「アクティブぅ」
「―――まっっっっったく、何もわからなかったわ」
そうじゃないかと思っていました、という言葉は勿論心の内だけに留めておいて。
とりあえず「お疲れ様です」というよくある定型文を吐き出して、俺の机に前の席から椅子を持ってきてまで力なくつっ伏しているあくあの後ろで困ったように笑うもみじを見る。
大変だったなと思わず同情の視線を向ければ緩く首を振ってあくあを見やったもみじを見れば大体の察しはつく。
「煉牙、お願い」
「・・・もみじがそれでいいなら」
いやだってさ。
確かにわかりきった結果ではあったけど、だからってそれで自分が他人にペラペラともみじの個人情報を話していいっていう理由にはならない訳であってーー人道的な意味での沈黙であくあを虐めたかったとかあの日の意趣返しであるとかそういうのは一切無かったけどしょうがなくだから。
でも正直気分は滅茶苦茶良い。
「こう・・・よく貴方達がやってるやつ。もみじが「あれなあに?」って聞いてレンゲくんが説明してあげる一連の流れをよくあるバカップルのいちゃつきだって妬んでる人達がいるけど・・・違ったのね」
「えっ、そんな事言われてんの?」
普通に初耳だし冤罪が過ぎる。
「なんて言うのかな・・・上手く噛み合わないっていうか・・・普通に使ってる言語が違うのかな?いや、違うっていうかアタシどこかで聞いた事がーー」
「【ウンディーネ】?」
「ーーあっ、それだ!そう、【ウンディーネ】もそう!だけど彼女だけじゃなくて・・・レンゲくんが使ってる呪文もそうでしょ?時々耳慣れない言葉が混じってるなって対抗戦の時思ったのよね」
「・・・・・・・・・」
これだから天才は。
別に隠していた訳では無かったーーどうせわからないだろうと高を括っていたとも言う。
振替えも入れて連休明けであったというのも大きい。
完全に油断していた。
というかお前あの時そんな余裕あったのか。
「あくあが昼休みに教室に来て色々お話ししてくれたたんだけどちょっとわからない所が多くてあんまり答えられなくてさ」
「それだったらもうレンゲくんに説明してもらおうと思って乗り込んだのが今」
「アクティブぅ」
行動力どうなってんだ。
というか関といいコミュ力どうなってるの。
「煉牙はもう少しあくあを見習うべきだよ」
「・・・そうかもね」
ここまで突き抜けていると一周回ってそれも良いかと思ってくる。
別に人と話すのが苦手という訳ではないけれどだからと言って好き好んで他人に話しかけていく人間でもない。
どちらかと言えば教室の片隅で呪文や魔法式の最適化でもしていたい、その方がよほど有意義だと思ってしまう。
もみじとクラスが離れた為にその傾向が強くなったのも自覚してる。
今であれば何とも思わないが学生の頃の自分は周囲との間にどうしようもない違いを感じていたのだ。
・・・まぁ、自分以上にもみじがそれを感じていただろうが。
「俺も完全に解読できてる訳じゃないけど、もみじの言葉はさっき水都も言った通りに精霊達の使っている古い言葉ーー俺が使っている呼応術とかにも使われている神代の頃の言葉だ。だから俺や水都みたいな【隣人】には少し理解出来るけど、普通の人間には少し難しい。同じように、もみじが普通の言語をーー現代語を理解するのは難しい、ってこと」
「おじいちゃんに育てられたから田舎の方言しかわからない、って感じかぁ」
「おい不敬だぞ」
「でもそんな感じだったよ」
凄い精霊をおじいちゃん呼ばわりするな、って言ってるんだよ!
そりゃ発生してからの年月を考えればどの精霊だって
「【ウンディーネ】はそこら辺厳しいわよ」
「自分とこのがそうなら尚更言うなよ」
・・・【サラマンダー】は、どうなんだろうな。
いやもうこの思考の時点で不敬か。
「でもそうか、だからレンゲくんの呼応術はあそこまでの完成度を誇ってるのね。もみじちゃんのおかげかぁ」
「そう。だからそのお礼に俺はもみじの日常生活ーー主に学校関連の手伝いをしてるってこと」
出来てるかは・・・正直不安なんだけど。
いや普通に出来ていないんですけど。
・・・自分で考えといてへこむなぁ。
「ーーよしっ、わかった」
あくあが決意を込めた声でそう宣言して立ち上がる。
不安。
「じゃあこれからはアタシと関ももみじちゃんの力になるね!」
「ありがとう!」
拒否権のない関・・・いやあいつは嬉々としてやるか。
不安しかない。
ちなみに俺はA組、関はE組、もみじがD組・・・あくあがB組。
・・・駄目かもしれない。




