えーとっ。どうなっていて、どうしたらいいのかな。
地下空間には、全他種族の総意で、大きな神殿が、中央広場の壁を掘り、作られた。
それは、天神族を祀ったものだった。
「我らは、永遠に、天神族様方への、感謝を忘れません。」
「どうか、我らを見護り、導いて下さい。」
神殿の管理は、各代表が、周り順で行う。
神殿に来られない者は、各種族の泉に祈りを捧げていた。
それを見守る、ナビ、2人。
「神殿、作っちゃったんだぁ。」
「うん。ドワーフ中心に、コツコツと。」
「立派ね。大きいし。」
「毎朝、食料などが、配られるし、ここは、安全だし、多少の願いは叶うし、でも、何故、護られているか、分からないし。」
「これは、天神族様が、消滅しても、きっと、助けてくれているんだって、考えに至ったのかも。」
ラウとマラは、他種族の行動を、推測する。
「当たらずも遠からずね。天神族様ではなくても、私達は、天神族様のナビだから。」
「うん。その推理、あながち、間違えてない。他種族も、やるわね。」
「奴らがいる、地上へ、いつか戻る、不安もあるのかも。」
「今の、地上の様子、知りようもないから、確かに不安にも、なるわよね。」
「いやいや、それが、遠見の魔術を使える、ハイエルフが、時々、地上を見ているんだって。」
「えーっ。それって、不安を煽るんじゃない?」
「そうでもない。現段階では、不安に思う者もいるけど、良い時期に、助けてもらえたと、感謝する者の方が、遥かに多い。」
「あっ、それもあって、何かに祈りたいのか。」
「瘴気と魔獣が、はこびっている地上に、いつか、戻れるんだろうか。瘴気と魔獣は、消滅するんだろうか。」
「瘴気で、自然が溶けてしまっている。回復はするのか。」
「いつまで、ここに居ないと、いけないんだろう、みたいな?」
「寿命の長い種族は、まだしも、寿命の短い種族は、先行き不透明は、辛いかぁ。」
「辛いんじゃない? 寿命も、肉体すらない、私達には、分かんないけど。」
「それなっ。」
「状況を一番、把握している、私達でも、瘴気が広がり、魔獣が、湧き出す、地上の浄化方法、確立出来ていないものね。」
「アホな神族達の、対策も、決まってないし。」
「アホ達は、自滅して、いってくれそう。それより、魔獣まで生み出す、瘴気よね。どうしようか。」
「瘴気ね。」
「ところで、アホ達、全滅で、良いのかな?」
「私的には、全滅なら、脅かす者が、減って、良いような、気がするけど、かといって、あれらも、生きる権利はあるわね。」
「そうなんだけど、残しておくと、小競り合いの、日々が、また、繰り返されるし。」
「悩ましいわ。」
ナビ達は、主人が赤子の為、指示もなく、だからって、どこまで、手を出して、良いのかも、答えが出ない。
何重にも張られた、結界の中で、ベルは、毎日、楽しく、楽しく、過ごしている。
小さな精霊達が、次々と、遊んでくれるし、褒めてくれるし、色々、教えてくれるし、常に、満足感が満たしてくれる。
精霊達は、天神族の気質そのままに、穏やかで、能天気で、前向き。
小さくなったが、両親は、片時も離れず、一緒にいてくれる。
愛情いっぱいに、すくすく育っていた。
そんなある日、ばぁば達が、ベルにお願いがあると言う。
「私達の宝物の、ベル。」
「ちょっと、ばぁば達のお願い、聞いてくれないかい?」
「そうそう。」
「ちょこっと、収納庫を、開いて欲しいの。」
「ここには、あんなに広くて、陽が入る庭が、あるから、たくさんの、花を植えたいのよ。」
「アロイスもノーヴァも、庭までは、気が、いかなかったでしょ。」
「あの大戦から、ベルを守る事に、あの頃は、必死だったから。」
「分かるわ。」
「あの時は、それが、正解。」
「だけど、今なら、気持ちの余裕も、出来たでしょ。」
「だから、花を植えましょ。」
「私達の魔術と、暇してるのが、たくさんいるから、手伝わせて。」
「咲き乱れる程の、花を植えましょ。」
「きっと、ベルも、喜んでくれるわ。」
精霊達は、矢継ぎ早に、喋る。
「待って。それは良いけど、ベルは出来ないよ。」
アロイスは、ベルは、赤子って、忘れたのかと、いう仕草をする。
「あははっ。ベルに花を植えれとは、言わないわ。」
「私達が、植えるのよ。」
「でもね。ベルしか、ベルの収納庫は、開けられないわ。」
「それでねっ。ベルの収納庫から、花の苗と、種を出して欲しいのよ。」
