、検証ギルドからアクティブNPCとは仲良くしてくれと言われたばかりだ。ハルトもこれをよく理解しているため、左手でOKサインを出すと手際よくスピーカーをオンにした。


 『この前助けてもらったからそのお礼をしようと思ってね。あの時は色々あってすぐにお礼ができなかったけど、今回はちゃんと支度してきたからばっちりだよ。それじゃ前回別れたところで待ってるから――』


 「いや待って待って、それって今日? 前回別れたところって、小部屋の転移水晶の前でいいんだよね?」


 ニーラが必要なことだけ言って電話を切りそうだったのでハルトは若干慌てて引き留めるように言った。


 『そうそう、その場所でできれば早いうちがいいかな。私も暇じゃないからね。それじゃ、また後で~』


 そして、案の定ニーラは電話を切ってしまった。あまりの早業にハルトは絶句していた。


 「そういやニーラはああいうやつだったな。確かハルト、前にペンダントみたいなの貰ってたよな。あれ使えばもっかい連絡取れるんじゃないか」


 「あぁ、そういえばそんなのあったね。あれを使ってこっちに連絡してきたのか。道理で知らないアドレスから掛かってきたと思ったよ。それにしても、行こうと思ってた矢先に来てくれたのは運がいいな。お礼貰ってからエルに会えるし一石二鳥だし、意外と靴底の付着物占い当たってるかも」


 NPCを助けるとお礼が貰えるのはよくあることだ。そして、そのお礼は貴重なものがほとんどなので、一転して嬉しそうな表情を見せている。


 「なんだそりゃ? まぁ、やることが少し増えたがとりあえず行くか」


 キーンはあえて突っ込むことはせず、ハルトは出鼻を挫かれたような微妙な表情だったが、ともあれ三人は出発した。




 「皆さん、お久しぶり。っていうか結構早かったね。私としてはもうちょっと掛かるかなと思ってたんだけど」


 「俺達もちょうどここに用事があったんだよ。そんな時にあんたから連絡がきたというわけだ」


 ニーラの問いかけにキーンが答えた。


 「それよりも、俺たちの都合が悪かったらどうするつもりだったんだよ。あんなテキトーな連絡だとずっとここで待ちぼうけ食らうかもしれなかったんだぞ」


 ハルトは先ほどの電話での出来事が頭から離れないようでニーラに質問した。


 「ん? 一応必要なことは伝えたから大丈夫かなって思ったんだけど。それに、来る気配がなかったらその日は諦めて別の日にすればいいし」


 相変わらずマイペースに物事を進めていくニーラに対してハルトは小さくため息をついた。両者の性格的にあまり相性が良くないのかもしれない。


 「それにしても、ニーラさんの格好はどうしたんですか。まるで自衛隊の人みたいですよ」


 ナオがニーラに尋ねた。ほかの二人もそのことについてはやはり気になっているようで、ナオほどではないが視線が動いている。


 「えっへへ、実はこれ今日のお礼の一つなんだよ。皆さんはここを探索してる探索者って言ってたよね。だから、そのお手伝いをするためにこれを着てるの。なんでも、異国の軍の服装をモチーフにして作ったとかなんとからしいけど、確かにこれは目立ちにくいよね。元の生地は男物だったから女物に仕立てるの大変だったけど、こう見えて中には薄い鉄板敷いてるから多少なら耐えられるし便利だよ」


 女物に仕立て直したと言っている通り、彼女が着ているまだら模様の服は女性らしさが出るよう腰や胸、脚の部分に手が加えられている。以前彼女に会ったときは長い銀髪をローブの中に放り込む形だったが、今回は探索の手伝いをするということなので後ろ髪を丸めて団子状にさせている。


 そして、髪が後ろにまとめられたことによってもう一つの事実が浮き彫りになった。


 「耳が尖ってるな、それも自衛隊服みたいなコスプレか。ゲームデザイナーが趣味を持ち込むのは珍しいことじゃないが、随分変わった趣味だな」


 キーンがぼそりとつぶやいたのを、聞こえるぞといってハルトが制したが、ニーラはそれを聞き取ってしまった。


 「ん? 耳がどうしたの。そういえば皆さんの耳は師匠の耳と同じ形してるね。はぁ、いいなぁ、羨ましいよ。私もこんな尖った耳より皆さんみたいな丸まった耳が良かったな。これって寝るときとか服着るときとか、結構邪魔になるんだよね」


 ニーラはエルフ耳の不便さを愚痴った。人間には理解できない何かがそこにあるが、三人はあまり興味がないようで「あっ、はい……」と完全に受け身状態だった。


 そんな愚痴にある程度区切りがついたところでハルトが切り出した。


 「あの、お礼が探索どうのこうのって言ってたけどそれってどういうこと。もしかして俺たちとパーティーを組んで一緒に攻略するってことなの?」


 「そうだよ。そのために装備を整えてきたんだもん。師匠直伝の剣術と魔術を存分に発揮して皆さんを手助けするからね。あ、あとこれも。師匠の倉庫から引っ張り出してきたんだけどきっと皆さんの役に立つからどうぞ使って」


