63話 夏休みといえば、、合宿!
森林を抜け、窓の奥にポツポツと家々が見え始める。
「最初からこれで来ればよかったな」
窓の外を高速で過ぎていく景色を見ながら、アザミが恨めしそうに呟く。その向かいに腰掛けるシトラは剣の手入れをしながら、
「だって仕方がないじゃないですか。私たちの時代にこんなのは無かったんですから」
「はぁ」とため息をつく。
新人戦、迷宮攻略試験など嵐のような一学期を終え、聖剣魔術学園は夏休みを迎えていた。なので双子はしばらくぶりとなる故郷、エッジ村への帰路についているのだ。王都セントニアに向かうときは二週間、遠路はるばる歩いて向かった双子だったが、今は“呪術列車”なるものに乗っている。
「でも、本当に速いよな。たったの2日でエッジ村に着くなんて」
感慨深そうに内装を見回す。呪術列車は魔術を用いて車輪を回す乗り物だ。アズヘルン王国各地と簡単に繋がることができる、獣車と並びポピュラーな移動手段だ。
そしてなぜ、双子が呪術列車に乗って帰郷しているのか。それは二週間前に遡る。
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「オルティスアロー、ですか。これはまたよく知られた神話から取りましたね」
時計台下の空き教室、集まったクランメンバーに向けてアザミがクラン名を発表する。
「そう、かな? 絶対神オルチアの神話なんて知ってる人少ないと思うけど、、」
シトラの言葉に、トーチが不思議そうな顔をする。
『歩く魔導書』と言われているトーチは当然知っているような口ぶりだ。だが、
「俺、知らねぇ」
「グリムは何も知らないね……。でも、私も知らないかも」
エイドも「んー、、」と困った顔をする。他のメンバーもあまり知らないようだ。
「私は知ってるです。オルティスアロー。絶対神オルチアが堕天化した自分自身を倒すために、武器であった槍を弩につがえて放った、という伝説です。意味は『最強を倒すもの』です。良いと思いますですよ」
さすがは、情報屋。リンが皆に説明する。
「……なるほど、どこかで聞いたことのある神話だな」
「そんにゃこと知ってるにゃんて、アザミくんは物知りだにゃー」
「こっちは有名な話だと思っていたからな。逆にビックリしているよ、、」
やはり300年も経つと伝承も変わるらしい。もしかしたら300年前のことが今の神話になっていたり、ことわざになっているのかもなんて、考えると不思議な気持ちになる。
「よし。とりあえず集まったけど、、何する?」
「おいおい、テメェが集めたんじゃねぇのかよ!」
「活動内容はリーダーが決めるものである。我らはそれに従おう」
「そうだな、、すまない。勧誘に手一杯で活動内容を考えていなかったな……」
ハハッとアザミが申し訳なさそうに笑う。それを見てトーチが「はぁ」と息をつく。
「しっかりしてくれよ、リーダー。まぁ、初日だし大目にはみるけどね」
「でも、アザミよぉ。今日は親睦を深めるだとかでもいいぜ? ただ、これから何をするかは決めておきてぇ。なんの目的もなくこの部屋に集まるのは時間がもったいねぇからな」
「――何言ってんのよ、グリム。あんたは1日1回、私と戦うんでしょうが」
フレイアの指摘を受けたグリムがサッと目をそらす。フレイアが「ちょっと! 何目逸らしてんのよ!」と突っかかる。
「……ひとつ、僕から提案があるんだがいいかな?」
スっとトーチが手を上げる。皆、トーチに注目する。
「僕の家、キールシュタット家が所有している島の別荘に夏は毎年行っているんだけどね、今年はみんなでどうかな? オルティスアローの合宿って形で」
トーチの提案に沸き立つアザミたち。
「それは最高だ! が、いいのか? 俺たちがお邪魔しても……」