「以前、私達の収納庫だった頃に、地上や、浮遊大陸の、花の苗や種を、長年、溜め込んでいたの。」
「それを出して欲しくて。」
「待って。待って。意味は分かったけど、ベルは産まれて、数ヶ月しか経ってないのよ。」
「どう考えても、赤子には、収納庫を開くの、難しいだろ。」
父は、難色を示す。
母も、困惑している。
精霊達は、ベルに期待溢れる、視線を送る。
そこに、最古の天神族だった、ラタニアがふよふよと、飛びながら、近寄って来た。
「なになに。収納庫を、開けたいのか?」
「はい。ベルに開けてと、お願いに来ました。」
ラタニアは、ニコッと笑う。
両親の困った顔を眺めていて、笑顔が消えたベルも、ラタニアが、現れ、空気が和らぎ、つられて、ニコッと笑った。
「おお。ベルは可愛いのぉ。」
ラタニアに頭を撫でられ、褒められ、ベルは、喜び、パチパチ、手を叩く。
周りが、ほんわかした、空気に包まれた。
「赤子でも、しっかりと、誘導したら、収納庫ぐらいなら、使えるぞ。」
「使えるのですか?」
「誘導せねば、出来んがな。」
「ベルに、負担は無いのですか?」
「魔力の少ない者や、他者からの、スキルの、引き継ぎがなく、収納庫に、何も入っていない状態で、無い限り、収納庫を開く程度じゃ、たいした負担は無いわい。」
「ベルは、大丈夫なんですね。」
「お主も心配性じゃな。最後の希望の赤子に、わしらが、害する事なぞ、するわけなかろう。」
「それは理解してますが、それでも、心配なんです。」
アロイスは、納得していない。
「大丈夫だ。ベルの魔力量は、桁違いじゃし、心配はない。しかも、わしが、誘導するんじゃからな。」
「ラタニア様が、誘導するのですか?」
「そうじゃ。わしが、一番、適任じゃろ。」
そう言うと、ラタニアは、ベルに近づき、ベルの額に、自分の額をつけた。
すると、すぐに、ベルの頭の上に、ふやふやと、空間の歪みが、大人の頭ぐらいの、大きさで、出来た。
「花の苗と種だったな。」
ラタニアは空間の歪みから、ベルの額に、自分の額をつけたまま、手を動かすと、ポイポイと、花の苗と種を出す。
「これぐらい、あれば良いじゃろ。」
ラタニアは、両親以外の、精霊達に、声を掛ける。
「はい。充分です。」
「ラタニア様、ありがとうございます。」
「ベルも、ありがとね。」
早速、精霊達は、魔術で、窓を開けて、花の苗や種を、庭先へ持って行く。
「ベル、大丈夫?」
ラタニアがベルから離れると、両親は駆け寄った。
ベルは、何があったかも、分からないが、心配して、あちらこちら、ベルの状態を、確認している両親を、遊んでくれていると思い、捕まえようと、手を、バタバタしている。
「大丈夫そうね。」
ベルの両手に、それぞれ捕まえられた両親は、安堵の声をあげた。
「だから、大丈夫と、わしは言ったぞ。お前らは、心配するにも、程がある。」
そんな両親を、見ながら、ラタニアは、面白そうに、大笑いする。
一方、ベルの見守りをしていた、ゴーレム達は、目を見開いたまま、固まっていた。
ナビ達がいないのに、勝手に、収納庫が開き、花の苗や種が、出てきたら、いきなり窓が開き、花の苗や種が、窓の外に飛んでいった。
「えっ?」
我に帰ったゴーレム達は、窓に慌てて、走った。
窓から見える庭は、土が耕され、耕された順に、花の苗が空中を飛び、土に植えられ、種もパラパラ、撒かれていく。
「誰もいないのに。」
「大変っ。」
焦った、ゴーレム達からの、連絡で、ニアが呼ばれ、ゴーレム達の取り乱した手招きで、窓際まで来て、残りの、苗や、種が植えられていくのを、目の当たりにした。
驚きのあまり、しばし、言葉を失った、ニア。
ついで、他のナビ達も、急ぎ来て、見て、絶句する。
ナビ達が開けていないのに、勝手に、収納庫が開いた原因を、調べていた、デラは、ベルを見た。
見たが、無邪気に遊んでいる、赤子の、ベルには、収納庫を持っている事も、使い方も、分かりようが無いと考えた。
ナビ達の混乱は、なかなか、おさまらない。
「これって、どういう事?」
「何故、収納庫が開いて、何故、花の苗や種が、出されたの?」
「庭は、精霊かも、が、植えていると、してもよっ。」
「精霊って、人の持っているスキルを、使えるの?」
「スキルは、持ち主以外、使えないわよね。」
「たとえ同じ、神族同士でも、出来ないわよ。」
「ならば、どうなってるの?」