 そして、急に姿勢を正したかと思うとこう言い放ったのだった。


「それと、この度は危険なところを助けていただきありがとうございました。粗品ですがどうぞ!」


 最後の言葉と同時にニーラからアイテムが手渡され、三人に行き渡った。そこでハルトが尋ねた。


 「ありがとう。それでこのアイテムはどんなアイテムなの? 簡単でいいから教えてもらえる?」


 ニーラから手渡されたものは鳥の翼をモチーフにしたブローチでおそらく装飾品の一部であることが窺えた。もしかしたら特殊な効果を持つ装備かもしれないため、三人はニーラの口から出るだろう説明に期待を躍らせていた。


 「うーん、よく分かんないけど、師匠の倉庫にあったものだからきっと大丈夫!」


 ニーラは拳をぐっと前に突き出して大丈夫と自信ありげにそう言うのだった。


 「おいぃ! せめてそれくらい知っててくれよ! ってか訳の分からないものを、しかも無断で人にあげちゃまずいだろ!」


 まさかの出来事にハルトは盛大に突っ込みを入れざるを得なかった。ニーラのあっけらかんとした態度のせいか、キーンとナオはおなかを抱えて笑っている。


 「まぁいいや、とりあえずメニュー開いて調べてみる。どれどれ……」


 二人が涙を浮かべ笑いこけている間にハルトはメニューを開いて、そのアイテムを確認した。こういうのは実際に見て確かめるのが一番である。


装飾品:ブローチ

名前:安寧の翼


平和を象徴する鳩の翼をモチーフにしたブローチ。作られた時代すら分からないほど古いものだが、古人の思いはそのブローチにしっかりと刻み込まれている。何の役にも立たないが平和を希望することに意味があるのだろう。


 「役に立たない!? もはや擁護の余地すらねぇ!」


 本当にただの飾りだった。ハルトの叫びを聞いて二人はさらに背中を曲げている。


 「あぁ、悪い悪い。別に嬉しくないってわけじゃないんだ。ただ、なんか漫才見てるみたいでおかしくってな」


 キーンは笑いを必死にこらえ、苦笑を浮かべているニーラにそう言った。


 「確かに、師匠の倉庫から勝手に持ち出したのは流石にまずかったかも……。でも、大丈夫! 今日は皆さんの探索の手伝いが目的だから精いっぱい頑張るよ!」


 ここぞとばかりに今日の目的をニーラは口にするが、三人は気まずそうな表情を浮かべた。


そして、ナオが言った。


 「あの、実は私達、ここの探索ほとんど終わってるんです……」


 ニーラは今度こそ泣きそうな顔になってしまった。




 「そりゃそうだよね。別れてから十日も経ってるんだから探索し終えてても不思議じゃないよね……。はぁ、こんなことなら装備整えるなんてしなければよかった」


 すっかりしょぼくれてしまったニーラをナオは何とかなだめようとしているが、彼女はどうしても今ここで恩返しがしたいらしく、先ほどから考えてばかりいる。三人も彼女を残してエルの元へ行くというわけにもいかないため、どうしたものかと、こちらもこちらで悩んでいた。


 「うーん困ったな。なんかいい方法ないかな」


 「でもなぁ、マッピングはほとんど済ませてあるし、とりわけ何かするといってもエルの元へ行くだけだしなぁ」


 ハルトはキーンと色々考えていたが、なかなかいい方法が思いつかない。


 そんな時、キィンという鉄を打ったような小気味良い音が響いた。


 ハルトがふと顔を上げると、キーンの顔が歪んでいた。ハルトはキーンのアホ面が輪をかけて酷くなったのかと笑いかけたが、何かがおかしい。キーンだけでなく周りの空間自体も歪んでいる。


 すぐさま異変に気が付いたハルトは、まるでここがどこかを確認するように転移水晶に視線を向けた。すると、普段は青く輝いているはずの転移水晶の光が消え失せていた。


 これは、転移水晶の周りに敵が侵入してきたときに発生する仕様で、輝きが失われている間は転移水晶が使用できないというサインの一つだ。輝きを失わせている元凶を絶たない限り再使用はできず、他方へ移動することが一切できなくなる。