「問題ないよ。毎年僕とジョージで行っているんだ。父さんや妹は本家の用事が忙しくてね。2人だといつも通りだからさ。むしろ大歓迎だよ!」
「俺は歓迎しねぇぞ。ケッ、こいつらをあの家に入れるなんて……」
ジョージが嫌そうに悪態をつく。が、トーチの「僕の別荘だからね?」と言う言葉を受けて黙り込む。
「トーチが良いって言うなら、、是非お願いしたいな」
「そうか、良かった。じゃあ、連絡をしておくよ。夏休みに、、15人? そう言えばみんな予定は大丈夫かい? シトラさんは?」
「――え? 私、、ですか? 私は……」
なぜか、トーチに1人だけ名指しで指名されたシトラが困った顔で兄を見る。
「その島ってどこにあるんだ?」
「アズヘルン王国の北西だよ」
「北西、か。じゃあ丁度いいな。俺たちは村に帰る予定だったが、それなら合流できる」
「そうか。分かった、シトラさんも来れるんだね」
トーチが一瞬嬉しそうな顔を浮かべるが、慌てて隠す。シトラは「なんで私だけなんでしょうか?」と困惑し首をかしげ、全てを知っているアザミは深くため息をつく。
「他のみんなはどうかな? 予定がある人は教えて欲しいな」
「悪い、俺はスレイフィール家の用事があって、参加出来ない」
「僕も、無理そうかも……」
「そうか。じゃあそっちを優先してくれ。アックとダグラスは来れないっと、他は?」
「あ、私も――」
レインがそう言ってすっと手を挙げる。だが、その上がりかけた手をアネモネがすかさず掴んで止める。
「はいはーい! ネモちゃんはいくにゃ〜」
「え!? 行っちゃうのか、、」
「そうにゃ......。ムーちゃんは夏休み、一人ぼっちになっちゃうにゃ?」
アネモネがニヤリと笑みを浮かべながらヒソヒソとレインに耳打ちする。レインの表情が「うっ、、」と固まる。
「……だが、私が参加しても、、」
「いろいろあるにゃ? 女の子同士ヒミツの話だったり、告白されたり、仲も深められるにゃ??」
アネモネの言葉にカーっと顔が赤くなる。
レインだって合宿には行きたい。だが、アネモネ以外に友人も話し相手もいないため、今日はじめて話すようなクランメンバーたちとお泊りするのはやはり緊張してしまい、一歩踏み出せない。
(ネモちゃんが背中を推してあげなきゃにゃっ!)
「ムーちゃん。夏の合宿は皆の仲をとぉっても近づけるにゃ。もし、ムーちゃんが行かなきゃどうにゃると思う?」
レインの頭の中で、『夏の合宿を経て日焼けした皆がこの部屋で楽しそうに喋っている。自分はその輪に入れず、隅で1人本を読んでいる』という光景がマジマジと浮かんでくる。
『いやぁ! 夏チョー最高だったぜ!(※レインの妄想です)』
『ネモちゃんは男が5人も出来たにゃぁあ!(※レインの妄想です)』
『あ、アザミ・ミラヴァード。おはよう』
『レイン? いや、お前テンション低くね? アゲてこうぜ!(※レインの妄想です)』
「……イヤだぁ!」
「そうにゃ、そうにゃ。じゃあ、ムーちゃんが取るべき行動はなんにゃ?」
「――私も、参加させてもらいたい、、」
「分かった。レインも来るんだね」
こうしてレイン・クローバーは勇気の一歩を踏み出した。アネモネがレインの頭をヨシヨシと撫でる。
「……この空気の中で言うのは申し訳ないのだが、我も行けないのである。実は騎士団に出頭しなければいけないのである、、」
「そうか。ゴードンは騎士団にまだ籍を置いているんだったな。分かった。騎士団の仕事が優先だよね」
トーチがそう言って中指を折る。
「来れないのは3人、かな? じゃあ、12人で伝えておくよ」
そんなわけで、オルティスアローは夏休みにトーチの別荘で合宿を行うことになった。
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