「精霊って、謎なんでしょ? なら、出来たりして?」
「もしも、本当に、他人のスキルを自由に使えるとしたら、精霊は、危険ね。」
「ベル様に、今回は、危害が加わらなかったと、しても、危険だわ。」
「かといって、どうするの? 見えないのに。」
ゴーレム達に、何が起きたか、聞き取りをしても、要領を得ず、対策は困難だった。
「ゴーレム達の話では、ベル様の頭の上の、空間の歪みから、出て来たのね。」
「その歪みは、収納庫に、間違いない。」
「それって、やはり、ベル様のスキルを自由に使えてる。」
「信じがたいわよ。だいたい、収納庫を持っているのも、そこに、花の苗や、種が入っているのも、どうやって、知ったの?」
「そんなの、分かる訳ないわ。」
「いやぁーっ。見えないのに、どうするっ。」
「怖すぎる。」
ナビ達はパニック状態に、近く、大騒ぎになっている。
精霊達には、ナビ達の叫びは聞こえない。
嬉々として、庭作りを、大勢で行っていた。
「ここはこの花にしましょ。」
「彩りも、考慮しないとね。」
「あら、この花は、遠い昔に、絶滅した花じゃない。」
「これも、そうだ。」
「そんな貴重な花、私は見た事ないわ。」
「咲くのが、楽しみね。」
精霊達は、庭の端から端まで、レイアウトを、相談しながら、植えていた。
ベルだけは、精霊達も、ナビ達も、どちらの会話も聞こえるが、どちらも、大騒ぎしている。
騒音のような、騒がしさを嫌い、ベルは、両親を手から離し、パタパタと飛んで、その場から、離れて行った。
ゴーレム達は、ナビ達に、ベルが離れた事を、伝えようとしたが、聞こえていないようで、返事がない。
「ベル様の方が大事。」
ゴーレム達は、頷き合うと、離れて行く、ベルの後を追う。
庭には、いつの間にか、光だけでなく、大地や、水の精霊達も、増えていた。
「ねえねえ。これ、耕すの?」
「私達の方が、耕すの、得意。手伝う。」
「植え終わった所、水撒こうか?」
「楽しそう。手伝いたい。」
光の精霊達程には、数はいないが、大陸中の精霊が、集まったのかと、驚くぐらいは、数がいる。
「ん? 手伝いたいのか。」
「うん。手伝いたい。」
「では、手伝ってもらいましょ。」
おおらかな光の精霊達は、いきなり姿を現した、他の精霊達を、すんなり受け入れる。
「いいよな。手伝えるお前達は。」
少し離れて、風の精霊達や、火の精霊達や、闇の精霊達が、羨ましそうに見ていた。
「庭づくりは手伝えなくても、その内に、あなた方にも、手伝ってもらう事、出てくるわよ。」
「そうよ。別な事で、助けてもらうかもしれないわ。」
光の精霊達は、朗らかな笑顔で、答えた。
それでも、不満そうな、精霊達。
そんな精霊達に、庭づくり中の、光の精霊の1人が、尋ねた。
「さっきまで、居なかったわよね。今まで、あなた方は、どうしていたの?」
すると、歳を重ねた様子の、風の精霊が、近づいて来て、地上の状況を、説明した。
「そうかぁ。毒が瘴気になって、魔獣も出て来たのか。」
「毒霧でも、触れると、我々は、消滅の危険があるのに、瘴気なんて、触れなくても、近くにいるだけで、消えてしまう。」
「それで、精霊達は、一緒に逃げて来たのね。」
「そうだ。ここの山脈に光を放つ、結界が、張られているのが、かなり、遠くからでも、見えた。」
別の精霊も、話す。
「小さい我らは、最初は、自分達だけだったが、途中から、他の精霊達も合流して来て、何日も、何日もかけて、山脈の結界まで、辿り着いた。」
「山脈の結界内に逃げ込んで、事なきを得たが、神聖な空気が足りず、瘴気に蝕まれた者の傷が、なかなか癒えなかった。」
「ひと月ぐらいしてかな。闇の精霊が、ここを見つけて来た。」
「それで、ここに、みんなで、来てみたんだ。」
光の精霊達は、手を止めて、話を聞いている。
「大変だったわね。」
「みんな、ここで暮らすと良いわよ。」
「ここは、天神族が、作った、聖域だもの。」
「天神族が?」
いつの間にか、他の精霊達も、集まり、話を聞いていた。
「それで、聖なる結界が、張られているのか。」
「特にこの屋敷に張られた、結界の中は、神聖な空気に、満たされている。」
「おかげで、弱っていた者も、元気を取り戻せた。」
光の精霊は、ここまでの、経緯を、他の精霊達に、話した。
「それで、これ程の数の、光の精霊が、いるのか。」
「たった1人だけ、しかも、赤子の生き残りなんて、さぞや、天神族の方々は、心残りだったでしょ。」
