64話 帰郷とシチューの味
双子はセントニアの中央駅に来ていた。
「でっかいな……。あのデパートも壮大で驚かされたが、この“えき”とやらはそれ以上だ、、」
「まるで宮殿ですね……」
駅の大きさに圧倒され目を見張る双子。セントニア中央駅。アズヘルン王国各地へ伸びる呪術列車が集まる国内最大の駅だ。まるで神殿のようなその駅に双子は恐る恐る足を踏み入れる。
「グリムが言うには、、まずきっぷとやらを買うらしい。シトラ、どこで買える?」
「きっぷ、、あ! あそこじゃないですか?」
シトラが指さす先には、ここで働いているらしきスーツの男の人が紙のようなものを手売りしていた。双子は顔を見合せ頷き、声をかける。
「……エッジ村に行きたいんだが、、」
「エッジ村、かい? それなら最寄りはプレイスシティだね。金貨3枚です」
駅員の男が「お金は持ってるのかな……?」と心配そうな顔で双子を見る。アザミは気にすることなくポケットから金貨を3枚取り出し、男に渡す。
「え? あ、ああ、、これが切符です。出発は半時間後だから気をつけて……」
金貨3枚、そんな大金を持っているとは思わなかったのか、駅員は面食らった表情を浮かべ、双子に切符を渡す。
「どうも」
確かに金貨3枚は大金だ。だが、双子たちは数週間前にクリムパニス大墳墓という未開のダンジョンをクリアし、そこで得た宝を研究のため提供している。その見返りとして十分すぎるほどの報酬を手に入れているのだ。だから、金貨3枚は躊躇わず出せたりする。
「アザミ、どうします。 どこかで時間を潰しますか?」
シトラが「ふぅ」と息をつき、手に持った荷物を置く。
駅員が双子に対して「金を持っていない」と判断したのは服装にあるのかもしれない。シトラは麦わら帽子をかぶり、長袖で薄地で白色のワンピース。アザミにいたってはTシャツにジーンズという庶民的格好。アザミはオシャレやらに興味が無いので本人は気にしていない。
とにかく、双子は周りから見るとかなりの一般人オーラが出てたりする。実は勇者と魔王でも、実は国内最高峰の学校で上位の成績を収めていても。
「シトラ。悪いことは言わない。もう、出発するところで待っていよう」
アザミが悟りを開いたような和やかな笑みを浮かべ、シトラの両肩をポンっと叩く。
「――心の底から同意します」
えへへ、、とシトラも微笑む。双子が思い出すのは約4ヶ月前。聖剣魔術学園の入学式に遅刻したこと。セントニアを一日さ迷ったこと。
((こんな広い駅、迷うに決まっている!!))
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それから半時間後、定刻通りに呪術列車はセントニアを出発した。「ボォーーッッ」と大きな警笛を鳴らし、黒煙を噴出しながら。
窓の外をすぎる景色は街並みから緑へ、緑から荒野へ、そして再びポツポツと家が見え始める。
「見えてきたな、プレイスシティ」
そして今、出発から2日と9時間。双子の視界にアズヘルン王国西部の最大都市、プレイスシティの町灯りが映る。シトラが窓を開け、身を乗り出し深く外の空気を吸い込む。
「何やってんだよ……」
「どうしてでしょう! ほんの数ヶ月間帰らなかっただけで、こんなになつかしいなんて、、」
シトラの表情は晴れやかだった。それを見てアザミも微笑む。
「そうだな。昔は故郷に帰ることがこんなにワクワクするものだなんて、思ってもみなかった」
呪術列車が速度を落とす。小さかったプレイスシティの駅のホームがだんだん大きくなっていき、列車を待つ人々の姿が見えるようになってくる。
「……ん? シトラ、あれって、、」
開けた窓に肘をつき外をぼんやり眺めていたアザミがそう言ってホームを指さす。その言葉にシトラも身を乗り出し、アザミの指さすほうを目を細めて確認する。
「……アザミ、提案があります。もう一駅、乗っていきませんか?」
外を見たシトラが深くため息をつき、一層深く椅子に腰掛ける。まるで、ココから離れたくない、と言っているのかのように。
「俺も、そうしたい……」
「はぁ、、」と頭を抱えたアザミがシトラの提案に頷く。
プレイスシティの駅のホームでは懐かしき両親が『村の誇り!! アザミくんシトラちゃんおかえり!!』と書かれた横断幕を持ち、笑顔で立っていた。
((――消えてしまいたいッ!!))