 しかし、三人は先ほどからこの倉庫に入り浸っており、敵が侵入できる条件など整うはずがない。そうであるにも関わらず、転移水晶の輝きが失われていたのだった。


 「ん? なんだこれ」


 「見覚えありますけど、なんなんでしょう?」


 キーンとナオは小首をかしげていた。しかし、ハルトは何かに気が付いたかのようおもむろに帰還石を取り出すと、帰還石に結んであるリボンを引っ張った。


 リボンは取れなかった。帰還石が使えないというサインだ。


 そして、それと同時に三人の目の前にウインドウが現れた。


 『――&%%¥嘶、餓$諧アアア、ア区に侵入されました――』


 侵入。少なくともいい言葉ではない。加えて、その言葉の前にある文字化けが単なるイベントでないことは容易に想像できる。ウインドウが表示されたということはゲーム内のシステムであることに間違いないし、誰かが何かしらの意図をもってこちらのエリアに入ってきたということの表れでもあろう。


 そして、その誰かを考えたとき、三人は一つだけ強烈に思い当たるものがある。プレイヤーキルだ。


 三人の表情が凍り付くのに、時間は掛からなかった。プレイヤーキルに遭遇してしまったことはもはや明白だと悟ったのだ。


 三人の間にずしりと重い空気が横たわった。三人はウインドウから目線を離せないでいる。ニーラもそれを感じ取ってか、ふっと顔を上げ不思議そうな表情を浮かべた。


 「あれ、皆さんどうしたの。何かあったの?」


 「……エルのところに急ごう。でも、できる限り慎重にだ」


 ハルトは絞り出すようにいった。だが、ウインドウを閉じた右手には彼の愛用している大槍が握られていた。


 ナオが転移水晶に近づこうとしたが、ハルトは短く制した。


 「転移水晶は今使えない。あの会堂まで移動しよう。それとニーラ、事情が変わった。俺たちの後に付いてきてくれ。くれぐれも大きな声や物音はたてないようにしてくれ」


 先ほどとはまるで違う雰囲気を漂わせている三人に対して、ニーラは何が何だか分からないという表情を浮かべているが、とりあえずは頷いた。


 キーンは言った。


 「いつも通りの隊形でいく。俺が先頭だ。二人は後から続け。ニーラもだ」


 三人静かに頷いた。キーンはさらに続けた。


 「エルに会えれば俺達にも勝機が見えるはずだ。意地でも拠点に戻らせてもらうぞPK野郎……!」



◇◇◇



 同時刻。


 彼は地面に開いた黒い影のような穴から這い出すようにして出てきた。頭装備は戦国武将などが身に着けている兜を付けており、防具や籠手、具足も和風で、さながら戦武者といったところか。両手には見事な反りを見せている刀が握られており、すらっと伸びた刀身と浮かび上がった波紋はまさしく名品といっても過言ではない。


 しかし、顔には目と口の部分だけに丸い穴を開けただけの木製の仮面をしており、全身の統一感とはかけ離れている。穴を開けた部分も暗く窪んでいて目や口が見えない。そのため、どこか不気味で近寄りがたい雰囲気が漂っていた。


 彼は這い出てきた後に周りを見渡した。ここがどこだか探っている様子で首をあちらこちらに向けて必死に記憶と照らし合わせていることが窺える。


 その時、突然彼の周りに紫電が走った。そして、物凄い轟音と共に彼はまばゆい閃光に包まれたのだった。


 まるで、そこに雷でも落ちたのかというほどの轟音だった。周辺の壁や石畳は砕け、黒焦げ、いくつもの大穴が穿たれている。そして、直撃を受けた彼は焼け焦げていた。


 彼はガクリと両膝をついた。だが、両手に握っていた刀を落とすことはしなかった。根性があることは確かだろうし、そういった意地があるのかもしれない。だが、それ以上の要因は彼の実力によるものだ。なぜなら、彼は現時点で全プレイヤーの頂点に立つプレイヤーであり、その実力は最前線の平均レベルを軽く上回っている。一撃で昇天するような生半可な防御力ではないのだ。


 だが、彼に膝をつかせる攻撃であったことには変わりはない。彼はすぐさま意識を取り戻して、ステルス用のアイテムを使用した。すると、彼の体がまるで幽霊のように半透明になり、後ろが透けて見えるようになった。だが、回復アイテムは使わなかった。いや、使えないといったほうがいいのだろう。アイテムを取り出すのに躊躇していない様子からそう窺える。


 彼は小さくつぶやいた。


 「天罰が下ったんだ……」


 その直後彼は小さく震えた。だが、足は前へと踏み出していた。その後ろ姿は、まるで罪人が地獄の門をくぐるかのように暗く、重く、恐怖をにじませていた。


アイテム:消耗品

名前:小さな輝石


小石サイズのオレンジ色の塊で、それを砕いた人物の傷を少し癒す効果がある。体力の30%分を即座に回復させたのち、十数秒の間自動回復効果が付与される。

見た目は汚らしい小石だが効果は無視できないものであり、昔から重宝されてきた。粉末にして保管しておいたほうがすぐに使えると思われがちだが、粉末にすると劣化が早くなり使い物にならなくなる。砕く動作は必要経費なのだ。


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