「天神族だからこそ、精霊になったのかも、知らないわね。」
「それこそ、神のみぞ知る。」
神妙な面持ちの、他の精霊達に、光の精霊達は、あっけらかんと、している。
「まぁ、起きた事は、どうしようもないわ。」
「大戦で死ななかったのか、生まれ変わったのかは、分からないけど。」
「精霊になったお陰で、赤子と共に、過ごせるし。」
「なかなか、快適よ。精霊も。」
「あっ、そうそう。屋敷の中に、私達の宝物が、両親と、今日の子守り係と、いるから、手持ち無沙汰の精霊達は、見て来たら、良いわよ。」
「ついでに、遊んでやってくれ。」
「魔術は、なるべく使わないでね。怪我すると、いけないから。」
「元気だから、遊ぶのも、体力いるわよ。」
「遊んでくれるなら、自分の体力と、相談して、ほどほどに。」
精霊達は、ベルに興味を持った。
「そうだな。会いに行ってくるよ。」
「ええ。行ってみて。」
「さて、私達は、庭づくりの残りを、やっちゃうわよ。」
庭づくりを手伝えない精霊達は、示された方へ、飛んでいく。
ナビ達は、精霊の事、瘴気の事、神族達の事などを、相談している。
「精霊らしき者については、今後も、要観察していきましょ。」
「見えないけどね。」
「見えないけど、危険なら、放っておけない。」
「でも、見えないけどね。」
「もうっ。見えない、見えない、煩いわよ。」
「はいはい。精霊は要観察。ゴーレム達に、いつもと違う事は、小さい事でも、報告してもらいましょ。」
「報告に対して、都度、対策を相談って事ね。」
「それしか、ないのね。」
「ないわね。」
「さぁて、最悪の問題の、瘴気、増える一方だわ。」
「天神族様方が、おられたら、神聖魔術で、毒の段階で、処理して下さったでしょうけど。」
「私達が、使える、神聖魔術では、消しきれない。」
「そこよね。私達では消しきれないのよ。」
「地下に避難してもらった、人達も、いつまでも、地下で暮らすのは、辛いわよね。」
「辛いとは、聞いてないけど、辛いかも。」
「対して、動物達は、のんびり暮らしているけど。」
「人族や獣人族は、辛いかもだけど、ドワーフやエルフなどは、快適に地下を作り替えて、暮らしているわよ。」
「種族によるのね。」
「何よりも、優先すべきは、ベル様。そこは揺らがないでね。」
「了解。」
「本来なら、ベル様の事だけ、考えていれば良いのにね。私達。」
「うん。でも、弱きを助けるのは、天神族様方が、なさっていたんだもの。」
「その意思は次いでいきたいわ。」
「次いでいきたいわよね。」
「そして、いつの日か、ベル様が、ここから出たくなった時の、外の安全は確保したい。」
「そうよね。大きな括りで、ベル様の為って事。」
「こじつけ、ありありだけど、そう考えれば、無駄ではない。」
時々、脱線しながらも、話し合いは、進んでいく。
ベルの元に、見たことのない、精霊が、次々と現れ、両親は、ベルを守るように、立ち塞がる。
「誰だっ。」
両親の警戒の強さに、少し離れて、別種の精霊達は、止まる。
「ごめん。驚かすつもりは無かったんだ。」
「庭づくりに、私達は、向いていなくて、こちらへ行ってみるよう、言われたの。」
両親に、風の精霊の1人が、他の光の精霊達に話した事を、また説明する。
「そうか。ベルを見に来たのか。」
両親の警戒が、ようやく、とけた。
「あまり近づくと、ベルに掴まれるから、気をつけて。」
「掴んでも、強くは掴まないけど、口に入れようとする事もあって、それでも、最初よりは無くなったけど、たまに、あるから、捕まらないようにして。」
「食べられる?」
「まだ、マナだけを、栄養にしているから、何も、食べたりはしないわ。」
「てか、大人になっても、天神族は、精霊を食べない。」
「口に入れて、すぐ出すわ。ただ、涎でベトベトに、されるの。」
「それなら、捕まったら、涎攻撃されるのを、諦めて、受け入れるわ。」
精霊達は、優しく笑う。
両親の許可が出て、精霊達が、ベルの周りに、集まって来た。
それぞれの、属性の髪色や瞳の色をしているから、光の精霊の色しか、見てない、ベルには、物珍しかった。
精霊達は、代わる代わる、ベルと、追いかけっこをして、遊んでくれる。
喜ぶベルに、瘴気から、逃げて来た、精霊達は、心から、癒される。
ベルが楽しく過ごすと、周りが、更に浄化され、神聖な空気が、濃くなっていった。