さっきまで感じていたワクワクする思いは一瞬にして霧散した。
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「――二度と、するな!」
「「はい、ごめんなさい……」」
アザミの言葉と表情に、ユーゴとメアリーはガクリとうなだれる。
結局切符の関係で次の駅までは行けなかった双子は先頭車両まで移動し、親の目をかいくぐって駅を出た。そして駅員に「そこで横断幕を掲げている迷惑な人達がいるので注意してきて貰えませんか?」と頼み、バカ親2人を叱ってもらったあと、合流した。今は村に帰る道の途中だ。
アザミとシトラはシュンとした親を置いて先々進んでいく。
転生して15年近く住み続けた家だ。この双子といえども流石に迷うことはなく、我が家にたどり着く。ユーゴがドアを開ける。ギギギ、、と懐かしいドアの音。家の中から漂う暖かな木の香り。
「……ただいま」
「うん、おかえりなさい。今から夜ご飯作るわね〜」
メアリーがるんるんと台所に向かい、火に鍋をかける。フワッと濃厚な香りが充満する。
「メアリー、今日はシチューかな?」
「そうよ、ユーゴ。シトラちゃんの好物でしょ?」
「……何年前の話ですか、、まあ、嫌いじゃないですけど」
3人がそれぞれ机を囲むように椅子に座る。アザミはシトラの隣。転生したときからの“日常”だ。
「できたわよ〜! さ、あっついうちに食べてちょうだい!!」
メアリーがシチューを盛り分ける。一口すくい、口に入れる。ほのかな野菜の甘みと濃厚なルーのコラボレーション。懐かしい味だ。セントニアでは、、食べられなかった味。
「――そういえば二人とも、学校の大会で優勝したんだって?」
「なんだ、知っていたのか。父さん」
アザミが木のスプーン咥えながらを眉をピクリと動かす。
「ああ。風のうわさで聞いてね、、」
そう言ってユーゴは照れくさそうに、嬉しそうに笑った。だがアザミもシトラも知っている。風はこんな僻地には来ないことを。エッジ村はもちろん、プレイスシティでさえ聖剣魔術学園の生徒はいない。そして新人戦は一般には公開されていないため、結果を知るには生徒か、その親にでも聞かなければならない。そのために、、父さんはどこまで行ったのだろう。
「……次からは手紙を書くよ」
「そうか、、ありがとう。楽しみにしているよ二人とも」
アザミが申し訳無さそうに言う。それを聞いてユーゴがパァッと顔を輝かせる。
「そういえば二人とも。こっちにはいつまでいるのかしら?」
「学園の友人と泊まりの約束をしていてな。明日の夕刻にはここを発つつもりだ」
アザミの言葉に目に見えてテンションを落とすユーゴとメアリー。
「そっか......。また、寂しくなるね、、」
「またすぐに帰ってくるよ。なあ、シトラ」
「ええ。私も手紙を書きますし、そんなに気を落とさないでください、、、」
双子の言葉にユーゴが「ごめんね」と顔を上げ、よしっと頷く。
「明日の朝、二人とも付き合ってくれないか? 父さんの仕事を手伝って欲しい」
「あら! いいわね。どう? 朝は用事とかあったりする、、?」
メアリーがパンッと手を叩き、双子に「どう?」と首を傾ける。
双子は顔を見合わせ、そして同時に、
「いいぜ」「いいですよ」
と、笑顔を作る。
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